089. 教会
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王都の取り締まりを始めて三日目。取り締まりは概ね順調で、今日も三ヶ所の犯罪者の拠点を強襲し、負傷者はなし。上出来と言っていいだろう。
一昨日と昨日は、賊たちは襲撃を想定していなかったようで、ほとんど襲撃に対する備えがなかったが、今日の賊たちは戸締まりも厳重だったし武装も十分だった。
既に俺達の取り締まりの噂が広まり、王都の賊は厳戒態勢に入ったと考えたほうが良さそうだ。
「ヘルマン、今日はこれで終わりだ。引き上げよう」
「は、承知しました」
もう夕刻に近いし近くに賊の拠点はない。たまには早く終わるのもいい。
ヘルマンは十人程の守備兵に、捕らえた十五名の賊の移送と拠点にあった物品の運搬を指示している。
それにしても守備兵達は、売れる売れないにかかわらず全ての物を容赦なく運び出しているな。やはり売り上げを折半することにした事と関係あるのだろうか。
シャイニングスターのメンバーとヘルマン達の他、守備兵十名と一緒に宿まで戻ることになった。
建物を出て最初の街角で、男とばったりと出会った。
男の頭の上にオレンジ色のカーソルとコメントが仮想表示される。男は俺達を見ると驚愕の表情になり、踵を返し逃げ出した。
問答無用でエア・バレットを放つと、男に命中し吹っ飛び転がっていった。
「捕らえろ。昨日の二件目にガサ入れした賊の構成員だ」
「はッ」
三人の守備兵達が道に転がっている賊を捕らえるために駆け出していく。
ガサ入れというのは守備兵と行動を共にするようになって覚えた言葉で、賊の拠点に踏み込むことをガサ入れというらしい。
俺達の赤い腕章と守備兵達を見て逃げ出したようだ。判りやすい行動をとってくれるとヘルマン達に説明するのが楽でいいな。
右腕に付けている赤い腕章はヘルマンの要請によって付けているもので、一目でシャイニングスターのメンバーと判るものが欲しいとのことだったので、急遽カトルに入手してもらったものだ。
俺は知らなかったが街中で魔法を使用するのは厳禁らしく、この赤い腕章をしていれば判断がしやすいとのことだった。もちろん俺達は王命により活動しているのだからこの規則には当てはまらない。
「閣下、全ての賊の顔を覚えていらっしゃるのですか?」
「まさか。たまたま印象に残っていて覚えていただけだよ」
先程、男の頭の上に浮かんでいたオレンジ色のカーソルは、賊の拠点に出入りしていた人間を表すもので、重犯罪の証拠がある人間の場合は赤いカーソルだ。
街中で賊に出会っても判るようにイーリスに頼んでいたもので、非常に便利だ。
程なくして宿に帰ってきた。何故かヘルマンは、いつも宿まで送ってくれる。
「閣下、少し御相談があるのですが……」
「いいとも。茶でも飲みながら話そう」
ヘルマンを宿の食堂に招き入れ、食堂で話をすることにした。
「実は、賊共の取り調べのことなのです。想定していたよりも数が多く、このままだと通常の務めにも支障が出てきてしまいそうなのです。面目次第もありません」
そうか。今日までに捕らえた者たちを合計すると恐らく二百名を超えるだろう。確かに収容する場所にも困るだろうし、看守や一人ずつ取り調べをおこなうことを考えるとかなりの人数が必要なはずだ。
守備兵たちも余剰人員がいた訳じゃなく、通常の業務とは別におこなう仕事になるのだから無理があるのは当然のことだ。
「いや、考えてみれば当然のことだ。こちらこそ考えが足りなかったな。よし、明日からは取り締まりは一旦休止することにしよう。余裕ができたら連絡をくれ」
「申し訳ありません。そのようにして頂けると助かります」
この後、ヘルマンに取り調べの状況などの話を聞いた。
やはり捕らえた者たちは、全員が何らかの形で罪を犯しているそうで、その罪に応じて罰を受けることになりそうだ。
罪を犯した者は、盗賊と同様に奴隷扱いで鉱山などに送られる。送られる先は色々あるようで、罪状に応じてその扱いや刑期が決まっていくらしい。
裁判をおこなうわけではなく、簡単な条件式のようなもので決めていくようだ。やはり、この国の犯罪者に対する扱いは優しくはないな。
取り調べは想像していた通り、かなり苛烈なもののようで、下っ端の若い賊だと取り調べの様子を見学させるだけで色々と話してくれるようになるとのことだった。
一通り状況を話すとヘルマンたちは帰っていった。
セリーナの隊、シャロンの隊が続け様に帰ってきた。速報では軽傷の負傷者は出たようだが、魔法で問題なく治癒できたとのことだった。今日の戦利品もタップリだ。
皆が揃った夕食時にヘルマンからの要請を伝えていく。
「ということで、宿の警備は続けなければならないが、交代で暫くは休日としよう」
「「おぉ」」
王都に着いてから気の休まることがなかったから丁度良い。
「アラン、明日は何をするの?」
「俺は午前中に教会に行ってこようと思う。ちょっと司教と約束があってね」
「司教と!?」
実際には約束があるわけではなかったが、夢を見た時には必ず行くという約束があるんだから、あながち嘘じゃない。
「アラン、教会の司教と面識があるの?」
「先日、教会に行ってみたんだよ。その時にちょっとね。できれば領地に神官を派遣してもらいたいと考えているんだ。その交渉に行ってこようと思う」
「あぁ、もしそんなことができたら素晴らしいことよ!」
「本当ですね! リア様」
「…… そんなにすごい事なのか?」
「それは当然でしょう。敬虔な信者は教会のない土地に移住しようとは考えません。教会を建て、神官を招くことはとても重要なことですよ」
おぉ、俺が思っていたよりもこれは重要な案件だったんだな。今のところ、最重要案件といってもいいだろう。
「では、私も行きましょう。もちろん交渉の邪魔はしない。ルミナス様にいろいろとお礼を言いたいし、交渉が上手くいうように祈るわ」
「では、私も行きます」
「私も」
せっかくの休日だというのに、みんな俺につきあってくれるようだ。ま、どうぜ護衛の者も一緒に行くんだろうから皆で行ってみようか。
翌朝は休日らしくゆっくりと過ごし、出掛けようとすると既に馬車が用意されていた。
てっきり歩いていくのだと思っていたけど、警護をする者からすれば馬車に乗っていたほうが守りやすいだろうから仕方のないことかもしれない。
警護の者は五名、クレリア達と俺の計十名だ。
教会に到着し中に入ると、やはり沢山の信者の人達が熱心に祈っていた。
すぐにシスターが俺達のところにやってきた。今日は大人数だし貴族っぽい格好をしていたからかな。
「これは、コリント卿。ようこそいらっしゃいました」
シスターはそう言うと跪いた。よく見ると先日来た時に会ったシスターだった。
それにしても、もう俺が貴族になったことを知っているのか。どうやら叙勲の話が広まっているというのは本当のようだな。
「ゲルトナー司教はいらっしゃるでしょうか?」
「いらっしゃいます。コリント卿がいらっしゃったらすぐにお通しするようにと仰せつかっております。こちらにどうぞ」
クレリアとエルナ、それに護衛の者は礼拝堂に残り、セリーナとシャロンについて来てもらうことにした。
案内された部屋はこの前とは違う応接室のようなところだった。高そうな家具や調度品が置いてある高級な感じの部屋だ。きっと貴族用の応接室なんだろう。
ゲルトナー司教はすぐに来てくれた。
「これはコリント卿。この度の叙勲、おめでとうございます。そればかりか護国卿になられたとか、併せてお祝い申し上げます」
「ありがとうございます」
「コリント卿、できましたら二人だけでお話ししたいのですが……」
「もちろんです。悪いが二人とも皆のところで待っていてくれ」
「は、かしこまりました」
セリーナ達は退室していった。二人だけで話って何だろうな。あぁ、使徒の話があるからかな?
「しかし、本当に驚きました。まさか男爵に叙勲されるために王都にいらしていたとは」
「お話しできなくて申し訳ありません」
「いえ、いろいろと御都合もあるのでしょう。今日、来ていただいたということは使徒様の夢を?」
「あぁ、それもあるのですが、今日はお願いにまいりました」
「ほう、何でしょう?」
「単刀直入にいうと私の領地に神官を派遣していただきたいのです」
「…… 確かコリント卿の領地は、『魔の大樹海』を開拓して、これから作られるはずでは?」
「そうです。しかし、ある程度の目途はたっており、すぐにでも教会が必要になるはずなのです」
「…… 私としても協力して差し上げたいのですが、恐らくそれは叶わないでしょう」
「何故でしょう?」
「ただの未開の地であれば、交渉次第でなんとかなったのかもしれませんが、未開の地、それもあの『魔の大樹海』となれば、許可を出す司教はいないといっていいでしょう」
神官の派遣は、結構大ごとなんだな。司教たちの合議制なのだろうか。なんとかならないかな。
「寄付金であれば、それなりにお出しできると思うのですが……」
「いえ、神官の派遣ということだけではなく、『魔の大樹海』を新たな教区とするということが問題なのです。一介の司教である私にはどうしようもありません。大司教様であれば一存で決めることができるですが……」
「大司教様に取り次いでいただくことは可能ですか?」
「…… 残念ですが大司教様は病に伏せっているのです。これは機密ですが、今は面会も許されない容体なのです」
この国の教会のトップは大司教とは聞いていたが、このタイミングで病とはついてないな。
イーリスから通信が入った。
(艦長。その病に伴い十五日後に、大司教選ともいうべき選挙のようなものがあるはずです。ゲルトナー司教も積極的に活動しているようですが、状況はあまりよくないようです)
…… なるほど、言いたいことはわかった。
「十五日後に重要なことを決める会議があるとか」
「…… どこでその話を?」
「城です。ところでまた夢を見ました。今日、十一時を知らせる鐘が鳴り終わった時です」
じっと司教の目を見ながら話し続けた。この意味に気付いてくれるといいんだが……。
司教もまたじっと俺の目を見ている。
「…… それは確かですか?」
「今まで夢と異なる状況になったことはありません」
「…… 分かりました。教えていただきありがとうございます。神官の件、少し考えさせてください。可能性は薄いですが、なんとかなるかもしれません」
「よろしくお願いします。今日のところはこれで失礼させていただきます」
意味が伝わっていれば、司教はこれから忙しくなるだろう。十一時までもうあまり時間はない。
礼拝堂に戻るとクレリアたちはまだ熱心に祈っていた。セリーナたちは退屈そうに席に座っている。
「アラン、もう終わったの? 話し合いはどうだった?」
「うーん、なかなか難しいみたいだな。根気よく交渉するしかないな」
「そう……」
数人のシスターたちが慌ただしく礼拝堂に駆け込んできた。
「みなさん! なんと、今日はゲルトナー司教様が説教をしてくださるそうです!」
「「おぉ」」
「司教様が……」
「できるだけ多くの方が聴けるように外の広場でおこないます。みなさん、広場に集まってください」
司教にはちゃんと意味が伝わっていたな。
どうやら司教の話は貴重なもののようで、信者たちがぞろぞろと教会の外に出ていく。
俺たちも一緒に外に出ることにした。
シスター達は人数不足と考えたのか、通りを歩いている者にも声をかけ始めている。
教会前の広場に百五十人くらい集まった頃、ゲルトナー司教が姿を現した。
説教用の台へ上がり、おもむろに説教を始めた。聴衆はなんとか聞き取ろうと息を潜めて聴いている。
(ディー・ワン。教会の上空を旋回飛行してくれ。俺の合図でステルスモードを解除しろ)
[了解です。隊長]
ん? 何か変な感じがするな。あぁ、ディー・ワンが俺の事を『隊長』と呼んだからか。今までは『艦長』だったはずだ。
そういえば俺はこの間、宙兵隊中隊指揮官になったな。今までやけにドローンが堅苦しい感じだったのは、俺の肩書きが艦長だったからなのか?
司教の話は簡単に要約すると、今の世は苦しいが神を信じていればなんとかなる。なんとかならなくても来世ではきっと素晴らしいものが待っているといった宗教らしい話だった。
十一時の鐘が鳴り始めると、司教は少し慌てたように話を切り上げた。見事だな。
「おぉ、主よ! 我らに哀れみをいただけるのであらば、どうかその恩寵をお示しください!」
両腕を空に掲げ、空を見上げている。聴衆もつられて空を見上げた。
(今だ)
「あれは!」
「「おぉ!」」
「使徒様だ!」
話を聴いていた人達は一斉に跪き祈っている。司教も台の上で跪いた。
「あれが使徒様!?」
クレリア達も慌てて跪いている。おっと俺も跪かないといけないな。
(ディー・ワン、そのまま旋回しつつ高度を上げ、三十秒後にステルスモードに移行だ)
[了解]
使徒が姿を消すと人々は立ち上り、呆然としたように司教を見ている。
「主は皆さんをちゃんと見守ってくださっています」
司教はそう言うと皆に頷きかけ、ゆっくりと台を降りて教会の中に入っていった。
聴衆は呆然と黙ってそれを見送るだけだった。
なかなかの役者だな。正直ここまでやるとは思っても見なかった。
使徒とスピリチュアルな感じで意思疎通できるとなれば、宗教関係者には凄い意味をもつだろう。
これをあと何回かやれば、司教の宗教的名声は否応なしに高まるはずだ。いや、今回のことだけでも十分かもしれないな。
司教とは連絡を絶やさないようにしよう。
遅くなりましたが、書籍第二巻が昨日、3月30日に発売されました!
活動報告にも書かせてもらいましたが、書籍版はWEB連載版からの改稿に加え、キャラクターデータ、書籍限定のセリーナとシャロンの誕生エピソード『目覚め』が収録されています。
また、大変不評だった料理話も、身を切るような思いでスッキリさせたつもりですw
また、下記の一部書店様で購入すると特典のショートストーリーが付いてきます。
取り扱い店舗は以下のとおりです。
★ とらのあな様
『アランは将軍?』 アランの地位が明らかに!?
★ ゲーマーズ様
『セリーナとシャロンの所属部隊』 セリーナとシャロンは実は○○だった?
★ メロンブックス様
『アランの過去』 アランの女性関係は!?
★ 一部書店様
『人類スターヴァイン帝国』 ついにアラン達の国の名が明らかに!?
よろしければ、お願いします!
書籍を買っていただいた皆様、ブックマークと評価を入れてくださった皆様、誤字報告をしてくださった皆様、本当にありがとうざいます!
誤字修正の方が滞っていますが、三千件近くの報告がされており、なかなか反映することができずにいます。少しずつでも進めていきます。
こんなにも沢山の報告をしていただき、ありがとうございます!
これからもよろしくお願いいたします。




