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きたちゅー!  作者: こじまき
二年目
14/26

美桜は決めている

「えー!よっつんの彼氏めちゃくちゃかっこいいじゃん!」


美桜は樹の写真を見て大声をあげる。


「声大きいよ」

「ごめんごめん。うちの学科にこんな先輩がいたとはね」

「学部と院で在籍時期かぶってたはずなのに、まるで気づかなかったね」

「よっつんは男なんて見てなかったじゃん。出土品とか資料ばっか見てたよ」


今日は、研修でこっちにやってきた美桜と久々にごはん。彼女は今、故郷の街で製薬会社の営業として働いている。食べているのは彼女の希望でがっつりと焼肉。美桜は外食に行くとなったらいつも迷わず肉だ。


「美桜はどうなの、最近」


えへへと笑って、美桜は写真を見せてくれた。


「これが彼氏?優しそうな人…こんなふくよかな人が好きだったっけ?」

「いや、本当はガリガリが好みなんだけどさ、元カレみたいな」


そういわれて、美桜の学生時代の彼氏のことを思い出す。入学直後から四回生の半ばくらいまで、とある同級生と長く付き合っていたのに、浮気されて別れたのだ。あのときの美桜は泣き暮らして、全然大学に出てこなくなって、大変だった。美桜が一人暮らししていたアパートで、泣き止まない彼女を抱きしめながら二人で寝たこともある。


「見た目はタイプじゃないけど、私のことすごく大切にしてくれる人なんだ」

「いい人に出会えてよかったね」

「よっつんに負けてらんない」

「勝負じゃないのに、ふふふ。引き分けだね」


「でもよっつんの彼氏は見た目もパーフェクトじゃん」と言いながら、美桜は幸せそうだ。お酒を口に含んで、「でね」とこちらを見る。


「彼が七歳年上でもうすぐ三十歳なの。それで、結婚っていう話も出てて」

「えっ!?は、早くない?」

「うち田舎だからか周りは結婚早くてさ。中学の同級生だともう子ども生んでる子もざらだし、中には二児の母って子もいるし。彼も”三十までに”っていう思いがあるみたい。よっつんはまだそういう話してないの?彼氏の年齢、そこそこでしょ?」

「樹は二十八だけど…でもまだ付き合って一年も経ってないし、会社も二年目だしなぁ」

「考えられない?」

「うん、正直ね。仕事頑張りたいし」


「よっつんは相変わらず真面目だね」と美桜は肘をついて、「私は結婚したら仕事辞める」と言い切った。


「彼が辞めてほしいって言ってるの?」

「違う」


じゃあどうして。仕事の話をする美桜は楽しそうだし、営業成績が良くて給料もいいと言っていたのに。子どもができても産休育休をとればいいのだし、もったいないのでは。そういうと、美桜は「親も同僚もみんなそう言う」とため息をつく。


「けど、もったいないかどうかは私が決める」


もともとMRを長くやるつもりはなかったのだそうだ。気楽に過ごしたいから、どこかでパートでもすると。美桜の人生は美桜のもの。私が正しいとか間違っているとか、言えるはずもない。ぶれないのが美桜らしいと思うだけだ。


それにしても、もうみんな結婚とか考えたりするんだ…


晩ご飯を家で一緒に食べながら、「昨日、友達とごはん楽しかった?」と樹が聞く。去年まではスーパーやコンビニのお弁当とかカレーのテイクアウトが多かったけれど、今年は一人暮らしのペースが掴めてきて、だいぶ自炊できるようになった。休日に材料を切って、帰ってきたらそれを焼いたりお味噌汁にするだけにしておく、とか。それに「よつばの飯食べるようになってから、風邪ひきにくくなった」なんて樹に言われたら、多少疲れててもご飯を作ろうという気になる。


「え、あ、うん。久々だったしね。いろいろ話せて楽しかった」

「どんな話したの?」

「けっ…」


結婚のこと、と言いかけて美桜の「あんまり結婚結婚言うと男性にはプレッシャーらしいから、向こうが言い出さないうちは不用意に言ったり聞いたりしない方がいいよ。大きな魚逃すかもよ」という言葉を思い出して口をつぐむ。「美桜の彼氏の写真見せてもらったり、仕事のこと聞いたり…あとは学生時代みたいにくだらない話」と言い直す。


「俺のことも言った?」

「うん。写真も見てもらった」

「なんて?」

「かっこいいって。こんな先輩がいたって気づかなかったって」

「そっか。よつばも俺のこと全然認識してなかったんだもんな。まあ俺もだけど」

「美桜には、私は出土品と資料しか見てなかったって言われた」


樹はおかしそうに笑う。


「よつばのそういうところが好き」

「変わった人」

「まっすぐなところが好きなんだよ」

「ありがと」


キスしてから、ふと樹は言った。


「今年、よつばの校舎のコマ数少なくて寂しい。仕事中のよつばをあんまり見られなくて」

「ああ、そうだね。今年は私、国公立大理系クラスだけだから、授業の担当も外れたしね」

「古瀬先生も外れたのか?」

「古瀬先生のこと、まだ気にしてるの?外れたよ」


まだ眉間にシワを寄せている樹の顔に手をやって、シワをグニグニする。樹はようやく笑顔になった。こんなにかっこいいのに妬いてくれるのが嬉しい。


「社員メンバーはどんな感じ?」

「大幅に入れ替わったからどうなるかと思ったけど、校舎長がいい人だからやりやすい」

「ああ、あの人、地区本部校の副校舎長だった人だな」

「うん。あと森さんも頼れるし。新人さんがちょっとあれだけど…ま、私も人のこと言えないし、いろいろ助けてあげたいなとは思ってる。新しい仕事も増えてるから、まだ慣れるまで私も余裕はないんだけど」


「よつばは優しいな。人のこと優先しすぎて頑張りすぎるなよ」と樹はまたキスをくれた。

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