悪い知らせともっと悪い知らせ
「レイアもミアも見つかってない!?」
「ご、ごめんなさい」
俺は思わず声を荒げてしまい、オムリィは申し訳なさそうに声を返した。
「い、いや、ごめん。何か情報はないのか? さっきの私立探偵に聞くとか」
アンジュは俺を送り届けると、自分の仕事は終わったと言ってすぐに立ち去ってしまった。
俺をすぐに見つけた魔法があるならば、あの二人を見つけることも容易いことのように思える。
「うん、頼んだんだけどね。”厄介ごとに巻き込まれている人”はごめんだって言われて受けてもらえなかったんだ」
「そんな……」
この世界には他にも探偵はいるのか?
警察や何か他の機関に捜査を頼むことはできないのだろうか。
「これは推測だけど、アンジュが”厄介ごとに巻き込まれている”と言ったということは、少なくとも命に別状はないってことじゃないかな」
「ああ、そうかもしれない」
しかし、同時に厄介ごとに巻き込まれているんだ。
無事は保証されていない。
「手掛かりとして、この付近の町に異形の者の目撃情報があるわ」
オムリィは地図を示しながら説明した。
こちらの世界の人にとって異形ということは、俺たちの世界の人間ということだ。
「ただ同じ場所でオダ君が暴れたって報告があるから、オダ君のことかもしれない、けど」
「けどってことは何か引っかかるのか?」
「最初はただ『異形の者がいる』っていう目撃情報だったの。それに対してオダ君は暴れているという報告もある。もちろん、初めは大人しくしていただけなのかもしれないけどね」
「最初の目撃情報はミアかレイアで、オダとは別だと?」
「うーん、そうかもなあって思うけど、特に根拠はないの。確認しないとね」
「じゃあ、まずはその町での聞き込みから行うか。ところで、オダの情報は他にもあるのか?」
「その町で暴れたのが昨日のことで、それからは何も報告はないの。その前は立て続けにいくつかの町で被害報告があったんだけどね」
「オダも最後の手掛かりはその町か」
まずはその町の場所を確認し、起きうる事態の想定と対策を相談することにした。
オムリィが地図のデータをディスプレイ上に移したとき、警報が鳴り響いた。
「なんの警報だ?」
「そんな、嘘」
オムリィは顔色を蒼白にしてどこかに連絡を取り始めた。
「な、なあ、これ何が起きたんだ?」
状況がわからない。
わからないが、オムリィの焦り方からただ事でないことは想像できる。
ミアやレイアに害が起きるような事態か?
「せ、戦争が」
戦争。
それは俺の世界では歴史上の出来事としてしか語られることがない。
ある意味で御伽噺に近い出来事だ。
それが、この世界では普通に起きることなのか。
「それは、避難、とかした方がいいのか?」
「ちょ、ちょっと待ってて。ワタシもどうしたらいいか確認するから」
オムリィもどうしていいかわからないということは、頻繁に起きることではないのだろう。
この世界の戦争はどんなやり方で行われるんだ。
どこが戦場になるかわからないが、そこにミアやレイアがいる可能性はないのか。
「ルイ、わかったよ」
「そうか、とりあえずどこに行けばいい?」
「国境に向かう」
国境。というのは国と国の境だよな?
一番戦地になる場所なんじゃないのか?
俺の動揺を察したのかオムリィが詳しく状況を説明してくれた。
「まず、隣国カルセイワンからの攻撃があると判断されたんだけど、これは戦争ではなかったみたい。正確には“まだ”戦争じゃない。攻めてきているのはオダ君だって」
「オダが!?」
嫌な予感はしていた。
普段は起きないことがこのタイミングで起きる。
ということは俺たち異分子が原因である確率が高い。
「なんでオダ君がカルセイワンの方から攻めてきているのかはわからない。でも、彼に対応できる可能性があるのはワタシたちだけだから」
「行くしかねえか」
そもそも俺がこっちに来たのはオダを倒すためだ。
この事態を他人事として無視はできないだろう。
「でも、そこまでどうやって行く?」
残念だが、俺は空を飛んでの移動はできない。
乗り物は発展していないようだし、アンジュがやったようにオムリィにもおぶってもらうか?
それは少し恥ずかしいな。
「わかってる。これに乗って!」
研究所の外には一畳ほどの大きさの鉄の板が置いてあった。
「えーっと、これは?」
見た目はただの鉄板だが、もしや魔法の乗り物なのか?
その上に立ってみたが何かが起きる様子はない。
「鉄板よ」
鉄板だった。
こちらの世界でも鉄は鉄なんだなあ。
「いや、そうじゃなくて! これに乗ってどうしろっていうんだ」
「ワタシが動かすの」
オムリィは俺の隣に立ち、呪文を呟き始めた。
「重力加速度反転。上昇気流生成。防護壁生成。運動エネルギー制御。あと熱エネルギーも入れとこうかな」
「お、おお、浮いてる」
俺たちの立っている板は風に乗り、どんどん浮き上がっていく。
「よく友達とこうして遊んでたの。他の人の魔法でコントロールされる適度な怖さが面白くてね」
「あー、そうだな。うん。怖いな」
これはアンジュの背中より数倍怖いぞ。
何よりも高い。
そして今オムリィが呟いてる指示からすると――
「さあ、急いで行くよ!」
「は、速いいい」
アンジュの走りよりさらに速い。
こっちの世界の人たちの恐怖のリミッターは外れているのか。
「着くまでに現場を確認しておくね」
オムリィは巻紙型のディスプレイを広げて国境の映像を映す。
「い、いや、目を開いている余裕は」
「ルイ!」
俺はオムリィの驚いた声に反応して、辛うじて目を開ける。
しかし、その映像が目に飛び込むと、思わず目を見開いた。
そこにはオダともう一人の姿が映っている。
「ミ、ミア」




