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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-9 終戦②

 エクステンドさんの疑問に答えるように、姿の見えない声がどこからか聞こえてきた。俺やエレファントさんなど、その声に聞き覚えがある一部の魔法少女はロウのものだとすぐに気づいたが、怪訝な顔をしている魔女も居る。


 俺は魔女になってからまだ日も浅いから最高位妖精なんてアースのことしか知らなかったけど、他の魔女たちもロウのことを知らないのだろうか。


「初めまして今代の魔法少女たち。今は魔女と言うべきかしら? 私は法則系最高位妖精のロウ。20年近くも眠っていたから私のことを知らない子も多いでしょうけど、アースの後任だとでも思ってちょうだい」


 宙に浮かぶ本型妖精のロウが転移で姿を現してそう自己紹介をした。

 20年以上も眠っていた? どういうことだ? ……そういえばエレファントさんは本来なら沖縄に居るはずで、沖縄はあのレイジィレイジさんの管轄地域。そこから現れたエレファントさんがどういう経緯かロウの協力を得ていたということは、その20年眠っていたというのにはレイジィさんが関わってるのか?


「もうシルフちゃんから聞いたかもしれないけど、アースはあまりにも目に余る問題行動を起こしていたから異世界へ追放したわ。あっちの世界はこっちとはルールが違うし、そう簡単には……もしかしたら永遠に帰って来れないでしょうね。そういうわけであいつの業務は私が引き継いだというわけ」


 アースは魔法局の局長でもあったわけだし、最高権力者がいきなりいなくなったら色々と魔法局の機能が麻痺してしまいそうだし、同じ最高位妖精が後を継いで円滑に運営を続けてくれるのなら一先ずは安心だな。まあ、ディストとの戦いは終わったんだし今後も魔法局が必要なのかはわからないけど。


「まずはおめでとう、そしてありがとうと言わせて貰うわ。他の魔法少女も勿論だけど、あなたたちの活躍によってこの世界は、そして人類社会は守られたわ」


 拍手のつもりなのか、本型の妖精であるロウは自分の身体を開いては閉じ、開いては閉じと動かすことでパタパタと鈍い音を発している。


「それで、早速本題に入るけどあなたたちを集めたのは何も祝勝パーティーを開くためじゃないわ。さっきも言ったレッドボールちゃんがちょっと面倒なことになってるって言うのにも関連してるんだけど……、ディストが消えないのよねぇ」

「何故です? 歪みを生み出す原因は解消したのでしょう?」


 この場に居る全員が抱いているであろう疑問を代表して、恐らくロウと最も親しいクロノキーパーさんがそう尋ねた。


「それが、一度歪んだ力場はそう簡単には元には戻らないみたいで、今後長い時間をかけてゆっくりと戻っていくみたいなのよ。だからまだしばらくはディストが出てくるっぽいのよ」

「まだ、終わっていないということですか。それが本題ということですね?」


 ……ぬか喜びだったってわけか。全部、終わったと思ったのに。


「あ、違うわよ? 別にディストの対処自体は亜神が出来るから、もうちょっと戦えとかそういう話じゃないから勘違いしないでね? もう異世界との衝突を防ぐのに力を使う必要もないし、別に魔法少女が一人も居なくなっても問題はないわ。とりあえずこの決戦で生き残ってた残党はほぼ全部命の亜神と人の亜神に始末させたしね」

「では、本題とは?」

「あなたたちが今後どうするかって話。まあ魔女に限らず他の魔法少女にも後で事務連絡出すけど、あなたたちは最大の功労者だから直接要望を聞こうと思ったのよ。さっきは別に魔法少女なんていなくても良いって言ったけど、逆に魔法少女を続けたい子だっているでしょ? 魔法少女以外に生きる術を知らない子だっているでしょうし」

「報酬が出るんならあたしは続けるぜ」


 ロウの言葉に真っ先に反応したのは魔女一の守銭奴であるシメラクレスさんだった。まあ、命がけであるという点に目をつむれば確かに魔法少女は稼ぎの良い仕事だ。特に魔女ともなれば、一生働かなくても暮らしていけるだけのポイントを稼いでから引退することもさほど難しくないだろう。


 それにロウが言った通り、魔法少女の中には家もなく学校も仕事もなく、魔法界にあるマンションの一室を借りてそこで寝泊まりし、ディストを狩ることで生計を立てている者も存在する。そんな者たちにとって、今日で戦いは終わったので魔法少女は廃止です、なんていきなり言ってもどうやって生きていけば良いのかわからないだろう。


「可能ならこの私も、もう少し私の可能性を試してみたいかな」

「そこに悪がある限り、私はヒーローとして戦い続ける!」

「う~ん、戦うのは別にだけど、魔法少女でビジネスするなら続けといた方が便利だよね」

「こんな便利な力もスリルのある仕事もそうはねえだろ。当然続けるぜ」


 シメラクレスさんに続いて何人もの魔女が続ける意思を示していく。まだ言葉には出していないだけで、他の魔女の中にも辞める気のない者はいるのだろう。

 そもそも魔法少女というのは本来自分の意思で引退できるものだ。最初の俺のようにポイントを稼いで目標の景品を手に入れるまでは辞められないような特殊な状況でもない限り、辞めたくなったら辞めれば良い。

 逆に言うなら、今の今まで魔法少女を続けていた者のほとんどはあえてここで辞める理由などないということになる。


 世界を守るためとか、大事な人を守りたいという使命感で戦っていた場合は、今後亜神が何とかしてくれるなら引退する理由にはなるかもしれないな。


「予想はしてたけど、やっぱり続けるって子は結構いるのね。逆に問題なのがもう今までと同じほどの魔法少女は必要ないってことなのよね。今後も出現するとは言っても頻度や強さはどんどん下がってくでしょうし、パイの奪い合いになったら今度は縄張り争いが激しくなるだろうし」

「なるほど、では魔法少女の数を削減する、端的に言えばクビにしていくということですね」

「そうなるわね。優先して残すつもりでいるのは、今すぐに魔法少女を辞めたら確実に死ぬか身を持ち崩す子と、単純に魔法少女として強い子。亜神の手で始末出来るとは言っても、亜神にも色々やるべきことはあるから強い子が残ってくれた方が安心なのよね。ほんと、今現実世界はてんやわんやよ。ディストの相手なんかよりこっちをどう収めるかの方がよっぽど気が重いわ」


 あれだけ派手に現実に被害を出してしまえば、今までと同じように有耶無耶にというわけにもいかないのだろう。なぜか一般人にも魔法少女の姿が認識できていたし、よくわからないけど社会に根差しているなんて状態はもう続けられない。


 そういう意味では、魔法少女を続けることにはこれまでとは違うリスクが生じるということでもある。人の興味や関心を集めるのは決して良いことばかりではないはずだ。


「一応言っておくけど、続けるにしてもいつまでもとはいかないわよ。まだ歪みが正常に戻るまでにかかるスパンがわからないから具体的なことは言えないけど、少しずつ魔法少女の数は減らしていって最終的に歪みが元に戻ったら非常時の保険として数人~十数人残すくらいに考えてるから」

「ロウが私たちのことをよく考えてくれているのだということはわかりました。それで、レッドボールという方のお話は? 私の未来視が正しければ彼女が戦っていた王族級ディストの力は不死。ディストが消えないという話に関連しているとなると、今も戦い続けているということではないのですか?」

「戦ってはいないのよ。っていうか戦いにならないくらいあの子は強いから。それがまた面倒なんだけど……」


 レッドボールさんとは前に一度ウィッチカップで戦ったことがあるが、はっきり言ってまるで相手にならなかった。当時の俺はまだ神格魔法を使えなかったが、今の5位という序列は神格魔法を考慮しないで与えられている数字だと思われ、つまり序列5位相当の魔女ですら手も足も出ないほどに隔絶した力を有しているということを意味する。

 不死のディストとレッドボールさんが戦っているという話をアースから聞いた時も、あのレッドボールさんなら心配はいらないだろうと思ったほど、彼女は強い。


「レッドボールちゃんの魔法は本当にとんでもないわよ。なにせディストだけを呑み込むブラックホールでほんの少しも反撃を許さずに殺し続けて、その不死の力まで閉じ込めていたんだから。あの子がいなければ歪みの王は倒せなかったかもしれないわね」

「現に王族級ディストが倒せていないようにですか」

「そういうこと。戦いが終わったことを伝えるために妖精を派遣して一旦ブラックホールを解除させたんだけど、不死の王族級ディストは何事もなかったみたいに再生したわ。殺しきるのは無理だって判断して研究材料に確保しようとしたんだけど、そしたらレッドボールちゃんに邪魔されちゃったのよね」

「なぜ?」

「友達になるんですって。歪みの王の命令で無理矢理戦わされてたけど本当は人を傷つけたくない優しいディスト、っていうのがレッドボールちゃんの主張よ」


 優しいディスト……? そんなものあり得るのか? ディストは本能に従って人間を襲う獣のようなもののはず。いや、でも歪みの王には感情があり会話も出来ていたことを考えると、全くありえないとは言えないのか?


「ま、そっちは別の亜神に任せてるからとりあえず気にしなくて良いわ。レッドボールちゃんも無事だしね。それともこの中にレッドボールちゃんを説得できる自信がある子は居る?」


 ロウの問いかけに答えられる者はいない。他の魔女がレッドボールさんとどういう関係を築いているのかはわからないが、ここで出来ると言えるほど深い仲の者はいないということなのだろう。俺だって前に一度魔法界で偶然出会っただけで、何だかよくわからないテンションの子供ということしか知らない。


「それじゃあ私からの通達事項は以上よ。魔法少女を続けるかどうかはすぐに答えを出せない子も居るでしょうし、2週間の猶予を設けるわ。マギホンに私の連絡先を登録しておくからそれで回答してね。回答がなかった場合は続ける意思なしで2週間後に宝物庫の鍵を回収するわ。回答するまでディスト発生の通知は届かないから、すぐにでも魔法少女活動を再開したい子はすぐ答えることね。何か質問は?」

「報酬は今まで通りってことで良いのか? あと歪みの王討伐の報酬は貰えんのか? ポイントは決まってなかったはずだけど」

「続ける場合の条件、福利厚生は全部今まで通りよ。歪みの王を倒したご褒美はアースの馬鹿が決めてなかったみたいだから、一旦協議して決めるわ。流石になんにもなしにはしないから安心してちょうだい」

「おっけー、なら文句はねぇな」


 シメラクレスさんは相変わらずだな……。


『よろしいですか?』

「どうぞ、ディスカースちゃん」

『魔法少女の話とは少し違いますが、出来ればこの力の使い方を師事したいのですが』

「……前向きに検討するわ。確かにあなたはもう少し自分の力を知るべきね」


 ディスカースさん、なんでわざわざスマホから機械音声出してやり取りしてるんだ? この前のお茶会の時も一言も話してなかったし、もしかして声が出せないのか? いや、でもだったら魔法は使えないような……。


「私もう引退してる年齢だけど続けられるの?」

「あなたは……まあ良いわ。そもそもその制限はセーフティだもの。例外はあまり作りたくないけど、あなたには必要ない配慮なのも確かだわ」

「ちょっとスプライト!? どういうつもり!?」

「だって見てるだけ、待ってるだけは性に合わないんだもん」


 何を言い出すんだとギョッとして双葉に視線を向けると目が合った。まさかあいつ、咲良町に来るつもりじゃないよな? そもそも俺は魔法少女を続けるなんて一言も言ってないぞ?


「はいはーい! 中継映像売っていいー?」

「あれはドラゴンとの賭けに勝って得た権利なんでしょう? 好きにしなさい」

「やりぃ! 太っ腹~!」


 中継映像……? まさか、最後の戦いを配信でもしてたのか!? さ、さすがに歪みの王と戦ってるところだけだよな? アースと戦ってるところとか、その後とかは、流石にないよな……?


「私もそうだけど先輩たち戸籍とかないし死んでることになってるんだけど何とか出来る?」

「その辺は心配しないで。アイス……、今はパーマフロストちゃんだったわね。あなたまで魔法少女として現代に残ってるのはちょっと予想外だったけど、最初からその辺はこっちでフォローするつもりでこの子たちは未来へ跳んでもらったから。あなたのこともついでに何とかするわ」

「ありがとロウ!」


 そうか、ロウが20年近く眠っていたということは、パーマフロストさんはまだ眠りに入る前のロウと面識があるのか。それに戸籍とかその他諸々、ロウならどうにでも出来ると……。


「他はもうないわね? みんなの前で聞きづらいことがあったら後でマギホンで聞いてちょうだい。それじゃあみんな、本当に今までよく頑張ってくれたわ。これからも続ける子は以後よろしくね。ばいばーい」


 手を振る動作を真似ているつもりなのか、宙に浮かんだ本がワイパーのように左右に激しく動いている。

 てっきりロウの方が転移でどこかに行くのかのと思っていたが、周囲の魔女たちが一人、また一人と転移魔法陣の光に包まれて消えていく。


 そして最後まで残ったのは、ロウと俺とエレファントさんの三人だった。

次回、最終話

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