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第十九話 紅愛の友達

紅愛の友達と初顔合わせ。

――じめじめしていた梅雨が明けて七月になり。段々と気温も高くなり紅愛の制服も夏服になっていた。そんな夏休みを前にしたある日の金曜日の午後。今日は仕事も休みで普段出来ない家の掃除をしていると、玄関のドアが開き紅愛が帰ってきた。


「あ、お帰り紅愛ちゃん。今日は学校終わるの早いんだね」

「もうすぐで夏休みだからじゃない? それにしても疲れた………」

「お疲れ様。冷たい麦茶でも飲む?」

「飲む」


 紅愛はその辺に学校のカバンを置くと、ソファにダイブした。ソファにうつ伏せになり『はぁ……』とため息をついた。私は掃除の手を止めて冷蔵庫から麦茶を取り出してコップに注ぐ。それをソファでぐったりしている紅愛に渡す。紅愛はソファから起き上がり、コップを受け取って麦茶を一気に飲み干した。


「はぁ………」


 紅愛は麦茶を飲み干した後もため息をついた。


「どうしたの? 学校で何かあった?」

「それがね………明日、私のクラスメイトが家に来たいって」

「そうなの? 私は家に友達呼んでもいいよ?」

「でも………明日はせっかく奏が休みの日なのに、他の奴呼ばれるの嫌じゃない?」

「大丈夫だよ。私も少しだけ紅愛ちゃんの友達に会ってみたいし………」

「そうなの?」


 紅愛は首をこてんと傾げながら不思議そうな顔で私を見る。


「だから、私は迷惑とかじゃないから呼んでいいよ?」

「………でも私はあいつ呼びたくないんだけど………」

「あれ? この前言ってた仲が良い子じゃないの?」

「その子とは別の、ほら、アイスキャンディーを気に入ってた白くてほわほわしてたやつ」

「ああ、あの子?」

「そう、そいつが家に来たいって言ってんの」


 紅愛を預かってから数日後に、うちのお店に来たアイスキャンディーをきらきらした目で見ていた子だ。あのこ見た目からはそんな紅愛が言うやばい奴には見えないが。


「紅愛ちゃんは、その子の事が苦手なの?」

「苦手だよ。だってああいうぐいぐい来るのはちょっと………」

「その子は紅愛ちゃんと仲良くなりたいんじゃない?」

「まぁ、そうだろうね。学校でも積極的に話しかけてくるし」

「この機会に仲良くなったら? 紅愛ちゃんが苦手だと思ってるだけで、意外と仲良くなれるかもよ?」

「ええっ………私あいつと友達になりたくないんだけど………」


 紅愛はいかにも嫌そうな表情だった、そんなにその子と友達になりたくないらしい。


「でもほら、せっかくの機会だと思って仲良くしてみようよ」

「………奏がそこまで言うなら………まぁ、出来るとこまでやってみる」


 紅愛は渋々と承諾した。


「えっと、遊びに来るのは一人だけ?」

「いや、私と仲良い子も来るから。二人来る」

「分かった。じゃあ、おやつとか準備しとくね」

「………なんで奏はもてなす気満々なの?」

「えっ? だって紅愛ちゃんの友達だから、いつも紅愛ちゃんがお世話になってるお礼でもしようかなと思って」

「………なにもそこまでしなくてもいいよ。ほんとにお人好しなんだから」


 紅愛は少し冷めた目で私を見ていたが、私は明日来る紅愛の友達をもてなす準備で頭がいっぱいだった。飲み物とあとはおやつのお菓子も準備しなくては。そうして、張り切って準備をする私と対照的に、どんどんと元気がなくなる紅愛を横目に時間は過ぎて行った。





――






 そして、約束の日当日。仕事は休みだけど、早めに起きて家の掃除を始めた。紅愛の話によると友達が来るのは午後二時に来るらしいので、それまでに家を掃除する。一応掃除は毎日やっているが、今日は念入りに掃除をする。掃除機を端から端までかけて、埃が積もってそうな場所は全て埃拭きで拭く。テーブルも拭いて、念のためにキッチンや、水回りも掃除する。一応見られてもいいように自分の部屋も掃除する。もともと自分は綺麗好きなので、部屋はそんなに汚れてはいなかったが、この機会に掃除を済ませる。一通り家の中の掃除が終わったところで、洗濯物や洗い物も済ませたいので、洗濯機をまわそうと思ったところで、紅愛がまだ起きていない事に気づく。いつもの紅愛の事なら、早くて十時遅いとお昼前まで寝ているので、紅愛の部屋を掃除するついでに紅愛を起こすことにした。


 掃除機片手に紅愛の部屋に入ると、紅愛はやはりまだ布団ですやすやと眠っていた。可愛い顔して寝ている紅愛の前で掃除機の電源を入れた。すると、いきなり間近で鳴る掃除機の音にびっくりしたのか、紅愛はびくっと身体を動かして、まだ眠たそうな目で周りをきょろきょろ見だした。何が起こったのか分からずに困惑している紅愛の周りを掃除機でかける。紅愛はそれでもまだぽかんとしていた。


「早く洗濯物干したいから、紅愛ちゃん早く着替えてくれる?」


 掃除機をかけ終わって紅愛に言うと、紅愛はのそのそと布団から起き上がり、着替えの準備をし始めた。掃除機を仕舞って、次は朝ご飯の準備を始める。最近は朝の時間が無く、朝ご飯を抜いていた日が多かったので。今日はちゃんと作って食べよう。少し疲れが溜まっていて甘いものが食べたかったのでフレンチトーストを作ることにした。冷蔵庫から食パンを二枚取り出して、油を引いたフライパンを温める。その間に、容器を用意してその中に、卵と牛乳と砂糖を入れて混ぜる。その中に食パンを入れて少し浸す。フライパンが温まったら食パンを焼いていく。しばらくしたらひっくり返してお皿に移す。後はお好みではちみつとバターを付けて完成だ。フレンチトーストを乗せたお皿をダイニングテーブルに置いて二人分のコップを取り出して牛乳を注いだ。朝ご飯の準備が出来たところで紅愛があくびをしながらリビングにやって来た。そのままダイニングテーブルの椅子に座った。


「………なんで間近で掃除機かけるの。いきなりかけたからびっくりしたでしょ………」

「だって、そこまでしないと紅愛ちゃん起きないでしょ?」

「それはそうだけどさ………」

「それに。今日はお客さんが来るんだから、ちゃんと掃除しないと」

「別にそんなに汚れてないでしょ………」

「紅愛ちゃんはいいかもしれないけど、私は嫌なの!」

「まぁ、いいけどさ………いただきます」

 

 無理やり起こされるのが嫌だったのか、紅愛はぶつぶつと呟きながら朝食に手を出した。


「いただきます」


 私も朝から動いてお腹が空いたので、私も紅愛と同じようにいただきますを言って朝食を食べる。紅愛はフレンチトーストが気に入ったのか無我夢中に食べていた。私も何も言わずにひたすら食べた。




――





「「ごちそうさまでした」」


 二人でごちそうさまを言って食器を下げる。食器もささっと洗って洗い物を終わらせる。紅愛が着替えたのを確認して洗濯物もまわす。四十分くらいで洗い終わるだろう。それまでは自由時間だ。おやつに出すようのジュースも冷蔵庫で冷やしているし、後やることといえばおやつのゼリー作りくらいだ。今すぐに作っても良いが、朝から動いていたので少し疲れたので休憩することにした。紅愛は相変わらず横になってスマホを見ていた。私も適当にテレビを点けて朝のニュース番組をぼんやりと見ていた。


「………ねぇ。一応言っとくんだけど、今から来る二人にも可愛いって言わないでよ?」

「え? どうして?」

「やっぱり何でもない………今の忘れて」

「そう………?」


 何故か分からないが最近の紅愛は素直になることも増えてきたが。その一方で、少し嫉妬深くなった気がする。多分だが喧嘩した時のせいなのだろう。そんなところが可愛いんだけど。ますます紅愛との仲が深まった気がして私は嬉しい。


「大丈夫だよ。紅愛ちゃんが可愛いのは変わらないから」

「………本当にそういう事を簡単に言う………」

「とにかく! 今日は二人遊びに来るんでしょ? そういえば家で何するの?」

「それが決まってないんだよね」

「え? そうなの?」


 てっきりあると思っていたのだが、そういう訳ではなかったようだ。それじゃあ今日は家で何をするんだろう?


「多分、奏にもあいつはどんどん話しかけてくると思うよ」

「私もその輪の中に入るの?」

「いや絶対あいつなら奏にも興味あるだろうし」

「まぁ、話をするくらいならいいけど………それって楽しいのかな?」

「さあね。私にはあいつの考えている事なんか分かるわけない」


 そもそも女子高生が私の話を聞いたところで面白いのだろうか………てっきり三人でおしゃべりでもするのかと思っていた。


「どうせ適当に喋ったら終わるでしょ」

「………そういうものなの?」

「そういうものだよ。今の女子高生なんか」


 段々紅愛の話を聞いていると、紅愛が言っている()()()がどんな子なのか気になってきた。紅愛のクラスメイトに会うのは昨日から楽しみだったが、更に気になってきた。それから私と紅愛は適当に時間を潰した。



――





 時刻は現在午前十時。適当にテレビを見ていたが、そろそろおやつのゼリー作りを始める事にした。昨日買っておいたゼリーの素にお湯を入れてかき混ぜて、容器に移す。移した容器に缶詰のフルーツを入れる。入れ終わったら冷蔵庫で冷やして完成だ。ふと冷蔵庫を閉じた後にある事を思った。今日のお昼ご飯どうしようと。冷蔵庫の中は思ったよりすっきりしていた。もう一度冷蔵庫を開けて中を見てみると、パスタ麺があったので今日のお昼はパスタにするかと決めて冷蔵庫を閉めた。ゼリー作りを終えてリビングに戻ると、紅愛がスマホでLIMEをしていた。多分今日の事だろう。後ろから紅愛のスマホを覗き込んでいたら。それが紅愛にばれると、スマホの画面を隠した。


「何勝手に見てるの」

「ごめんごめん。もしかして今日の事を話してるの?」

「うん。『本当に行って大丈夫?』ってきた」

「その子は紅愛ちゃんが言うあいつじゃなくて、もう一人の仲が良い子?」

「うん。この子は今回の事に関しては巻き添えだからね」

「そうなの?」

「なんか色々あって来ることになったから」


 紅愛と仲のいい子はもしかしたら苦労人なのかもしれない。もしかしていつも何かに巻き添えになっていないか心配になる。


「とりあえず会ってみてからのお楽しみってわけで」

「うん。私も楽しみ」


 そうして時間は過ぎて行った。




――




 お昼はミートソースのパスタを食べ終わって私と紅愛は、紅愛のクラスメイトが来るのを待っていた。そうして時間は約束の午後二時になり、それから少し経った時だった。インターホンが鳴った。テレビモニターで確認すると女の子が二人映っていた。多分紅愛のクラスメイトだろう。


「はーい」

「あっ、すいません。南野紅愛のクラスメイトですけど」

「今開けますね」


 モニターの横にある解錠ボタンを押す。紅愛はスマホをいじるのを止めて、リビングをうろうろしていた。


「どうしたの? 紅愛ちゃん。そんなにリビングを歩き回って」

「いや、なんか……この家にあの二人が来るの変な感じだなと思って」

「そうだね。一緒に玄関でお迎えしようか」

「うん」


 一緒に玄関前に行き、紅愛の友達二人がエレベーターで上がって来るのを待つ。そしてすぐにピンポーンと玄関のチャイムが鳴った。私が玄関のドアを開けると、女の子が二人立っていて。栗毛の髪を耳の位置でツインテールにしている子と、その後ろに白髪で背中の真ん中まである髪を下ろしている子が立っていた。


「いらっしゃい。二人が紅愛ちゃんのお友達?」

「はい、そうです」

「やったー! 紅愛ちゃんが私の事友達って認めてくれた!」

「いやあんたには言ってない」


 私の後ろから紅愛が白髪の子にきっぱりと言い切った。


「え~? 友達じゃないの? 私は紅愛ちゃんの事友達だと思ってるのに~」

「あんたはそうでも、私は違う」

「え~?」

「とにかく、ここで立ち話もあれだから二人共入って」

「じゃあ、おじゃまします」

「おじゃましまーす!」


 二人を家に上がらせてとりあえずリビングに通した。私は冷蔵庫に冷やしているオレンジジュースを取り出して、コップに注いだ。それと冷やしていたゼリーも取り出してスプーンも乗せておぼんで運んだ。


「はい、よかったらおやつにどうそ」

「ありがとうございます」

「うわぁ! 美味しそう!」

「ありがとう。これ市販で売ってるゼリーの素で作っただけだから」

「でもすっごく美味しそう! いただきまーす!」

「いただきます」


 二人は美味しそうにゼリーを口にした。白髪の子は目をきらきらさせていた。


「すっごく美味しい! ありがとうお姉さん!」

「どういたしまして」

 

 とびっきりの笑顔で白髪の子がお礼を言ってきた。私もつい嬉しくなった。今回の為に作ってよかった。すると、それを横で見ていた紅愛は白髪の子を不思議な目で見ていた。


「………お姉さん?」

「あれ? この人紅愛ちゃんのお姉さんじゃないの?」

「違うよ」

「え?」


 白髪の子は頭に?マークを浮かべていた。


「有紗には話したけど、こいつは私の従姉妹で、今はわけあってこいつと一緒に暮らしてるの」

「へぇ~そうなんだ。だから紅愛ちゃん最近楽しそうだったんだね!」

「は? どういう事?」

「ほら~、紅愛ちゃんはいつも学校が終わって帰る時に、はぁ……ってため息つきながら帰ってたでしょ? 最近はそれが無くなったから何か楽しみな事とかあるのかなって思ってた!」

「お前………」

「確かにお姉さんみたいな人が作ったご飯が毎日食べられるのかぁ~。いいなぁ、私もお姉さんのご飯食べてみたい!」

「ちょっと白雪さん」


 お喋りが止まらない白髪の子を、栗毛の子が止めた。私は白髪の子のテンションに少しびっくりしていた。確かに紅愛があまり好きなタイプではなさそうだ。


「あ! そういえば自己紹介まだだった!」


 と白髪の子が大きな声で言った。


「私は白雪白羽! 紅愛ちゃんの友達です!」

「言ってないけど」

「いいじゃん! 紅愛ちゃんは友達なの! 私が今決めた!」

「あんたってやつはほんと………」


 白髪の白羽ちゃんは大きな声で自己紹介をした。それを見て紅愛は頭を抱えていた。


「じゃあ、次は私か。初めまして。紅愛の友達の渡辺有紗です」


 栗毛の子が立ち上がって自己紹介をした。多分この子が紅愛がいつも言っていた仲が良い子だろう。


「いつも紅愛ちゃんと居てくれてありがとね」

「いえいえ、いつもサボってる紅愛に勉強教えたりしてるだけですし」

「紅愛ちゃんも、有紗ちゃんの事よく話してたから会えて嬉しいよ」

「ほんとですか? それならよかったです」

「ねぇねぇ! お姉さんはお名前なんていうの?」


 有紗ちゃんと話していると、白羽ちゃんが割って入ってきた。


「そういえば言ってなかったね。私は園原奏。今年の春から紅愛の面倒をみてるんだ」

「春からか………ということは結構一緒に暮らしてたんですね」

「うん、そうだよ。おかげで紅愛ちゃんともすっかり仲良くなったし」

「はいはーい! 私奏お姉さんって呼んでいい?」

「うん、いいよ。よろしくね白羽ちゃん」

「やった!」


 白羽ちゃんがぴょんぴょんと小さく跳ねた。私が白羽ちゃんと話していると、後ろから肩をちょんちょんと叩かれた。後ろを見てみると紅愛がいて、私の耳に顔を近づけた。


「奏は、白羽の事で言いたい事ないの?」

「言いたい事って?」

「ほら、あいつの苗字。聞いたことあるでしょ?」

「苗字? 確かに何処かで聞いたことがあるような………」


 『白雪』という言葉を聞いたことがあるが、どうしても思い出せない。有名人とかの苗字だったかな? 紅愛とひそひそ話しているのが気になったのか、白羽ちゃんがじっとこちらを見ていた。


「二人共何話してるの~?」

「いや、ちょっと白羽ちゃんに聞きたい事があるんだけど聞いてもいいかな?」

「なになに~? 何でも聞いていいよ~」

「白羽ちゃんの苗字を何処かで聞いたことがあるんだけど、白羽ちゃんのご両親って何してる人なのかな?」


 思い切って白羽ちゃん本人に聞いてみる。すると、白羽ちゃんはきょとんとした表情で三秒くらい固まった。


「あれ? 奏お姉さん知らないの? 私の親この辺だと有名だから知ってると思ってた」

「やっぱり有名人とか?」

「そうじゃなくて、ホテルとか経営してる人。ほら、有名リゾートホテルの白雪ホテルって知らない? あれをうちのお父さんが経営してるの」

「え? めちゃくちゃ高いって噂の、あの白雪ホテル!?」

「そうだよ。まぁ、私はお父さんの仕事とかはどうでもいいけどね~」


 まさかかの有名な高級リゾートホテルの娘だったとは………ということは。


「もしかして、白羽ちゃんの家ってお金持ちだったりするの?」

「うん。私の家は広いよ~! それなら今度遊びに来る?」

「断る」


 誘って来る白羽ちゃんをきっぱりと紅愛が断った。少し行ってみたかった気がするが、それを言うと紅愛が怒りそうなので言わないでおいた。


「確かに私の両親は凄いけど、それは関係ないからこの話は終わりにして。私もっと奏お姉さんの事知りたい!」

「え? 私の話そんなに面白くないと思うけど………」

「全然! だって私、奏お姉さんとも仲良くなりたいもん!」

「あんたは今日何しに来たんだよ………」


 紅愛が私の隣で白羽ちゃんに鋭いツッコミを入れた。


「一つは紅愛ちゃんともっと仲良くなるためで~。二つ目が奏お姉さんと仲良くなること!」

「それ絶対さっき決めたでしょ………」

「いいじゃん! 私は仲良くなりたい人と仲良くしたいもん!」

「はいはい、分かったから耳元で大きな声出すのやめてくれる?」


 紅愛は軽く耳を塞ぎながら、白羽ちゃんの声をうるさそうに聞いていた。それを二人の間で「はは……」と有紗ちゃんが困り気味に笑っていた。白羽ちゃんとはそこそこ喋ったので、次は有紗ちゃんに声をかけた。


「有紗ちゃんは、白羽ちゃんとは仲良いの?」

「いや、仲が良いとかじゃなくて、白雪さんが紅愛と友達になりたいから、私に話しかけてきたというか………」

「じゃあ、ただのクラスメイトなの?」

「違うよ! 有紗ちゃんも友達だよ!」


 私と有紗ちゃんの話を聞いていた白羽ちゃんが言った。


「………まぁ、そういう事です」

 

 そう言って有紗ちゃんが苦笑いした。多分有紗ちゃんも色々苦労している事があるのだろう。


「ねえねえ! 紅愛ちゃん! やっぱり奏お姉さんのご飯美味しい?」


 白羽ちゃんが紅愛に質問責めを始めた。紅愛はまだ白羽ちゃんの鬱陶しそうにしていた。


「なにいきなり………」

「だって、おやつもこんなに美味しいんだから、やっぱりご飯も美味しいのかなと思って!」

「まぁ、美味しいけど………」

「やっぱりそうなんだ! 今度紅愛ちゃんの家でお泊り会とかしたい!」

「はぁ? 絶対嫌なんだけど」

「いいじゃ~ん。私いつもホテルのスイートルームばっかりだし、もうホテルは飽きたんだもん!」


 さらっと凄いことを白羽ちゃんは言った。確かに家がお金持ちだから、そのくらいが当たり前になっているのかもしれない。


「そんなのどうでもいいだけど」

「そうだ! 夏休みの間にお泊り会しようよ!」

「断る」

「ええ~。紅愛ちゃん乗り悪~い」

「なんとでも言えば」

「紅愛は通常運転だなぁ………」


 白羽ちゃんと紅愛の会話に、有紗ちゃんが仲介するのがお決まりらしい。白羽ちゃんの言った『お泊り会』が気になったので聞いてみる。


「ねぇ、白羽ちゃん。そのお泊り会は、私の家でやるの?」

「えっとね~。私は皆でお泊り会が出来れば何処でもいいんだけど………そうだ! こんど私の家に遊びに来るとかどう?」

「白羽ちゃんの家に?」

「そう! うちだったら部屋がいっぱいあるし、皆でお泊りも出来るよ!]

[確か、白雪さんの家ってあのすげえデカいお屋敷だろ?」

「うん! そうだよ!」


 有紗ちゃんが言っているのは多分、この街の高級住宅街の中にある家の中で最も大きいあの家の事だろう。私は遠くからしか見たことはないけど。それでもあの家のデカさは十分だった。


「でも、白羽ちゃん。家に友達とか連れていって大丈夫なの?」

「大丈夫だよ! 夏休みはお父さんもお母さんも仕事でいないから!」

「そうなんだ………」

「でも流石に、あの白雪邸に行くのはちょっとなぁ………」


 有紗ちゃんが行くかどうか悩んでいた。私もあの豪邸に行く勇気はない。紅愛はどうでもよさそうに話を聞き流していた。


「じゃあ、念のためにじいやに聞いてみようか?」

「「え?」」


 私と有紗ちゃんが同時に驚く。そして白羽ちゃんはカバンからスマホを取り出して、電話をかけ始めた。


「もしもし、じいや? 夏休みの間に友達を呼んで、お泊り会をしたいんだけどやってもいい? ほんと? やったー! ありがとう! それじゃあ、詳しい事はあとでね~」


 そして白羽ちゃんは電話を切った。スマホを仕舞うと私達に笑顔でニコッと笑った。


「じいやがやってもいいって!」

「許可下りるの早っ!?」

「マジか………」

 

 思わず有紗ちゃんがツッコミを入れた。私は白羽ちゃんの行動力にぽかんとした。紅愛もまさかそんなに早く白羽ちゃんが動くとは思っていなかったようだ。


「じゃあ、お泊り会の日付決めよう! 皆何時がいい?」

「もう決めるのか!?」

「だって、早い方がいいじゃん!」

「っていうか、有紗は行くの?」

「どうしようかな………紅愛は行くのか?」

「私は行きたくない」

「そう言うと思ったよ………」

「ええっ!? 二人共行かないの? じゃあ、奏お姉さんは?」


 三人の視線が私に集中する。白羽ちゃんは泣きそうな目で私の言葉を待っている。紅愛はジト目で私の方を見ていた。


「え? 私も行っていいの?」

「もちろんいいよ!」

「私の仕事が休みの日なら行ってみたいかも………」

「えっ………」

「やった! じゃあ、奏お姉さんは来るの決定ね!」


 私がOKを出すと、白羽ちゃんは両手を上げて喜んだ。一方紅愛は、私の言葉に困惑の表情を浮かべていた。


「それで、二人はどうする? せっかくだから二人も来ようよ!」

「どうするって言われても………どうする紅愛?」

「………奏が行くなら私も行く」

「………まじか」

「じゃあ紅愛ちゃんも参加決定ね! 有紗ちゃんは?」

「………紅愛が参加するなら私も参加しようかな………?」

「やったー!! それじゃあ夏休みにお泊り会決定ね!」

「それで日時はどうする?」


 喜んでいる白羽ちゃんを制して、有紗ちゃんが皆に問いかける。


「奏は仕事があるんだから、奏の仕事が休みの日がいいんじゃない」

「奏お姉さんはいつ仕事がお休み?」

「そうだね………夏休みが始まった週は仕事で埋まってるから、その次の週の土曜日ならちょうど仕事が休みの日だけど」

「じゃあ、その日にしよう! えっとその日は何日だ? えーっと………」

「八月七日でしょ」

「そう! 八月七日だ! じゃあ、八月七日に私の家でお泊り会ね!」


 全員でスケジュールを確認して、私はスマホのカレンダーに予定を書いた。


「ねえねえ奏お姉さん」

「何?」


 スマホでスケジュールを確認していると、白羽ちゃんが私の袖をちょんちょんと叩いて来た。


「奏お姉さんの連絡先を教えてもらってもいい?」

「もちろんいいよ」

「やった!」


 白羽ちゃんに電話番号とLIMEを交換する。


「これでよし! ありがとう奏お姉さん!」

「ただ連絡先交換しただけだよ?」

「えへへ。私あんまり家族とか親戚の人以外で、年上の人に会わないから嬉しいんだ!」

「白羽ちゃんは兄弟とかいるの?」

「一応お兄ちゃんとお姉ちゃんがいるよ。でも、あの二人は私にべたべたしてくるから苦手なんだ」

「そうなんだ」

「でも! 夏休みは二人共いないから大丈夫! 奏お姉さんも気にしなくていいからね?」

「うん。分かった」

「ところで、白羽はもう帰る時間じゃないの?」

「えっ? もうそんな時間?」


 時計を見てみると時刻は午後五時半になっていた。


「あー! そろそろ帰らないとじいやに怒られる!」

「それじゃあ、私もそろそろ帰ろうかな」


 白羽ちゃんと有紗ちゃんが帰る準備を始めた。白羽ちゃんは電話をかけていた。おそらくじいやって人に迎えに来てもらうのだろう。


「白雪さんは、迎えに来てもらうのか?」

「うん!」

「それじゃあ、私はこの辺で………」


 と準備を終えた有紗ちゃんが、立ち上がった。


「今日はありがとうございました。おやつとかありがとうございました」

「いえいえ。あのくらいのお菓子は簡単だから」

「また、遊びに来てもいいですか?」

「もちろん! いつでも遊びに来てね」

「それじゃあ、今日はここで。ありがとうございました」


 有紗ちゃんを玄関まで見送る。有紗ちゃんはぺこりとお辞儀をすると、玄関のドアを開けて出て行った。


「今電話したら、じいやが迎えに来るから。それまでお話でもしようよ!」


 電話を終えた白羽ちゃんがにこにこしながら話す。


「白羽ちゃんは普段お家で何してるの?」

「えっとね~、学校終わったら家庭教師に勉強を見てもらって。気が向いたら習い事をするんだ~」

「習い事は何をやっているの?」

「茶道とかかな~。あとね、天気がいいと乗馬とかやるよ!」

「やっぱりお金持ちって凄いね………」

「そうかな? 私からするとこれが普通だから」

「これだから金持ちは………」


 私と白羽ちゃんの間から、紅愛が茶々を入れた。


「白羽ちゃんのご両親は、いつもお家に居ないの?」

「………うん。帰るのも一年に数回くらいだし。いつも家は私とお屋敷の人だけだよ」


 ずっと笑顔だった白羽ちゃんの表情が少し曇る。やっぱり両親に会えないのは寂しいのだろう。それでも白羽ちゃんが寂しそうな表情を見せたのはほんの一瞬で、またにこりと笑った。


「でも! じいやとかお屋敷の人も皆優しいから、寂しくないよ!」

「そっか………今度のお泊り会楽しみにしてるね」

「うん! あっ、じいやから電話だ。もしもし?」


 白羽ちゃんのスマホの着信音が鳴る。白羽ちゃんは電話に出て少し話すと電話を切った。


「じいやがもうすぐで着くって。私もそろそろ下に降りようかなぁ」


 そう言って白羽ちゃんはカバンを持ち出して、玄関に向かった。せっかくなら下まで見送ろうと思い、紅愛に声をかける。


「紅愛ちゃん。白羽ちゃんを下までお見送りしよ?」

「………分かった」


 紅愛と一緒に玄関に行き、一緒にエレベーターで下に降りる。エントランスの外に出ると、黒い高級車がマンションの前に停まっていた。車の運転席から黒い燕尾服を着た人が降りてきて、私達の前で一礼した。


「紹介するね! この人が私のお世話をしてるじいや!」

「白羽お嬢様がお世話になっております」


 とじいやさんが挨拶をした。


「二人もお見送りありがとう! それじゃあまた何かあったら連絡するね? それじゃあ、ばいばい奏お姉さん! 紅愛ちゃんもまた学校でね!」


 白羽ちゃんはじいやさんが開けた後部座席に乗り込み、車の窓を開けて私達に挨拶をした。じいやさんがもう一度礼をすると運転席に乗り込み、車は走っていった。車が見えなくなるまで私達は見送った。


「………なんだか夏休みは凄い事になりそうだね………」

「奏が行きたいって言ったからでしょ」

「それはそうだけど………あの白雪邸に行ってみたくない?」

「そう?」

「紅愛ちゃんはいつも通りだね………」

「それよりお腹空いた」

「でもまだ六時にもなってないよ?」

「なんか今日はあいつと居たからどっと疲れた…………」

「それじゃあ、今日の晩御飯も考えないとね」


 私と紅愛は晩御飯の事を話しながらマンションの中に戻った。お泊り会に向けて仕事頑張ろう! と心の中で思ったのだった。

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