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ファントム  作者: 花香
3/3

2話、“大物”って??



通信回線を一方的に切ったマクスウェルこと、マックスの目の前には、第5星系第3惑星を周回する衛星の一つがある。

マックスのパネルには衛星の一部の画像が拡大表示されていた。

その画像には、見たところ随分と時代がかった金属片が鈍く光っていた。

はっきり言って、人を呼びつける程の大きさもなく、衛星周辺も静かなもので回収に梃子摺る要素は何一つないように見受けられた。


しかし、マックスは


――あれは、ぜっっったい……


ぐふふふっと気色の悪い笑みを浮かべながらマックスはジーンを待つのだった。




そして、待つこと10分―――


『こちらK-10機。マックス、応答しろ。』


光速航行から通常航行へと切り替えたジーンの≪シーク≫が、マックスの機体へと近づきつつ、回線を開いていた。


「遅いよ!ジーン。

 早く来いって!!」


『遅いってなんだよ。俺が廻ってたのは第4星系なんだぞ!!』


むしろ第5星系までおよそ10分で航行してきた俺を褒めろと内心で呟くジーンは、不機嫌そうにしながらもマックスの≪シーク≫の横に、ぴたりと自身の機体を横付けした。


「それで? どれが大物だって?」


ジーンが見たところ、マックスが梃子摺りそうな“大物”らしきものの陰は見えない。


「あれだよ、あれ!!

 衛星のとこに金属片見えるだろ?」


ジーンへと拡大映像と衛星全体映像を送りながら、マックスは目をキラキラ輝かせたが、


「はあ? この金属片??」


送られてきた映像と、自分の機体からの映像を照合したジーンは、その何の変哲もない金属片を見て訝しげな顔になっていた。


「あれのどこが“大物”だって?

 どう見ても、ただのゴミだろ。」


「あまい!!」


「何が?」


「あれは、ただの金属片なんかじゃない!!

 宇宙族(スペース・パイレーツ)のお宝だ!」


自信満々に断言するマックスに、ジーンは呆れてモノが言えない。

なぜ、ただのゴミを見てそんな考え方ができるのか?

どこにでも転がっている金属片を、どう見たら宇宙族(スペース・パイレーツ)の宝だなんて思えるのか?

ジーンは十年来の友人関係を改めた方がいいかなと頭の片隅で考えながら、速やかに金属片へと向かった。

その様子に、危ないぞ! 急に近づいたら罠があるかもしれないぞ! などと訳の分からない戯言を言っているマックスは完全無視。


「そんで、何が“大物”で、どれが“宝”だって?」


「…………」


見事な操縦で金属片へと近寄ったジーンは、頭が沸いているとしか思われないマックスへと送った映像に、常夏頭のマックスの思考は停止した。


「どうなんだよ。マックス。」


「………てへ(笑)」


「“てへ(笑)”じゃないだろうが!!」


そこには、やっぱりどう見てもゴミとしか言いようのない、単なる金属片の塊があるだけだった。

その大きさも、衛星に埋もれいる箇所はあるものの、全長は2メートルあるかないかといったところで、ゴミとしては小さい部類に入る。

20メートル級の≪シーク≫なら余裕で回収できる代物だ。

何でこんなの為にこんなとこまで来てるんだろうと、ジーンはため息をついた。


「早く降りて来て、さっさと回収しろ。」


静かなジーンの口調に、マックスはびくりと肩を竦めた。


――怒ってるよ〜〜


汗をたらたら流しながら、滞空場所からスルスルと降りてくるマックスの機体。

その動きはジーンと同様に無駄のない動きなのだが、マックスの心情を表わしているかの如く縮こまって見えた。


「直ちに回収します!!」


畏まった口調で、びくびくさ加減を顕著に伝えてくるマックスに、ジーンは金属片から離れるように距離を取る。

すると、入れ替わるようにマックスの機体が滑り込んできた。


「お宝だと思ったのにな〜」


と愚痴りながら、マックスは≪シーク≫から、先程のジーン同様のアームを伸ばし、件の金属片へと迫る。

その金属片は衛星に埋もれている箇所があり、マックスは回収作業がしやすいように、まずは金属片周辺の岩石を除去し、ゆっくりと金属片を引きづり出した。

その引き出された金属片は、ジーンの目測通り2メートルちょいの大きさのもので、楕円の形状をしていた。

小型船の脱出ポットか何かのようだとジーンは検討をつけるが、


――やけに古めかしいな。


とその塊のあまりにも時代がかったフォルムに驚いていた。


「……骨董物(アンティーク)か……」


小声で独り言を漏らしたジーンは、“骨董屋”のことを思い浮かべていたが、


「何か言ったか?」


さくさくと回収作業に勤しんでいるマックスの声に、いいやとだけ答えて作業が終わるのを待つ。

スルッと≪シーク≫内に収められていくゴミを見ながら、


――今夜は御馳走だな。


とジーンはにやりと笑った。


――俺に、迷惑かけたんだから。当然だよな


こくこくと頷きながら見つめるのは、マックスだ。

今日の迷惑料として、夕飯に何を奢らせるかと真剣に、しかし小悪魔的な微笑を湛えて思考するジーンに、ぶるっとマックスの背筋が震えた。

マックスが己に降りかかる不運を、“嫌な予感”がすると冷や汗を流し、ジーンがあれにするか、それとも……と考え、頭の中を大量の料理と酒で埋まようとしていたとき、


≪ピピッ≫


通信回線から異音が発された。

何事だと身構えたジーンとマックスのパネル上には、


―― 帰艦されたし ――


音声での司令ではなく、文面での司令が浮かびあがっていた。

それは、滅多なことでは使われることがない、広範囲緊急連絡であり、上司からも先輩たちからも使う機会があまりないものだと説明されたものだった。









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