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094. 褒賞

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。



 翌日、城に参上するため馬車で王城に向かっていた。もちろん、王に呼び出されたからと理由で、既にアポイントメントはヘルマンにとってもらっている。頼もしいことにヘルマンも王との拝謁の時には同席するように言われているらしい。


 城門で止められたが、御者台に座るダルシムが紋章を見せたらしく、すぐに馬車は進みだした。


 守備兵が両側にずらりと並ぶ中を馬車は進んでいく。兵の中には見知った者もいて兵士達は俺が乗っていることが判ると笑顔を見せた。

 ふぅ、よかった。最悪の場合、俺を殺す罠の可能性もありうると考えていたが、兵士達のこの様子からするとその可能性は低そうだ。


 城の表の入り口前で馬車は止まった。約束通りヘルマンが待ってくれている。


「おはよう、ヘルマン」


「おはようございます、閣下」


「今日はこちらの入り口か。裏口じゃないんだな」


「とんでもない! 護国卿閣下を裏口などには案内する者は城にはいません」


 なるほど、人によって使い分けているのか。ま、これだけの人を常に待機させておくわけにもいかないし、当然のことだな。


 侍従達が恭しく開けてくれたドアから城の中に入った。

 先日、チラッと見かけたが大きな絵画や金ぴかの鎧などが展示されていて、こっちの入り口は煌びやかだ。俺が納めたドラゴンの牙の剣もいつかここに飾られるのだろうか。


 侍従達の案内で城内を進んでいく。どうやら今日も拝謁の間のようだ。

 拝謁の間にまだ王の姿はなく、近衛と思われる騎士達がずらりと並んでいた。どうやら今日は同席する貴族はいないようだ。


 ヘルマンと一緒に所定の位置に片膝をつき王の登場を待っていると王と宰相が入室してきた。慌てて頭を垂れる。


「直答を許す。……よく来たな、コリント卿」


「は。陛下のお呼びとあらば、いつ如何なる時であろうと参上いたします」


「昨日で賊の取り締まりを終えたと聞いた」


「は。王都の賊は一掃できたと考えております」


 王都にはまだ犯罪者がかなり残っているはずだ。果たして一掃したと言っていいのだろうか?


「何名の賊を捕らえたのだ?」


「総勢八百三名になります」


「見事だ。大義である」


「はッ、ひとえに私にバール卿を付けていただいた陛下のご助力と御威光の賜物かと存じ上げます」


 これは本当のことだ。守備軍の協力がなければここまでスムーズにはいかなかっただろう。


「確かに兵の働きも見事だったと聞き及んでいる。ヘルマン、大義である」


「は、もったいない御言葉です。しかし、コリント卿の仰るように陛下の御威光ゆえのことかと。今、王都は陛下を称える声で溢れております」


「そうか。では、コリント卿に無理を言った甲斐があるというものだ。コリント卿、褒美に何を望む?」


 やはり金かな? いや、ここは一度断るべきだろう。


「私は陛下の臣にございます。陛下の願いを叶えるは我が喜び。褒美は無用にございます」


「コリント卿。そういうのは、今はよい。正直に申せ」


「……では、恐れながら。我が領地が整った暁にはこの王都から領民を募ることをお許しいただけないでしょうか?」


 別にどこの領地の人間でも構わないが、人で溢れているこの王都から引き抜くのが一番スムーズにいきそうに思える。


「……欲のないことだ。よかろう、見事領地が開拓できた暁には私の名で布告を出そう」


「ははッ、感謝いたします」


「孤児や職人などを連れていくそうだな。……できれば孤児や貧しき者を優先してくれると嬉しい」


「は。元よりそのつもりでございます」


「そうか。しかし、褒美がそれだけとは私の沽券にも関わる。少ないが五百万ギニーも受け取れ」


「はッ! 感謝いたします」


 八百人で五百万ギニーなら一人当たり六千二百五十ギニーだ。通常の盗賊捕縛の褒賞金が五千ギニーだから妥当な額だといえる。


「加えて、引き続き護国卿を任せる」


 ほう。てっきり今日でお役御免かと思って護国卿の盾を持ってきていたが、このまま持っていていいようだ。


「陛下! 男爵を護国卿に任じるというのですか!?」


 今まで不気味に沈黙を保っていた宰相、ヴィリス・バールケ侯爵が口を開いた。宰相の驚く声に王も驚きの表情だ。王の言葉に口を挟むとはさすがは宰相ということか。


「宰相。コリント卿を護国卿に推したのは其方ではないか。コリント卿の働きは護国卿の名に相応しいものだったと思うが、何の問題がある?」


 どうやら護国卿の件は事前に打ち合わせたものではないようだ。


「……それはそうですが、護国卿の席は全部で三つ。今後の国政に支障がでるやもしれませぬ」


「そうか。では、其方の他に新たなる護国卿が二人任じられるまでを期限とし、その権限は賊討伐に関することに限定する。これで問題ないな?」


「……それであれば問題ないかと」


 しぶしぶといった感じだ。やはり俺のことを気に入っていると言っていたのは嘘か。


「では、コリント卿。これからも民の安寧に努めよ」


「はッ、全力をつくします」


 王は俺より若いのに人間ができているな。民の安寧ということであれば俺達の作戦とも合致する。何の問題もない。


 これで拝謁は終わりのようだ。本当に褒美のことだけだったんだな。

 王と宰相が退出し、俺とヘルマンは跪いた状態から立ち上がった。


「ヘルマンには褒美は無いんだな」


「私に下された王命ではありせんから当然のことです。それに我ら守備兵には閣下が分けてくださった戦利品がありますから」


 ヘルマンはそういいながら満面の笑みだ。守備軍の中でどのように金を分配するかはヘルマンに任せているが、階級に応じた分配になるとのことだった。

 当然、ヘルマンの受け取る額も少なくないのだろう。兵士達の様子からすると、ヘルマン達上官が一方的に搾取しているということもなさそうだ。


「二、三日中には戦利品の金額が確定するとのことです。分かり次第、御連絡致しましょう」


 概算では出ているようだが、あえて金額を聞かないようにしている。楽しみにしておこう。

 ヘルマンとは城で分かれ、馬車で城をあとにした。


 城を出たところでセリーナとシャロンが待っているのが見えた。二人の側で馬車は止まった。それほど待たせなくて済んだようだ。


 これから俺はオフで王都をぶらつく予定だ。二人には俺の護衛を頼んでいた。


 これはあらかじめ周りの者に言っていたことだが、賊の討伐任務が終わったら護衛を付けずに王都を散策すると宣言していた。

 せっかくの王都だというのに任務以外では、殆ど出歩いていないし、出掛けても警護の者が十名は付いてくる。

 皆で出掛けるのも悪くはないが、貴族然としていなければいけないので気疲れしてしまう。

 当初は俺一人でぶらつく予定だったが、それは余りにも危険すぎるということ皆が反対し、セリーナとシャロンが護衛に就くという条件で皆はやっと納得してくれた。


 この貴族風の上等な上着を脱げば、ちょっと身なりのいい平民に見えなくもない。今日は平民アランでいこう。


「お疲れ様です、アラン。王都で一番という評判の高級な食事処を予約しておきました。良かったらお昼はそこに行きませんか?」


 シャロンが事前に調べていてくれたようだ。王都で一番の食事というのは興味深い。


「お、それはいいな。じゃあ、奢るからそこに行ってみようぜ」


 奢りと聞いて二人は歓声を上げた。たまには上官らしいこともしないとな。


 にわかに通りがざわつき始めた。遠くで叫ぶ声も聞こえてくる。


「気をつけろ! 暴れ馬だ!」


 通りの向こうからさらに叫び声があがった。確かに人の乗っていない馬が走ってきているが、暴走しているというほどではなく駆け足で駆けているという感じだ。何とか止められるかもしれない。


「防御円陣!」


 ダルシムの掛け声で皆が一斉に俺を取り囲み始めた。近衛騎士らしい淀みのない一連の動作で、俺を二重に取り囲み身動きもとれない。


 いくら何でも大げさ過ぎる。近づいてくるのはただの馬で、俺達にぶつかるようなコースをとっていなし、その速度も徐々に落ちてきている。

 この防御の様は、まるでグレイハウンドの大群に襲われたかのようだった。


 俺達が見守る中、馬は馬車の横をタッタと駆け抜けていった。


「ダルシム。いくら何でも大げさじゃないか? 止めることができそうな馬だったじゃないか」


「いえ、アラン様に万が一のことがあってはなりません。……やはり王都は危険です。我らが警護したほうがよいと考えますが?」


 過保護にも程がある。うーん、これは早めに何とかしないとそのうち外にも出れなくなりそうだ。


「心配しなくても大丈夫だ。よし、シャロン、セリーナ。行こう」


「ダルシム副官、アランは私達が責任を持って守りますからご心配なく」


 セリーナがそう言い切るとダルシムは渋々と引き下がった。


「じゃ、夕食前には戻るから」


 皆が見送る中、早速シャロンが予約したという店に向かった。何か皆に土産でも買っていこうかな。

 食事処は歩いて十分程の所で、いかにも高級店らしい店構えだ。王都一というからには恐らく貴族御用達の店なのだろう。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました」


 執事のような男が出迎えてくれる。すぐに個室に案内されメイド達に椅子をひかれて席に着いた。えーと、メニューはないのかな?


「特に御希望がなければ、当店お勧めの料理をお出ししていきたいと思いますが、いかがでしょうか?」


 店が自信をもっている料理が一番美味いだろう。シャロン達も異論はないようだ。


「では、それで頼む」


 どうやらコース料理のようだ。さすがは王都一といわれる店だな。接客がとてもスムーズでよどみない。これは料理も期待できそうだ。


 予想通りに料理も素晴らしかった。食前酒から始まり、前菜、スープ、魚料理に肉料理、デザートとテンポよく出され、どれも洗練されていて絶品といっていい料理だ。給仕も文句がつけようもなく、帝国のレストランと比べても遜色ないレベルで、セリーナとシャロンも大満足の様子だ。


 気になってくるのが料金だが、いくらぐらいなのだろうか?

 食後のお茶を飲み終わる頃、執事風の男がまた姿を現した。


「御料理はご満足いただけたでしょうか?」


「あぁ、大満足だ。どの料理もとても美味かったよ。さすがは王都一といわれる店だな」


「お褒め頂きありがとうございます」


「さて、お代はいかほどかな?」


「御一人につき七百ギニーになります」


 七百ギニー! さすがに値段も一級品だな。自信を持って言い切るあたり、よほど料理に自信があるんだろう。ま、この料理なら俺も納得だ。


「あぁ、そうだ。この辺りで何か面白い店はあるかな?」


 金を支払いながらそう聞いてみた。やはり地元の者が一番詳しいだろう。


「そうですね……。店を出て右に七軒目に宝飾を扱う店があり、お嬢様方にはたいそう人気があるようです」


 宝飾、アクセサリーか。セリーナとシャロンもそれを聞いて目を輝かせている。やはり興味があるようだ。


「じゃ、そこに行ってみようか」


 食事処を出てその宝飾店に向かうと、これまた高級そうな店構えだった。中に入ると店主と思われる男に迎えられた。いや、店主にしては若いか。


「いらっしゃいませ」


「適当に見せてもらうが、構わないかな?」


「もちろんです。是非御覧下さい」


 店には所狭しと様々なアクセサリーが並んでいて、ブレスレットやペンダント、指輪など何でもある。


「わぁ、これカワイイ!」

「ほんとだ!」


 二人とも女の子らしくテンションが上がっているな。


「ふーん、それほど高くはないんだな」


 並べられているアクセサリーの値札は数百ギニーのものが多く、高くても一千ギニー台だ。高級店にしては安い。


「ここにあるのは若者向けの品ばかりですから。階段を上がった二階には、もっと高級な品を取り揃えております」


 なるほど。平民のティーンエイジャー向けのアクセサリーか。客寄せのための手頃な品々ということだろう。


「よし、奢ってやるぞ。二人とも何か好きなものを選ぶといい」


「「本当ですか!?」」


「本当さ。……あぁ、でも予算は一人千ギニーまでだ」


「「わかりました!」」


 二人は真剣な表情で選び始めた。幸いにしてそれほど時間はかからず、五分程で選び終わった。

 二人が選んだのは小さな宝石が付いたシルバーの指輪で、セリーナが青、シャロンが赤い宝石だ。揃いのものにしたようで悪くないセンスだ。それぞれが予算ぎりぎりの九百五十ギニーだった。


 支払いを済ませると二人は早速、指に嵌めて眺めている。二人には助けられているし、たまにはこういった御褒美があってもいいと思う。


 あ、そういえば異性の部下に金品を渡すのは隊律違反だったかな? ま、関係ないか。


 店を出てぶらつくが、二人はよほど気に入ったのか嬉しそうに指輪を眺めながら歩いている。ここまで喜んで貰えると奢った甲斐があるというものだ。


 不意に路地から少年が走り込んできた。十二、三歳ぐらいだろうか。


「あっちで喧嘩してるんだ! 誰か止めて!」


 喧嘩か。子供同士の喧嘩かな?

 近くにいた冒険者風の男二人が少年に手を引かれるようにして路地に入っていく。


「人数が多いんだ。兄さん達も止めるの手伝って! どうかお願いします!」


 俺に向かってそう言ってきた。ここまで丁寧にお願いされたら仕方ないか。


「じゃ、ちょっと行ってみるか」


 俺達も少年についていくことにした。路地は袋小路になっていて、その一番奥で確かに喧嘩している。しかし、子供ではなく全員がいい歳の大人だ。全部で十人程だろうか。


 俺達三人が近くにいくと一斉に喧嘩をやめ、逃げるように俺達の脇を駆け抜けていく。不思議なことに少年と喧嘩を止めに来た冒険者風の男二人も同様だった。

 男達は袋小路の入り口付近で立ち止まり、全員がこちらを窺っている。どういうことだ?



[艦長、やられました。不味い状況です。可能であればこの場から立ち去ってください]


 仮想ウィンドウ上にイーリスの言っている不味い状況が表示されている。確かにこれは不味いな。


(逃げるには少し遅かったようだ。罠か。こんな単純な手に引っかかるとはな)


[申し訳ありません。気づくのが遅れました]



 大通りから男達が続々と駆けつけてくるのが見える。

 まさか子供を使ってくるとは思ってもみなかったな。まぁ、そう考えるだろうと見越して、あの少年を起用したんだろう。演技もすごく自然で、冒険者風の二人のエキストラを用意するとか芸が細かい。プロの仕事だな。


「アラン、どうしますか?」


「少し様子をみてみよう。この状況だし、慌てる必要もないさ」


 男達はその人数を増やしながら、こちらを窺いゆっくりと近づいてくる。すぐに襲ってくる気はないようだ。

 仮想ウィンドウに表示されているマップによると王都上空で監視任務に就いていたドローン群が頭上に集結しつつある。

 五機のドローンからの射線が通っている状態ならば、何人に囲まれても問題ない。この状況が俺の想像の通りなら少しでも情報を引き出したいところだ。


 当初十三人だった男達の数も続々と増えていて五十人を超えている。すごい人数だな。それだけ俺達の実力を評価しているということだろうか。


 こちらを探るようにゆっくりと近づいてきて、俺達から五メートル程の距離で足を止めた。

 ほとんどの者が平民っぽい粗末な服装をしているが、一人だけ身なりの良い貴族の従者風の男もいる。こいつが首領か。


 しかし、予想に反して黒ずくめの男の一人が前に進み出てきた。男の頭の上にイーリスが付けたコメントが仮想表示される。

 セリーナとシャロンが俺を守るように前に出た。


「初めまして、コリント卿閣下。エルヴィンと申す者です。お見知りおきを」


「宰相の手の者か。何の用だ? いや、訊くまでもなかったな」


「……なぜ我らが宰相閣下の手の者だと思うのですか?」


「お前は宰相の所に出入りしていただろう? そこの二人はよく宿を見張っていたし、そっちの男は宿の近くの食堂の店員をしていた。他にもよく見かけた奴もいる。悪くはない監視だったが、俺達につき纏っていることは最初から分かっていたな」


「……城内にまで閣下の目があるとは思いませんでした。相変わらず見事としか言いようのない手腕です。配下の方々に一度お会いしてみたいものです」


「それは無理だな」


「残念です。……我らの監視をそこまで判っていながら、なぜ王都に留まっていたのですか? 閣下は私共が姿を現す前に出発すべきでした」


「こちらにも色々と都合がある。……しかし、凄い人数を揃えたな」


「まったくです。これほどの人数は必要ないと御指摘したのですが、私を信用していただけなかったのか全員でかかれとの命令を受けました。おかげで部下を集めるのに時間がかかってしまい、これほど遅くなってしまいました」


「宰相がそれほど俺を恐れているとは思わなかったな」


「恐れているのは、閣下ではなくドラゴンのほうです。ドラゴンとの関わりがなければ、閣下は見向きもされなかったでしょう」


「そういうものか。できれば放っておいて欲しかったんだがな」


「本当に残念です。今、この国には貴方のような方が必要だというのに……」


「何のことだ?」


「無駄話をしていないで、さっさと殺ってしまえ」


 従者風の格好をした男がしびれを切らせたようにエルヴィンという男に指示を出す。


「あなたは黙っていてもらいましょうか。情報を集めろとの命令も受けているのです。邪魔をしないでいただきたい」


 エルヴィンが従者風の男に凄むと男は黙り込んだ。


「失礼しました、閣下。この方は我々の目付役なのです」


 恐らく確実に俺を殺したかどうかを確認するための目付役なのだろう。


「いろいろと引っかかっていたことが、先程判明してすっきりしました。シャイニングスターの方々の話し方、酒、食事の好みなど、なんとなく心に引っかかっていたのですよ」


「……随分と思わせぶりな物言いだな。その判明したことっていうのを俺にも教えてくれないか?」


「閣下の護衛の方々が先程見せた防御の構え。昔、別の国で見たことがあります。アロイス王国、いえ、スターヴェーク王国の騎士、それも近衛の方々ですね?」


 さっきの暴れ馬の時か。くそッ、最悪だ。一番知られたくない情報を知られてしまった。


「……騎士達の脱走。それに常に警護されている、あの女性冒険者の顔立ち。間違いないでしょう。全てしっくりときました。

 判ってしまえば至極簡単なことなのに何故気づかなかったでしょうか? 不思議なものです」


 脱獄やクレリアのことまでもか。こいつらはもう生かして帰すわけにはいかない。


「しかし、まだ他にいくつか疑問があるのです。どうでしょう、閣下。ひとつ情報交換といきませんか? 交互に一つずつ情報を交換していくのです。私は神に誓って本当のことを申し上げると御約束しましょう」


 どうせ殺すのだから、こちらにデメリットはないな。


「いいだろう。俺も真実を話すと約束しよう」


「ありがたい! 感謝致します。では、僭越ながら私から伺います。先日の祝賀会の席での、あのワインの毒はどうやって回避したのですか? 閣下は確かにワインを飲んでいました。万能薬かと思い、手に入れて試したのですが金と時間の無駄に終わりました」


「今の俺に大抵の毒は効かない。ただそれだけのことだ」


「閣下……。閣下は信頼に足る御方だと思っていたのですが、私の勘違いだったのでしょうか?」


 こいつにどう思われようとどうでもいいことだが、下手な嘘をついていると思われているのは腹が立つな。しかし、情報交換は是非とも続けたいところだ。


「今、毒を持っているか? 持っていたら寄越せ」


 エルヴィンは少し考えた後、鞘に入ったナイフを投げてよこした。


「刃に猛毒が塗ってあります。少し刺しただけでも二分と持たないでしょう」


 服が汚れないように袖を捲り上げ、手首から肘にかけてナイフで切りつけて見せた。

 血が滴り落ちるが痛みはなく、すぐに血も止まった。治癒魔法を発動させて傷を治す。


「…………大変申し訳ありませんでした。平に御容赦願います。今後一切、閣下の御言葉を疑うようなことは致しません」


「そうしてくれ。じゃ、俺の質問の番だな」


 ナイフを返そうとして普通のナイフではないことに気づいた。すごく洒落たデザインの大型のコンバットナイフで、見たことのある独特の模様が刃に刻まれている。試しに魔力を通すとナイフの刃全体が光り出した。


「おぉ、これは魔法剣か? ある程度の表面積がないと魔法剣にはできないと聞いていたが……。おっと、これは質問じゃないぞ。答えなくていい」


「それぐらいは、お教えしますとも。イリリカ王国製の逸品です。かの国ではこの大きさでも魔法剣にすることができるのですよ」


 男達全員が同じような剣とナイフを腰に差している。


「ひょっとしてお前達全員が同じ物を持っているのか?」


「そうです。ある伝手から偶然、手に入れることができました。ちなみに剣もイリリカ製の最上級の魔法剣ですよ。もちろん私共には分不相応であることは承知していますが、なかなか使い勝手が良い剣です」


 騎士でさえ持っていないような剣とナイフを持っているなんて、なんて贅沢な暗殺者共だ。

 数は……剣とナイフを合わせて百一本か。よし、クランのみんなに良い土産ができたな。ぎりぎりだが皆に行き渡る数はある。

 エルナの持つ魔法剣を、皆が羨望の眼差しで見ていることには前から気づいていた。どうやら俺が買い与えたということが重視されているらしい。

 いつの日にか必ず用意してやろうとは考えていたが、こんなに早く手に入るとは思わなかった。

 ナイフを放りエルヴィンに返した。


「では、俺の質問だ。俺に敵意を持つ者を教えてくれ」


「まずは宰相閣下の一門は全ては敵と思ったほうがよいでしょう。あとはカリファ伯、ガンツ伯は、閣下の取り締まりで相当な被害を被っています。恐らく恨まれているかと。他にもいるかもしれませんが、私が把握しているのはこれくらいです」


 ふーん、意外と少ないな。ガンツの領主も悪事を働いていたということか。これはいい情報だ。


「国王陛下は、俺に敵意を持っていないということかな?」


「もちろんです。陛下は閣下のことを、とても気に入っていますよ。よく閣下の事を話題にしていると聞いています」


 そうか。今日の様子から嫌われてはいないと思ってはいたが……。いっその事、嫌ってくれたほうが、気が楽なんだけどな。


「では、私の番です。先日のドラゴンの件ですが、閣下はどうやってあのような事ができたのですか? どうやって退けることが?

 ドラゴンは、閣下が仰ったように人の身で干渉できる存在ではありません。未だにこの目で見たことを納得できていません」


 この男はあの場にいたようだ。どうしたものかな? まぁ、正直に話してしまうか。


「あのドラゴン、グローリアは俺の仲間だ。人の言葉を完全に理解するし、あの時も至って冷静だった。暴れたのは俺がそうするように命じたからだ」


「命じた? しかし、閣下は危うく食われそうになっていたように見えましたが?」


「あれは演技だ。俺がそうするように頼んだ。あの時は、救出班が窮地に陥っていたし、俺は二度も毒を盛られたしな。無事に城から出るのに派手な騒ぎが必要だった」


「……そのような人の営みに、ドラゴンが力を貸す気になったということですか?」


「そうだ」


「……いいでしょう。納得することにします」


「では、俺の番だな。お前達が全員死んだと判ったら、宰相は次にどのような手を打ってくると思う?」


「…………閣下には兵力と呼べるものがありませんから、常套手段である反逆の罪を着せるというのは、さすがに難しいと思います。特に閣下の今の人気を考えるとなおさらです。

 国軍は動かせず、賊の襲撃も、暗殺も無理となると、私兵を差し向けるしかありません。

 王都にはそれほど私兵はいませんので、領地から兵を差し向ける、というのが一番ありそうに思います。その数は四百から多くても八百程度でしょう。

 もちろんこれは閣下を排除すると決めた時の対応で、実際に兵を動かすと決まったわけではありません。

 兵を動かすかどうかは、私の見立てでは……五割、といったところでしょうか?」


「五割か。……なんとも面倒な話だな」


「面倒、ではすまないと思いますが……。では、私の質問です。閣下、そしてクレリア王女殿下の目的は何でしょうか?」


「建国だ」


「やはりそうですか。本気で実現すると考えているのですか? 『魔の大樹海』に国を造ることができると?」


「質問は一つのはずだが?」


「……失礼しました。閣下の質問をどうぞ」


「さっき、この国には俺のような者が必要だと言っていたが、どういう意味だ?」


「隣国、セシリオ王国の王太子、ルージ王子は幼少の頃より軍国主義を掲げており、以前から我が国に対しても不穏当な発言を繰り返しております。

 今は老国王が存命なので押さえていますが、それも長くはありません。国王が亡くなれば、きっと我が国に侵攻してくるでしょう。我々はその確率を七割から八割と考えています。

 何度も報告はしているのですが、一向に対処する気配はなく徒に時が過ぎるばかり。

 そのような時に閣下の御活躍を見て、閣下ならなんとかしてくれるのではないかと我々は期待していたのですよ。それほどまでに素晴らしい御活躍でした」


 この男は随分と俺のことを買ってくれていたようだ。一介の男爵にそのようなことを解決する権限はないだろうに。あぁ、俺が護国卿だから、という意味だろうか?

 いずれにしても貴重な隣国の情報が手に入ったな。よしとしよう。


「では、私の質問です。なぜ『魔の大樹海』を領地に望んだのですか? 閣下であれば開拓が不可能なことぐらい判っておいででしょう。目的が建国であれば他の候補地のほうがましだったはずです」


「樹海の開拓は不可能じゃない。というか、既に開拓している」


「……どういう意味でしょうか?」


「そのままの意味だ。既に領地は開拓している。少なくとも暮らしが成り立つ程度にはな」


「……いくら閣下の御言葉でも到底信じられません」


「さっき、お前は俺の言葉を今後一切、疑うようなことはしないと言っていたが?」


「しかし! …………いえ、やはり信じられません。閣下にそのような神の如き力があるのであれば、このような状況には陥っていないでしょう」


「確かにここに誘い込まれたのは迂闊だったが、お前達に囲まれたぐらいじゃ俺達にとって何の問題もない」


「何も問題がない? 殺されるというのにですか?」


「俺がこの場で殺されることはあり得ない。むしろ逆だ。悪いがお前達にはここで死んでもらう」


「……どういうことでしょうか。この状況で我らが負けると? ……では、閣下の考える我らの敗因とは何でしょうか?」


「二つ目の質問だが特別に答えてやろう。お前達の敗因は情報不足だ。俺の情報が圧倒的に足りていない。

 ドラゴンは人が倒せる存在ではない。そのドラゴンを俺が倒したという情報から、俺達が並の人間にはない力を持っているのではないか、ということを想定するべきだった。

 いきなりこのような総力戦を仕掛けるのではなく、物陰から矢を射るとか魔法を放ってみるとか、情報収集の方法はいくらでもあったはずだ」


 随分と余計な事を口走っている自覚はある。たぶん俺は五十四人もの人間を殺さなければならない状況を作った、この男に怒りを覚えているんだろう。


「……確かにその通りです。しかし、ドラゴンは共倒れになったところを閣下がとどめを刺したのでは?」


「お前のような職の者が、人の言うことを素直に信じるのはどうかと思うぞ」


「……その通りです。しかしいくら閣下がお強いとはいえ、ドラゴンを? ……それにこの状況、たった三人で我ら五十人を倒せるとは思えません。今、我ら全員で死ぬ気で駆け寄れば、閣下は何もすることができないでしょう」


「俺が言っているのはそういうところだ。この場に三人しかいないと判断しているところが間違っている。

 言い方を変えると、この場に三人しかいないという判断しかできないほどに情報が不足している、ということだ」


 百二十メートル上空にはドローン五機がサイレンスモードでずっと静止飛行を続けている。もちろん全ての人間をロックオン済みだ。

 この言葉にエルヴィンと男達が周りをうかがい始める。


「気配は感じられませんが……本当にいるのですか?」


「当たり前だ。お前は、こんなはったりじゃ引き下がらないだろう?」


「それはそうです。しかし……」


 やはりこんな事を言っても信じられないか。


「いつまでくだらぬ話をしているのだ。さっさと殺してしまえ!」


「……次に私と閣下の会話を邪魔したら殺す。いいな?」


 がらりと変わったエルヴィンの口調に目付役の男は震え上がっている。


「閣下、お願いがございます」


「……何だ?」


「閣下にその必要がないのは重々承知していますが、我らにその証を示して頂けないでしょうか?」


 死に逝く者の最後の願いだ。叶えてやるべきだろうか?


「いいだろう。じゃあ、そうだな……宙に向かって何か物を放り投げてみろ」


「どういう意味でしょうか?」


「何でもいい。何か持ち物を三メートルほど上に放り投げてみろ。……おっと、その短剣は駄目だ」


「なぜですか?」


「……悪いが、お前達の剣と短剣はクランの者達への土産にする」


「土産? ……なるほど。死者に剣は不要、ということですか。では大銅貨では?」


 エルヴィンがポケットから大銅貨を取り出してみせる。


「それでいい」


 エルヴィンは指で大銅貨を弾くと大銅貨はくるくると回転しながら三メートルほどの高さまで宙を舞い、落ちてきた銅貨をエルヴィンはパシリをキャッチした。


「…………それで、どういうことなのでしょうか?」


「手の中にある大銅貨を見てみろ。『一』の部分に穴が明いている、違うか?」


 エルヴィンは驚愕の表情で大銅貨をまじまじと見ている。


「……そ、その通りです。そ、そんな馬鹿な……」


 エルヴィンはさらに何かを宙に放り投げた。その性急な動作で危うく自分が死ぬところだったことを全く自覚していない。


 どうやらさらに何枚かの硬貨を宙に放り投げたようだ。落ちてきた硬貨を全て器用にキャッチすると全ての硬貨を食い入るように確認している。


「これはいったい、どうやって……見えないアーティファクト? こ、これが閣下の力……」


「いや、俺じゃなくて俺の仲間だ」


「…………全て真実をおっしゃっていたのですね」


「そういう約束だろう? 俺は正直者じゃないが、今は嘘をついていない」


「……いつでも我らを殺すことができた」


「そうだ。お前達には死んでもらう。……お前達の犠牲は無駄にはならない。いや、決して無駄にはしない」


「な、何をしているのだ! 早くこの男を殺してしまえッ!」


 目付役の男がやっと状況を掴んだように慌てて指示している。エルヴィンは冷ややかな目でその男を見つめているだけだ。


「殺れ」


 エルヴィンの囁くような指示で部下の男が剣を抜き、目付役の男の首を瞬く間に刎ねた。ゴロンと男の首が転がり、周囲をとり囲まれていた男は一歩も動けずその場に崩れ落ちた。


 エルヴィンがいきなり跪いた。一瞬遅れて全ての男達も一斉に跪く。


「閣下。私はこの者達の長として命乞いをしなければなりません。この者達は見逃していただけないでしょうか? 私はどのように殺していただいても構いません。

 今後一切、閣下に関わることもさせません。どうか、私の命だけで許して頂きたく、なにとぞお願い申し上げます」


 エルヴィンは今にも頭が地面につきそうなほど頭を下げている。


 張り詰めていた心、気持ちが不意に軽くなった。

 あぁ……フィルターが働いたのか。このシステムの動作を実際に体験するのは初めてだ。

 精神状態をモニターしているナノムが、高くなり過ぎた精神的ストレスを軽減させるために動作させたのだろう。

 今なら誰でも殺せそうな気がする。これが大量殺人をも可能にするサイバネティックシステムか。


「……無理だな。お前達は知りすぎた。こんなことを言っても信じられないかもしれないが本当に残念に思っている。……お前達の来世が輝かしいものになることを祈って……」


「お、お待ちを! どうかお待ちください! 命を助けて頂けるならば、我らは閣下のために働きます」


「……悪いがそれを信じることはできない」


「ごもっともです。簡単に忠節を曲げる者を信じられるわけがありません。しかし、我らは、国や、宰相、いえヴィリス・バールケ侯爵に忠誠を誓っているわけではないのです」


「どういうことだ?」


「我が組織は、ベルタ王国建国時の初代宰相閣下が創設なされました。

 時が経ち、宰相閣下が次の宰相に職を引き継がれる時、我が組織も一緒に引き継がれました。

 王と宰相職にある者を手助けせよとの命と共に、我が里への毎年の援助を御約束してくださいました。

 以来、我が里は過去七代に渡って王国に仕えてきました。

 しかし、宰相ヴィリス・バールケ侯爵は時代が変わったと言い、約束の援助を一方的に三分の一と定めました。

 確かに時代が変わったのかもしれません。内情をお話くださり、話し合いで決めて頂ければ我らも納得できたのかもしれません。しかし、話し合いもなく一方的に約束を違えるのは違います。

 正直に申しまして、この稼業は楽ではありません。苦労ばかりが多く仲間が死ぬことも度々です。我らが父祖には国に対する忠誠心があったのかもしれませんが、我らにはとうにありません。

 それでも続けてきた理由は、父祖が心血を注いで守ってきた約束を守るという意地のみ。

 何百もの犠牲を払い守り続けてきた約束を違えたことは、我らには許しがたいことでした。

 侯爵が職を引き継いでからの三年間、我らは新たな生きる道を模索してきました。

 閣下が我らの新たなる雇い主となって頂けるのであれば、我ら里の者一同、誠心誠意、お仕えいたします」


 忠義ではなく金で雇われており、雇用条件が変わったから新たな仕事先を探していたと言いたいのだろうか。


「……お前達全員が同じ里の者だというのか?」


「はい、一人残らず。例えば私の隣にいるのは我が弟、そこにいるのは従兄弟達です。私は里の長も兼ねております」


 確かに顔がよく似ている。親族というのは事実なのかもしれない。



(どう思う?)


[真偽判定モジュールによると、真実を言っている可能性は九十二パーセントです。もちろん偽装訓練を受けている場合にはその限りではありません]



 殺さなくても済む道があるのだろうか。俺達に都合が悪い事実を知られたという理由で人を殺すのは、可能ならば避けたい。


「……お前達は前宰相、ヴェルナー・ライスター卿の件に、どう関わっている?」


 クレリアに臣下の誓いを立てた前宰相のライスター卿は、もう俺達の仲間だ。もし、こいつらがライスター卿を嵌めたのなら俺達とは相容れない。


「我らはヴェルナー様の件には、一切関わっておりません。あの事変が起きた時には、我らのほとんどがヴェルナー様の命にてセシリオ王国に出払っておりました。それはヴェルナー様も御存知です。……あの方は今、どのように?」


「クレリアに忠誠を誓い臣下となった」


「それは何よりです。では、ヴェルナー様に御確認いただければ我らの関与は、はっきりするでしょう」


「彼を地下牢から助けだそうとは思わなかったのか?」


「私が事態を把握した時には、ヴィリス・バールケ侯爵が既に宰相職へと就いていました。我らの仕事は王と宰相職にある者の命に従うこと。助ける事は信義に反することでした」


 なるほど、人ではなくその役職にいる者に従うということか。ずいぶんとドライな関係なんだな。


「俺を殺さないと信義に反することになるんじゃないのか?」


「確かに。しかし、先に信義に反したのは宰相です。それに我らが死ねば、里も立ちゆかなくなります。手前勝手ではありますが、里の者の命がかかっているのであれば信義を曲げることもやむを得ません」


 まぁ、その考えは理解できる。俺だって仲間の命がかかっているならば大抵のことに妥協できる自信がある。


「俺に里の者の面倒をみろということか?」


「は、恐れながら。それに見合う働きはできると自負しております」


「…………さて。どうしたものかな」


「我らは閣下を殺そうとし、今は命乞いをしております。その償い、命の代償をお支払い致します。なんなりとお申し付けください。必ずや成し遂げてみせます」


 ペナルティー、代償を支払うから許せという考えは斬新だな。その発想はなかったが、まぁ理解はできる考えだ。

 ここで殺しても五割の確率で宰相の私設軍が出るのならば、賭けてみる価値はあるのだろうか?

 この国の内情を詳しく知るこの男達を味方にできたとしたら、そのメリットはかなりのものがある。


「決して閣下を裏切りません。裏切ったとしても閣下の配下の方々からは恐らく逃げ切れないでしょう。……閣下は我らの拠点も御存知なのでは?」


「……商業ギルド本部の右隣五軒目だろう?」


「その通りです。まさかあの地下道までも御存知とは……。感服致しました。閣下の仰る通り、私は何を相手にしているのか、まるで分かっていませんでした。

 この状況も正に自業自得です。万が一にも約束を違えた時には遠慮なく命をお取りください」


「……さっきお前は宰相が兵を出す確率を五割と言っていたな。その兵を止められるか?」


「は。お安い御用でございます。……いつまで、でしょうか?」


「俺達が樹海に入るまででいい。樹海に入ってしまえば、どうにでも誤魔化せる」


「……承知しました。……それだけでよろしいのでしょうか? それだけのことが命の代償というのは正直、心苦しいのですが」


 言うじゃないか。私設軍を止めるというのは大したことに思えるけどな。まぁ、五割という話も定かじゃないか。


「ギニー・アルケミン。知っているな?」


「……はい。どこかの鉱山の坑道奥深くにあるという噂は知っております。いくつかの候補はありますが、そのすべての鉱山が厳重に防塞化され、人の動きなども巧妙に偽装されており特定できません。

 ギニー・アルケミン、そしてその運用の全容を知る者は、ほんの一握りです」


「俺はあれが欲しい」


「確かにギニー・アルケミンであれば、我らの忠節を試す絶好の試金石となりましょう。必ずや手に入れてまいります」


「お前達の里の名と人数は?」


「半ば隠れ里のようになっているので知る者はあまりいません。ヘクスターという所で、二百名あまりです」


「……確かにあまりいい暮らしはしていないみたいだな。二百九人か」


「か、閣下は我が里のことも調べているのですか!?」


「まあな。……里の者を俺の領地に連れて来い。面倒をみてやろう。街に住みたければ全員の家を用意するし、今まで通り農業をやりたいのであれば畑も用意しよう。今よりは良い暮らしをさせてやる」


「……叶うことであれば畑を。大方の者は野菜作りしか知らないもので」


「野菜か、それはいい。野菜作りは、今一番お勧めの職の一つだ。一儲けできるぞ。作りたい野菜があるのなら種や苗を持ってくるといい」


「は。必ず」


「……エルヴィン、俺の腕は長い。言っていることは判るな?」


「……は。もし我らが閣下を裏切るようであれば如何様にでも」


「その言葉を決して忘れないことだ。お前達との取り決め、いや契約は、貸し借りの精算が済んでからにしよう。それまで命は預けておく」


「ははッ、寛大な御沙汰に感謝致します!」


「ところで、そいつを殺したが問題ないのか?」


 さっき、斬り殺した目付役の死体を指し示した。


「問題ありません。死体も片付けておきます。剣と短剣は洗浄し、のちほど宿に届けさせましょう」


「……いいのか?」


「これらは金を支払って手に入れたものではありませんので御心配なく。我らの命とは比ぶべくもありません。是非、受け取って頂きたく思います」


「では、ありがたくもらっておこう」


「……あの、閣下。先程からずっと気になっていたのですが、そちらの御二人が我らに向けているものは何でしょうか?」


「武器だ」


「武器? ……のようには見えませんが」


 セリーナは、おもむろにA18Pレーザーガンを構えると躊躇のない素早い動作で連続掃射した。甲高い電子音が路地に鳴り響く。

 男達の間を縫うように放たれた不可視の高出力レーザーは、横たわっていた従者風の男の死体をバラバラに分割していた。かなりグロい。


 エルヴィンと男達は飛び退くように死体から距離を取り、驚愕の表情で分割された死体をまじまじと見ている。


「そのほうが運びやすいでしょう。それとも……余計な世話だったかしら?」


 セリーナはそう言いながら、エルヴィンにレーザーガンを向ける。


「…………いえ、感謝いたします」


 エルヴィンは、また地面につきそうなほどに深く頭を下げている。


 セリーナは、かなり機嫌が悪いようだ。いや、裏切ったらどうなるかというセリーナなりの警告、デモンストレーションか。


「ではな。何かあれば連絡をくれ」


「は」


 エルヴィンと男達は跪き、深く頭を下げたままなので、セリーナ、シャロンと一緒にその場をあとにする。袋小路から出て大通りに戻った。


「アラン、よろしかったのですか?」


「宰相の私設軍との戦いは極力避けたい。まだ国と揉めるのは早すぎる。この国で貴族になった意味がなくなってしまうからな。危険な賭けだが賭けてみるだけの価値はあると思う。ま、最悪裏切られても、きっと何とかなるさ」


「それはそうですけど……」


 暗殺を仕掛けてきたのだから、こちらが暗殺を仕掛けてもきっと文句は言わないだろう。


(イーリス)


 俺達のすぐ前にイーリスが姿を現した。


「連中に対する監視を強化しろ。もちろん、軍、城、宰相、宰相の領地もな」


「了解しました」


 イーリスは敬礼をするとすぐに姿を消した。


「何だか散策って気分じゃなくなっちゃったな。宿に戻るか」


「「……はい」」


 宿に戻ると皆が王との拝謁の様子を聞きたがったので、その様子を話して聞かせると褒賞金の話や王の布告の話で大いに盛り上がった。護国卿という役職をそのまま維持できたことを皆はとりわけ喜んでいた。


 ちなみにエルヴィン達に襲われたことは皆には黙っていた。もう片がついたことを大げさにしても仕方がないし、このことでこれ以上行動の自由が制限されるのは困る。


 もうすぐ夕食という時にカトルが声を掛けてきた。


「アラン様。アラン様宛に荷物が届きましたけど?」


 カトルが受け取ったようで、重そうな大きな木箱が五箱、運びこまれているところだった。


「お、届いたか。じゃあ開けてみよう」


 木箱の蓋を開けると、剣と短剣がセットになって綺麗に梱包されている。数えてみると全部で五十五セット、計百十本が入っていた。

 あの場にいた者が持っていた数よりも多い。ひょっとして脱走した騎士達の分も考えて入れてくれたのだろうか? そうだとしたら、なかなか気が利くな。


「これは……剣と短剣ですか?」


「そうだよ。かなりの上物らしいぞ」


「上物……見せてもらっていいですか? 私はこれでも元武器屋ですから剣にはうるさいですよ。

 ……魔法剣! この印はイリリカ王国製じゃないですか!? あー、こっちの短剣もそうです! こんなに大量にどうしたんですか!?」


「やっぱり良いものなのか。これ、タダで手に入れたんだぜ」


「えーッ! いやいや、アラン様、あり得ませんよ! この剣は仕入れ値で少なくとも十二万、こっちの短剣は……八万ギニーはする品ですよ!? 当然、店頭ならもっと高くなります」


「そんなにするもんなのか!? ……一千百万ギニーとは予想以上の儲けだな」


「……本当にタダで手に入れたんですか?」


「本当だとも。街で出会った奴に是非、受け取ってくれって言われたんだよ。きっと俺の人徳ってやつだな。おーい、みんな集まってくれ」


 食堂にいた者達が何事かと集まってきた。カトルが持っている剣に皆の視線が集まる。


「ほぉ、これは見事な剣だ」

「これは魔法剣ですか?」


「あぁ、イリリカ製の最上級品だ」


「「イリリカ製の!?」」


 やはり騎士や兵士だけあって剣には詳しいようだな。


「ダルシム副官。ここに剣、短剣の魔法剣がそれぞれ五十五本ずつある。なんとも半端な数だが、これは俺から皆への贈り物、皆の働きに対する俺の感謝の気持ちだ。是非、受け取ってほしい」


「これほどの逸品を我らのために…………アラン様、謹んで拝領致します」



毎度のことながら、更新が遅くなり大変申し訳ありません。


 活動報告にも書かせてもらいましたが、先日お願いしていた『このライトノベルがすごい!2020』の 結果が出ました!

 なんと! 単行本・ノベルス部門の『12位』に入ることができました!

 アニメ化されている有名作品がひしめき合うの中で、12位に入ることができるとは……。

 去年発売された新作だけの順位としては 5位にあたるそうです。

 皆様には感謝しかありません。投票いただき、ありがとうございました。


 また、宣伝になってしまうのですが、来る12月27日に『航宙軍士官、冒険者になる4』が発売となります。宜しかったらお願い致します。




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― 新着の感想 ―
正直ここまでで最高のシーンが、この94話の「暗殺部隊の罠にかかってからの一連のやり取り」だったのだけど、漫画では容赦なくカットされてて落胆した。本当にがっくり。 小説は小説、漫画は漫画と割り切って楽し…
[一言] 作者は気づいてるのだろうか? 後書きに4巻発売の宣伝をしてるが、読者への重大な裏切り行為だと、完結しない物語を買わされしまう読者の苦しみを小説を執筆していて、知らないとは言わせない。 完結…
2022/11/14 09:54 退会済み
管理
[一言] 94話は大好きで何回も読んでます。エルヴィンの活躍を読みたいけど無理なのかな?今月コミックス五巻が発売ですね。もちろん 買います。書籍の方も宜しくお願いします
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