【12話】一別
「意外と近くに街があったんだな」
最悪、1ヶ月くらいは森の中を彷徨い歩く事になると思っていたから、俺たちがダンジョンを出て1日と少しで街を見つけられたのは運が良かった。
見た感じ、ここから数kmってところだろうな。
こんなに早く人がいる場所が見つかるとは思ってなかったから少し名残惜しいが、もう街の近くまで来ちまったんだ。
そろそろ切り出さないとな。
意を決して、俺はゆっくりと口を開く。
「……エンギ、俺たちにとっての故郷を取り戻すためにも、ここからは別行動にしよう」
エンギは何となくそう言われると分かっていたのか、驚いている様子は無かった。
しかし、その不機嫌そうな顔はどう見ても納得しているようには見えなかった。
俺はエンギの肩に手をかける。
「お前は、この広い森の中で強くなれ。 まだまだ勝てない奴も沢山いるから無闇矢鱈に喧嘩を売るんじゃないぞ。 お前は喧嘩っ早くて心配だからな。 それに、もしお前より強い奴に出会った時は死ぬ気で逃げろ。 ダンジョンでの時みたいに逃げずに死ぬなんて許さないからな。 お前の肩に乗ってるのはスケさんやカクさん、ミトやゴブリンウィザード、スケルトン達やゴブリン達、俺も含めてみんなの想いを背負って今ここにいるんだ。 もしそれが荷が重くて辛いってんなら無視して好きな所に行って自分の自由に生きたって良い。 でも、お前はそんな奴じゃないって、この短い付き合いの中でも俺は知ってるし、信じてる。 だから、お前はこの広い森の中で今よりもっと強くなれ」
こんなこと、散々親の想いから逃げて来た俺が言うのもおかしいのかもしれない。
きっと、前までの俺なら逃げ出していたかもしれない。
だけど、今になってその大切さが少し分かった気がするんだ。
今までは、父さんや母さんの幸せになって欲しいっていう期待に応える事もなく親に迷惑をかけてまで好き勝手に生きて来た。
でも、この世界に来て、もう二度と家族に会えないと分かった時、その想いの温かさを感じる事が出来なくなった時、初めて俺がひどく孤独な人間だって気付いた。
好き勝手に生きて来たせいで、昔はいた友人もいつの間にかいなくなり、唯一接点のあった家族でさえもう会う事は叶わない。
だから、エンギやスケさんカクさん、ミトやゴブリンウィザード、ゴブリン達やスケルトン達、みんなに出会えて一緒にいられた事が本当に嬉しかった。
エンギとは初め、仲良くは無かったかもしれないけど、殴り合って喧嘩して、なんだかダチって感じがしてすごい嬉しかった。
スケさんカクさんやミトも、俺の事を煽っているのかカタカタカタカタいつも喧しく音を立てていたのも、なんだか友達に弄られているみたいで心地よかった。
他のみんなとはあまり一緒の時間は過ごせなかったけど、それでも俺はあのダンジョンが家で、そこにいるみんなが家族みたいなもんだって思えた。
俺がこの世界に来て出来た、唯一無二の拠り所になった。
だから、仲間の死を背負い、無念を背負い、逃げる事なく前に進んで行こうって思えたんだ。
エンギはそれなら一緒に行けば良いと思ったのか、街なんかに行くなと言わんばかりに俺の腕をきつく掴んでくる。
俺はエンギの目を見つめながら首を横に振る。
「それじゃあ駄目なんだ。 俺と違ってお前には進化っていう無限の可能性がある。 これから沢山モンスターを倒していけば、もっと強くなるはずだ。 でも俺は、幾らモンスターを倒したところでこれ以上強くなる事は出来ないんだ。 正直、さっきのゴブリン達との戦闘ですら足手纏いにならないようにするのが精一杯だった。 お前はこれからもっと強くなる。その時、俺がお前と一緒にいたら、きっと俺は足手纏いになるはずだ。 それが俺は嫌なんだ。 俺はお前の横に並んでこれからも歩んで行きたい。 だから、俺は街に行って俺に出来る事を探して来る」
エンギは、俺の腕を掴む力を弱めると、ゆっくりと腕を下ろす。
「なに、ずっと離れている訳じゃないんだ。 そうだな……30日、30日後にまたこの場所に来よう。 その時はお互い成長した姿で会おうぜ、男と男の約束だ」
俺は、エンギの肩から手をどけると、右の拳をエンギの前に突き出す。
エンギは、俺の拳を見て、俺の顔を見て、また俺の拳を見ると、自分の右手を持ち上げ、拳を握り、俺の拳にぶつけてくる。
パシッと子気味良い音が響き渡る。
「それじゃあエンギ、達者でな。 進化の際には、しばらく無防備になるみたいだから、出来れば安全な場所に移動するようにな。 それに、寝る時は夜行性のモンスターがいるから、見つからないよう気を付けろよ」
エンギは俺の小言に顔をしかめる。
ははっ。
自分で思うのもなんだが、何だかお母さんみたいだな、俺。
ま、エンギには死んで欲しく無いからな。
ダンジョンが家だとするなら、さながらダンジョンマスターは一家の大黒柱ってとこだろ。
でも、家族と違ってダンジョンマスターは一人しかいないんだ。
なら、俺がその分、お父さんだろうがお母さんだろうが何だってやってやろうじゃねぇか。
俺はエンギに背を向けると街へ向かって歩き出す。
エンギのことは心配ではあるが、一体どこまで強くなって来るのか楽しみでもある。
それに、俺の方もどうなるか分からないからな。
俺は視線を街へと向けた後、改めてしげしげと自分の姿を見つめ直す。
俺って見た目がどう考えても怪し過ぎるもんな。
何も荷物を持たずに服装は腰蓑だけって、どこの未開の部族だよ。
今のうちに、何か聞かれたときのためにどう答えるのかを考えておくか。
最後に後ろを振り返ると、俺とは反対方向に向かって森の中へと歩いていくエンギの後ろ姿が見えた。
エンギはエンギで自分の道に向かってまっすぐ進んでいる。なら俺も、エンギに負けないよう頑張らなきゃな。




