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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
209/216

episode5-9 終戦①

「悪いけど今はあなただけに構ってる余裕はないわ。他の子たちと一緒にちょっと待ってなさい」


 のらりくらりとはぐらかそうとするロウとしつこく食い下がる双葉のやり取りは数分に渡って続けられ、いい加減うんざりしたような声でロウがそう言うと唐突に景色が切り替わった。


 地べたにぺたんと座り込んでいたはずがいつの間にかエレファントさんの膝の上に座る格好になっており、そのエレファントさんもさっきまではなかったはずの椅子に腰かけている。

 周囲を見渡してみれば、真っ白の広間ではなく何となく見覚えがある瀟洒な調度品が置かれた部屋に変わっており、たしか以前に一度だけ参加した魔女のお茶会で使用されていた場所だったと思う。


 部屋の中央に置かれた長方形の長机には番号が刻まれた椅子が左右に並べられており、普段は空席であるはずの序列一位の席には双葉が、そして数字の割り振られていない新たに追加された四つの席に始まりの魔法少女たちが腰かけ、それ以外の席は3番を除きそれぞれ刻まれた数字と同じ序列の魔女たちが腰かけていた。

 魔女たちは俺たちと同じようにキョロキョロしたり警戒して飛び上がるように立ち上がったりと様々な反応を見せている。


 恐らく今この瞬間、ロウによって全員がこの部屋に転移させられたのだろう。


「あ、あの、エレファントさん? 流石にこれは少し恥ずかしんですけど……みんな見てますし」

「まあまあ」


 一通り周囲を見て状況を把握したのか、他の魔女たちの視線が何故か俺に注がれていて、膝に乗せられているのが原因かと思い一度降りようとしたのだが、エレファントさんが後ろから抱きしめるようにお腹に手を回していて降りられない。


「い、いや、まあまあじゃなくてですね」

「そう言わずに」


 始まりの魔法少女たちには新しい椅子を用意してるのになんでエレファントさんは俺の席なんだよ!

 いや、エレファントさんとくっつくのが嫌なわけじゃないけど、人前だと恥ずかしいし……。なんか妙に見られてるし……。


 しかし抜け出そうと藻掻いても腕力に勝るエレファントさんの腕の中から脱出することはかなわず、俺は諦めてこの状況を受け入れることにした。

 どうせこの魔女のお茶会で集まるのもこれが最後だ。ちょっとくらい恥ずかしくても二度と会うことがないであろう相手だと思えば我慢できる。双葉からの視線が凄く痛いが……、気にしないことにしよう。


「シルフお姉ちゃん、私が誰だかわかる?」

「……? パーマフロストさん、ですよね? 違うんですか?」

「大正解! そっか、じゃあ勝ったんだ。アースの思い通りにならないで。凄いなぁ……」


 俺とエレファントさんのやり取りがひと段落するのを待っていたのか、正面に座っているパーマフロストさんが何だかいつもと違う雰囲気で真っ先に話しかけて来た。戦闘中は黒く変色していた衣装や頭髪はすでにいつもの装いに戻っていて、見間違えるはずもない。その口ぶりから察するに、多分パーマフロストさんはアースが何をしようとしていたのかを知っていたんだ。いや、パーマフロストさんも俺と同じ力を持っているのだろうことを考えれば、知っていたというよりも……


「ごめんなさい、シルフお姉ちゃん。気づいてるかもしれないけど、私も黒心炉を持ってるの。本当は私がシルフお姉ちゃんの役割をやるはずだったんだ。だけど私じゃもう、力が足りなかったから、だから……」

「やめてください。パーマフロストさんが謝るようなことじゃありません。悪いのはアースです」

「でも、私は動力になることがどういうことか知ってたのに、シルフお姉ちゃんを犠牲にすることを仕方のないことだって、どうしようもないんだって諦めてた。それどころか、シルフお姉ちゃんの覚醒を促すための協力まで……」


 覚醒を促すと言うのはウィッチカップの時の戦いのことを言ってるのだろうか。確かにあの時の戦いがなければ最後の門を開く感覚は掴めていなかったかもしれない。だけど、神格魔法の力があったからこそ歪みの王に勝ち、アースにも僅かながら抵抗出来たわけだし、結果的にはパーマフロストさんの覚醒を促す協力っていうのは俺のためにもなったんだと思う。


「パーマフロストさんだってアースに騙されてたんですよね? もう良いじゃないですか。私もパーマフロストさんも、アースの被害者です。そして奴はもうこの世に居ない。それで終わりで良いじゃないですか」


 黒心炉を限界まで酷使し負の感情を燃やし尽くしたせいか、今の俺は自分でも驚くほど清々しい気分だった。裏で糸を引いていたアースは異世界へ追放されたわけだし、これ以上誰が悪いとか誰の責任だとか、そんな気の滅入る話をわざわざしたいとも思わない。


「諸悪の根源は去りました。それでこの話はお終いです」

「……うん、わかった。ありがとう、シルフお姉ちゃん」


 パーマフロストさんは折角かつての仲間と再会出来たんだから、いつまでも後ろめたさを抱えたままでいるのなんて可哀想だ。そもそも、始まりの魔法少女たちが公的には死んだということになったのは20年程前の話だったはずで、だとすればパーマフロストさんがアースに協力していたのもその辺りかもう少し後からのはず。アースが俺に目をつけて人生を引っ搔き回し始めたのはそれよりも前のことなのだから、結局諸悪の根源がアースであるということは紛れもない事実なのだ。


 まあ、でも、そんな風に考えられるのはやっぱりエレファントさんが俺を助けてくれて、全部丸く収めてくれたからなんだろう。

 もしもアースの目論見通りことが進んでいれば、あるいはアースの目論見を阻止出来ても大切な人に何かあったらこんな穏やかな気持ちではいられなかったはずだ。 


「流石だね風の魔女殿。その高潔な精神、戦友としてこの私も誇らしいよ」

「事情はフロストから聞いたぜ? 澄ましたガキだと思ってたけど中々器がデカいじゃねぇか」

「やー無事でなによりだよシルフ。シナリオの参考にしたいからラスボスのこと教えてくんない?」


 俺の座る五番の席と同じ列にある、奇数の番号が振られた席に座っていた魔女のうち、エクステンドさん、キャプテントレジャーさん、エクスマグナさんが俺の席の近くに集まって口々に声をかけてくる。


『急な転移で驚きましたが……、歪みの王との戦いは終わったのですね。シルフさん、エレファントさん、それに皆さんも、無事で何よりです』

「アースと多く接していながらその企みを見抜けませんでした。申し訳ございません、シルフさん。私がもっとしっかりしていれば……」

「そんなこと言ったら私とドッペルゲンガーはもっと間抜けになっちゃうよ。クローソちゃんのせいじゃないって」

「ごめんなさい、何の話かさっぱりわからないんだけど、またアースの馬鹿が何かしでかしたの?」

「シルフちゃんを生贄にして世界を救うとか、そんな計画を立ててたらしいです。シルフちゃん、身体は大丈夫? 心配したよ」

「つーかシルフお前、いつの間に白く戻ったんだ? フロストもそうだけどあの黒いのは何だったんだよ?」

「……興味深い」

「いや、っていうか後ろにいるあんた。確かエレファントとか言ったわよね? 何であんたがここに居るのよ?」


 思えば歪みの王との戦いが終わった直後にアースに連れ去られたわけで、一緒に戦ってた魔女には心配をかけてしまったみたいだ。その気持ち自体は嬉しいけど、でもそんなにいっぺんに話しかけられると何から答えれば良いかわからず、咄嗟に言葉が出てこない。


「私はシルフちゃんの保護者みたいなものです! 気にしないでください!」

「なるほど、あなただったのですか」

「え、いや、保護者的な枠はむしろ私だと思うんだけどな……」


 一般的な魔法少女にとって魔女と言うのは滅多に関わることのない雲の上の存在のようなもののはずだが、エレファントさんは全く物おじせずに元気よく答え、それに対して自分の席で静観していた時間の魔女が納得の声を上げた。何に納得してるんだ。なにやら双葉が解せないというような声をあげているが、どちらも保護者ではない。


「運命の転換点であり、未来視にすら映らない特異点。結局それが誰なのかわからないまま終わったものと思っていましたが、あなたがそうだったのですね、魔法少女エレファント」

「へ……? 転換点? 特異点?」

「自らの身に何かが起きることを知っていた理の神は、運命を変えるために神の左眼を私に与えました。けれどあなたの未来は、あなたが関わることで変化する未来はこの眼に映らない。……神の眼すらも欺く力。道理で、数えきれないほどの未来を視ても辿り着けないわけです」

「ほー、この魔法少女がねぇ。そんな大それた力を持ってるようにゃ見えねぇが」

「真の強さとは目で見ただけはわからないものさ。心の強さこそがヒーローに求められるように!」

「はいはい真面目な話してるからコウちゃんは黙ってようね~」


 戦闘中も思ったけどあの飛蝗の魔女は何だかエクステンドさんと似たような匂いを感じるな……。

 それはともかく、エレファントさんは白心炉っていうよくわからない力を持っていたらしいけど、今はそれも儀式呪術?だかでなくなってるはず。まだ何か隠された力があるのか?


「多分それは私の友達の力だと思います。私が酷い目に合わないように、ずっと隠してたんだって教えてくれたんです」

「……だからこそ神の思惑すらも外れた行動が取れたと、そういうことなのでしょうね。ありがとうございます、魔法少女エレファント。あなたが、そしてあなたのご友人がいなければ、この未来にはたどり着けませんでした」

「どういたしまして。でも、皆さんがディストの親玉を倒してくれたんですよね? だったら皆さんのお陰でもあります。誰か一人だけの力じゃない、みんなの勝利です!」

「ええ、そうですね。きっと誰が欠けても成しえなかったのでしょう。この場に居る、そして世界中で戦ってくれた全ての魔法少女に、最大の感謝を」


 クロノキーパーさんがそう言って話を締めくくった後、俺は歪みの王・天蓋を倒した後の出来事を順番に魔女たちに説明した。

 真の世界の滅びとは迫りくる異世界とこの世界が衝突し崩壊してしまうことであり、ディストはその余波によって生まれた副産物に過ぎないこと。亜神はその異世界の衝突を食い止めるためにディストへ対処出来ず、そのために生まれたのが魔法少女であること。アースが俺の持つ特別な力を利用して、その記憶と引き換えに異世界を破壊しようとしていたこと。ディスカースさんとエレファントさん、そしてロウと言う妖精の協力を得てアースの計画を覆し、異世界を破壊するのではなく受け流したこと。星の亜神アースが異世界へと追放されたこと。


 俺やエレファントさんのプライバシーに関わるような部分は省いて全ての説明を終えると、魔女たちは疑問が解消されて満足したのか、思い思いに仲の良いものや久しぶりに再会するものと話し始めた。

 始まりの魔法少女たちは当然パーマフロストさんと、久しぶりに魔法少女となった双葉の元にもドッペルゲンガーさんやクローソ、キャプテントレジャーさん、ドラゴンコールさんが集まり、ラビットフットさんはいつもの三人組で何やら話をしているようだ。


「そういえば重力の魔女殿の姿が見当たらないが……」

「まさかあいつに限ってディストに負けたってことはねぇだろ」


 エクステンドさんとシメラクレスさんの話が聞こえてきて、俺は自分の席の左隣の席に視線を向ける。三と刻まれたその椅子は序列第三位レッドボールさんの座る席なのだが、一番最初に魔女たちがこの部屋に転移させられて来た時からレッドボールさんは居なかった。

 歪みの王との最終決戦において不在としていた魔女はレイジィレイジさん、ディスカースさん、ドッペルゲンガーさん、レッドボールさんの四人。内レイジィさんはどうせいつものことだから気しなくても良いとして、ディスカースさんとドッペルゲンガーさんはこの場に無事に現れたが、レッドボールさんだけは王族級との戦いがどうなったのかわかっていない。

 確か、不死の力を持つ王族級ディストと戦っているという話をアースはしていたが、もしかしたら今もまだ戦い続けてるのか? いや、でも歪みの王は倒して、歪みを生み出していた異世界との衝突も回避したんだからディストは消えてるんじゃないのか?


「レッドボールちゃんのことなら心配いらないわ。ただちょっと面倒なことになってるからすぐにここには来れないけど」

最終話まで、あと2話。

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[気になる点] まさかまだ潰してる最中?
[一言] もう少しで終わってしまうのが悲しい… 本当に最高の小説です。
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