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【プロローグ】

 俺の名前は九条誠。

 新卒2年目だ。


 就職活動に励んでいるはずの4年生の時に何をしていたのかと言うと、4年になったばかりの頃にネットでバーチャルWeTuberについて知り、それ以来どハマりして推しのバーチャルWeTuberの動画を追っかけてはコメントをしたり、ツイートでリプライをする日々。


 それが、一年続いている。


 一人暮らしをしているからバレないだろうと、親には就活してるけどなりたい職に就くのが難しいと言っているが、正直もう嘘だってバレているかもしれない。


 自分が、親どころか人様に顔向けできない、どうしようもないクズだってのは分かってた。

 それでも、ダラダラと腐ったような生活を一年も過ごしていた。


「お、ゆずはちゃん、今日は20時から配信があるのか」


 パソコンを立ち上げて、配信プラットフォームにあるチャンネルページから今日の配信予約を見ると、20時から配信があるようだった。


「なら、それまでは他のバーチャルWeTuberの動画でも見ているか」

「面白い配信はあるかなっと」


 マウスをカチカチとクリックしながら、チャンネル登録している配信者の中から、今生放送をしているバーチャルWeTuberを探して配信を開いていく。


 もう、バーチャルWeTuberも大分数が増えて、大抵どの時間帯でも、誰かしら配信をしているから、いつでも配信が見れるって寸法だ。

 その配信を垂れ流しながらも、日課のデイリークエストを消化しておくかと

、スマホでゲームアプリを起動してぽちぽちとタップする。


 時たま、ツイッターを開いては推しのバーチャルWeTuberがツイートをしていないか確認するのも重要だ。

 ツイートが来たら通知が入るようになっているけど、ゲームアプリをしながらだと誰からツイートが来たのか分からないからな。


 推し事、推し事っと。


 そんなことを考えていたら、ツイートの通知が来た。

 見てみると、丁度ゆずはちゃんからだった。


「なんてリプライするかなぁ。いっつも返信に悩むんだよな。面白い感じで返すのか、真面目に返すのかとか色々」


 うむむむむ、としばらく悩む。


「パッと思い付かないし、とりま、夜の配信見るためにもスーパーへご飯でも買いに行きかながら考えるか」


 俺の近所のスーパーは、買い物袋にもお金がかかるから、高校の時に使っていたボストンバッグをエコバッグとして肩に掛けて出掛ける。


「うーん、何て返信すっかなぁ」


 そんなことを考えながら、スマホ片手に歩いていたからだろうか。


 キキッーーー!!!!!


 突然近くで急ブレーキの音がした。


 え? 急になんだ?


 ふとスマホから視線を上げ、音がした右側を見ると、目の前にでかでかとトラックがあった。


 あ……俺死んだかも。


 きっと、なろう系の小説でよくあるように、異世界とかに転生されてしまうに違いない。


 あぁ、やっと俺の番が来たのか。

苦節22年、父さん、母さん、先立つ不幸を許してくれ。悪いけど俺、異世界救ってきます。


 異世界に行ったらチートな能力とか貰えたりするんだろうか、出来れば成長促進とかそんなのもあったら嬉しいな。

 走馬灯なんて見えないけど、見えないものは仕方がない。

 もっとゆずはちゃんの配信を見たかったのが心残りだけど、異世界で勇者を待つ魔王の脅威に怯える人々のためだ。


 我ながら、若干テンションおかしいなと思いつつも、いざ死ぬとなったらこんなもんなのかもしれない。


 それにしてもこのトラック、全然動かないな。

もしかしたら、死の間際にスローモーションになるとかいうあれなのかもしれない。


 ……………………ってあれ?

 本当にこのトラック動いてなくないか?


 すると、トラックの窓がゆっくりと開き、運転手の男が顔を出す。


「ふざけてんじゃねぇ! 危うく引くところだったじゃねぇか! ちゃんと前見て歩きやがれ!」


 めちゃくちゃ怒鳴られた。


 急いでいるのかその男は、言いたい事だけ言うと、顔を車の中に引っ込め、今度は窓がゆっくり閉まっていく。


 その間に、俺は慌てて歩道に走っていくと、トラックがブロンブロンとエンジン音を響かせて走り去っていった。


 …………マジか。

 絶対死んだと思ったんだけどな。

 小学校の時も下駄箱に


『飛び出すな、車は急に止まれない』


 とかってスローガンが貼ってあったくらいだから、まさか、トラックが目の前で止まるとは思わなかった。

 存在自体が親不孝者だから、どっちかというと死んだ方がマシまであるのにな……。

 まあ、生き残ったんだ。

 とりあえず、ゆずはちゃんへのリプライでも考えるか。


 買い物を終え、パンパンのボストンバッグを抱えて、えっちらおっちら帰り道を歩いていると、目の前にマスクにサングラス、手袋までして、ポケットに手を突っ込んでいる挙動不審な男が歩いてくるのが見えた。


 基本、ビビリで陰キャの俺は、普通の通行人にすら何か攻撃されるんじゃないかと半ば被害妄想な警戒をしてしまうくらいだ。

 だから、そんな見るからに怪しい男に遭った日には、めちゃくちゃ警戒して目を離せない。


 絶対ポケットに突っ込んでる右手にナイフとか持ってるだろ。


 いつだ。


 いつ刺して来るんだ。


 距離が5メートルを切った。


 尚も男は一歩、一歩と距離を詰めて来る。

 このまま行けば、俺の右側を通り過ぎる。


 もしかして、俺の勘違いだったか?

 この男はただ挙動不審なだけのどこにでもいるおっさんだったのか?


 そんな事を考えていると、男が右ポケットから手を出し急に進路を俺の方に変えた。


 来た!

 

 やっぱり俺を殺す気…………ってあれ?

 右手には何も持っていないな……。

 やっぱり俺の勘違いか?

 でも、じゃあなんで進路変えたんだ?

 もしかして、ちょっとフラついただけとか?


 そんな事を考えながら、俺は男を避けるために左に移動しようとすると、男が右手を伸ばして俺の右手を掴んできた。


 えっ? まさか愛の告白?


 一瞬、男と目と目が合う。

 男はグラサン越しだが……。

 直後


 グサッ。


 唐突に、胸部への熱を感じて下を見ると、俺の胸に男の持つナイフが突き刺さっていた。


 ああ、こいつ右利きじゃなくて左利きだったのか。


 それが、俺の最期の感想だった。

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