地獄門
「おらぁ!!」
「ぐっ!」
とある高校の昼休み、不良3人組に殴られている男子高校生
「いつものパンがねぇとか言い訳すんじゃねぇ!」
「だ・・・、だから、それは・・・」
「ああ?もう一度殴られてぇみてえだな」
「おい、お前は俺たちの飼い犬ってことを忘れちまったんじゃねえか?」
「あり得るな、そんじゃ」
2人は男子の両手を持ち上げ、身動きできないように拘束
もう一人は、どこからか金属バットを握って振り上げる
狙う場所は・・・
「カーーン!!」
股間だ
「~~~~~~~~!!!!!!!」
「ギャハハハ、この声と顔たまんねぇ!!」
「いいね、この顔SNSにアップしようや」
「タイトルは、悶える顔にしよっか」
「・・・や、やめてくれ・・・」
「あ?よく聞こえねぇなぁ」
「今更懇願したって、もうアップしちまったぜ」
リーダー格の男が、男子の頭をつかみ
「いいか、これ以上俺たちに逆らうなよ。お前は俺たちの奴隷なんだからな」
「うひょー!奴隷か、何でもいう事を聞いてくれるっていう」
「飼い犬以下になっちまったな」
「もし、逆らったらこれ以上の苦痛を味わわせてやる。覚悟しとけよ」
男子は、男の威圧に耐えられずコクンと頷いてしまう
股間の痛みがまだ痛烈に残っているからだ
「よし、明日もいつものパン買ってこい。いいな?」
それを言い残した後、男たちは去っていく
残った男子はまだ苦しんでいた
どうして?
どうして、自分だけこんな目に遭うんだ?
あの3人とは中学から絡まてれいる
最初は、ノートを破られるとか、机に落書きされるとかだったが
学年が上がるにつれてエスカレート
中3のときから今のように殴られるようになった
自分には何の力もない
ただ無力だけの弱い男子
何とか、この状況を打破したい
しかし、打破したところで
また奴らに仕返しされるかもしれない
そんな恐怖が彼に深く刻み込んでいた
担任の先生にも何とかしてくださいと相談したものの、ほとんど相手にされなかった
それどころか、「お前が悪い」と一点張り
もう、自分は何のために生きているんだ?
あいつらが言うように、僕は奴隷なのか?
今日はいつも以上にひどかった
購買でいつもあいつらが好んで食べるパンを買いたかったのに
先に他の生徒に買われてしまい、売り切れた
それをちゃんと伝えようとしたのに
答える前に殴られる始末
放課後、傷だらけのまま下校
一人河原を俯きながらトボトボ歩いていたら、
「そこの少年」
聞き覚えの無い男の声
顔をゆっくり上げる
視線の先には、全身黒のすごく細い服を着て、黒のハットをかぶった男
顔はハットが影となっていてよく見えない
男はゆっくり近づいてきて
「・・・あ、あの、僕に・・・何か・・・?」
質問しても答える気配がない
「あの、用もないのに声を掛けないでください」
男子はそうきっぱり言いながら去ろうとしたとき
「用心しろ」
その言葉だけはなぜかはっきり聞こえる
男子が振り向いた時には男の姿はなかった
一体、何者なんだ?
「ただいま」
帰宅しても誰もいない
両親は仕事の関係で出張することがしばしば
いつものように夕飯の支度をするにも、昼の痛みのせいか食欲がない
それに、勉強する気力もない
「何だか疲れた」
男子は自分の部屋の床の上に寝転び、そのまま眠りについた
その結果、風邪をひく羽目になった
丁度この時期は、寒暖差が激しい秋
学校にも風で休むと連絡を入れた
休む
そのことを考えると、あいつらから殴られることもしばらくない
解放されたかのように、心が少し軽くなった気がする男子だった
三日後、男子の風はすっかり治り、いつも通りに登校
教室に入る前に襟元をつかまれる
「おい、今日の夕方ここに来い」
いつもの不良たちが男子に場所を告げる
何だか、妙な胸騒ぎを感じた
その日の昼は不良たちに絡まれることなく、普通に過ごした
「何か、変だな」
いつもあいつらに殴られたり、パシリにされたりとの繰り返しだったけど、それがないのは変
こういう考え方をする自分も変・・・かな?
放課後、不良たちに指定された場所へ向かう
そこは、街中でも人通りがめったにない路地裏
男子がそこへ入っていくと、待っていたかのように不良3人組がたむろしていた
「おいてめぇ、3日間いねぇとかこっちはずーーーーっと退屈だったんだぞ!!」
「・・・い、いや、だから、風邪を引いたんだって!」
「風邪だろうが何だろうが、学校へ来るのがテメェの役割だろうがよ!」
「む、無茶言わないでくれ。君達だって、風邪をひいたら休むだろ?」
ごくごく当たり前のことを言う
しかし、
「てめぇ、いつから俺たちに反抗するようになったんだ、あ?風邪って、嘘だったんじゃねえのか?」
「う、嘘じゃない!」
「じゃあ、それを証明してみろや!」
「しょ、証明って・・・」
どう証明するかも分からない
「答えられねぇってことは、嘘だったって事じゃねえか!」
「3日間、俺たちを騙した罰をこれから与える」
「もう二度と逃げられない体にしてやる!」
男たちはじりじりと近寄る
男子は、この3人とことん馬鹿だなと思った
その時
「痛っ!」
リーダーの額に何かが当たる音
それは、小石
「だ、誰だ!俺に小石をぶつけた奴は?」
背後から靴音が聞こえてくる
誰かがこっちに近づいてくる
そんな恐怖感がその周辺に漂っていた
「少年、私は忠告したはずだぞ。用心しろとな」
聞き覚えのある声
あの時の男の人だ
「だ、誰だてめぇ?」
リーダーが問うと
「私は、貴様らを裁く者だ」
・・・・・・
「・・・ぶっ、ブハハハハ!俺たちを裁くだなんて、おっさん。中二病のままじゃねえのか?」
「よそ者は帰った、帰った」
「用もねぇのに来るんじゃねぇよ」
男はため息をつきながら
「貴様らのような悪の塊が、この世界を穢すんだ」
「悪?おい、おっさん。悪はあんたじゃねえの?俺たちはこいつに正しい制裁を与えようとしているだけだ」
「そうそう、そんな屁理屈な言葉ならべてないでとっととウチに帰ったらどうだ?」
「やれやれ、どうやら言葉だけでは変わらんようだな」
男は一歩、また一歩と近づく
「来るな!これ以上来たら、こいつの喉を切る」
リーダーは男子の後ろに回り、隠し持っていたナイフで脅迫
しかし、男は歩くのをやめない
「く、来るな!ほんとに切るぞ!」
「おじさん、やめてくれ」
それが聞こえたのか、男はぴたりと止まる
「何だ、ちゃんと聞けるじゃねえか。なら、さっさと帰れ!」
男は目を閉じ、
「他人の心をいたぶり、優越感に浸る貴様らは心を改善しようともしない。貴様らには一度地獄を味わってもらうしかないようだ」
「おっさん、いい加減にしねぇと、てめえから殺すぞ」
リーダーの額に血管が浮き出る
「では、三つ数える。一つ・・・二つ・・・」
「もういい。てめえから殺す!!」
リーダーはナイフを持ったまま男に襲い掛かる
「三つ!」
男はぱちんと指を鳴らす
リーダーを含めた不良たちは身動きが出来ない状態になる
「な、何だこれ!」
「か、体が動かねぇ」
「てめぇ、何しやがった!?」
これはいわゆる金縛りというものだ
「人通りの少ないところを選んでくれて感謝する」
「何訳の分かんねぇことを言ってやがるんだ、ぶっ殺すぞ!!」
男は次に両手をパンと顔の前に持っていき
「出でよ、地獄門」
動けない不良組の後ろに巨大な門が現れる
その門は、とても古びた木製の門
しかも、ただならぬ寒気も感じる
「お、おい、何する気だ?」
「これから貴様らに100年間地獄を味わってもらう。その後に待っているのは、無だ」
「ふざけんじゃねぇ!100年とか生きられるわけねぇだろ!なあ、お前も何とか言ってやってくれ」
リーダーは男子に懇願
しかし、男子は意外と冷静に
「以前、僕も君達にこんな感じに懇願したことがあったよね?でも、聞く耳持たずに僕を殴ったり蹴ったりした。その苦しみを僕以上にじっくり味わうといいよ」
「・・・て、てめぇ、俺たちを見捨てる気か!?」
「見捨てるも何も、僕は君達との縁を切りたかったし」
「・・・て、てめぇ・・・」
「さようなら」
「ま、待ってくれ・・・!!」
涙を流しながら
「お、俺たちが悪かった!もう二度と、こんなことはしねぇ!約束する!」
「真っ赤なウソだな。貴様らには反省という二文字が見られない。門の中でしっかり反省しろ」
男がバッサリとリーダーの心を折る
「では、100年後までごきげんよう」
男はもう一度指を鳴らし
門がゆっくりと開いていく
中から無数の手が出て
不良たちを捕まえる
「た、助けてくれーーー!!」
リーダーの叫び声も虚しく、門が締まる
「さて、少し待つとするか」
男は懐中時計を取り出す
「あの、・・・あ、あなたは?」
「地獄門の門番をしている者だ」
「あれが、地獄門」
こんな都市伝説がある
いじめを繰り返すものに突如として現れる黒服の男
その男が呼び出した門は「地獄門」呼ばれ、
いじめをした者に普通では味わえない地獄を味わわせる
その後に待っているのは・・・
まさか、実在していたなんて
中はどうなっているんだろうと気になる
「あまり見ない方がいい。見続けると、狂気に陥るぞ」
男が注意する
「ああいう者たちは、心を改善する気持ちが全くない。表では反省しているように見えるが、裏の顔は倍返しするというのが鉄板だ」
それ、ドラマや漫画で見たことがある
そう思う男子
「あの、つかぬ事を聞くんですが、あなたはどうやってここを突き止めたんですか?」
「簡単なことだ、お前の心を見ているからだ」
「僕の心?」
「河原で会ったことを覚えているだろ?あの時に、お前の心の状態を見た。それで、私はこれ以上お前をほっておいてはあの者たちの好き勝手にされる危険性があると認識した。それから、お前の心をずっと見続けている」
ある意味ストーカーのような行動だ
もう一つ気になることを聞いてみた
「あの、僕も100年待たなきゃいけませんか?」
「その必要はない。もうじき終わる」
「もうじきって・・・」
すると、門がゆっくり開いていく
「彼らの地獄の制裁が終わった」
中から出てきたのは、完全に変わり果てた不良組
その姿は、老いぼれそのもの
「あの、彼らは・・・」
「もう死んでいる」
「し、死んでるって・・・。殺したんですか!!?」
「正確には地獄の者たちが殺した」
さらりと言う
この人が言っていた「無」というのはこの事だったのか
「さて、お前に見られてしまった以上、記憶を改ざんせねばならん」
男は男子の額に触れ
「な、何を・・・」
「ここで見たこと、お前に関わった者の事、それらの記憶を抹消。そして、周辺の事情も変わる」
「な・・・」
とんでもないことを言っている
光が彼を包み込んでいく
目を覚ますと、自分の部屋の光景が映る
日付は、翌日の朝
「あれ?僕はどうしてたんだ?」
なにかとんでもないことに巻き込まれた感があった
しかし、思い出そうにも思い出せない
朝食を取り、登校
ホームルームで
不良3人組は殺人未遂の疑いで逮捕されたというニュースが流れたらしく、学校側はすぐに彼らを退学させ、同時に担任もいじめの報告を怠っていたとして、教諭免許を剥脱され、新しい担任の先生が教団に上がる
男子は、気付いていた
その3人はもう死んでいるんだと
どうやって死んだかはわからないまま
どうも、音聴走真です
ちょっと、短編を書いてみました
勿論、異世界に転生したら何故か世界最強になってましたも随時更新します