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009. 拠点



 出発してすぐに、コリント卿は色々な物の名前を聞いてくるようになった。言葉を覚えようとしているのだろう。


 確かに身振り手振りだけでは不便すぎる。私もコリント卿の話している言葉を覚えられればいいのだが。


 コリント卿は植物の葉を手に取り調べているような仕草をするようになった。様々な植物を手に取り調べている。


 そうしながら食べられる植物も探しているようだ。やにわに、ある植物を引き抜くと集めだした。


 あれはポトの実だ。料理の付け合わせによく出てくる。土の中に埋まっているものだとは知らなかった。


 コリント卿の年齢は二十五歳のようだ。もっと若くみえる。


 年齢を答えようとしたが、指がなかったため困ったが、すぐに十七と示してきたので頷いた。

 本当はあと半年で十七歳で今は十六歳なのだが許容範囲だ。なぜかコリント卿には少しでも大人に見てほしかった。


 いきなり、山のほうからビッグボアが飛び出してきた。


 まずい! 大きくはないが、かなり興奮している。こういう状態のビッグボアは、かなり危険だ。


 コリント卿が私をかばうように立ち、剣を抜くとあっさり倒してしまった。それも一撃で。


 呆気にとられていると、今度は三頭のグレイハウンドが現れた。


 これは本当にまずい。今の私はほとんど戦力にならない。


 しかし、コリント卿は、これもあっさり倒してしまった。それもそのうちの二頭は、一太刀で首を飛ばしている。


 グレイハウンドの首を一太刀で飛ばすなどと、この目で見なければ絶対に信じられなかっただろう。


 ビッグボアをあっという間に解体し、肉を回収すると何事もなかったように歩きだした。


 グレイハウンドは魔石も取らずに谷に落としてしまったが、まぁグレイハウンドの魔石の価値など、たかが知れている。


 川が見えてくるとコリント卿は、川に降りようと身振りで伝えてきた。今夜泊まるところを探すに違いない。そして食事!


 昨日から、なんだか体がおかしかった。やたらとお腹が減る。もうひもじいと言ってよいくらいだ。


 先程、肉を回収していたので、今日の食事は肉に違いない! あの銀色の包みの食事も美味しいが量が少なすぎる。


 回収した肉を見ると何種類かの肉があるようだ。これは楽しみだ!


 なんとコリント卿は料理もできるようだ。てきぱきと準備を進めていく。とても手際がいい。


 なにか手伝えることがあればよいのだが… そうだ! 魔法で火を起こしておこう。


 黒っぽい肉を切って川の水に漬けていた。冷やしているのだろうか。


 その後も次々と肉を切っていく。あの剣の腕前を見ていなければ、料理人かと思ってしまうほどの手際だった。


 そのあと、コリント卿は川に向かって歩いていきながら、いきなり川に向かってナイフを投げた。すごい! 大きな魚を仕留めていた。なるほど先程の肉の意味はこういうことだったのか!


 また、あっという間に魚を捌いてしまった。魚を食べるのは久しぶりだ!


 コリント卿が料理を始めた。パンを取り出し薄く切り、パンの上に味付けした魚を載せていく。このあと焼いていくのだろう。どのような料理に仕上がるか想像もできないと思ったが、これで完成らしい。魚を生で食べるとは!


 コリント卿が食べ始めるのを見て恐る恐る一口食べてみる。美味しい! 生の魚がこんなに美味しいなんて! 夢中で食べ始める。


 その後に出てきた料理は、どれもこれも絶品と言っていい出来だった。恥ずかしながら、恐らくコリント卿より食べていたのではないだろうか。


 コリント卿が、なにか伝えたいことがあるようだ。足を指差し、街道に戻ることはできない。そのようなことを言っているようだ。


 やはり昼間考えていた通り足の容態が良くないようだ。


 少し休む必要があると伝えたいようだ。どのくらいの日数か、身振り手振りで聞くと十五日から二十日は必要らしい。


 これは是非もない。できるだけ早くゴタニアには行きたいが、これ以上体を壊したくない。


 無理をして、また歩けなくなりでもしたら目も当てられない。二十日程度であれば我慢するしかない。


 私は頷いて同意した。


 ◇◇◇◇◇


 良かった。クレリアは納得してくれた。


 さて、まだ夕方前で寝るには早いし周りを探索するには遅い。目の前に丁度よい川の淀みもあるし、ここは水浴びするしかないな。


 正直、昨日は激しい運動したので、汗をかき気持ち悪かったのだ。つなぎも下着もできれば洗いたい。


 クレリアに身振りで、そこで水浴びすると伝えると真っ赤になりながら頷いた。なぜ赤くなるのだろう。まぁ考えてみれば、多感なお年頃だからな。


 着替えの制服とタオル代わりの布を持って川岸にいく。もう一着のつなぎを失くしたのが痛い。つなぎを脱ぎ始めて、チラリとクレリアを見るとクレリアは慌てて後ろを向いた。まぁ、お子様に見られても別に気にしない。


 水に浸かる。ふぃー、これはいい。水深は百二十センチくらいかな。川はゆっくりと流れている。頭まで浸かった。シャンプーやボディーソープがないのが残念すぎるなぁ。クレリアはなにか持っているのだろうか。浸かりながら、つなぎを洗った。


 五分も浸かっていたら体が冷えてきたので上がった。クレリアは相変わらず後ろを向いている。布で体を拭き、下着はよく絞ってそのまま履いちゃう。しようがない、すぐに乾くだろう。制服を着ると何日かずっとつなぎを着ていたためか、なんか変な感じがする。


 クレリアは、こちらが川から上がったのを察知したのか、やっとこちらを向いてきたがポカンとしている。どうやら制服姿に着替えたので驚いているらしい。


 この制服は五年前、百五十年ぶりにリニューアルしたもので、帝国軍は珍しく奮発して銀河一と名高いデザイナーに依頼してデザインさせたものだ。なかなかカッコよく仕上がっている。


 ところでクレリアは水浴びするのかな?


 ◇◇◇◇◇


 コリント卿が驚愕することを伝えてきた。すぐ前の川で水浴びをするらしい。


 まさかレディーの前でそんなことをするなんて! と思ったが、すぐに考えを改めた。ここは王都ではないし、コリント卿は旅の仲間で臣下ですらない。どのような行動を取るも自由だ。しかも、この状況で二人が離れて行動することは愚かな行動と言わざるを得ない。グレイハウンドのような危険な魔物が闊歩しているのだ。


 恐らくコリント卿は、いざという時に私を守るために私から離れられないため、恥を忍んでこのような行動をとるのだろう。自分が弱いがためにコリント卿にこのような恥をかかせることを申し訳なく思った。


 やっと、川から上がったようだ。コリント卿を見て驚愕した。先程の奇天烈な衣装とは別の衣装をきている。黒の衣装に銀糸と金糸がふんだんに使用されている。


 これは軍人の礼服だ。勿論、このようなものは見たことは無いが直感的に思った。なんという荘厳な仕立てだろう! 神々しささえ感じる。あの生地の細やかさ!


 今までコリント卿のことを漠然と貴族としてしか見ていなかったが、これほどの衣装を仕立てられるとすると上級貴族、少なくとも侯爵位、いや王族に連なる者の可能性も十分にある。改めてコリント卿の底知れなさを感じた。


 コリント卿が水浴びしている時から考えていたが、やはり私も水浴びしよう。最後に水浴びしたのは七日前だし、体中、血だらけで不潔極まりない。


 コリント卿に水浴びする旨を伝える。コリント卿は、なにかあれば声を出せと言っているようだ。その後、後ろを向いてくれた。


 いや、その前に鎧のベルトを色々外してもらわなければならない。コリント卿は全部で十四箇所あるベルトを指差すと全て外してくれ、ついでに鎧を脱がせてくれた。勿論、ちゃんと鎧下を着ているので問題ない。コリント卿は鎧に興味津々だ。


 着替えを持って水際にいく。コリント卿は後ろを向いて鎧を調べているようだ。服を脱ぎ水に浸かる。久しぶりに体を清められる。


 気持ちいい。血だらけだった体、髪を洗う。ついでに鎧下、着ていた服も洗ってしまおう。


 スッキリした。体を清めるということがこれほど楽しかったのは初めてだ。川から上がり服を着る。


 コリント卿は川から上がったのを気づいたのか、振り向くと酷く驚いた顔をしている。慌てて自分の格好を確認するが、騎士用のハーフパンツとチュニックだ。別に変な格好ではない。コリント卿は何に驚いているのだろうか?


 ◇◇◇◇◇


 クレリアは水浴びするようだ。そのほうがいいな。未だにクレリアは全身血だらけ状態だ。見えるところは自分で少しは拭き取ったようだが、顔とか髪とかにも渇いた血が、まだべったりついている。


 おっと、鎧を脱がせてほしいらしい。おお、ベルトが一杯ついているな。これ普通に一人じゃ着られないんじゃなかろうか。鎧を脱がせると妙に軽い。プロテクターの時も思ったが、胴鎧までこんなに軽いとは。


(なんの素材だ?)


[……判りません]


 えっ! ナノムが判らないの?


[サンプルを飲み込んでください]


 えー、まずいんじゃないの? クレリアのだし。鎧の裏側ならいいかな? ナイフで見えないくらいの金属片を削り飲み込む。


[なんらかの金属の合金だと思われます]


 詳細は判らずか。見た目はステンレスのように見えるが異様に軽い。これも後日聞いてみるしかないな。削ったお詫びに汚くなった鎧を布で磨いておいた。


 水浴びから上がったようだ。振り向くと見知らぬ少女がいた。


 えっ!? クレリア!?


 文字通り見違えるほどキレイになったクレリアがいた。


 髪は明るいブルネットで白い肌、青い目、整った顔、ミス・ギャラクシーもびっくりの美少女がいた。


 汚れを落とすだけで、こんなに変わるの? ってぐらいの大変身だった。女は恐ろしい。


 もうすっかり夕方だ。


 よし、今日はもう寝てしまおう。クレリアを先に寝かせると食事の後片付けをして、薪を拾って焚き火に足すとナノムに警戒は任せて寝てしまった。


 翌日も夜明けに起きる。肉と魚が余っているから悪くなる前に焼いてしまおう。余ったら昼のお弁当だな。


 肉と魚を焼いていると匂いに釣られたのかクレリアが起きてきた。メニューは昨日と同じだ。生のカナッペは止めておいた。


 クレリアの食欲は朝から凄まじかったが、さすがに焼いた肉は余ったので、葉っぱで包んでお弁当にした。


 交代で用を足して、クレリアに鎧を着せると出発だ。拠点探しは街道から離れる方向にある、川の上流に行ってみようと思う。やっぱり川沿いの魅力には勝てない。


 三時間くらい河原を歩いていた時に、[あそこに穴のようなものがあります]とナノム。


 通り過ぎようとしていた大きな岩と岩の間だ。穴というより岩と岩の間にできた奥行きのある隙間というのが正解だろう。


 警戒しながら中に入ってみると、入り口は屈みながらでしか入れないが、中は人が立てるくらいに高く、結構広い。五メートル×五メートルくらいの広さはある。


 残念ながら、天井に当たる部分は大岩と大岩の間二十センチぐらいの隙間があり、雨が降ってきたら水浸しになってしまうだろう。


 いや、昼間なら日光が入って便利と考えるべきだろうか。雨のかからないスペースもあるのでなんとかなりそうだ。


 なかなかいいんじゃないだろうか。いや、ベストと言っていい。入り口に何か障害物を置けば万全の守りだ。


 クレリアにここはどうだ? と身振りで伝えると頷いていた。とりあえず、ここに決めよう。問題があればまた他を探せばいい。


 まずは、この入口をどうやって塞ぐかだな。と言ってもできるのは石を積み上げるか、木で柵のようなものを作るかしか無いな。


 荷物を置き武器だけ持って外に出て辺りを探索してみる。川の五十メートルくらい上流では水浴びに良さそうな淀みがあり、魚も居そうだ。


 うーん、見渡すかぎりでは、入り口を塞げるような材料はなさそうだな。いや百五十メートルくらい先の河原に太い倒木があるな。あんなに長いんじゃ使えないと思うけど、一応見にいってみるか。


 近づいてみると、かなり太い木で倒れてから何年も経っているような感じだ。太さはちょうどいいんだけど、長さは十メートル以上ある。


 木を切る道具があれば、なんとかなったかも知れないが、いやこんな太い木では斧があってもかなり苦労するな。ナイフでしこしこ切っていくのも大変そうだ。剣じゃ切れないよなぁ。ダメ元で剣を抜いて剣の重さだけで木を叩いてみる。するとサクッと剣の幅の半分くらい剣がのめり込んだ。


 おお、やっぱりよく切れるよな、この剣。まったく力を入れないでこれか。次は軽く力を入れて振り下ろす。今度は剣が埋まるくらいのめり込む。これを繰り返していくのはちょっと無理があるよなぁ。


 思い切り振れば、結構深くまでいけると思うけど、剣が欠けたり折れたらやだしなぁ。あれ? こんな状況どこかで…


 そういえば、あのゲームの中でも同じような状況になったステージがあった。


 RPGモードの亀型のモンスターとの対戦で中途半端な攻撃は、カウントされず思い切り剣を振り下ろす攻撃しか当り判定されない。その結果、倒せるか剣が折れるかは振ってみなければ判らないというステージだった。


 このステージで何本も剣を失った記憶がある。


 ただ攻略が進んでみれば、気のコントロールをマスターすれば折れずにクリアできるというオチがあったステージだ。


 ああ、そうだ。思い出した。そのステージのために編み出したスキルだ。


 コリント流剣術 奥義 ファイナル・ブレード。


 体内にある気(生体エネルギー)を剣の刃に纏わせ、聖剣に匹敵する切れ味を剣に付加する必殺技だ。


 あはは! このネーミング! ほんとあの頃は何を考えていたんだろう。


 だいたい「気(生体エネルギー)」ってなんだよ。そこらへんの設定が甘すぎるんだよ、あのゲーム。


 NPCの導師に学んで必死に試行錯誤してスキルを取得した日々を思い出す。妙に懐かしくなって無性にやってみたくなった。


 目を閉じて剣を構え、体内の生体エネルギーを意識する。それを練り上げ、練り上げたものが腕を伝い剣の刃に纏わりつく。


 なんちゃって! と思い目を開けると剣が光っていた。


(なんだこれは!?)


[判りません。ただ何らかのエネルギーを感知しました]


 またそれか。まさかファイナル・ブレードが本当に発動したのか?


 試しに倒木に力を入れずに振り下ろしてみた。剣はさしたる抵抗もなく倒木をあっけなく切断した。


 おいおい、こんなことあり得ないだろ! 光りを失くしていく剣をまじまじと見る。


 クレリアにもおかしいだろ、これ! と見せると、クレリアは剣ではなく倒木の切り口に夢中だ。あれ? そっち?


(これ、おかしいよな?)


 しようがなくナノムに聞く。


[異常です]


 同意してもらって安心した。まぁいい、切れたもんはしょうがない。有効活用しよう。拠点まで転がしていくことにした。


 拠点に着いて、どうしようか考えたが、これは力技でいくしかない。簡単に動かせたら意味がない。長さは一メートル近くあるので、かなりの重さだ。


 クレリアに中に入ってもらって、俺も入りながら木材を引き込む。ちょうど持つところがあったので助かる。これはクレリアじゃ動かすには苦労するだろう。木の太さは入り口にピッタリだった。隙間は二十センチもない。これなら害になりそうなものは入ってこられないだろう。


 クレリアにどうだと身振りすると感心したように頷いていた。


 よし、これでセキュリティは万全だ。


 もう十一時近くになったので、早めの焼肉弁当を食べることにした。冷えても、まぁまぁの味だった。




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[良い点] 交代で一人称語りなの良いですね。 言語が通じない気持ちの描写も描かれて、大変ニヨニヨしちゃいます
[気になる点] 〉ところでクレリアは水浴びするのかな? 朴念仁がいる(笑)
[良い点] アラン君のサバイバル能力の高さと料理レベルが高さでサバイバル中の食事も豪華で良いですね。そしてやってみたら出来ちゃったファイナル・ブレード!あのナノムもビックリしているのも良いです。 [気…
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