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第十六話 奏の人間関係

仕事に、かかりつけ医に、幼馴染!?

 ――今日もスマホのアラームで目を覚まし、ベットから起き上がる。今日もいつも通りの時間に起きて、パジャマから仕事用の動きやすい服に着替える。そうだ、今日は土曜日だから紅愛は今日は弁当は要らないんだった。なら、紅愛のお昼ご飯も作っておかなければならない。とは言っても、私のお昼用の弁当と朝ご飯、紅愛のお昼ご飯も私が家を出る前に作らないといけない。でも、全部は時間的に無理なので私の朝ご飯は諦めて、私の弁当と紅愛のお昼ご飯を作る。エプロンを着てキッチンに行き冷蔵庫の中を見る。中を見ると、冷蔵庫の中はほぼ空だった。食材は昨日の晩御飯に使っちゃったしどうしよう。こういう時は冷凍食品に限る。そう思って冷凍庫を見る。するとちょうど冷凍のチャーハンがあった。手抜きになっちゃうけど時間がないからしょうがない。とりあえず紅愛のお昼は冷凍のチャーハンにしよう。とはいえ、紅愛のお昼だけにチャーハン(一袋三百グラム)は多すぎるので、半分は私のお弁当に入れさせてもらおう。お弁当におかずも冷凍食品ですませよう。ちょうど焼くだけで出来るウインナーもあるのでそれを焼いて弁当箱に入れる。バランスが少し悪いので弁当箱の隙間に冷蔵庫に残っていたプチトマトを入れる。これでほぼ冷凍食品ですませた弁当が完成。それをぱぱっと風呂敷で包んで保冷バッグの中に仕舞った。



 自分の弁当と紅愛のお昼ご飯を作り終わったところで時計を見る。現在の時間は六時半だった。本当は洗濯物も洗いたいけど時間的に洗濯機の中に入れるまでが限界だ。干すのは紅愛に任せよう。出来れば七時過ぎには家を出たいので、そろそろ出来ることが限られて来る。とりあえず歯を磨いて軽く化粧をする。家を出るまであと三十分。他にやることはあるだろうか。うろうろとリビングを歩き回っていると、洗い場に少し多く残っている食器と鍋類が散乱していたので、慌てて皿を洗う。これを洗い終わったらカバンを持って家を出よう。少し急いでお皿と鍋類を洗い終わって、自分の部屋に戻りカバンに必要なものを入れる。忘れ物が無いことを確認して、まだ寝ているであろう紅愛に声をかける。一応紅愛が起きているかもしれないのでノックをしたが、紅愛からの返事はなかった。しょうがなく紅愛の部屋のドアを開けて部屋の中に一歩足を踏み入れる。やっぱり予想したとおり、紅愛はまだ布団の中ですやすやと寝ていた。気持ちよさそうに寝ていて、可愛い寝顔で寝ていたので起こすのが少し惜しかったが、紅愛にお昼の事や家の家事の事を伝える為、少し大きめの声で紅愛に話す。


「紅愛ちゃん、私仕事に行くから家の事よろしくね。お昼ご飯はチャーハンを作ってあるから、お昼はそれを食べといてね?」

「……うん」


 布団の中から少しこもった声で紅愛が返事をした。これで紅愛にはお昼と家の事を言っといたので、紅愛の部屋から出ようとしたところで、もし紅愛が出かける用事とかがあるかもしれないのでそのことも言っておこう。


「もし、外に出かけるのなら鍵をポストに入れといてね。それじゃあ、行って来るから」


 そう紅愛に言って部屋を出る。紅愛からの返事はなかったけど多分聞こえているだろう。そろそろ出ないとまずいので玄関で靴を履く。


「行ってきます」


 ドアの前で小さく呟いてドアを開けて家を出た。








 

 いつも通る仕事場への道を車で走る。いつも見慣れた街並でどこかが変わった訳でも無く、ただひたすら車を走らせた。その間に考える事はやっぱり紅愛の事で、今頃紅愛はもう起きただろうか? とか、何をしているだろうかとばかり考えてしまう。今日は朝から雨が降っており多分紅愛のことだから外に出ることなさそうかな。とにかく紅愛の事で頭がいっぱいになっていると、気が付いたらcielの裏にある従業員用の駐車場に着いていた。車を停めてカバンを持って降りる。cielの裏口から店内に入った。


「おはようございます」

「おはよう、園原さん。早速で悪いんだけど準備が出来たらフルーツタルトを作ってくれる?」

「分かりました」


 店内に入って挨拶をすると真っ先に来たのはやはり奈美さんだった。奈美さんに返事をして自分のロッカーからエプロンを取り出して付ける。荷物をロッカーの中に入れて、今日の分のケーキを作るためにキッチンへ向かう。するとキッチンには既に二人が作業をしていた。


「あ、園原さん。おはようございます」

「おはよう、奏ちゃん」

「おはようございます。二人共今日は朝早いですね」


 私よりも先に作業をしていたのは、私とほぼ同じくらいにcielに来た前島美由まえしまみゆと、一年前に入ってきた橋元理名はしもとりなの二人だった。美由は、私が通っていた製菓専門学校が一緒で卒業してからは駅前のケーキ屋さんで働いていたが、通うのが難しくなったとかで行く当てがなくなった彼女にcielを紹介したのだ。橋元さんは、一年前くらいからここに働きだした。前の仕事場で人間関係に疲れてしまったらしく、悩んでいた彼女をcielの店長である倉形麻衣くらかたまいに「ここで働かないか」と言われてそれ以降ここで仕事をしている。今はこの環境がとても居心地が良いらしい。


「そうなんだよ~、今日は朝の六時から仕込みやってて朝から疲れちゃったよ」

「前島さん、朝苦手なのにちゃんと起きてきたじゃないですか。それでも十分偉いですよ」

「えへへ、ありがとうございます!」


 美由と橋元さんは一緒に働く時間が多く、それのせいか美由はとても橋元さんに懐いている。橋元さんも美由のことを妹のように可愛がっていた。二人のじゃれあいを見ながら私も作業に入る。奈美さんに頼まれたフルーツタルトのタルト生地を作っていく。


「そう言えば奏ちゃん、この間沙樹ちゃんに聞いたんだけど、一か月くらい前に奏ちゃんの従姉妹が来たってほんと?」

「えっ? そうだけどいきなりどうしたの?」

「沙樹ちゃんが『園原さんの従姉妹ちゃんめちゃくちゃ可愛かったんですよ!!』って言ってたからちょっと気になって……やっぱり可愛いの?」


 まさか沙樹ちゃんが紅愛の事を話していたとは……でもなんで話したんだろう? そのせいか美由も聞く気満々だし……


「可愛いかと言われたらまぁ……その……可愛いけど……」

「やっぱりかぁ~、いいなぁどんな子か会ってみたいなぁ~。従姉妹ちゃんとは仲いいの?」

「まあ、仲は良いと思うけど、あっちがどう思ってるのかは知らないけど」

「従姉妹ちゃん、怜悧高校なんでしょ? 頭良さそうだよね~」

「(紅愛ちゃんが頭いいかは知らないけど……)」


 そんな美由にぐいぐいと来る紅愛の質問責めを適当に流して、作業を続ける。


「従姉妹さんと仲良しそうでいいですね。家が近いんですか?」

「ええっと、近いと言えば近いんですけど……ちょっと事情があって今は従姉妹と一緒に暮らしてるんです」

「ええ!? 女子高生と一緒に暮らしてるの!?」


 橋元さんとの会話の最中に美由が割って入って来る。そんなに驚く事かな……


「そんなに驚く?」

「いやぁ、今時そんな漫画みたいな事あるんだなぁと思って。でもいいなぁ~可愛い女子高生と一緒に暮らすの」


 美由が羨ましそうに言う。


「私の親戚とかに可愛い女の子居ないんだよねぇ~。っていうか親戚の集まりとかあんまり行かないし」

「私も親戚に大学生の女の子が居るんですけど、あんまり話したことなくて」

「奏ちゃんは従姉妹ちゃんとは仲良いの?」

「小さい時とかたまに遊んでたけど、今はまぁ……仲が良いと思いたい」

「でも、一緒に暮らしてそこそこ経つんですよね? それでも十分仲は良い方だと思いますよ」

「それもそうか……」


 橋元さんに言われて少しだけ納得した。確かに紅愛も私との生活も嫌そうではなかったし、今も少し塩対応みたいなところはあるけど、初日に比べたら表情も豊かになった方だ。


「皆お喋りをする暇があったら手を動かしてくれる……?」


 と私達の後ろから、少し低い声の奈美さんが声をかけた。奈美さんの声が低い時は大体怒っている時だ。


「「「は、はい!」」」


 会話を中断して私達はそれぞれの作業に戻った。





 

 それからしばらくして今日並べるケーキはあらかた作り終わって、後は焼き上げるだけになったので私は店内の掃除をしていた。床と窓をモップで磨いていく。外側の窓は橋元さんが磨いていた。


「園原さん、橋元さん。店長が来たわよ」


 奈美さんの声を聞いて私は外に居る橋元さんに店長が来たことを伝える。


「橋元さん、店長が来たから挨拶しよ」

「分かりました」


 橋元さんと横に並ぶ。そして、奈美さんの後ろからこのお店の店長の倉形店長が来た。


「皆、おはよう。今日も朝早くから仕込みありがとう」

「いえいえ、もう慣れっこですから」

「今日は店長もお店に居るんですか?」

「そうね、今日は時間があるから閉店時間まで居るつもりよ」

「店長が閉店時間まで居るの珍しいですね」

「ここ最近は色々あってお店に顔を出せなかったから、その分まで今日はお店に居ようと思って」

「そういうわけで、今日は店長もお店に居る事だしいつもより頑張るわよ!」

「「はい!」」

「ふふっ、皆期待してるわよ」

「じゃあ、園原さんと橋元さんは引き続き掃除を続けて。終わったらミーティングをするからスタッフルームに来て?」

「「分かりました」」


 奈美さんがそう言うと店長と一緒に奥に戻っていった。私と橋元さんは奈美さんと店長が居なくなると、お店の掃除に戻った。






 一通り店内の掃除が終わり、ケーキもショーウィンドウに並べたのであとは開店時間まで待つだけだ。掃除道具を片付けてスタッフルームにに向かう。すると、スタッフルームには美由、奈美さん、店長の三人が座ってお茶をしていた。


「あら、園原さん掃除お疲れ様。よかったらお茶しない? 少しお茶して休憩しましょ」

「ありがとうございます。じゃあ、カップの準備しますね」

「いいのよ、私がやっておくから。園原さんは座って待ってて?」

「……じゃあ、お言葉に甘えて」


 店長がお茶の準備をしている間に私は空いている椅子に座った。隣には美由が座っていて、奈美さんも美由もお茶を飲んでいた。


「あれ? 奏ちゃん、橋元さんは?」

「橋元さんは今さっき掃除道具を片付けに行ったから、もう少ししたら来ると思うよ」

「じゃあ、橋元さんのカップも用意しとくわ」


 奈美さんがそう言って椅子から立ち上がり、食器棚から橋元さんの分のカップを店長が居る、給湯室に持って行った。


「店長が美味しいお茶菓子持ってきたから、奏ちゃんも食べない? 美味しいよ~」

「じゃあ、貰おうかな」


 ふとテーブルの上を見てみると、真ん中にバームクーヘンが置いてあった。十個入りの箱を見てみると、そのうち三個無くなっていた。多分、店長と奈美さん、美由が食べたのだろう。箱から一つ取り出してパッケージを開けて一口食べる。生地はふわふわで、甘さも甘すぎないでちょうどいい甘さで食べやすかった。バームクーヘンをもぐもぐと食べていると、給湯室から店長が出てきて私の前に紅茶が入ったカップを置いた。


「はい、どうぞ。この間買ったレモンティーなんだけど、とっても美味しいのよ?」

「ありがとうございます。頂きます」


 バームクーヘンを食べて口の中が乾いていたので、早速店長が淹れてくれたくれたレモンティーを飲む。カップを傾けると、ふわりとレモンの香りがして、レモンのスッキリさが口の中に広がった。思わずほっと息をついた。


「このレモンティー美味しいです!」

「そうでしょう? この間買ったものなの」

「店長が持ってきたもの全部美味しいですよね!」


 私と店長の間に美由が割って入る。確かに店長はよく紅茶とか茶菓子を持ってきてくれるが、どれも美味しいものばかりなのだ。やっぱり、店長のセンスが良いのかな? 


「前島さん? あなたいつも店長が持ってきたお菓子食べ過ぎなんじゃない?」

「だって、美味しいんですもん。たくさん食べたくもなりますよ」

「そんなに食べると太りますよ」

「ああ、橋元さん。掃除お疲れ様。橋元さんもレモンティーでいいかしら?」

「はい、頂きます」


 いつの間にかスタッフルームに来ていた橋元さんが、美由の後ろから声をかけた。


「大丈夫ですよ~、仕事がある日はほぼ歩いてくるので、いい運動になってるので~」

「でも、食べ過ぎは駄目よ?」

「まあまあ、福田さんもそんなに言わなくてもいいじゃない。私のちょっとしたいつも頑張っている皆への差し入れみたいなものだから」


 そうして全員でテーブルを囲んでお茶をする。雑談や店長が居ない間にあった話などをしながら開店時間まで、時間を潰した。








「そろそろ、ミーティングを始めましょうか」

「じゃあ、皆そこに並んで」


 奈美さんの指示に従って、店長の前に私、美由、橋元さんが並んで、店長の隣に奈美さんが立った。


「それじゃあ、ミーティングを始めます。今日は天気が良くないけど、それでもお客さんは来るから今日もきちんとした接客をしましょう」

「「「「はい」」」」

「それと、今日は広川さんは午後から来るから、それまでは五人で頑張りましょう」

「「「「はい」」」」

「それじゃあ、接客は午前は福田さんと前島さんで。梱包、商品の追加作業を園原さんと橋元さんでお願いします」

「「「「分かりました」」」」

「私はそうねぇ……お客さんが多くなるまでは、裏作業をしとくわ。それじゃあ、これでミーティングを終わります。各々自分の持ち場に着いて」

「「「「分かりました!」」」」


 そうして、各々自分の持ち場に着いた。午前中は軽い作業で済みそうだ。あとで保冷剤の数を確認しておこう。もう少しで開店時間だ。


「それじゃあ、開店するわよ」


 奈美さんの声が店内に響いて、奈美さんがお店の扉を開けて。ドアに付いている看板を裏返しにして『OPEN』の看板にした。すると、お店にが開店して早々にお客さんが入ってきた。


「「いらっしゃいませ~!」」


 接客をする奈美さんと美由がお客さんに挨拶をして接客をしている二人を、私と橋元さんは店内の様子を店内の奥から見ていた。


「とりあえず、私たちはお客さんが商品を買うまで待機かな」

「そうですね。梱包する袋と箱も準備しないとですね」


 お店の少し奥から店内の様子を見ながら橋元さんと話す。


「それなら橋元さん。手が空いている今のうちに、今倉庫にある材料のチェックをお願いできる?」

「分かりました。何か足りない材料でもありましたか?」

「う~ん、そういうわけじゃないけど。材料がどのくらい残っているかなと思って」

「分かりました、流石園原さんですね。周りをちゃんと見ているんですね」

「いや~、私がそういうの気になるタイプなだけだよ」

「そこが園原さんの良いところじゃないですか。園原さんのそういうところにいつも助かってます」

「いいよ~、そんなに言わなくても」


 橋元さんはいつも人の良いところを褒めてくれる。年齢は橋元さんが上だけど、cielに居る歴は私の方が上なので呼び方は敬語だけど、話し方はため口で話している。橋元さんは良い人なんだけど、良い人過ぎるからこそ大変なこともあるのだろう。


「それじゃあ、材料の在庫を見てきますね」

「お願いしますね」


 そして、橋元さんは倉庫の方に歩いて行った。すると橋元さんと入れ違いで店長が店内に来た。


「あれ? 店長どうしたんですか?」

「少し店内の様子を見たくなって。園原さんもしばらくはずっと出勤してるんでしょ? 大変じゃない?」

「いえ、この仕事も好きだしお店の皆も優しいし、今は大丈夫です」

「そう、よかった。私園原さんには結構期待しているのよ」

「ええっ? 本当ですか?」

「ええ。だっていつも一生懸命だし、お客さんの事を第一に考えているじゃない。そういうところ良いと思うわよ」

「あはは……さっきも橋元さんに褒められたんですよ」

「皆園原さんの事信頼しているのよ。福田さんもそう言っていたわ」

「奈美さんまで……」

「そういうわけだから、期待しているわよ園原さん」

「は、はい! 頑張ります!」

「それじゃ、また後でね」


 そう言って店長はまた店の奥に消えていった。これだけ店長に期待されているんだ、今日はいつもより頑張ろう……! そう自分に言い聞かせ今日の作業に取り掛かった。










 ――時刻は十二時半。やっとお客さんもまばらになってきて、店内もやっと落ち着いてきた。


「それじゃあ、園原さんと橋元さん今のうちにお昼にしましょう。午後は広川さんも来る事だし、今日はゆっくり食べましょう」

「「分かりました」」


 橋元さんと一緒にロッカーに行き、中から今日の朝に慌てて作った弁当と水筒を持って、椅子に座る。橋元さんが私の隣に座り、店長が私の向かい側に座った。


「そう言えば園原さん。前島さんや福田さんに聞いたんだけど、従姉妹さんの面倒を見ているらしいじゃない」

「え? まぁ……そうですけど」

「ご飯とか弁当とか大変じゃない?」

「でも、料理は得意だし、弁当作りも慣れてますから」

「今日とか従姉妹さんのご飯とか大丈夫なの?」

「お昼は作り置きしといたので大丈夫です。晩御飯は……なんとかします」

「園原さんが大丈夫ならいいんだけど……」


 店長が少し心配そうな目で私を見る。すると、お店の裏口が勢いよく開いた。


「お疲れ様です!」


 と言いながら沙樹ちゃんが息をはぁはぁしながらやって来た。


「あら、沙樹ちゃん。どうしたの? そんなに急いで」

「あはは……ちょっと行きのバスに遅刻しそうになっちゃって……だから、急いで走ってきました!」

「それにしても汗凄いわよ? 拭かないと風邪ひくわよ」

「私のでよかったら、どうぞ」

「わぁ! ありがとうございます橋元さん!」


 カバンの中からタオルを取り出した橋元さんが、タオルを沙樹ちゃんに渡す。それを笑顔で沙樹ちゃんは受け取った。


「広川さんはお昼どうしたの? もう食べた?」

「はい! 今日は早めに食べてきました!」

「そう。なら、準備が出来たら接客をしている、福田さんと前島さんを手伝ってくれる?」

「はい! 分かりました!」


 沙樹ちゃんはロッカーでささっと作業服に着替えると、だっと小走りで店内に走っていった。


「沙樹ちゃんはいつも元気ですよね~」

「それが広川さんの良さですから」

「それもそうね」


 ばたばたとやって来た沙樹ちゃんの事を呟きながら、食事を再開した。








 お昼ご飯を食べ終わって、午後の作業は何をするのか考えていると、隣に店長が座った。


「園原さん。今日の午後の事なんだけど」

「はい、午後はどうしましょうか? 私と橋元さんが接客ですか?」

「そうじゃなくて、園原さん今日はもう上がっていいわよ?」

「え? いや、大丈夫ですよ! 私まだ居れるので!」

「今日は皆居るし、人手は足りてるから。園原さんはここ最近ずっと出勤してたし、従姉妹さんが家で待ってるでしょ? だから今日は早めに上がって、ゆっくりしなさい」

「でも……本当に良いんですか?」

「良いのよ、ずっと働いていたらいつか倒れちゃうわ。だから、今日は早く帰ってゆっくりしたり、従姉妹さんのご飯を作らないとね」

「店長…………すいません、じゃあ今日はもう上がりますね」

「ええ、そうしなさい」


 私は弁当を片付けると、帰る準備をする。本当に帰ってもいいのだろうかと思いながらも、黙々と帰りの準備を進めた。帰りの準備が終わり、店長と橋元さんに声をかける。


「それじゃあ、今日はこれで上がりますね。お疲れさまでした」

「お疲れ様です」

「お疲れ様。帰り気を付けてね」


 二人に見送られて、お店の裏口から出る。車に乗ってふとため息を吐いた。早めに上がったものの……これからどうしようかなぁ……買い物するのも悪くないけど、特に欲しいものないしなぁ……気になるカフェとかあるけど、一人で行くのもなぁ。これからどうしようかと悩みながら、スマホを見る。すると、LIMEに一件のメッセージが送られていた。誰だろうと思って開いてみると、そのメッセージは私のかかりつけ医の早苗先生からだった。


『今日、予定がなければ、一緒にお茶でもしないか?』


 と送られてきたメッセージに目を通して、ちょうど時間が出来たので早苗先生に返信した。


『いいですよ。どこでしますか?』


 と送った数秒で既読が付いた。


『それなら、駅前の喫茶店で待ってろ』

『了解』


 と返して駅前の喫茶店に向けて車を走らせた。








 駅前の喫茶店の駐車場に車を停める。もう早苗先生は来ているだろうか? そう思いながら喫茶店の扉を開けた。扉を開けて店内を見渡すと、窓際の席に見知った顔を見つけて席に近づく。


「来るの早いですね、早苗先生」

「今日は休みなんだ。特にやることもないから、お前の最近の体調を聞きながら、愚痴の一つでも聞いてやろうと思ってな」


 そう言って早苗先生はコーヒーを口にした。


「ほら、お前もなにか頼め。お茶ぐらいは私が奢ってやる」


 早苗先生が店員を呼んだので、私はミルクティーを注文した。


「それで、どうだ? 最近は」

「どうだと言われても……」

「美空から聞いたが、美空の妹の子の面倒みてるんだろう?」

「もしかしてお母さんから大体聞いたんじゃないの?」

「まぁ、大体は美空から聞いたな。でも、詳しいとこは聞いていないからお前から聞こうと思ってな」

「はぁ……それで? なにから聞きたいんですか……」

「その面倒みてる子とは仲良くなれたか?」

「まぁ、私が言うのもなんですけど仲は良いと思います」

「ならいい。お前らが仲良くなれるかどうか美空が心配してたからな」

「そのことなら大丈夫だって今度お母さんに会う時に言っといてください」

「分かった。で、本題はここからなんだが。お前少し前に風邪を引いただろう?」

「うっ……」


 やっぱり早苗先生はその時の様子を聞くために来たらしい。だからと言って直接会って聞こうとしなくても……


「あの時はなんで風邪引いたんだ? あれか? 雨の中走ったりしたのか?」

「そんなんじゃないよ……あれはただ仕事を頑張り過ぎただけで……」

「本当に過労か? 私の予想だと、また喘息の薬を飲むのをサボったと思ったんだが?」

「ううっ……」


 早苗先生のこういう予想はよく当たる。しかも、私のとって悪い方には特に。


「……その反応からすると図星といったところか。症状が出ていなくても飲めと言っただろう?」

「だって……しばらくは咳も出ていなかったし、息苦しい事もなかったからもう飲まなくてもいいかなと思って……」

「いいわけないだろう。それで症状が酷くなったらどうするんだ」

「だって……粉薬苦手だし……」

「お前は良薬は口に苦しという言葉を知らんのか?」


 これは完璧に早苗先生のお説教モードのスイッチを押してしまったらしい。がみがみと説教をしている早苗先生の言葉を聞きながら、頼んでいたミルクティーを飲みながら反省する。


「とにかく、薬は症状が出ていなくてもちゃんと飲むこと。分かったか?」

「……はい」

「ならそれでよし。そう言えば、お前の身体の事は従姉妹には話したのか?」

「……話してない」

「お前の事だからそうだと思った。この事は従姉妹には言うのか?」

「……まだ考えてる」

「そうか……」


 そう言えばまだ喘息の事紅愛に話していなかったなぁ……でももし、私の身体の事を知ったら急に紅愛が優しくなったら嫌だなぁ。高校の時に喘息が酷かった時期があって、その時の周りの反応も腫物に触る時みたいだった。紅愛には気を遣って欲しくないし、なにより紅愛に迷惑をかけたくない。


「まぁ、言うか言わないかはお前に任せるが、一緒に暮らすならいつかはばれると思うぞ」

「……それは分かってる。でも……」

「風邪の時、従姉妹はどうしたんだ?」

「紅愛ちゃんは……薬を持ってきてくれたり、色々私の看病をしてくれたんだ」

「なら言ってもいいんじゃないか? もう従姉妹とは仲良しなんだろ? 嘘つくの嫌だろ?

「うん…………分かった。私いつかは分からないけど喘息の事紅愛ちゃんに言うよ」

「そうだな、それがいい」

「もしかして早苗先生。風邪を引いたときの状況を聞くために私を誘ったんですか?」

「まぁそれもあるが、この間たまたま奏汰に会ってな」

「え? 奏汰に?」


 一ノ瀬奏汰いちのせかなた。私の幼馴染で、高校に上がる前に親の仕事の都合で引っ越してしまった。まさか、この街に戻ってきたのかな?


「いつの間に戻って来たんだろう?」

「それでな? 『奏は今何してる?』って聞いて来たから、あいつは風邪引いたらしいぞって言ったら。『奏の住所を教えてくれ』って言うから、風邪が移るから止めとけって言っといたんだ。

「早苗先生! その後どうしたの?」

「それで、奏が治ったら連絡するから、会いに行くなら奏の風邪が治ってからにしろと言っておいた」

「じゃあ、奏汰の連絡先知ってる?」

「ああ、その時に交換したが……」

「連絡先教えて!」

「なんだお前、そんなにあいつに会いたかったのか?」

「だって! 中三の時以来だもん! 今何しているか聞きたいし、久しぶりだから会いたいし!」

「そうか。お前昔よく遊んでたらしいしな。ほら、これが奏汰の電話番号だ」

「ありがとう! 早苗先生!」

「じゃあ、そろそろお開きにした方がよさそうだな。この後奏汰に会いに行くんだろ?」

「うん! そうする!」

「じゃあ行くか」


 二人して席を立って、早苗先生がレジで会計を済ませて。喫茶店を出る。


「じゃあ、私はもう帰るが、薬はちゃんと飲むんだぞ」

「分かってます! 以後気を付けます!」

「ならいい。それじゃまたな」


 そう言って早苗先生は車に乗り込み去っていった。早苗先生を見送って私も車に戻る。そして、さっき早苗先生から教えてもらった番号に電話をかける。少し緊張しながら電話に耳を近づける。


「はい、一ノ瀬です」


 と中学生の時より少し低くなった声が聞こえた。


「もしもし? 奏汰? 奏だけど、久しぶり」

「何? 奏!? なんで俺の電話番号知ってるんだ!?」

「この間早苗先生に会ったんでしょ? さっき早苗先生と一緒に居て、早苗先生から奏汰の事聞いて連絡先教えてもらったんだ」

「……ああ、そうか。早苗先生からか」

「うん……」


 どうしよう……電話をかけたわ良いものの、まず何から先に話せばいいのか分からない。少しの間私が黙っていると、奏汰の方から話しかけてきた。


「その……身体の方は大丈夫なのか? 早苗先生に聞いたら、風邪引いてたって……」

「ああ、あれは、私が仕事を頑張り過ぎただけだから! 気にしないで」

「そうか……仕事はやっぱりパティシエとか?」

「うん、今はケーキ屋で働いてるんだ」

「そうか、奏の夢だったからな」

「うん。今の仕事には満足してるんだ」

「奏が元気そうで良かった…………なぁ、この後会えるか?」

「え? 私は大丈夫だけど、奏汰は大丈夫なの?」

「俺、今日は休みなんだ。だから奏が良ければだけど……」

「いいよ。私も久しぶりに奏汰に会いたいし」

「そ、そうか? なら良かった。奏は今どこに居るんだ?」

「今は駅前の喫茶店だけど……」

「じゃあ、駅で待っててくれるか? 今から迎えに行く」

「分かった。じゃあ、駅で待っとくね」

「ああ、待ってろ」


 そう奏汰と約束をして電話を切った。私の家から駅は近いし、一旦車を家に停めてから、歩いて駅に行こうかな。その為一度家に戻ることにした。奏汰に会えるのをわくわくしながら車のエンジンを入れた。

ご愛読ありがとうございます! 作者の葉月朋です。さて、小説も第十六話まで来ましたが、小説の中で一番長いお話になりました(笑)

色々詰め込んだ結果長くなってしまいました……さて、今回は新キャラも出しましたが、なんとなく覚えてもらえれば大丈夫です。

もしかしたら、この先もっと文字数が多くなるかもしれませんが、ご了承ください。前回から小説の詳しい事や、雑談を活動報告の方で書くことにしましたので、是非とも活動報告の方も見てくれると嬉しいです!

続きが気になる方、おもしろかったという方は、ブックマーク登録、評価、感想コメントなどをよろしくお願いします!!それではまた次の話で!!

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