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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
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episode5-8 世界の滅び⑦

 事情は全部ディスカースに話してあると一方的に告げられて、プレスからの電話は切れてしまった。漏れ聞こえて来た雑音から、向こうは現在進行形で戦闘中なのであろうことはエレファントにもわかったが、それにしても尻切れトンボと言うほかない説明だった。

 過去に一度会ったことがあるということや、ずっと自分のことを守ってくれていたということなど、聞きたいことは山ほどあった。しかしそれらに深く触れず強引に電話を切ったということは、それは今すべき話ではないという意思表示なのだろう。


 エレファントは様々な疑問を飲み込んで、シルフを助ける方法を知っているであろうディスカースへ向き直った。


 白心炉などという心当たりの一つもない力に未練なんて少しもない。そんなものを失う程度でシルフを助けられるなら、エレファントは喜んで差し出せる。


『お話は終わったようですね』

「はい。ありがとうございます、ディスカースさん。縁もゆかりもない私たちを助けようとしてくれて」

『お礼はプレスさんに。彼女が居なければ私は何も知らないままでした』

「もちろん、全部終わったらプレスにもたくさん感謝します。だけど、今ディスカースさんが私たちを助けようとしてくれてるのは、ディスカースさんの意思ですから。だから、ありがとうございます」


 真剣な面持ちでディスカースを真っすぐ見つめ、深く頭を下げるエレファントに、ディスカースはなるほどと合点がいったような気持ちになった。まだ会ったばかりで大した話もしていないというのに、確かにこの魔法少女には人を引き付ける何かがあると感じられた。


『どういたしまして。それでは、説明を始めます。私が準備したこの儀式の意味を』


 プレスとエレファントの会話が終盤に差し掛かったあたりでようやく準備を終えたそれは、六芒星や五芒星、円や三角形に加えて言葉では言い表せないような複雑な文様が組み合わせられた魔法陣だった。

 その魔法陣の外周を囲むように見たこともない植物や動物の骨、牙、毛皮、それから虫の死骸や瓶詰、魚の頭部に燭台などなど、普通に生活していれば見かけないようなものまで様々な物が配置されている。

 端的に言い表すのであれば、正に呪いの儀式とでも言うような光景だ。


 全くの素人であるエレファントからは一見して何の規則性もないように見えるが、手帳のようなものを確認しながら準備を進めていたことを考えれば、全てに意味はあるのだろう。


『術師の世界では一般的に儀式呪術と言われるこれは、正式名称を生贄の儀式呪術と言います。生贄と言うと物々しく感じるかもしれませんが、必ずしも命を必要とするわけではなく、どのようなものでも構いませんので対価を捧げることでその価値に見合った力を与えてくれます』


 訳知り顔で語っているがディスカースもプレスに説明されるまではそこまで詳しく把握していたわけではなく、最後に語った何かを対価に力を得るという程度の知識しかなかった。その知識でさえも、実際に生贄の儀式呪術を使用した過去の自分の記憶は全て失われてしまっているため、手記に書かれている内容と今の自分が持つ特異な力から推測したものに過ぎなかった。


「……それで、私の白心炉を捧げるってことですね」

『はい。プレスさん曰く、この世でたった一つだけの特別な術式である白心炉の価値は計り知れないそうです。それを対価に得た力ならば、神にも、それどころか、世界にも対抗出来るはずだと』


 白心炉そのものの効果は対をなす黒心炉とそれほど大きくは変わらない。だから白心炉という力を自覚しその性能を十全に引き出せたとしても亜神には届かない。単純に魔法少女の力が剥奪される可能性があることもそうだが、仮にそうでなくても、その程度の力で討ち滅ぼせるほど亜神という存在が甘くないことをプレスは知っている。

 だが、その希少性は唯一無二。今回の作戦はエレファントから白心炉を引き剥がすことが最大の目的だが、それは同時にシルフを助けようとするうえで最も可能性の高い手段でもあるのだ。白心炉を捧げることで得られる力は間違いなく亜神を凌駕する。そして目前に迫った世界の破滅すら退けることが出来るかもしれない。


『シルフさんは今頃歪みの王と戦っているか、あるいはすでに倒したか。どちらにせよ亜神の手によってすぐに宝物庫の更にその奥、最後の門を開いた先にある特別な空間に精神を連れ去られるはずです。そこへたどり着くには、あなたも最後の門を開き直接奪い返す他ありません』

「最後の門って、宝物庫は第三の門で終わりじゃないんですか?」

『確かに私たち魔女でさえほとんどが最後の門を開くことは出来ないのであまり知られていませんが、第三の門を開き魔女へと至った先に待つ最後の力、最後の門を開いたその先にあるそれこそが、神の名を冠する魔法、神格魔法です。あなたもモナークスプライトさんが使っていた雷神という魔法に聞き覚えがあるのではないですか?』

「えっと、なんとなくは……。シルフちゃんを助けるためには、私もその神格魔法を使えるようにならなきゃいけないってことですね?」


 あまり魔法少女全体の情報に詳しいわけではないエレファントは、その最後の門を開いた魔法少女が過去にたった三人しかいないという事実は勿論知らない。しかし仮に知っていたとしても尻込みするようなことはなかっただろう。覚悟はとっくに出来ている。


『おっしゃる通りです。ですが恐らく、白心炉を捧げさえすればそれ自体はそう難しくないでしょう。重要なのはその後です。シルフさんを取り戻そうとするのであれば、必ず星の亜神アースが立ちはだかるはずです。そしてアースを退けたとしても、今度はシルフさんが成すはずだった異世界の破壊を遂行出来るか。白心炉を捧げた結果得られる力が未知数である以上、成功率がどれほどのものであるのかはわかりません』

「だけどそうしなきゃ0%です。私にはプレスみたいな知識はないし、ディスカースさんみたいな特別な力は……、あるらしいですけど自分の意志で使えなきゃないのと同じです。二人が助けてくれなかったら、きっと私は全てが終わった後に悔やむことしか出来ませんでした。やりましょう、例えどんなに成功する可能性が低くても、シルフちゃん一人を犠牲にして世界を救うなんて、そんなの絶対許しません!!」


(それに……)


 星の亜神とやらは気づいたうえでそうしようとしているのかもしれないが、恐らくプレスもディスカースも気づいていないことがまだ一つあるとエレファントは感じていた。きっと今それを変えられるのは自分だけで、けれど自分の力のみでは届かないかもしれない。どれほど強大な力を得たとしても、その振るい方を選べなければ運命は変えられない。


『覚悟は出来ているようですね。この陣の中央に立ち、こう唱えて下さい。「私は捧げる、白心炉ポジティブエモーションドライブ」。それを合図に、儀式呪術は発動します』

「わかりました。私は――」


「ちょっと待って。そのやり方は効率悪すぎ」


「っ!?」

【何者ですか】


 ディスカースの用意した儀式陣の中央に立ったエレファントがキーワードを唱えてる最中、突如奇妙な声がどこからか聞こえて来た。咄嗟に言葉を止めてしまったエレファントだけではなくディスカースにも聞こえていたらしく、それまでの機械音声ではなく肉声による発言、絶対支配の言霊を発動して正体不明の存在を問い詰めた。


「大した呪いだけど無駄よ。あたしにそんなもの効くわけないでしょ」

「……もしかして、この本?」

「あら、もうバレちゃった? 正解よエレファントちゃん。ありがとね、あなたのお陰でようやく長い眠りから覚めることが出来たわ」


 レイジィレイジから渡されてずっとエレファントが抱えていた分厚いハードカバーの古びた本。その本から妙齢の女性のような美しい声が発せられていた。

 声を出しているのが自分だとバレた不思議な本は、普通の本の振りを止めてエレファントの腕の中を離れ、一人でにフワフワと宙を浮き始めた。


【何者です? 答えなさい】

「あら? 魔法少女が本職かと思ったけどもしかして逆だったかしら? 二重言霊を使えるなんて腕の良い呪術師ね」


 ディスカースはより呪いの力を強め、さらに効果を重ね掛けするように発動したというのにまるっきり効いた様子のない不気味な本に珍しく動揺して目を白黒させている。


「別に隠すつもりはないのに、そんな言い方されると素直に答えたくなくなっちゃうじゃない。ま、あんまり警戒されても面倒だし教えてあげるわ。初めまして、毒虫の魔女ディスカースちゃんに象の魔法少女エレファントちゃん。私は理の亜神の直轄最高位妖精、ロウ。よろしくね」


 不思議な本改め、最高位妖精ロウは、妙に馴れ馴れしい口ぶりでそう告げた。

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