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第十八話 従姉妹と喧嘩

無事に仲直り出来るのか………

――奏汰と再会してから数日後。私も紅愛もいつも通りの日々を送っている。しかし、何故かここ最近紅愛と会話をしていない。ご飯はいつも一緒に食べるのだが、私より先に食べ終わるとさっさと食器を片付けて部屋に戻ってしまう。ご飯を食べている時もテレビかスマホを見ているし、私の方を見ようとしないのだ。たまたま紅愛の機嫌が悪いだけでしばらくしたらいつもの紅愛に戻るだろうと思い、私も紅愛に話しかける事もなく。紅愛の様子を見ていた。のだが……あれから一週間が経っても、紅愛の機嫌は悪いままだった。何度も紅愛の機嫌を損ねるような事をしたか考えたが全然思いつかない。もしかしたら、学校で何か困っている事でもあるのかもしれない。だとしたら、私にはどうしようも出来ないし、下手に紅愛に聞こうとしたら更に機嫌を悪くしてしまう可能性もある。それ故に私はなかなか行動に移せないでいた。でも、このまま放置しているのはまずいし。何かしらの行動を起こさないと解決しないのかもしれない。私は紅愛に直接聞くという最終手段を実行することにした。今日は仕事は午後からだし、今日は土曜日で学校も休みなのでこの機会に紅愛に話すことにした。紅愛はいつものポジションのテレビ前のソファでスマホを見ていた。勇気を振り絞って紅愛に話しかけた。


「紅愛ちゃん、今いいかな?」

「…………何」

「最近ちょっと話してなかったから話したいなぁと思って」

「あっそう」


 やはり紅愛の返事はいつもより素っ気なかった。私との会話は興味が無いようで、適当に返事をしていた。


「紅愛ちゃんさ、何か困ってることとかある?」

「何? いきなり」

「ほら……人間関係で何か問題があったりとか」

「無いよ」

「そ、そっか……」


 このままだとこれで会話が終わってしまう……! 何とか会話を続けなくては!


「例えば、気になる人が出来たとか?」

「気になる人……」

「そうそう! そういう人がいたりするの?」


 紅愛の表情が少し、何かに反応した気がした。紅愛が何に反応したのか分からないがそのまま会話を続けた。


「同じクラスの子とか? それとも、後輩か先輩だったりする?」

「………………」


 紅愛はさっきまで何かに反応したが、段々と表情が曇ってきた。


「そういう事なら遠慮なく私に相談していいからね! 一緒に暮らしてるんだしお互いに気を遣うのは止めようって言ったよね?」

「…………」


 紅愛は下を向いたまま黙っている。私からは紅愛が今どんな表情をしているのか分からない。


「ね? 紅愛ちゃんが困っているなら私も一緒に考えるから。言ってくれないと困ってても力になれないし、私も紅愛ちゃんが悩んでいると私も悲しいし………それに」

「…………あんたは…………」

「え?」


 私の話を遮って紅愛が小さく声を出した。


「そういうあんたは、私に話していないことがあるでしょ!!」

「紅愛……ちゃん?」

「私知ってるから! あんたが男と一緒にいるの!」

「えっ?」

「ほんとは私の面倒をみながら、その男と遊んでたんでしょ!?」

「ちょ、ちょっと……紅愛ちゃん?」

「私はあんたの事信用してたのに……」

「紅愛ちゃん。私の話を聞いてくれる……?」

「もういい!!」


 そうすると紅愛はソファから勢いよく起き上がり、部屋からカバンを持ってくるとそのまま外に出て行ってしまった。バタンッと大きな音を立てて玄関のドアが閉まった。え……?……え? と私の頭は困惑していた。そもそもどうしてこうなってしまったのか。紅愛はとてつもなく怒っていたし。というか、何故紅愛が奏汰の事を知っていたのだろうか? もちろん紅愛と奏汰の接点はないし、私が紅愛に奏汰の事を話してもいない。それなのにどうして紅愛は奏汰の事を……? もう一度紅愛の話していたことを思い出す。


『私知ってるから! あんたが男と一緒にいるの!』


 と紅愛は言っていた。ということは紅愛は私が奏汰と一緒にいるところを見たという事だ。でも、あの時に紅愛はいなかった。でもどこかで私と奏汰を見ていたのだろうか? いくら考えても答えは出てこず、そのまま仕事の時間になってしまったので、渋々と仕事の準備を始めて家を出た。





―――






「はぁ……」

「どうしたの園原さん? そんなに大きいため息をついて」


 店番を奈美さんと一緒にしていると、奈美さんが声をかけてきた。


「いや……少し悩み事があって……」

「私でいいなら話聞くわよ?」

「奈美さん……!」

「そんなにきらきらした目で見ないでよ……」


 奈美さんが少し引き気味に私を見る。


「実は……」


 それから私は奈美さんに事情を話した。


「………なるほど。それで、園原さんはどうして従姉妹さんが怒ったのか分からないわけね?」

「はい……」

「園原さんは、従姉妹さんがどうして怒ったのか分かる?」

「………心当たりないです……」

「例えば、貴女の家族が自分に何か隠し事をしていたらどう思う?」

「それは……何を隠しているのか気になります」

「それで、家族がその隠し事をずっと言わなかったら嫌でしょ?」

「はい……」

「つまりそういうことよ」

「え? どういう意味ですか?」

「貴女本当に鈍いわね……」


 奈美さんがはぁとため息をついた。


「つまり、従姉妹さんは貴女に隠し事をされるのが嫌だったんじゃないかしら」

「隠し事って言っても、別に隠していたわけではなくて……」

「でも幼馴染の男の話はしていないでしょ?」

「そうですけど……」

「あれ~? 園原さん悩み事ですか?」


 すると、店の奥から沙樹ちゃんがやって来て、話しに加わってきた。


「ああ、沙樹ちゃん……」

「どうしたんですか? そんなに暗そうな顔をして」

「実はね……」


 と沙樹ちゃんにも事情を説明する。


「あ~、それは園原さんも悪いですね~」

「やっぱりそう思う?」

「多分だと思いますけど。従姉妹ちゃん園原さんの事好きですよ?」

「ええっ!?」

「いやだって従姉妹ちゃん。私と園原さんが仲良さそうにしていた時の顔怖かったですもん」

「……そうかな?」

「そうですよ! 私が思うに従姉妹ちゃんはその幼馴染の男に園原さんが取られると思ったんじゃないですか?」

「……そうなのかな……」

「きっとそうですよ! ね、福田さんもそう思いませんか?」

「要するに、従姉妹さんが幼馴染に嫉妬したって事?」

「そうです!」

「じゃあ、そういう事にしておいて。問題はこの後どうするかよねぇ……」

「いっそのこと従姉妹ちゃんには素直に謝って、園原さんの気持ちを従姉妹ちゃんにぶつけるとか?」

「……気持ちをぶつける?」

「あれ? 園原さんは従姉妹ちゃんの事好きじゃないんですか?」

「それは……もちろん好きだよ。でも、話し聞いてくれるかな……」

「大丈夫ですよ! 幼馴染男より、従姉妹ちゃんの方が大切とか言えば大丈夫ですよ!」

「そ、そうかなぁ……」

「大丈夫ですって! とりあえず、従姉妹ちゃんとはちゃんと話し合ってくださいよ?」

「う、うん。分かった……今日帰ったら話してみるよ」

「ファイトですよ! 園原さん!」

「仲直り出来るといいわね」

「はい……! ありがとう沙樹ちゃん。奈美さんもありがとうございました」


 相談に乗ってくれた二人にお礼を言う。


「いえいえ! 園原さんの無事を祈ってます!」

「私達には相談に乗る事しかできないけど、応援してるわ」

「はい! 頑張って仲直りします!」


 そうして、午後の仕事をてきぱきと片付けて、帰りの時間をドキドキしながら仕事をこなした。




―――





 今日の仕事は奈美さんの気遣いもあって、午後五時には仕事を終えて帰路についていた。この後紅愛とどういう風に話すかを頭の中で練習しながら車を走らせる。段々と住んでいるマンションが見えてきて、心臓がバクバクしてきた。緊張しながら車を降りてマンションに入る。エントランスのところでポストに目を向ける。紅愛はいきなり家を出て行ってしまったが、もしかしたら紅愛が帰って来るかもしれないのでポストに鍵を入れておいたのだ。ポストの中を覗くと中には何も入っていなかった。ということは、紅愛は帰ってきている……! 私は少し速足でエレベーターで部屋に上がる。住んでいる階層に着き、玄関のドアの前で一旦深呼吸をしてドアを開けた。


「ただいまぁ……」


 少し小さく呟きながらドアを開ける。玄関を見てみると紅愛の靴があった。いつ戻って来たのか分からないが、帰ってきてくれたらしい。なんとなくだが紅愛は部屋にはいない気がしたので、リビングへの扉をあけた。開けてみると、いつものところに紅愛はいた。喧嘩したときに一緒でソファでスマホを見ながら横になっていた。扉が開いたからか紅愛は私の方に目線を向けた。しかし、ちらりと見るとまた視線をスマホに戻してしまった。なんとか紅愛に話しかけなければ……! そう思いゆっくりと紅愛に近づく。


「紅愛ちゃん、ただいま」

「…………」


 改めて紅愛に声をかけるが、紅愛は私に目を向けずにただスマホを見ているだけだった。


「紅愛ちゃん。お昼ご飯はどうしたの? 何か食べた?」

「…………食べたよ」

「そっか……ならいいんだけど……」

「…………あのさ……」


 と何を話そうかと考えていると紅愛が声をかけた。


「何?」

「………今日のことだけどさ……はっきりさせよう。あんたと一緒にいた男は誰?」

「あれは、私の幼馴染の一ノ瀬奏汰って子で。高校に上がる前に引っ越したんだ。それで、この間奏汰と連絡が取れて、久しぶりに会って話してたんだ」


 なんとか紅愛に事情を説明する。その間紅愛はスマホから目線を外して私の方を見ていた。


「…………それで?」

「それで…………ただ久しぶりに会えたからはしゃいでただけで………」

「あっそう」


 紅愛はまだ訝しげに私を見ていた。


「だから、奏汰は彼氏とかじゃなくてただの幼馴染だから!」

「………本当に?」

「本当本当!!」

「…………他に隠してることとかない………?」

「ないない!!」

「奏は、私の事置いてったりしない………?」


 紅愛は少し顔を赤らめ俯きながら、私に聞いてきた。その仕草がとてつもなく可愛かった。


「………もちろんそんなことしないよ」

「ほんと………?」

「う、うん」

「………さっきはごめん。いきなり大きな声出して怒鳴ったりして」


 紅愛は申し訳なさそうに小さい声で謝った。


「私の方こそごめんね。紅愛ちゃんが嫌だと思う事しちゃって………」

「いいよ。勝手に怒った私が悪いし」

「でも、紅愛ちゃんがそんなに怒るとは思わなくて………」

「………ほんとは言うつもりなかったけど、せっかくだから言うね。実はうちの両親離婚してるの」

「え?」


 まさか紗英さんが離婚していたとは………紗英さんの旦那さんの事は聞いたこともないし、一緒にいるところ見たこともなかった。それにしてもいつの間に離婚していたのだろうか。


「………いつ離婚したの?」

「私が九歳の時に、父親の浮気がばれてそのまま離婚した。それからはずっと二人暮らしってわけ」

「………そうだったの………」

「でも私は気にしてないよ。母親もなんだかんだ優しいし、友達もいるしね」

「そっか……」

「………それに、今はその……奏がいるから………」


 そう言って紅愛はまた下を向いた。その発言に私はとっても嬉しかった。思わず紅愛を抱きしめたくなったがそれをなんとか我慢する。お互い少し恥ずかしくなって五秒くらい沈黙する。


「………そっか」


 私はそのまま紅愛の隣に座り、紅愛の肩に手を置いた。他にも色々聞きたいことはあったけど、今は何も聞かないで紅愛に寄り添った。しばらくそうしていると、紅愛が少し困惑気味に私の顔を伺っていた。


「どうしたの? 紅愛ちゃん」

「………えっと………私が怒ったのはね。私は父親の浮気はなんとなく気づいてたんだ。でも、それを認めるのが怖いから母親にも言わないで黙ってたんだ。だから、嘘をつかれるのは嫌だったっていうか………奏には私に嘘をついてほしくなかったから」

「そうだったんだね………ごめんね。紅愛ちゃんに嫌な思いさせたみたいで」


 紅愛が怒った理由に納得し、紅愛に改めて謝る。


「ううん。私の方こそ話も聞かないで勝手にキレてごめん………」 

「私もちゃんと紅愛ちゃんに話せばよかったね………今度からはちゃんと話すから」

「………うん。それはいいんだけど………」

「ん?」


 紅愛が小さい声で呟いた。


「私が勝手に嫉妬して、奏を取られると思っただけだし………」


 しかし、その声は私にはバッチリ聞こえていた。いきなりの紅愛のデレに私は思わず反応した。


「………え!? 嫉妬してたの………? 紅愛ちゃん」


 紅愛はまさか私に聞こえていたとは思っていなかったのか、顔をとても赤くしながらおろおろしだした。


「………聞こえてたの!? えっと………それは………」


 いつもなら絶対に見せない紅愛の表情に、思わず口から感想が漏れた。


「………可愛い」

「か、可愛いとか言うな!」

「いやでも、紅愛ちゃんは可愛いよ?」

「っ! 別にそうじゃないし………!」


 真っ赤な顔して紅愛は言うが、全然可愛かった。


「ごめんごめん。紅愛ちゃんが可愛くてつい声に出ちゃった」

「あんたもしかして天然なの? 周りの子にもそう言ってるんじゃないの?」

「言ってないよ。紅愛ちゃんが可愛いから言っただけだよ」

「あんたってほんと………はぁ。もういい」


 紅愛は何か言おうと思ったが、それを口に出すのを面倒に思ったのか。ため息をついて言うのをやめた。


「とにかくこの話はもう終わり。私もすっきりしたし」

「そうだね。これからは奏汰じゃなくて、紅愛ちゃんの相手をしないとね」

「私は別に、男と遊ぶのをやめろとかそういうわけじゃないけど………」

「でも、やっぱり紅愛ちゃんと一緒にいる方が楽しいし。ほっといたら嫉妬しちゃうからね」

「っ! ………奏の馬鹿」


 紅愛がそっぽを向きながら呟く。


「ふふっ。また今度お詫びに猫カフェ連れてってあげるから。それで許してくれる?」

「………許す」


 そうして紅愛との思い違いで始まった喧嘩は、お互い謝って仲直りし。また、二人の仲は深まった。後日ちゃんとお詫びの猫カフェに二人で行ったのだった。

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