表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/40

決戦

 

 レイアがいなくなった?


 レイアが、いない……?


 そんな馬鹿な。


 俺はレイアを探して学内を走り回った。

 警備員はレイアが構内から出る姿は見ていないと言っている。


 きっとトイレにでも隠れているんだろう。

 そうに違いない。

 しかし、自分に言い聞かせる言葉は空虚に響いていた。



「今すぐに映像化できるカメラには写ってないようです」


 秘書さんも協力して探してくれたが、レイアの行方はわからなかった。


 俺は諦めずに探した。


 探して、探して、探し続けた。



「ここには戻ってないか」



 夜もすっかり更け、いつものレイアならとっくに寝ている時間だ。

 眠くなったら戻ってくるかと思い、研究室に戻ってみた。

 しかし、そこに人がいる気配はない。



「どこにいるんだよ……」



 俺の言葉は、部屋の空気に溶け込むように消えていった。


 呼びかけに応えてくれるものはない。


 俺は途方に暮れて、その場に座り込んだ。


 どこを探せばいいのか。

 もう思いつく場所はないのか?

 可能性を見落としていないか?

 頭をフル回転させて思考しようとするが、疲労からか、上手く考えることができない。


 ただ、茫然と何もない宙を見つめている。



 何も、ない。



 ……いや、何か感じる。


 そこには何も目に映るものはない。

 だが、確かに何かの存在を感じる。

 なんだこれは――光?

 何も見えていないのだが、これを表現するならば、光だと脳が判断している。


「もしかして」


 俺が立ち上がり、その存在に近づこうとすると、気配が動き出すのがわかった。


「待ってくれ!」


 俺は慌ててその気配を追う。

 どこへ行くんだ。


 その気配は構内から出て、駅の方向へ向う。

 途中で人気のない路地の方へと折れると、その先に建っているビルの中へと入っていった。

 ビルは廃墟となっており、その扉の鍵は機能していなかった。

 俺が躊躇う間もなく、その気配は階段を駆け登っていく。

 俺はビルの中に飛び込み、息を切らしながら必死でその気配について行った。


「あれ――」


 ようやく移動が終わったのは、そのビルの屋上だった。

 そこにはフードを被った人が立っていた。

 俺の言葉に反応して振り返った顔を俺は知っている。


「オダ君、こんなところで何を……?」

「それはこちらのセリフですよ」

「俺は何かの気配を追ってきたらーー、いやそんなことより、レイアがいなくなったんだ! 心当たりはないか?」


 オダ君はこちらの問いかけには答える様子がない。

 今はまた、こちらに背を向けてしまっている。

 いったい何をしているのか。

 何やら地上の方を気にしているようだ。

 俺はオダ君の隣に並び、ビルの屋上から身を乗り出すようにして、下を覗いてみた。

 そこでは数人の男が何やら騒いでいる。

 一人は寝転んでいるようだが、酔っ払いか?

 その男達がこちらを見上げて指さしてきた。


「ああ、エリクセンさん。余計なことをしてくれますね」

「え? 俺はただオダ君が何やってたいのかと思って、見てただけだが」

「それが――、まあ、いいです。あまり関係のないことなのですぐに立ち去ってください」


 オダ君は俺を来た方へと押し返そうとする。

 そこまでされると、さらに興味が湧いてしまった。

 こんな時だろうと、わからないことは知りたくなるのは研究者の性だろうか。

 それに、あの"光"が俺をここに連れてきた理由も、まだわかっていない。

 一度は追い返されたフリをして、下の階に隠れることにした。


 少し経つと、数人の人が階段を勢いよく駆け上がってくる音が聞こえた。

 先程の男性たちだろうか。

 その男たちは何やら怒っているようで、罵声を吐きながら屋上の扉を開けた。


「大丈夫なのか?」


 心配になり、扉の隙間から屋上の様子を確認してみる。

 オダ君はその男たちに囲まれて、何やら問い詰められている。

 しかし、当の本人はどこ吹く風で、何かをブツブツとつぶやくばかりだ。

 すると、突然オダ君と男たちの間に複数の光の球が生じた。

 その玉から閃光が走ったかと思うと、男たちはうめき声を上げて、バタバタと倒れてしまった。


「今のは!?」


 一瞬だったが、何かの道具を使う素振りは見えなかった。

 とすると考えられるのは――


「オダ君! まさか魔法を使ったのか!?」


 俺は扉を開け、再度屋上へと飛び出した。

 それを見て、オダ君はゆっくりと口を開く。


「見て、いたのか。立ち去るように言ったはずなのに」

「そんなことより、魔法を使ったのかどうか答えてくれ!」

「ええ、使いましたよ」


 オダ君は平然と言ってのけた。

 やはりあれは魔法だったのか。

 こちらの世界でも使えたなんて。


「逆に聞きましょう。あなたは何故使っていないのですか?」

「何故と言われても」

「あの世界から送り込まれるのは、エネルギーなのか魔素なのか。それを実証する一番の方法は魔法が使えるかどうかでしょう。これだから修士卒は」


 それは、そうなのかもしれない。

 しかし、魔法という、こちらの世界の理を凌駕する力を、おいそれと使ってしまっていいのだろうか。


「まだ何の確証も得られていない力を、むやみに使うんじゃない!」

「実験なしに得られる確証などありませんよ」

「それにその力を人を傷つけるために使うなんて」

「コイツらは殺しちゃいませんよ」


 オダ君は倒れている男達を足蹴にした。

 蹴られた男たちからはうめき声が聞こえる。


「僕だって、殺したくはなかった。そんなつもりはなかったんだ」


 なんの話だ。

 殺したくはなかった?

 今殺してないと言ったばかりじゃないか。

 まさか。


「誰かを殺したのか」


 その問いかけに返答は返ってこない。


「殺したのか? 答えろ、オダぁ!」

「ああ、殺したよ。だが、今になってみればそれで良かったのかもしれない」

「ふざけるなよ」


 殺していいなんて話があってたまるか。


「もともと、手に入らないものだったんだ。それなら、死という形で、僕だけのものに。僕の手によって初めてを奪った。その経験は僕だけのもので、2人だけの秘密だ」

「おい、何を言ってるんだ、それじゃあまるでーー」


 知り合いを殺したみたいな言い草じゃないか。


「まさか、お前」


 オダ君の知り合いで、思い当たるのは――


「そうだよ。ミア・コスタは僕だけのものになったんだ」

「てめええ!」


 俺は叫んだ。

 喉が千切れようと構わない。

 この怒りの丈は抑えることなどできずに溢れだした。

 気づけば俺は拳を握り、オダの顔面を殴り飛ばしていた。

 拳には血が付いた。

 それがどちらの血かはわからない。

 ただ、痛みなどは感じる余裕もなく、俺は二回目の拳を叩き込もうとする。

 しかし、その攻撃は目の前に現れた炎の壁に遮られてしまった。

 殴られ、地面に這いつくばっていたオダがゆっくりと立ち上がる。


「さすがに、直情的な攻撃よりは遅くなってしまいましたが」


 奴は口に溜まった血を吐き、言葉を続けた。


「これが魔法です」


 何やらブツブツと言っていたようだが、呪文を詠唱していたのか。


「野蛮な攻撃をしてくるのも勝手ですが、それならこちらは叡智を持って対応するまでだ」


 そう言ってまた早口で何かを言い始めた。


「角度下方15°左方5°、波長532 nm、出力5000 W、径2 cm2、露光5 s、CW方式、エネルギー生成、速度光速、放射」


  言い終ると、光の球が生成された。

 そして、その球を起点として、こちらに向かって光線が放たれた。

 脳がその光を認識したのと同時に、足に熱さを感じた。

 熱を感じた右足に手をやると、太ももの辺りに小さな穴が貫通しており、そこからは血が噴き出していた。


「ぐああああああああああ!」


 俺は叫び声を上げた。

 その声にはわずかにオダの笑い声が重なっている。


「さて、どうしましょうかね」


 俺は苦痛に顔を歪め、その場に倒れこむ。

 痛みに苦しみもがいている俺にオダが近付いてくる。


「エリクセンさんは魔法のことを知っている。魔法でやられたなんて誰も信じないだろうが、それでも不安の種は残ってしまうな。死体も残らないし、殺してしまうのが早いが、それではあの世でミアと再会してしまうかもしれない」


 オダは自分の考えを整理するように、呟きを発している。

 俺は朦朧とする意識の中でオダの方に向き直り、左手を掲げた。


「おや、どうするつもりですか?」

「フ、ファイヤーボール!」


 俺は基礎魔法であるファイヤーボールを唱えた。

 しかし、何も起きる様子はない。


「か、かはははっは! 研究不足ですねえ! こちらの世界ではファイヤーボールというだけでは火球は生じないんですよ」


 ちくしょう。

 やはり細かく指示を出す必要があるのか。

 しかし、今の状態では、冷静に計算できるほど頭が回らない。


「いいいでしょう。博士課程の身として、僕がご教授いたしましょう」


 オダは俺の方向に右手を掲げ、呪文を唱え始めた。


「空気中の二酸化炭素、水素のポテンシャルエネルギー上昇、化学結合切断、活性化エネルギー減少、炭化水素合成、範囲10 cm3、熱エネルギー生成、酸素に運動エネルギー、酸化促進、範囲20 30 40 cm3」


 オダの手の前に火球が生成され、その大きさをどんどん増していく。


「やはり一思いに殺してあげましょう。僕の優しさです。あの世で2人と再会してください」

「2人……?」

「ええ、言ってませんでしたっけ?」


 ミアともう一人、俺たちの共通の知り合いといえば――


「あなたの娘さんは仲の良い友人ということなので、僕からミア・コスタへのプレゼントとして送っています」

「て、てめええええ!」

「運動エネルギー生成、角度0°、速度160 km/h、放射」

「ぶっ殺してやる!」


 直径2 mほどの大きさまで膨れ上がった火球がオダの手を離れた。

 俺にできるのは殺意を込めて、その火球を睨むだけだ。

 徐々に近づくその時間がやけに長く感じられる。


「おい、何故だ」


 オダの声が聞こえる。


「ふ、ふざけるな。僕の指示通りに動けよ!」


 気づけば火球は動きを止め、今度は逆にオダに向かって進み始めていた。


「あ、あああ、ま、待て、僕は正義のためにこの力を――」


 火球はスピードを急速に上げた。

 その言葉は最後まで発されることはなく、声の主は火球に飲み込まれて、断末魔の叫びをあげる。

 その悲鳴を聞きながら、俺の意識は途絶えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ