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幼き日の親友

作者: キサラギ ソラ

 気まぐれに書いてみた。本編が進まないのに書いたことは反省しているが後悔していない。

 そして誤字・脱字があったらごめんなさいm(_ _)m

 これは、幼き頃の懐かしい思い出、その一幕の話。




 時は小学3年の頃に遡る。

 当時の俺は茜を失った悲しみから立ち直れないまま、もうこれ以上大切な人を失いたくない一心で闇雲に鍛練を重ねていた。

他者との関わりを捨て、余分な時間は自らを鍛える時間としていた。

 そしてそんなことを続けていれば俺と関わろうとする者はいなくなっていき、いつしか俺は孤立するようになっていた。

 だけど、そんな俺にも優しく接してくれる人が一人だけいた。


「ゆうま。一緒に帰ろ?」

「みなほ。うん、帰ろっか」


藤井美奈穂。御滝沢市に来て初めてできた友達。


茜を失った俺が支えにしていたのは母のアイリスと美奈穂だけで、このときの俺にとって二人だけが世界の全てになっていた。


「ねえ、今日も遊べないの?」

「うん。ごめんね。でも、そのうち遊ぶ時間できるから」

「うん……待ってるね」


 自分を強くする。そのことしか見えてなかった俺は、気遣ってくれる美奈穂の優しさに気づかず、遊びに誘われても何か理由をつけて断り続けていた。


 成長した今からすれば、一体何様だお前と自分自身を殴り飛ばしたくなるような黒歴史だ。こんなことを続けていれば、いつか彼女も俺の側を離れていったかもしれなかったのだから。


 だが成長しても、美奈穂が離れていくことはなかった。

 それは俺が美奈穂が離れていくはずがないと、盲目的に彼女の優しさに甘え続けたからではない。ちゃんと彼女を見て、彼女のために己の時間を使うことを覚えたからだ。

 そして、その時間の使い方を覚えるきっかけになったのが、亮太と出会ったことだった。




 いつものように美奈穂と一緒に帰ろうとしていたある日の放課後。

 俺たちはグラウンドで何やら言い争う一団を見かけたのだ。


「何してるのかな? あれ」

「ん?」


騒ぎに気づいた美奈穂が一団を指差し、遅れて俺もそちらへ視線を向けた。


「あ、あの男の子。たしかゆうまと同じクラスじゃなかった?」

「えーっと、上級生に向かって何か言ってるやつか?」

「うん」


 一団はどうやらサッカーゴールを誰が使うかで揉めているようだ。声が大きくて、離れている俺たちにまで話が聞こえてくる。

 どうやら上級生、それも恐らく5年生の男子たち相手に、先に遊んでいた3年生たちが反発しているらしい。

 そして美奈穂が言っているのは、ほとんどの3年生が上級生に怯える中でただ一人、勇敢に立ち向かい反論している男子のことだった。

 その勇敢な3年生の名前は知っていた。


 広田亮太。勉強も運動もそつなくこなし、誰とも仲良くなれるクラスの中心的存在。

 だが外部から来た者への差別意識が残るこの町の風習のせいか、誰とでも仲良くなれる亮太も俺に話しかけてきたりすることもなく、このときまで全く接点がなかった。

 接点がない俺からすれば興味のない赤の他人。だから騒ぎを無視して帰るつもりだったのだが、一団の騒ぎが激しくなりだしてしまって状況が一変する。


「……いい加減、ウザいんだよ!」

「ぅわっ…!?」


 言い争いが激しくなり頭に血が昇った5年生が、亮太を突き飛ばしたのだ。


「よくもりょうたをなぐったな!」

「うるせぇ! お前らが出ていかないのが悪いんだろうが!」


 亮太が突き飛ばされたことで、それまで怯え腰だった3年生たちの怒りに火がついてしまう。

 そして一度火がついてしまえば両者とも止まることができず、殴り合いの喧嘩が始まってしまった。


「大変! 早く止めないと!」

「は!? あ、おい! 待ってみなほ!」


 喧嘩を止めようと走り出す美奈穂を追いかける。先生を呼んだ方が良いかと考えたが、美奈穂を放っておくことなどできなかった。


「けんかなんてやめなよ!」

「うるせぇ! 女が入ってくんな!」

「な! そんなのかんけーないじゃない! けんかなんてしちゃいけないのよ。それに5年生のくせに年下をなぐるなんてサイテーよ!」

「この…! ごちゃごちゃ、うっさいんだよ!」


 美奈穂は5年生たちのリーダーっぽい男子の腕を掴んで、喧嘩を止めるよう訴えた。しかし頭に血が昇った彼は言葉を聞き入れず、あまつさえ腕を振るって美奈穂を転ばせてしまった。


「みなほ、大丈夫か!?」

「……うぅ、痛い……」


 美奈穂の膝が擦りむけて血が出ていた。

 それを見た瞬間、元凶に対して激しい怒りを覚えた。


「おい、お前! みなほに謝れよ! 怪我までさせて!」

「そいつが悪いんだろ。女のくせに喧嘩に割り込んできやがって」

「このやろ……!……!」


 俺は爆発しそうな怒りをグッと押さえ込んで、もう一度謝罪を要求する。


「……もう一度言うぞ。謝れ、みなほに」

「しつこいぞ! 俺は絶対謝んねえからな!」


 ……我慢の限界だった。


 怒りに理性を呑まれた俺は、5年生のリーダーの腹に拳を入れ、一撃で動けないようにした。倒れた彼は腹を押さえながら痛みに悶え苦しんでいた。


 喧嘩を続けていた全員が、5年生のリーダーが倒れたことに気づき、俺に注目した。


 こいつらが喧嘩なんて始めたせいで、美奈穂が怪我をした!


 このときの俺の目には、5年生たちも3年生たちも、美奈穂を傷つけた『敵』に見えていた。


「お前ら全員覚悟しろ……!」


 それからはただの蹂躙だった。

 当時の俺は、母さんの護衛たちから軍隊式のマーシャルアーツを未熟ながら習っており、素人の小学生十数人を相手にするなんて楽勝だった。

 彼らの中には空手などの格闘技を習っている者もいたようだが、毎日がむしゃらに自身を鍛え続けた俺の相手にはならなかった。


 よって、俺は先生たちが騒ぎを聞き付けてくるよりも早く、その場の全員を制圧したのだった。


「はぁ……はぁ……」


 息を切らしながら倒れ伏した者たちを見下ろす。


 美奈穂を傷つけた『敵』を倒した。そのはずなのに、俺の心がスッキリ晴れることはなく、むしろ何か引っ掛かりを覚えた。


 これでいいはずなのに、どうして……?


 その疑問の答えがわからず立ち尽くしていると、突然背後から、


「バカかお前! 何したかわかってんのか!」

「……!?」


 振り返る。すると痛む腕を庇いながら俺を睨む亮太が立っていた。

 

 顔色が悪い。相当痛いだろうに、無理して立っているようだ。


 何で立っていられるんだ!? 


 驚愕する俺の前に亮太が近づいてくる。


ーー倒さないと。


 そんな思考が過ったが、亮太の怒りに気圧され判断が一瞬遅れてしまった。

 亮太の手が、俺の胸ぐらを掴む。


「何でお前が喧嘩に混じったんだ!」

「それは、お前らのせいでみなほがケガしたから……」

「だからって、お前が喧嘩しちゃ意味ないだろ! あの子は『喧嘩』を止めたかったんだろ!? なのにお前が喧嘩してどうするんだよ! お前が喧嘩してるとき、ずっとあの子はお前に『やめて!』って言い続けてたんだぞ!」

「え……」


 言われて初めて、俺は美奈穂の方を見た。


「…………ぁ」

「……ぐすっ、……ゆうまぁ、もう、けんかなんてしないでよ……。やめてって、ずっと言ってるのに……何で、やめてくれないのぉ……」


 彼女は泣いていた。俺を見て、俺のことを悲しんで、俺のために涙を流していた。それを、亮太に言われてようやく気づいた。


 そしてそれを見た俺は、自分がとんでもない間違いをしていたことを自覚する。


「お前が泣かしてどうすんだよ。あの子がケガしたなんて言い訳して、お前がけんかしたかっただけじゃないのか……?」

「お、俺……俺は……!」


 自分が美奈穂を喧嘩する理由にして、無意識に喧嘩をすることのなった責任を彼女に押し付けていたことに気づき、俺の心は処理しきれないほど乱れまくる。


 なんてことだ。大切な美奈穂を守りたくて、失いたくなくて力を求めていたくせに。

 最も大事な理由を見失って、結局自分が彼女を悲しませ、傷つけているではないか。


「ごめん。ごめんよ、みなほ。俺が悪かった。だからもう泣かないで。悲しまないで。ごめん。本当にごめん」


 俺は美奈穂に謝り続けたが、彼女が泣き止むことはなかった。




 その後、騒ぎに気づいた先生たちが駆けつけ、その場にいた全員はこっぴどく怒られた。

 学校に保護者たちが子供たちを迎えにくる大事にまでなってしまい、連絡を受け学校に迎えに来た母さんは、俺が全員を怪我させたと知ると保護者たちに謝罪して回っていた。


 母さんに、頭を下げさせたのは、俺のせいだ。


 それがとても心苦しかった。


 帰り道。母さんは俺を叱らず、何があったのかとそれだけを聞いてきた。

 俺は母さんの優しさに泣きそうになるのを堪えながら、全てを話した。


 喧嘩を止めようとした美奈穂が怪我したこと。それについて謝るよう求めたら断られて、怒りに呑まれて全員を倒してしまったこと。亮太に言われて、自分が美奈穂を理由にして喧嘩をしていたことに気づいたこと。それで美奈穂を泣かせてしまったこと。


 全てを話し終えたとき、俺は泣いていた。


「ユウちゃんは偉いわ。ちゃんと自分の間違いに気づけたんだもの」

「でも、俺は……!」

「間違えたのなら、直せばいいのよ。間違いに気づいたユウちゃんなら、今度はちゃんと間違えないで美奈穂ちゃんを守ってあげられるわ」

「……」

「それともユウちゃんは、もう美奈穂ちゃんを守ってあげないの?」

「……! そんなことない! 美奈穂は俺が守るんだ!」

「ふふっ、なら今日のことは忘れちゃダメよ。ちゃんと覚えて、また同じ間違いをしないよう気をつけるの。わたしの可愛いユウちゃんなら、できるよね?」

「うん! 母さん、俺頑張るよ!」

「その意気よ! さ、早く帰ってご飯にしましょうね~」


 そして翌日から、俺の世界は少し変化を見せた。


「お~い、ゆうまー」

「りょうた……?」


 美奈穂は別のクラスで、彼女と話すのは始業前か放課後ぐらいだった。だから休み時間は基本一人で過ごすのが当たり前だったのだが。


「お前ってすっごい強かったけどさ、何か習ってんの?」

「あ、ああ。ちょっとだけ」

「へー!何習ってんのか教えてくれよ!」

「お、おい! 何でそんなこと教えないといけないんだよ!?」

「えー、いいじゃんか。俺たち友達なんだから」

「は? え、俺とお前が、友達?」

「そうだろ?」

「誰が友達だよ! 俺の知らない内に友達にするな!」

「はっはっは!」

「笑ってごまかすなー!」


 その後も亮太は俺に話しかけてくるのを止めず、根負けした俺は意地を張るのをやめて友達になり、いつしか親友と呼べる間柄になることになる。


 そして俺は無理な鍛練を夜だけにして、美奈穂や亮太と遊ぶ時間を増やし、己の大切な存在をちゃんと見る余裕を覚えるのだった。



 この話ではまだ本編に出ていない「茜」という少女の名前が出てきましたが、彼女は悠真に多大な影響を与えた少女であります。本編ではとうぶん出てきませんが、いつか彼女についての話は出すつもりです。


 本編はそのうちだす。

 せめて今月中には!

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