第十七話 奏の幼馴染
幼馴染との久しぶりの再会。しかし紅愛の様子が……?
――車を家に停めて、それから徒歩で駅に行った。駅に着いたところで、そういえば奏汰と駅のどこで待ち合わせをするのか決めていなかった。迎えに来ると言っていたし、駅に着いたら奏汰の方から連絡があるだろう。とりあえず駅前にある銅像の前で待つことにした。しばらくスマホをいじって待っていると、スマホが鳴った。多分奏汰からの電話だろう。そう思って電話に出た。
「もしもし?」
「奏か? 今駅に着いた。どこに居る?」
「今は銅像の前」
「分かった。今からそっちに行くからそこで待ってろ」
「うん、待ってるね」
そう言って電話を切った。銅像前に居るのは私だけなので、奏汰も分かるだろう。それから奏汰の電話から数分後。奏汰が何処から来るのだろうと、周りをきょろきょろ見ていると。
「…………奏か?」
「え?」
後ろから声が聞こえて振り返ると、一人の男性が立っていて。少しびっくりした顔で私の顔を見ていた。
「…………奏汰?」
「あ、ああ。久しぶりだな。その……」
奏汰の声は最後の方は小さくて聞こえなかった。
「何?」
「いや、その…………奏は昔の頃と変わらないなと思って……」
「なにそれ?」
「いや、悪い意味じゃなくて。良い意味で変わってなくて安心した」
「もしかして、私がまだ子供っぽいって事?」
「……いいや! そういう訳ではない! その……」
奏汰が少し顔を赤くしながら口をもごもごとしていた。
「昔から……可愛いと思って……」
「え?」
奏汰からの突然のお世辞に思わず私の方も、顔が赤くなった。
「いや、別に奏をそういう目で見ているわけではなくてだな!」
「う、うん。分かってるよ……」
奏汰はそう言うけど、私の心臓はドキドキしていた。まさか、久しぶりに会った奏汰からお世辞を言われるとは思っていなかった。
「奏が良ければなんだが……よかったら少しどこかでお茶でもしながら話でもしないか……?」
「うん、いいよ。私も奏汰の話聞きたいし」
「そうか、良かった。なら、そこのカフェでいいか?」
「うん。いいよ」
そうして二人並んでカフェまで歩く。カフェに入って席に着いて、注文をし終わったが。何から話せばいいのか分からず、こういう時は私から話した方が良いのかなと思いながら考えていると。奏汰の方から話題を振ってきた。
「そう言えばこの間風邪を引いてたみたいだが、身体はもう大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、そもそも風邪を引いたの結構前の事だし。風邪引くのは慣れてるから」
「そうか? じゃあ、喘息で体調を崩したわけじゃないんだな」
「うん。ただの風邪だから大丈夫」
「そうか……」
「奏汰は心配し過ぎだよ」
「だって、中二の頃に喘息が酷かった時期があっただろ? あの時は熱も出てたし、うなされていただろ」
「それはそうだけど……今は薬が効いてるから大丈夫!」
「……奏が良いなら良いが……」
奏汰はまだ心配そうに私を見る。
「それより! 奏汰は今何してるの?」
この様子だと奏汰から来る話題は、ほとんど私の事になってしまうので。私の方から奏汰へ話題を振ることにした。
「今は、会社の事務作業をやっている」
「そうなんだ。この街にはいつ帰ってきたの?」
「今年の三月くらいに、来たんだ。どうしてもこの街に戻りたくてな」
「なんで?」
「それは…………えっと……」
「なんでそこ濁すの?」
「いや……ちょっと言いにくいというか……」
「まぁ、言いにくいなら無理して言わなくてもいいけど」
私もそこまで鬼ではないし。なにか事情があるかもしれないからこれ以上聞くことは止めておいた。
「そういう奏は、今は一人暮らしか?」
「う~ん。数か月前まではそうだったんだけど……今はちょっと事情があって二人暮らしなんだよね」
「…………え!?」
私が言うと、奏汰はどこに驚いたのか分からないが、何故か席を立ち上がるくらい驚いていた。
「なんでそんなに驚くの?」
「……いや、別に……何でもない……」
奏汰はまだ何か言いたそうな顔をしていたが、大人しく座りなおして少し下を向いて考えていた。
「そので……どんな奴なんだ?」
「そうだなぁ……大人しくて、いい子だよ?」
「それで?」
「それで……えーっと……ちょっと冷たいところもあるけど優しいんだよ」
「…………そうか…………」
「? さっきからどうしたの? 私なにか奏汰が傷つけるような事言った?」
「いや、そういう訳でなくて……その……奏にもそういう人が出来たんだなと思って……」
奏汰ははぁ……とため息をついた。何故か奏汰はなにか誤解している気がする。少し考えてある一言を言うのは忘れていた。
「………あ! 一緒に暮らしているのは彼氏とかじゃなくて、女の子だからね!」
「………え?」
私が慌てて説明すると、奏汰は思わず顔を上げた。
「そうなのか……?」
「うんうん! そもそも私に彼氏とかいないし!」
「そ、そうか……!」
ちゃんと説明すると奏汰はとても嬉しそうにぱあっと笑顔になった。
「そうかそうか、女子だったか……ならよかった」
何故か奏汰は安心したようで、落ち着きを取り戻していた。
「うん、そうなんだ。奏汰は紅愛ちゃんの事知らないよね?」
「あれだろ? おばさんの妹さんの子だろ? 会ったことはないが、いるのは知ってる」
「そっか。紅愛ちゃんのお母さんは紗英さんっていうんだけど、今年から隣町の小学校に一年転勤するから私が面倒みることになったんだ」
「なるほどな。その紅愛とは仲いいのか?」
「まぁ、仲良くはなれたと思う。紅愛ちゃんはどう思ってるかは知らないけど……」
「なるほどな。大体今の奏の事が分かってよかった」
「奏汰は今はどの辺に住んでるの?」
「今は、怜悧高校の近くのマンションに住んでる」
「え!? そうなの?」
まさか近くに住んでいたとは……思わずびっくりしてしまった。
「どうした? そんなに驚くことか?」
「いや、私も怜悧高校の近くだから、そんな近いところに住んでいたとは思わなくて」
「そうなのか!? そうか……じゃあ意外と近所だったな」
「そうだね……まさか奏汰が近所に居たとは……」
それからしばらくはお互いの近況報告や、昔話をして時間は過ぎていった。
―――
――すっかり奏汰と話し込んでしまい。ふと駅前の広場にある時計が鳴った。しばらく時間を確認していなかったので、今の時刻を確認するためスマホを見てみると、現在の時刻は五時過ぎだ。
「もうこんな時間! そろそろ帰らないと」
「ん? ああ、もうこんな時間か。少し話過ぎた」
「ううん、私も奏汰に話したい事いっぱいあったし、大丈夫だよ」
「ならよかった。なら俺が車で送っていくよ」
「え? いいよ。奏汰に悪いし、自分で帰れるよ」
「いや、誘ったのは俺だから、このくらいさせてくれ」
「………じゃあ、お言葉に甘えようかな」
そうして二人でカフェを後にし、駅の駐車場まで一緒に歩く。その時にふと、今日の晩御飯はどうしようかと悩んでいると奏汰が声をかけてきた。
「奏はどこか寄るところとかないか?」
「え? どうして?」
「帰りにスーパーでも寄って、晩飯でも買おうと思ってな? よかったら、奏の家に送る前に買い物してもいいか?」
「いいよ、私もちょうど晩御飯の事考えてたし」
「! ならよかった……!」
奏汰はどこか嬉しそうに笑った。そして奏汰の車に乗り、近くのスーパーで買い物をした。
―――
「今日は悪かったな、いきなり誘ったりして……」
「ううん、私も奏汰に会いたかったし、今日は楽しかった!」
私のマンションの前に着いて、奏汰の車から降りて、運転席にいる奏汰と話す。
「また定期的に誘ってもいいか?」
「うん! また一緒に遊んだりしようね!」
連絡先も住所もお互いに教えたので、これからはいつでも奏汰と連絡出来る。
「それじゃあ、今日はありがとう!」
「ああ、またな」
そう言って奏汰は車を走らせて帰っていった。よし、今日は奏汰と話せたし、晩御飯の買い物も出来たしとても充実した一日だった。奏汰を見送ってマンションの中に入って、部屋に戻ることにした。エレベーターに乗る前にポストを確認すると、鍵は無かった。ということは、紅愛は家にいるようだ。紅愛が待っているし私はエレベーターに乗って、自分の部屋の階で降り、部屋のドアを開けた。
「ただいまー」
と玄関のドアを閉めながら言うが、しーんとしていた。もしかして昼寝でもしているのだろうか? と思い紅愛の部屋をノックして、反応はなかった。紅愛の部屋に入ってみたが、紅愛は部屋に居なかった。なら、リビングでくつろいでいるのだろう。リビングの扉を開けてみると、紅愛は居た。いつものテレビ前のソファで横になっていた。
「ただいま」
「……………おかえり」
挨拶をして、紅愛の顔を覗き込む。心なしか少しむすっとしている気がする。
「今日の晩御飯はカレーだよ」
「………そう」
返事もどこか適当だし、あまり私の方を見ようとしない。なにか嫌な事でもあったのだろうか?
「………紅愛ちゃん、何かあった?」
「………何かって、何?」
「いや、別に……今日は何してたの?」
「友達の家に行ってただけだけど」
「そうなんだ……」
「私テレビ見るから」
そう言って紅愛は私から視線を外し、テレビを見始めてしまった。その友達の家でなにかあったりしたのかな? 無理やり聞こうとすると紅愛の機嫌が悪くなりそうなので、これ以上聞くのは止めておいた。紅愛はテレビに夢中のようなので、私は渋々と買ってきた食材を仕舞うことにした。
―――
晩御飯のカレーを作って、まだテレビを見ている紅愛を呼んだ。カレーを皿によそって、いつもと同じ席に着く。
「いただきます」
「……いただきます」
挨拶もして二人でカレーを食べ始める。紅愛は相変わらずまだどこかむすっとしていた。やっぱり何か機嫌を損ねる事があったのだろう。結局この後も紅愛から話しかけてくることはなかった。
「ごちそうさま」
紅愛は私より先に食べ終わるとさっさとお皿を片付けて、部屋にもどってしまった。紅愛がなんで機嫌が悪いのかも分からず、私はもやもやしていた。でも絶対紅愛は素直に話してくれないだろうし、どうしたものか……とりあえずしばらくの間は様子を見る事にした。結局この日は紅愛の機嫌が悪い理由は分からずじまいだった。
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