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魔法少女タイラントシルフ  作者: ペンギンフレーム
最終章 立ち塞がるもの全て、蹴散らせ
201/216

episode5-8 世界の滅び④

 転移が完了した直後に一瞬意識の途切れたエレファントは、気が付けばつい昨日の夜に見たばかりの、鮮やかで豪華絢爛な大広間に居た。その最奥にある玉座の上では、タイラントシルフそっくりの少女、自称神様のレイジィレイジが、昨日は持っていなかったはずの大きな本を抱えながらとても眠たそうにうつらうつらと船をこいでいる。


 沖縄の欺瞞世界にはレイジィレイジの施した自動迎撃機能が存在し、ディストは出現と同時に消滅させられ、それ以外の生命体は強制的に眠らされる。この眠りから覚める方法は今のところ発見されておらず、かつて眠りについた最高位妖精の一体は今も目覚めることなく行方知れずとなっている。


 エレファントもまた、その自動迎撃によって眠らされたがゆえにこの夢の世界へ再び足を踏み入れたのだ。


「やっぱり……、来てしまいましたか……。大人しく……、待っていれば、迎えは来ていたのに……」

「え、そうだったの!? じゃあすぐに戻らなきゃ!!」


 身動きの取れない現状を打破するために再度レイジィの元を訪ねたエレファントだったが、レイジィ曰くその必要はないらしかった。迎えというのが何なのかはわからないが、決戦に関わることであるのは間違いないはずで、入れ違えになってしまったら大変だとエレファントは慌ただしく目覚めろ目覚めろと自分に念じ始める。


 そんな簡単なことでレイジィの眠りから覚められるのであれば苦労はしないと、どこからか突っ込みが飛んで来そうなほどに、それは無計画で行き当たりばったりな行動だった。


「来て、しまったものは……、しょうがありません……。ついでに、これを持っていくと、良いでしょう……。何かの足しには……、なるでしょうから……」

「え? な、なにこれ? 開かないよ?」


 先ほどまでレイジィの腕の中にあったはずの分厚い本がエレファントの目の前に出現し、反射的に手に取ったがどれほど力を込めても開くことは出来なかった。まるで外側だけ本のように作られた玩具やオブジェのように、ページの端っこすらめくることも出来ない。


「それは……、……あ、もう、無理……、せめて、これだけ……、すぅ……すぅ……」


 何かを言いかけたレイジィは、しかし全てを言い切る前にカクンと大きく首が落ちて規則的な寝息を立て始めた。

 元より眠気が限界らしかったことは一目瞭然だったが、まさかこんなにも唐突に、しかも話の途中で眠ってしまうとはエレファントも思っておらず、慌てて声をかけるが


「え!? れ、レイジィちゃん!? 寝ちゃったの!? うっ、駄目だ……、急に眠気が……。せめて何に使うのかくらい……すぅ……」


 エレファント自身もいきなり強烈な眠気に襲われて立っていることもままならず、渡された本を手にしたまま深い眠りに落ちてしまった。







「ハッ!? 時間は!?」


 目覚められないはずの眠りから当然のように目覚めたエレファントは、自分が変身状態であることと、今居る場所が沖縄の欺瞞世界であることを認識するのと同時に、どれほどの間眠っていたのかとマギホンで時間を確認すると、転移してくる直前の時刻からほんの数分が経った程度だった。短い夢に比例するように、それほど長い時間は経過していない。


「夢だけど、夢じゃないんだよね。レイジィちゃん、ありがとう」


 転移前は持っていなかったはずの謎の本が、目覚めた自分の腕の中に抱えられていた。それは、ついさっきまで見ていた夢がただの夢ではなく、レイジィの力によって見せられていた特別な夢であるということの証拠だった。

 この本を何に使うのかまではわからないが、あのレイジィが何かの役には立つと言ってくれたものである以上、持っておくに越したことはない。


「転移座標――え?」


 エレファントは謎の本を抱えたまま転移で現実世界に戻ろうとしたが、それよりも先にエレファントの目の前の空間が眩い光を放ち始め、普段自分が使っている転移よりも大規模で複雑な文様の魔法陣がいくつも重なって出現した。

 そしてその光が収まった時、どこかで見たことがあるような、けれど会った覚えはない魔法少女が立っていた。


『初めまして、魔法少女エレファントさん』

「は、初めまして、えっと……」

『私はディスカースと言います』


 マギホンに文章を入力して機械音声で言葉を発するというその特異なコミュニケーションに面喰らいつつ、エレファントが相手の名前を何とか思い出そうと頭を捻らせていたところ、思い出すよりも早く察してくれた相手が自ら名乗ってくれた。

 そしてそれを聞いてようやくエレファントは思い出した。目の前の魔法少女が魔女のお茶会ウィッチパーティーの序列第2位、毒虫の魔女ディスカースであるということを。


「え、えぇ!? ディスカースさんって、あの魔女のですよね? なんで私のこと知ってるんですか?」

『プレスさんにあなたのことを頼まれたのです。と、いきなり言われても信じがたいでしょう』

「いえ、驚きはしましたけど……」


 まさか自分とは何の接点もない上、自称神様であるレイジィを除けば最強の魔法少女であるディスカースが来るとは思ってもいなかったが、事前に迎えがあるとレイジィから言われていたことで、突飛な状況でも受け入れられる心の準備は出来ていた。あの今にも眠りそうだったレイジィがわざわざ気力を振り絞って伝えてくれたことである以上、その迎えというのが何か重要な意味を持っている可能性をエレファントは認識していた。


 とはいえ、それはそれとしてもどうしてディスカースさんがという疑問が全くないわけではなかった。嘘だとは思っていないが、プレスがディスカースと知り合いだったことも驚きだし、ディスカースがプレスの頼みを聞いてわざわざ自分に会いに来たということも驚きだ。


 そもそも、迎えが来るとは聞いていたが何の迎えなのか。ディスカースと一緒に転移して咲良まで戻るのか、それとも全く違う用事なのか。考えれば考えるほどに疑問は次々と浮かんでくる。


『色々と解せないこともあるでしょうが、まずはこれを』

「スマホですか?」

『これはプレスさんから預かった彼女の私物です。今、このスマホとプレスさんのマギホンは通話が繋がっています。ですので詳細は彼女に。私は急ぎ準備をしなければいけませんので』

「は、はぁ……」


 よく見ればディスカースは何やら大荷物を背負っており、エレファントにスマホを渡した後はせっせと中身を取り出して、古びた手帳のようなものを片手に、白いチョークや赤色の液体、青く輝く粉末に蛍光緑の粘液のようなものなどで地面に様々な模様を描き、動物の角や牙、それから大量の虫の死骸や生きた虫の瓶詰などを何らかの規則に従うように配置していく。


 手際よく進められるそれはまるでフィクションの典型的な邪教の儀式とでも言うような禍々しさを放っている。


「もしもし、プレス?」

『あ、エレちゃん!? 無事で良かった~! そっちは大丈夫そう?』

「うん、レイジィちゃんが守ってくれてるんだと思う。そっちこそ大丈夫?」

『咲良町のディストは一通り倒し終わったからダイジョウブイ! まあ、町にはちょ~と被害出ちゃったけど、よそよりはマシって感じかな。シルちゃんたちも今のところは無事、って言いたいところだけど別行動中だから詳細不明!! ごめんね~』

「そっか、みんな頑張ってるんだね……。それで、何であのディスカースさんが?」

『う~ん、まあ簡単に言うとエレちゃんとシルちゃんを助けるためかな』

「……どういうこと?」


 自分の名前が出てくるのはわかる。助けるという言葉が何を意味するのかまではわからないが、わざわざ自分の元に毒虫の魔女を送り込んだのだからエレファントが関係しているのは当然だ。だが、シルフを助けるとはどういう意味なのか。シルフは今、助けを必要とする状況にあるのか。それも、最強の魔法少女の力を借りなければならないほど危機的な。


『焦らないでねエレちゃん。まだ少し時間はあるから、これから一つずつ、順番に説明するよ』


 焦りの滲むエレファントの声とは対照的にプレスの言葉はとても落ち着いていた。

 とても今この瞬間、公爵級ディストの大群との戦いが始まろうとしているとは思えないほどに。

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