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きたちゅー!  作者: こじまき
二年目
18/26

よっつんキレる

「え、森さん今日も遅刻ですか?」

「そう、気になることがあるみたい。念のため病院行ってから来るって」

「こんなしょっちゅうだと正直迷惑なんですけど。前回だって病院行って、結局何もなかったんですよね?心配しすぎじゃないですか?私の指導係なのにいつもいないし、困ります」


塩谷さんは森さんの遅刻や早退が増えたことにかなり不満らしい。けれど、こればかりは仕方ない。命より大切な仕事などない。


「そりゃそうですけど。それなら妊娠したもん勝ちって感じになりませんか?迷惑かけないタイミングで、とか思わないんですかね。責任ある大人なのに」


そんなことを考えてたら、校舎勤務のスタッフはいつまで経っても出産など夢のまた夢だ。校舎は一年サイクルで仕事をしていて、年間通してずっと忙しいのだから。


「じゃあ本部に異動したタイミングで、とか」

「都合よく異動できたらいいけどね。規則正しい生活ができるから、妊婦さんの体のためにも校舎よりはずっといいし。でも基本的には、全部会社の都合だからそんなうまくはいかないよね。ね、塩谷さん、私もサポートするから一緒に頑張ろ」


「ほんと妊娠したもん勝ち」と不満げに漏らす塩谷さんに、私もいら立ちが募ってくる。別に森さんが悪いことをしているわけではない。子どもが欲しい、育てたいと思うのは当然だ。当然のことが当然のようにできる会社や世の中であるべきなのに。


「塩谷さんだっていつかは結婚して妊娠してって日が来るかもしれないじゃん。そういうときに周りに応援してもらいたい、サポートしてもらいたいって思わない?」

「私は別に。森さんや北見さんと違って、仕事に生きる覚悟なんで」

「塩谷さん、そういうとこだよ!森さんは妊娠してるからって仕事で手を抜いてるわけじゃないでしょ?子どもが欲しいと思うのは、悪いことでもなんでもないでしょ?自分と違う価値観の人も尊重しなきゃ!自分のことも認めてもらえなくなるよ!」


塩谷さんは私が大きな声を出したことに驚いた顔をしたが、「綺麗事はけっこうです。作業教えてください」と言って席に座った。


自分でもびっくりするくらい大きな声で塩谷さんに怒りをぶつけてしまった私は、はっと我に返る。フロアにいた生徒、契約社員さん、バイトさん、先生方が私をじっと見ている。恥ずかしくなって「大きな声を出してすみません。お騒がせしました」と謝り、私も塩谷さんの横で作業を開始する。樹が来てない日でよかった。


美桜にメッセージを送って塩谷さんについて相談する。


”なかなかだね、その子”

”糸口つかめんくて困る”

”たぶん想像力が足りなさすぎるんだね 痛い目見ないとわからんのでは”

”このままだとあの子、社内に敵だらけになっちゃう”

”見捨てる気がないのがよっつんらしい”

”美桜の会社は問題児の後輩いる?”

”いるかもだけど、私は基本一人で病院回ってるからわかんないな”

”そか MRだもんね”

”接し方とかアドバイスできたらいいんだけどね ごめんね”

”ううん こうやって聞いてくれるだけで頭の中整理できて助かる ありがとう”


しばらく時間をあけて、美桜からまたメッセージ。


”てか、よっつんキレさせるってすごくない?じわじわくる”

”自分でもびっくりするくらい声出た”

”「よっつんキレる」でトレンド入りだよ”


またしばらく時間があいて、アドバイスが来た。


”よっつんが女だからダメなんじゃない かっこいい男の人とか、気になってる男の人から叱られたら効く気がする”

”そういうもん?かっこいい社員いないんだけど”

”よっつんの彼氏は”

”講師だもん そんなこと頼めないよ 私が怒られるよ”


口元を緩めていたら、樹が後ろから抱きついてきた。


「一緒にいるのに、俺にも構えよ」

「ごめん、美桜とやりとりしてた」

「また?彼氏は俺だぞ」

「職場が共通なんだからさ、樹には言えないこともあるんだよ」

「よつばのことは何でも知りたいのに」


呆れて笑ってしまう。クールなイメージだった樹だけど、どんどんと「甘えた」な部分が出てきて可愛い。「樹はいつも私のこと可愛いっていうけどさ、樹も可愛いよね」というと、背中に頭をぐりぐりしてくる。ああ、可愛い。


ぎゅっとされている腕の中、身を捩って一気に向き合うとキスされる。


「やっとこっち向いた。今日はもうスマホ禁止」

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