episode5-8 世界の滅び⑩
差し出された手を取って立ち上がろうとした俺の腕を、エレファントさんが力強く引っ張って、勢い余って俺はエレファントさんに抱き着くような形でバランスを崩してしまった。というよりも、エレファントさんに強引に抱き寄せられたという方が正しいのかもしれない。
「無事で良かった! 本当に間に合って、良かったよぉ……」
「あ、あの、助けに来てくれて、ありがとうございます」
どうやって俺とアースが戦っていることを知ったのかはわからないが、とても心配をかけてしまったらしい。本来は俺の方が強くて大人なんだから、逆にエレファントさんを助けてあげなきゃいけないし、安心させてあげなきゃいけないはずなのに、情けないけど、こうやってエレファントさんに強く抱きしめられているとさっきまで感じていた恐怖や不安が消えていき、俺の方が安心させられてしまっていた。
諦めないつもりだった。
最後まで戦い抜くつもりだった。
だけどやっぱり、自分がいなくなってしまうことは怖かった。
だからエレファントさんがアースを殴り飛ばしてくれて、こうやって抱きしめて、暖かさで包み込んでくれて、正直ホッとした。
「でも、どうやってここに?」
ここは最後の門を開いたその先にある場所で、まだフェーズ2魔法少女であるエレファントさんではたどり着けないはず。
「ありえねぇ……、ありえねえだろうが! なぜお前がここに居る……、エレファントォ!! お前はただの魔法少女のはずだろうが!!」
エレファントさんが俺の疑問に答えるよりも早く、顔面をぶん殴られた家政婦が吹っ飛んでいった方向から怒声が聞こえて来た。そちらに視線を向けてみれば、殴られた衝撃によって擬態が解けたのか、いつのまにか家政婦の姿ではなく地球儀へと変化したアースが宙に浮いていた。
「なんなんだよお前はぁ!! いつもいつもいつも! 俺の計画を邪魔しやがる!! お前さえいなければもっと簡単だった! より確実に世界を救えるはずだった!! 最悪のイレギュラー、お前は一体何者だぁ!?」
「別に、ただの魔法少女だよ。だけど色んな人が私を助けてくれたから。シルフちゃんを助けて来いって」
「その力、俺の障壁すら易々とぶち抜くその魔法! 間違いなく神格、あらゆる障害を取り除く象神の力!! どうやって最後の門にたどり着いた!? いやそもそもっ、なぜ生命系統の魔法少女に神格魔法が存在する!? それは自然系統だけに与える取り決めだっただろうが!!」
アースの言葉は前半こそエレファントさんに向けているようだったが、後半はここに居ない誰かへの言葉のようだった。神格魔法の実装がどうこうなど、そんなこと俺たち魔法少女が知るわけもない。
「神格魔法は下手をすれば亜神に届き得る力……。だから純粋な火力と自然との一体化っていうシンプルで対処しやすい自然系統魔法少女にだけ与える、確かそんな取り決めだったかしら? 命の亜神は守らないわよ、そんな不公平な約束」
「!?」
アースの言葉に答えるように聞こえて来た聞き覚えのない女性の声。俺たちとアースの間に割り込むように突如として姿を現した宙に浮く奇妙な本がその声の主だった。あれも妖精なのか……? 何が起きてるんだ?
「目覚めてやがったのか、ロウ。そうか、エレファントがここに現れたのはお前の差し金だな」
「ええそうよ。あなたの下らない馬鹿みたいな計画をひっくり返すために協力して貰うことにしたの」
「ふん、だが今更目覚めて何が出来る? たかが一人を神格魔法に目覚めさせた程度で何が出来る? 俺の妨害をしたところで世界の滅びが回避出来るわけじゃねぇ。俺の邪魔をして、お前に世界が救えるか? ロウ」
仲間割れか? あのロウと呼ばれている本の妖精は、アースの計画を妨害できるほど力を持った、同格の妖精なのか? エレファントさんをここまで連れて来たってことは、味方、なのか……?
「安心してシルフちゃん、ロウは私に協力してくれてる最高位妖精だから」
「……大丈夫なんですか? 騙されたりとか、してないですか?」
ジャックやアース、妖精には散々な目に合わせられているため素直に信用することは難しい。妖精を信じるのではなくエレファントさんを信じるのだとしても、エレファントさんは凄く人が良いから騙されてしまうということもあるかもしれない。
「大丈夫。私とシルフちゃんを助けてくれた人からのお墨付きだから」
「助けてくれた人って、誰ですか?」
「それは後で話すよ。それよりシルフちゃん、ロウが時間を稼いでくれてる間に私たちで世界を救うんだ。衝突しようとする異世界を、私とシルフちゃんの力で押し戻すの」
ロウが時間を稼いでくれている間にというエレファントさんの口ぶりから察するに、あまり時間はないということなのだろう。アースの言ったように、異世界が近づくことによる力場の歪みで生まれるのがディストだとするのなら、今回の最終決戦や氾濫は二つの世界の距離がどんどん縮まって歪みが大きくなったから発生したのだと推測出来る。
恐らく衝突までの時は、もうすぐそこにまで迫っている。
だけど、俺とエレファントさんの力で押し戻すって、そんなのどうやって? アースでさえ俺の持つ黒心炉とかいうのを利用して、さらに記憶を燃やすことでようやく破壊できるという見込みだったのに、一体どうやって世界を押し戻す? もしかしてそれは、俺の代わりに
「それはエレファントさんを犠牲にするような方法ですか? だったら私は、絶対に認められません」
「心配してくれてありがとうシルフちゃん。でも安心して。これはプレスが私たちを助けるために考えてくれた計画だから、誰も犠牲になんてならないし、させないよ」
「プレスさんが?」
どうしてここでプレスさんの名前が出てくるのかはわからないけど、でも、それが本当なら心配はいらないのかもしれない。
それにもう信じられるのかなんて、言ってる場合じゃないか。アースの企てた計画以外に世界の滅びをどうこうする方法なんて俺にはわからないのだから、エレファントさんが信じた、プレスさんの計画に賭けるしかない。
エレファントさんはあのロウという妖精からこの世界に迫る本当の滅びのことも聞いているようだし、そのうえでプレスさんの計画を信じているというなら、勝算はあるのだろう。
「何を企んでるのか知らねぇが、俺の計画の邪魔はさせねぇ。タイラントシルフを動力に世界魔術を起動する。これは決定事項だ。邪魔をするなら、お前と言えど容赦はしねぇぞロウ。理の亜神が復活したなら、『俺が世界を保護する必要はなくなったなぁ?』」
「降臨したわね、『そう来ると思ってたわよ、星の亜神アース』」
いきなりアースとロウの存在感が増大したことで、俺とエレファントさんは無意識の内に臨戦態勢に入り二体の妖精へ視線を向けていた。まるで歪みの王・天蓋を前にしているような、いや、それ以上に圧倒的に強烈な気配がこの白い広間に満ちていき、アースとロウの間でせめぎ合う。
さらに追い打ちをかけるように、大きな地震でも起きたような、立っているのもやっとというほどの揺れが発生して、転ばないように思わずエレファントさんにしがみつく腕に力が入ってしまう。
「『ククク、降臨して顔を突き合わせるなんていつ振りだ? 良いのか? 誰かが世界を保護しなければ、すでに余波だけで理が歪みかけているぞ?』」
「『だったらあなたが守りなさい。今までもそうしていたように』」
「『チキンレースでもするつもりか? 博愛主義はどこに行った理の亜神ロウ。このままでは異世界を破壊しても手遅れになるぞ』」
「『見てみたくなったのよ。亜神でも変えられないはずの未来を変えられる、あの子たちの行く末を。その結果世界のルールが変わったとしても、悔いはないわ』」
「『ふん、引くつもりはないというわけか。それも良いだろう。お前は昔から格上面して邪魔だった。ちょっと物を教えた程度で良い気になりやがって。言っておくが俺はこの数十年、お前が眠っている間に数段格をあげた。引導を渡してやるよ』」
「『引く必要がないのよ。世界は多少、混沌としていても良い。それと勘違いしないでちょうだい。あなたの相手は私じゃない。エレファントちゃん! 使いなさい!!』」
「私は捧げる!」
「『儀式呪術だと!?』」
捧げる? 儀式呪術? なんだ? 何をしようとしているんだ? 明らかにアースの声音が変わった。顔はないから顔色はわからないが、アースの想定外のことをしようとしてるのは間違いない。それがあのロウという妖精の、プレスさんの、そしてエレファントさんの秘策なのか?
「白心炉!!」
それはまるで、俺が持っていると言われた黒心炉に酷似した言葉だった。
けれどきっと、その本質は俺の持つ力とは真逆のものだったのだと思う。
だってエレファントさんの胸のあたりから抜け出したそれは、白く眩く暖かな光で、見ているだけで安心するような、勇気が湧いてくるような、希望を持てるような、そんな美しいものだったのだから。
天に導かれるようにゆっくりと浮き上がり消えていくその光を見て俺は、少しだけ勿体ないなと思ってしまった。何が起きているのかはさっぱりわからないけれど、きっとそれは今にも消えてしまうもので、もう少しだけ見ていたいと思ったから。
「『ば……か、な……。バカな、馬鹿な! ばかがぁぁぁぁぁ!! ふざけるなあああぁぁぁ!!』」
切羽詰まった状況であることも忘れて消えゆく光に見惚れていた俺は、気が狂ったようなアースの叫びに正気を取り戻した。
「『駄目だ!! 消えるな!! 持っていかないでくれ!! 対価なら払う!! だからそれを持っていくな!! 待ってくれ!! 世界よっ、それは、それだけは駄目だ!! あぁ!? 消える、消えてしまう! 白心炉、ようやく見つけた、白心炉がぁぁぁぁ!!』」
なんとなく勿体な、なんて思っていた俺とは比較にならないほど、アースは必死でその光をつかみ取ろうとしていた。地球儀が変形して地球のような模様の人型になり、その手で光を包み込もうとしては抜け出してしまうということを何度も繰り返し、そして最後は結局捕まえることなど出来ずに消えてしまった。
必死すぎる様子も異様だったが、あの姿もまた不気味だった。
全身青いタイツに所々緑や茶の着色がされているようであり、しかし質感は本当の地球のように青い部分は液体のようで緑の部分には植物が生えており、それ以外にも山らしき部分は尖っていたり砂漠は砂のようであったりと、本当に地球を人の形にしたというような姿だ。
「『ロウゥゥゥゥ!! 貴様何をしたかわかってるのか!? 白心炉だぞ!? あの、幻と言われた未知の術式!! 世界中の術師が血眼になって探し今なお見つけられていない、あの白心炉だぞ!? 一体どれほど術理の進歩が遅れたかわかっているのか!? ふざけるな!! こんなことがあってたまるか!! 許されないぞロウ! エレファントォォォ!!』」
「『ええそうね。とっても貴重で希少な、唯一無二の術式よ。それを捧げて得られる力は、どれほどのものなのかしらね』」
「力が、溢れてくるみたい。凄い、これなら……、っ!」
この白い広間を満たしていたアースとロウの強烈な存在感や気配を押しのけるように、エレファントさんから凄まじい力が次々とあふれ出しているのを感じる。それは二人の亜神に匹敵するどころか、今にも上回るほどに強烈で
「う、うぅ……、あ、熱い、身体が、いたい……、う、あぁ……」
「エレファントさん!? 大丈夫ですか!?」
いくら魔法少女とは言っても元はただの人間が、いきなりそんな力を持たされてただで済むはずがない。エレファントさんは自分の力だけでは立っていることすら難しくなって、密着している俺にもたれかかることでなんとか倒れないようにするのが精いっぱいのようだった。とてもその力を操って魔法を使うことなんて出来そうもない。
「『シルフちゃん!! あなたがその力を制御するの!! 無意識にでもずっと黒心炉の力を使っていたあなたなら!! その強大な力を制御できるはずよ!! 全部使い切って、エレファントちゃんも世界も助けなさい!!』」
「『これ以上貴様の好きにはさせんぞロウ!! そして貴様らもだエレファント! タイラントシルフ!!』」
「『外野は引っ込んでなさい! シルフちゃん! アクセス権のロックは解除したわ!! ぶちかましなさい!!』」
恐らくアースは俺たちに何か攻撃を仕掛けようとしたようだったが、それがどんな攻撃であるのかを認識するよりも早くロウが守ってくれたらしい。
そしていつの間にか、呼び戻したわけでもないのに、専用武器、風の宝杖が俺の手元に戻って来ていた。
「エレファントさん、力を借りますね」
もたれかかるエレファントさんを強く抱きしめて、今にも破裂しそうなほどに満たされた力の流れを俺の中に、そして俺を通り道とするように宝杖へと集めていく。荒ぶる力の余波が小さな竜巻と化して、宝杖を取り巻くようにぐるぐると回り始める。
あまりにも大きすぎるがゆえにエレファントさんの身体に強い負荷をかけている力。だけど俺なら、ロウが言っていたように黒心炉によって自分の限界を超える力を何度も扱ってきた俺なら、この膨大な力の奔流を操ることが出来る。
きっと魔法の性質による要素も大きいのだと思う。エレファントさんは魔力を高め自分の中に留めて強化する肉体強化系の魔法少女であり、対して俺は高めた魔力を解き放つ魔法少女。どちらの方が肉体に負荷がかかるのかなんて、考えるまでもない。
「『ふざけるな、ふざけるなっ、ふざけるなぁぁぁ!! 眠りについたことすらもお前の策の一つだったと言うのか!! この俺の目を欺き油断させるための!! お前はとっくに白心炉を見つけていたというのか!!』」
「『そうよ、って言いたいところだけど残念ながら外れ。裏で糸を引いてたのは私じゃないわ』」
「『ならばドラゴンか!? ウィズか!? 結託して俺を陥れようとしたのか!!』」
「『いいえ、きっとあなたが気にも留めていない存在が黒幕よ。真に優秀なフィクサーは、最後まで表舞台に出てこない。最終的に自分で手を下さなければ気が済まないあなたは二流なのよ』」
「『この俺が、二流だと……?』」
衝撃波や爆炎、雷光、砂嵐など、様々な自然現象が俺とエレファントさんへ襲い掛かるが、その悉くが捻じ曲げられて届かない。まるで歪みの王の空間を歪める力のように、無理矢理軌道を変えられてあらぬ方向へと飛んで行っている。
その攻撃一つ一つから俺と双葉の合作神格魔法と同等かそれ以上の力を感じ、アースの言っていた歪みの王など本来なら歯牙にもかけないという言葉が事実であったことがわかる。しかしそれすらもロウは余裕を持って完璧に防ぎきっている。やはり亜神と言う存在は次元が違う。本来ならどれだけ成長し魔法を磨いたとしても魔法少女では届かない領域に居るのだ。
だが、俺が持つこの杖に集まっている力は、今なお強大になり続けている力は、すでに亜神の力すらも上回っている。
これほどの力を得るために、エレファントさんは一体何を……
「ありがとうシルフちゃん、だいぶ楽になってきた。私も、一緒に頑張るから」
「本当に大丈夫なんですか? 無理はしないでください、この力を手に入れるために何かしたんですよね?」
「そっちは何ともないよ。それで貰った力の方がよっぽど大変だったけど……、シルフちゃんが助けてくれたからお陰で今は大丈夫。一緒にこの世界を守るよ!」
「……わかりました。でも、異世界を押し返すので本当に良いんですか? ただ壊すだけよりきっと難しいですし、失敗したらこの世界が」
「それで良いの。きっと向こうの世界にも、私たちと同じように営みがあるはずだから」
「!」
そんなこと、考えてなかった。
アースの説明によって地球に隕石がぶつかるようなイメージをしていたせいか、衝突するであろう異世界にも命があるなんて、そんな可能性は最初から考慮もしていなかった。
「きっと私たちを助けてくれた神様は、向こうの世界の」
エレファントさんはそこで一度口を閉じてじっと俺のことを見つめていた。
「なんですか?」
「大丈夫。全部終わったら、最初から最後まで、何があったのか、どれだけの人が私たちを助けてくれたのか、ちゃんと説明するから。さあ、準備は良いシルフちゃん? もう力は出し切ったよ」
「はい、いつでも行けます」
力の収束は終わった。
後はこれを、魔法として解き放つだけだ。
この魔法は、きっと宝物庫の魔法じゃない。
あの中にはこんなに大きな力を想定した魔法はきっとなかった。
だからこれは、魔法少女の力をベースに、俺たちが作り出した新しい魔法。
「『止めろぉぉぉぉ!!』」
あらゆる攻撃をロウによって妨害されたアースが、悪あがきでもするように巨大化して俺たちと天の先にある異世界の間に割って入り掴み掛かるように大きな手を伸ばしてくる。
けれど、本来なら風神状態の俺であっても勝ち目がないほどに強力な力を秘めたその巨体も、今は怖くなかった。
「『視野が狭い。いくつも策を練って保険をかけるのは小心の裏返し。だから予定にないことが起きると取り乱して本質を見失う』」
「『私たちの目的は滅びを回避することなのに、手段と目的が逆転して思い通りにいかなければ気が済まない。……だから二流なのよ」』
「『自分よりも圧倒的に強大な存在が居る場所で頭を冷やしなさい、馬鹿弟子』」
お前との因縁もこれで終わりだ! アース!!
「吹き飛べええぇぇぇっ!」
「いっけええぇぇぇぇっ!」
魔法局によって管理されたわけではない、新たな魔法であるがゆえに詠唱は存在せず、必要なのはただ膨大な力の奔流を解放するのみ。
「『お゛お゛お゛お゛お゛お゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛ぉ゛――』」
俺とエレファントさんの叫びと共に異世界へ向けて解き放たれた風がアースに叩きつけられ、ほんの少しの抵抗も許さず突き進み、瞬く間にその姿が小さく、声も聞こえないほどに遠ざかって、そしてアースを巻き込んだまま異世界へ到達した。
その風は、不思議ととても穏やかだった。
言葉では言い表せないほど大きな存在感を放つ異世界を押し返す力を持っているとは思えないほどに、穏やかで、静かで、凪いでいた。
だけど俺たちにはわかる。この魔法を使っている俺たちには、今まさに、すぐそこまで迫っていた異世界が、特別な力を持った突風によって少しずつ、少しずつではあるが確かに動きを鈍らせつつある。
「このままじゃ、ぶつかります!!」
「もうちょっと、もうちょっとで良いから力を!! 私は捧げ――」
二つ世界が接近するスピードは確実に遅くなっているが、このままでは間に合わない。ずっと続いていた地震の揺れはどんどん大きくなっており、この白い広間にもあちこち亀裂が入り始めている。柱は一部崩壊して崩れた天井からは瓦礫が落ちてきており、よく見れば広間の奥に置いてあった装置が潰されていた。
「駄目ですちさきさん!!」
私は捧げる、それがあの妙な力を生み出すためのキーワードなんだと思う。どういう仕組みなのかはさっぱりわからないが、けれどこれ以上ちさきさんの身体に負担をかけさせるわけにはいかない。
「でも、私がやらなきゃ!」
「私はまだ、やれます!!」
そうだ、俺にはまだ力がある。アースが燃やそうとしていた過去の記憶。歪みの王・天蓋との戦いで使おうとして、結局双葉のお陰で使わなかった記憶。それに向き合えば、黒心炉が暴走しかねないほど膨大な感情を呼び起こすであろう、負の記憶。
だけど意識を呑み込まれるわけにはいかない。出来るのか? 俺に、黒心炉の力を完全に制御し、目を逸らしていた過去を直視して、受け入れることが?
出来る。きっと、いいや、絶対出来る。今なら、ちさきさんが隣にいてくれる今なら!
「ちさきさん、私のことを、もっと強く抱きしめてずっと、ずっと離さないでください!」
「離さないよ! もう二度と、シルフちゃんを一人ぼっちになんてさせない!! ずっと私が、捕まえててあげるから!!」
大丈夫。俺はもう一人じゃない。
過去がどんなに辛くても、苦しくても、悲しくても、寂しくても、
向き合える、受け入れられる、抱えていける!!
「私に力を! 黒心炉ゥゥゥ!!」




