episode2-6 奪還⑦
二章最終話です
「謝罪代わりにと言っては何ですが、二つお耳に入れておきたいことがあります。まず一つですが、恐らく勘違いされてると思うので訂正しておきます。私たちは自然過激派ではありません」
「派閥とは関係なく独断で動いてるんだよね? それは何となくわかってたよ」
「……なるほど、優秀な情報網をお持ちなようだ」
以前にナックルさんが言ってた話ですね。派閥の下っ端とかから聞き出した話を組み立てて行くと、今回の襲撃に派閥が絡んでる可能性は低いって。
「これは私たちも正確には掴めていない動向ですが、自然過激派はもしかすると私たちがここ一か月ほど咲良町を占拠していたことに気づいているかもしれません。そして、すでに自然派の縄張りなのだと考えて我が物顔で占有する可能性があります」
「待て、それはおかしいだろう。もしその過激派とやらが咲良町に来ようとするならば、占拠しているお前たちに話を通すのではないか? なぜお前たちがその動向を掴めていない?」
「まさしく派閥は一枚岩じゃないってことだろうね。大方、功績を横取りしようとでもしてるんじゃないかな」
「その可能性はある。取った手段は同じでも私たちと連中を同列の魔法少女だとは考えない方が良いでしょう。私たちがやったことも本来罪深い、許されざることだとは理解しています。ですが、それでも私たちには一線を越えない程度の理性がある。やつらは獣です。もしも過激派と衝突して敗れれば、何をされるかわかりません」
マリンさんの話にサムライピーチさんが待ったをかけましたが、ナックルさんの予想をマリンさんは肯定して話を続けました。
確かに、結果だけを見れば今回の争いで大怪我を負った人は誰も居ませんでした。認めるのは癪ですけど、マリンさんの言うことにも一理あります。世の中には人を人と思わないような獣が居ます。マリンさんたちは外道だったかもしれないですけど、獣ではありませんでした。
「咲良町には風の魔女殿が居る。マリンくんたちは剛力の魔女殿を雇っていたけれど、その過激派には風の魔女殿をどうにかする手段があるのかな?」
「そこまではわかりません。ただ、私たちが占拠していたことで風の魔女様の問題はすでに片付いていると楽観視している可能性もあります。あるいは、氷の魔女様を味方につけているかもしれません」
「警戒するに越したことはないけれど、全ては可能性の話なんだろう? その割には、まるで過激派が咲良町を狙っているのを確信しているような口ぶりだね」
「それがお伝えしたかったことのもう一つです。私とドライアド、シャドウが集まったのは偶然ではなく、ある存在の導きによるものです。私は派閥内での発言力を高めるため、シャドウは安寧の地を探すため、ドライアドはとある目的のために、それぞれ活動していました。そんな時に、マギホンあてに差出人不明のメッセージが届いたのです。詳細は省きますが、そのメッセージに導かれて私たち三人は集まり、シメラクレスさんを傭兵として雇い、咲良町を襲撃しました」
「なるほどね。目的の一致する三人を集めて咲良町を襲わせた真犯人が居るわけだ」
「責任転嫁をするつもりではありませんので真犯人というのは語弊がありますが、咲良町を標的にしている存在が居ます。目的はわかりませんが、私たちが失敗したことを知れば次は過激派をけしかけてくる可能性は高いと考えています」
……悪魔ですか? でも、マリンさんたちがエレファントさんたちを襲ったのは私とあの悪魔がお茶会をしている時で、結局今回の襲撃には関わっていないはずです。私を派閥に入れるのが目的なんだったらタイミングがおかしいんです。一瞬、マリンさんたちが偶然のイレギュラーだっただけで、本命は過激派の方だったのかもとも思いましたけど、そうするとマリンさんたちにメッセージを送った人物は悪魔とは無関係と言うことになります。
折角面倒なことが終わったと思ったのに、どうしてこう次から次へと面倒ごとが湧いて出てくるんですか!
「そのメッセージの送信者って、魔法局でもわからないんですか? 魔法少女の私闘に魔法局は関与しませんけど、やり過ぎれば話は別ですよね? 次々と私闘を煽るような真似をするのはやり過ぎとも言えるんじゃないですか?」
「私闘に関与しないとは言え褒められた行為ではありませんから、今までは私たちの口から報告することもしていませんでした。ですが、この後報告するつもりです」
エレファントさんの疑問に対してマリンさんは殊勝な態度で返します。狩場を襲おうと思ってたら差出人不明のアカウントからメッセージが来て導かれた、なんて言えませんもんね。
「大丈夫ですよ! 私たちも強くなりましたし、それに心強い仲間も増えましたから!」
「……え!? あ、あたしですか? そりゃあ勿論その時が来たら戦いますけど、そんなに期待はしないで欲しいかなーって……」
「期待してるわよ、シャドウさん。もちろん、私も負けるつもりはありません」
「まー、あたしの魔法にかかればちょちょいのちょいっすよ!」
「もし私が居ない時に来たらすぐに呼んで下さいね。飛んでいきます」
エレファントさんたちも強くなって、ただ守られるだけではないとは言いましたけど、それでも心配なものは心配です。来るなら早く来て欲しいですね。ひき肉にして二度と心配しなくても良いようにしてやりたいです。
「なぁ、盛り上がってるところ悪いんだけどさ、過激派ってもしかしてこいつらじゃね?」
部屋の隅っこの方でマギホンを弄っていたシメラクレスさんが唐突に声を上げました。っていうか居たんですね。存在感がなさ過ぎて気づきませんでした。
いえ、それよりその発言です。シメラクレスさんが私たちに向かって突き出したマギホンには、氷漬けになった十数人の魔法少女と、その氷像と一緒にピースをして自撮りしているパーマフロストさんが写っていました。
なんですかこれ……。
「これは、ファントム……!?」
「マジすか!? ファントムって言ったら過激派のトップじゃねーですか。良く見りゃあ一緒に写ってるのはファントムの取り巻きだし……」
最初に驚きの声を上げたのはマリンさんで、シャドウさんが続けて信じられないというように呟きました。私は全然知りませんでしたけど、有名な魔法少女なんでしょうか。
「ブレイドとプレスは知ってる?」
「聞いたことないわね……」
「あたしも知んなーい」
「自然系統の魔法少女の間では少しは名の通った魔法少女よ」
エレファントさんたちは知らないみたいですけど、ドライアドさんは知ってるみたいです。自然系統の間ではって、私もそうですけど全然知りません。
「自然派っていうくくりで言うとパーマフロストちゃんとメテオちゃんが有名だけど、その下に続くナンバー3とでも言えば良いのかな。過激派、穏健派のトップがそれぞれ同程度の実力って言われてるけど、それが魔法少女ファントムとメタルの二人だね」
「じゃあ、この氷漬けになってる人はその過激派で一番強い人なんですね」
「この画像、どこで見つけたのかな?」
「あいつのSNSだよ。フラフラしてたら変なのに絡まれたから返り討ちにしたって投稿してる。時間は……、公爵級が出る少し前だな」
「……出来過ぎなような気もするけど、偶然なのかな? そもそもどうして咲良町に氷の魔女殿が居たのか、それが不可解だ。てっきり君たちの加勢だと思ってこの私は戦いを仕掛けたけれど、どうやらそういうわけでもないみたいだし」
「ちょ、ちょっと待って下さい。氷の魔女様が来ていたんですか?」
「ん? ああ、そういや話してなかったな。公爵級が出たのは知ってるだろ? あたしが現場に着いたのとほぼ同じタイミングであいつも現れたんだよ。あれは最初から咲良町に居たんじゃなけりゃ無理な早さだ」
「先ほどもお話したように、私たちは派閥とは無関係に独断で動いていました。だから氷の魔女様が咲良町に来ていたなんて知りませんでした。過激派に加勢するためだったなら納得出来ますが、逆に返り討ちにしている? まさか、最初から過激派の動きを掴んで撃退するために……?」
「どうでも良いけどいい加減契約完了のサインをくれよ。あんたらが負けたかどうかは知らねーけど、契約内容は達成したはずだぜ。あたしはいつまで待ってりゃ良いんだ?」
「あ、はい。お待たせしてしまって申し訳ありません。これでよろしいでしょうか、剛力の魔女様」
「うん、確かに。そんじゃ、なんかあったらまた雇ってくれよ。魔女は特別割引すっからお前らも遠慮しなくていーぜ」
何と言うか、マイペースな人ですね。ここまで聞いたら普通何があったのか気になると思いますけど、私たちにまで営業をかけてからあっさりと部屋を出て行ってしまいました。
でもまあ、シメラクレスさんのお陰で過激派がすでに撃退されてることもわかりましたし、ここは感謝しておきましょう。
「色々腑に落ちない部分はあるけど、一先ず一件落着だと考えて良さそうだね」
「そう、ですね……。エレファントさんたちには謝罪しましたが、風の魔女様、それから拡張の魔女様にも、この度は大変ご迷惑をおかけしました。申し訳ございませんでした」
「あ、す、すみませんでした」
「申し訳ありませんでした」
シャドウさんとドライアドさんも、マリンさんに倣って深々と頭を下げました。個人的な怒りはありますけど、エレファントさんが許してる以上私からどうこう言うつもりはありません。精々エレファントさんの期待を裏切らないようにして下さい。
「なぁに、この私は楽しませて貰ったよ。ドライアドから頭を下げられるというのも新鮮で気持ちが良いね。んん? 今どんな気持ちなのかな? 昔はあれだけ言ってくれたこの私に頭を下げるのはどんな気持ちかな?」
「ちっ、相変わらず性格悪いわね……。言っておくけどブレイドちゃんたちには心から申し訳ないと思ってるけど、あなたはさっさと魔法少女を辞めれば良いと思ってるから」
「おいおいちっとも反省していないんじゃあないか? それが魔女に対する言葉遣いかね? マリンくんを見習って欲しいものだなぁ」
「ほんっとにうざいわね……」
なんだかエクステンドさんがいつも以上にうざったい感じになってます。前はエクステンドさんと仲が良くないというのはドライアドさんも何か問題のある魔法少女なのかと思いましたけど、この様子を見てるとむしろ問題があるのはエクステンドさんの方なんじゃないでしょうか。
「それじゃあ、私はもう行くわ。待ってる娘がいるから」
「はい。目を覚ましたら、たくさん褒めてあげて下さい」
「ええ、わかってるわ。ありがとう、ブレイドちゃん」
ドライアドさんが差し出した手を取って、ブレイドさんは笑顔で握手しました。詳しい事情は聴いてないですけど、やっぱりドライアドさんには縄張り荒らしとは違う理由があったみたいです。ブレイドさんの説得でわだかまりはなくなったみたいで何よりです。
「私も帰ります。氷の魔女様の手で撃退したとはいえ、氷漬けになった過激派をどう処理するかも考えなければいけません。これは自然派の問題ですから後処理は私に任せて下さい」
「頼りにしてるかんね、全部うまいことやっといてよー」
「締まらない人だ。自分で言うのもなんだが、フェーズ2になりたてで私に勝つというのは中々の大金星だぞ? もう少しはしゃいでも良いと思うんだが」
「正々堂々やって勝てたら自慢しまくるよ」
「ふん、面白い。次は負けんぞ」
悪友のようにお互い不敵な笑みを浮かべて、マリンさんとプレスさんは握手していました。殴りあって友情が芽生えるなんて昭和の漫画ですか。私にはよくわからない感性です。
「あー、じゃああたしも一旦ここで……。拠点移すのにも準備がいるんで……」
「荷物とかあるの? 手伝おうか?」
「え!? い、いや~、そんな、一人で出来ますから」
「エレファントさんが手伝ってくれるのの何が不満なんですか?」
「ひぃ!? ぜ、ぜぜぜぜんぜん不満なんてありません! ぜひともお願いします!」
「私も手伝ってあげますね」
「ひぃ!」
さっきから私の顔見て一々怯えるなんて失礼な人ですね。
折角人が手伝ってあげると言っているというのに。
「風の魔女殿、まずはその肌にびりびり来る威圧感を引っ込めてお話してはどうかな? 正直いつ魔法が飛んでくるのかと冷や冷やするよ」
「威圧なんてしてませんけど?」
嫌ですね、エクステンドさん。それじゃあまるで私がシャドウさんに嫉妬して大人げなく怒ってるみたいじゃないですか。私は立派な大人ですからね。そんなみっともない真似はしませんよ。
「ほらシルフちゃん、もう終わったんだから仲良くね」
「……エレファントさんがそう言うなら」
威圧はしてませんけどちょっとだけピリピリしてたのは確かです。でもエレファントさんに窘められたのでゆっくりと呼吸を繰り返して気分を落ち着かせました。
「す、すげえ。魔女を従えてる……」
そんな私たちのやり取りを見て、シャドウさんが戦慄した様子でエレファントさんに尊敬の目を向けてます。
別に従えられてるわけではないですけど、シャドウさんの言う通りエレファントさんはとっても凄いんです。少しは話がわかる魔法少女みたいですね。
これにて、魔法少女タイラントシルフの第二章本編は終了となります。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
明日からは閑話を投稿していきます。
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