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087. 救出作戦3

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。



「この鐘はいったい!?」

「いったい何が起きているのだ?」


「…… シャロン。助けが来るって、どういうこと?」


「グローリアが来てくれたわ」


「グローリアが!? はぁ~……、そういう手筈になっているのなら言っておいてほしかった」


「ごめんなさい。本当に来てくれるか判らなかったから」


「………… まぁ、いいわ。そう、グローリアが来たのならもう安心ね」


「この騒ぎでこちらに向かっていた衛兵も城の外にむかったし、後ろの侍従たちも別の所に向かったわ」


「…… ノリアン卿、そのグローリア殿というのは?」


「あぁ、そういえば班長たちには話していませんでしたね。グローリアは私たちのクランの一員です。グローリアはドラゴンなのですよ」


「………… すまない。今、ドラゴンと聞こえたような気がするのだが?」


「そう言いました。信じられないでしょうが、私たちはドラゴンを仲間にしたのです」


「…… ノリアン卿、今は冗談を言っている場合ではないと思うが?」


「冗談ではなく本当のことです」


「…… シャロン殿、本当のことなのですか?」


「本当のことです。しかし、こんなことを話している場合ではありません。行きましょう」


 セリーナとシャロンが歩き始めるが班長たちは呆然としている。無理もない。この目で見ても信じられなかったのだから。


「班長。さぁ、行きますよ」


 その後は問題もなく進んでいき、先頭を進むセリーナは城の裏口のすぐ近くにあった部屋のドアを開け、部屋の中に入った。皆もそれに続く。

 部屋は一見すると商談室のような部屋で、当然のことながら無人の部屋だ。


「ここで馬車に乗り込む機会をうかがいましょう。今はちょっと都合が不味いわ」


 その時、グローリアの叫び声と思われる咆哮が聞こえてきた。

 入り口に近いとはいえ、城の中にいてこの大音量だ。外では大変なことになっているだろう。


「これは!?」

「本当にドラゴンが来ているというのか……」


「セリーナ、グローリアは大丈夫なのでしょう?」


「もちろん大丈夫。むしろ城の兵を心配したほうがいいと思うわ。あとはアランに任せましょう」


 どうやらアランがこの騒ぎを指示したようだ。ならばアランのお手並み拝見といこう。



 ◆◆◆◆◆



[艦長、作戦はルートGへと移行しました]


(…… 了解。準備しよう)


 なんとなくそんな予感はしていた。


 今回の作戦では、不確定要素が多く、確かなことが何一つ無かったため、考えられるあらゆるケースに備えて様々な筋書きを想定していた。


 ルートG。それはグローリアに姿を現してもらって、その騒ぎで脱走を誤魔化そうという、かなり強引な最終手段的な筋書きだ。

 もちろん、グローリアには地上から視認できない高度の上空で作戦開始当初から待機してもらっていた。


 極力使わない方向で考えていた手段だったが、恐らくセリーナ達に何か問題が発生したんだろう。

 暗殺されかけた俺にとっても、ルートGは悪くない筋書きだ。せいぜい頑張るとしよう。


 遠くで警鐘が鳴り始め、やがてそれは王城中の警笛の大合奏となった。

 それを聞いた貴族達が騒ぎ始める。


「何事だ!?」

「ふむ、こんな事は初めてですな」


 祝賀会が行われている晩餐室のドアが開けられ、衛兵と思われる三人の男達が慌ただしく入ってきた。


「何事だ!」


 入り口近くにいた軍人っぽい衣装を着た貴族が衛兵に声をかけた。


「ほ、報告します! ドラゴンです! ドラゴンが城の上空に現れました!」


「なんだと!? ドラゴン!?」


 入り口の衛兵に注目していた貴族達が一斉に、上座であるこちらの方を向いた。

 国王か宰相に指示を仰いでいるのかもしれないが、半分以上は俺を見ているように感じる。まぁ、さっきまでドラゴンの話をしていたので、それも無理はないかもしれない。


 衛兵に見えるよう、俺は晩餐の席から立ち上がった。


「絶対にドラゴンに手を出してはなりません。少しでもドラゴンを怒らせたら我々は終わりです」


「しかし、それではどのようにすれば!?」


「許可を頂けるのであれば、私がドラゴンと相対(あいたい)してみましょう。私の知っているドラゴンかもしれません」


「「おぉッ!」」


「コリント卿、もちろん許可しよう。見事ドラゴンを退けてみせよ」と宰相。


「はッ! 感謝致します!」


 駆け足で衛兵のほうに向かい、晩餐室から出ると三人の衛兵達もそのまま俺についてきて走り出した。


「現在、城壁の全バリスタを大急ぎで準備させています」


 衛兵の一人が走りながらそんなことを言ってきた。


「馬鹿者! ワイバーンじゃあるまいし、ドラゴンにそんな物が効くか! 怒らせるだけだ。すぐに止めさせろ!」


「はッ!」


 衛兵の一人が、その指示を受けてどこかに走り去っていく。


 これは本当のことだ。

 イーリスによるとグローリアが防御を固めた時の鱗の強度はバリスタで貫けるものではなく、眼球にでも直接当たらなければバリスタは意味をなさない。

 グローリアの反射神経からすると、よほどの隙を突かなければ、目を射るなんてことは不可能に近い。


 程なく一階まで降りてきた。ここはどうやら城の表の入り口のようだ。様々な装飾品が置いてあり華やかな感じだ。


「お前たちは安全な所に隠れていろ。危険に身をさらすのは俺一人でいい」


 付いてきた二人の衛兵に言う。


「しかし……」


「いいから任せておけ」


「…… 分かりました」


 二人の衛兵はそのまま城の中に留まったので、俺は一人、城の外に出た。

 さて、場所選びは結構重要だぞ。


 グローリアはイーリスの指示なのか、城の上空四十メートルくらいの位置でホバリングしながら空中に留まり、何かを探すようにキョロキョロしている。


 あまり馬車の位置から離れてもなぁ。…… ここら辺でいいか。

 ここなら貴族たちの馬車が止めてある位置から七十メートルは離れているし、グローリアが着地できる十分な広さがある。


「おーい! ここだ!」


 両手を振り上げてグローリアに合図をする。


 グローリアは俺を見つけると大音量の雄叫びを上げ、降下してきた。

 巨大な翼で羽ばたきながら近づいてくるので突風が吹き荒れる。


「あぁ、やっと見つけました! 族長」


 俺の耳には、大音量の女の子の声に聞こえるが、周りにはドラゴン特有のグルグル、ガオガオという声に聞こえているはずだ。


(お疲れさま、グローリア。直接会うのは久しぶりだな)


「あぁ、そういえばそうですね。いつもは通信でしたね」


 グローリアとはARモード通信で短い時間ではあるが、週に一回は会うようにしていた。

 セリーナとシャロンは、毎晩のように会いに行っているそうで、グローリアは通信機の扱い方や、仮想ウィンドウ・システムの使い方は、マスターしている。


「イーリスから、なんか怒っているふりをしろと言われたんですけど?」


(そうなんだよ。変なお願いで悪いけど付き合ってくれ。えー、ここの人間たちにドラゴンの凄さを教えてやってほしいんだ。どうもここら辺の人間はドラゴンを甘く見ているようなんだよ)


「そうなんですか?」


(ああ、間違いない。かと言って何も悪いことをしていない人間を脅すのもなんだから、俺を怖がらせるつもりで、ちょっと怒ってみてくれ)


「あぁ、なるほど。…… 演技ってことですよね?」


(そうだ、演技だ。…… 演技なんて言葉、よく知ってるな?)


「シャロンたちから教わりました。男性の気を引くには、少しは演技しなきゃ駄目だって」


 くそ! あの二人はグローリアに何を教えているんだ! 後で忘れずに説教してやろう。


「判りました! ちょっとやってみます」


 グローリアは、俺に顔を近づけると牙を剥き出してきた。


「がおーっ!」


 俺には可愛らしい女の子の声で、がおーと言っているように聞こえるが周りには恐ろしいドラゴンの声に聞こえているはずだ。


 仮想ウィンドウ上にドローン視点の上空からの映像を表示すると、狙い通りに城の四階にあるバルコニーのような所から、たくさんの貴族たちが身を乗り出してこちらを見物している。その中には、宰相と国王も含まれていた。


 良かった。ショーは観客がいないとやる意味がないからな。


 別のウィンドウ上に、上空から映したと思われるグローリアの背後の城壁の様子が小さく映し出された。衛兵たちが密かにバリスタ四台を運んできている。

 手出し無用と言ったはずなんだがな。


(グローリア、後ろだ)


「はい?」


 グローリアが素直に振り向き、後ろの城壁の上の衛兵たちに視線を合わせる。


「おい! そこの兵士! 馬鹿なことは止めて早く逃げろ! 殺されるぞ!」


 俺の声が聞こえたのかどうか判らないが、兵たちが慌ててバリスタから離れ始めた。


「族長、これは?」


(人間たちの武器だよ。それでグローリアを傷つけようとしたんだ)


「…… 本当に甘く見られているようですね。こんな槍で傷つくと思われているのですか?」


(まぁな。殺さなければ少しくらい暴れてもいいぞ。焼き払ってしまえ)


「はい!」


 グローリアは息を吸い込むような動作をすると火炎を吐き、城壁の上にあったバリスタを次々と焼いていく。

 ただの火炎ではないようで、バリスタはあっという間に消し炭に変わり崩れ落ちた。


 グローリアは空を見上げ、今まで聞いたことのない大音量で雄叫びを上げた。翻訳システムはもう反応していない。


 グローリアは勢いをそのままに、近くにある木や、庭園のように整備されている草木を火炎で焼き払い始めた。

 火炎の届かない距離にあるモノは、巨大なファイヤーボールを口から飛ばして焼き払う。


 目の届く範囲にあった草木をあらかた燃き尽くすと、怒りが収まらないといった感じで、再び空を見上げ大きな咆吼を上げている。


 グローリアは、おもむろに両腕を振り上げると、そのまま俺に向かって振り下ろした。

 ドカンッという音と共に震動が伝わってくる。

 うおッ! びっくりしたぁ!


 グローリアは、俺の右と左三メートルの距離に倒れ込むように両腕を振り下ろしていた。

 鋭いかぎ爪をついた所は、石畳が崩れ大きな穴が開いている。

 両手をつくような形になり、その巨大な口は、俺の顔から一メートルも離れていない。


「これでどうですか!?」


 グローリアの口から漏れ出る息は、ボイラーの蒸気のように熱かった。


(とってもいい感じだ。これでこの城の人間たちもドラゴンの恐ろしさを思い知っただろう)


「良かったぁ! 頑張りました」


(よし、この後、俺に説得されて大人しく樹海に帰っていくという筋書きだ。怒らせると怖いが、ドラゴンは理性的な生き物だということを人間たちに印象づけたい)


「判りました」


「グローリア! 樹海に帰るんだ!」


 俺は自信たっぷりに、グローリアに向かって叫び、樹海の方角を指さした。

 グローリアがそれを聞いて怯んだような様子を見せる。いいぞ!


「グローリア! 樹海に! 帰れッ!」


 グローリアは更に怯んだ様子を見せ、完全に身を起こした。最高の演技だ。世が世ならグローリアは女優になれそうだな。


「グローリア! 樹海だ!」


 俺があらん限りの声で命じるとグローリアは、ついに羽ばたき始め、飛びたった。

 飛んではいるが、まだ城の上空でホバリングして、こちらを見ているので、さらにあらためて樹海の方角を指さすと、諦めたように樹海の方角に向けてゆっくりと飛んでいった。


(こんな感じで良かったのでしょうか?)


(最高の演技だったぞ。こんな下らないことにつきあわせて悪かったな。助かったよ)


(いえ、お役に立ったのなら嬉しいです)


(イーリスの指示があるまで、また上空で待機していてくれ)


(分かりました)


 ふぅ、特に何かしたわけじゃないが、なんだか疲れたな。その場に座り込むと、いつの間にか周りからは歓声が上がっていることに気づいた。


 衛兵たちが、どこからともなく現れて周りに集まっているし、上を見上げると城の四階のバルコニーからは貴族たちが歓声を上げていた。


「お見事でした。男爵閣下」


 そう声を掛けてきたのは、さっき晩餐室から一緒にきた衛兵だった。俺の横にきて片膝をついている。


「いや、ドラゴンにバリスタがバレた時には、もう終わりかと思ったよ」


「申し訳ありません。御指示が徹底できていませんでした」


「よく覚えておくといい。次にドラゴンを怒らせた時には、恐らく命はない」


「は、肝に銘じておきます」


 見渡すと二十人ほどの衛兵たちが俺の周りに跪いていた。敬意を表されていると考えていいのだろうか。実際には小芝居をしていただけなんだけどな。


 ふぅー、とりあえず作戦は順調だ。さっきグローリアがあちこちを焼き払っている時にセリーナたちは、無事馬車に乗り込むことができた。誰一人、それに気づいた者はいない。

 あとは、なんとか祝賀会を終えるだけだ。


「コリント卿、陛下より御伝言です。御都合がつき次第、晩餐室にお越しいただきたいとのことです」


「了解した」


 お呼びとあらば、駆けつけなければならないな。俺が晩餐室に向かって歩き出すと、五名ほどの衛兵が先導し、後ろにも五人ほどの兵がついてくる。

 これはどういう意味だろう。まさか連行されているんじゃないだろうな。そうでないことを祈ろう。


 晩餐室に到着し、中に入ると貴族たちから拍手が巻き起こった。

 陛下のお呼びとのことなので、そのまま上座のほうに近づき王族のテーブルから五メートルの距離で片膝をついた。


「直答を許す」


「申し訳ありません、陛下。城に被害を出してしまいました。全ての責任はこの私にあります」


 拍手で迎えられたんだ。これくらい謙遜しても問題ないだろう。それに被害の責任が全て俺にあるというのは純然たる事実だった。


「いや、よい。むしろあの程度の損害で済んで幸いと言うべきだろう。あのバリスタのことさえなければ、そのまま立ち去ったのかもしれん」


「私もそのように考えております。見てお分かりになったと思いますが、あれは人がどうこうできる存在ではありません。敵対の意思を見せるのは自殺行為です」


「ふむ。其方はそのドラゴンを討伐した功績で此処にいるのだがな」


「…… そうでした。しかし、私は運が良かっただけです。もう一度同じことをしろと言われても全く自信がありません」


「……さもありなん。まさかあれほどのモノとは……。其方は正直者のようだな、コリント卿。…… ドラゴンは何故、城に姿を現した?」


「…… 判りません。あのドラゴンは、私が会ったことのあるドラゴンでした。理由は判りませんが、私が城に来ている時に現れたのですから、私に会いに来たのかもしれません。しかし、以前会った時とは様子が異なり、まったく話が通じませんでした」


「…… 確かにそのように感じられた。しかし最後には其方の言うことを聞いていたようだが?」


「はい。かろうじて、いうところでしょうか。単に興奮していただけのことかもしれません。今となっては確認しようもありませんが」


「結局何も判らず、か。しかし、あのドラゴンに単身で立ち向かった其方の勇気を疑う者は此処にはいないだろう。

 コリント卿、よくぞドラゴンを退けた。大儀である」


「ははッ! 身に余る過分な御言葉、恐悦至極に存じます」


 この後、国王自らが音頭をとって乾杯が行われ、下へも置かない歓待ぶりで祝賀会が続けられた。場の雰囲気は、俺がまるでドラゴンを討ち取ったかのようだ。


 祝賀会が再開されて一時間近く経った頃、やっと祝賀会はお開きとなった。

 王族が退席し、次は上級貴族たちだ。宰相と目が合い、笑いかけられたが、その目は全く笑っていなかった。さて、どうなることか……。


 俺は、いつ脱走が発覚するか、または馬車に乗っている者たちがバレるんじゃないかと気が気じゃない。


 酒に酔ったふりをして、挨拶してくる貴族を適当にあしらいながら、やっとのことで晩餐室を抜け出すことに成功した。


 護国卿の盾と紋章を持った侍従たちがすかさず付いてくる。そういえば彼らのことをすっかり忘れていたな。

 

 城から俺が出てくると馬車の近くに待機していたエルナ、シャロン、セリーナが顔を輝かせ、近づいていくと三人は跪いた。


「コリント卿、お待ちしておりました」とエルナ。


「うむ、ご苦労。侍従殿から紋章と護国卿の盾を受け取ってくれ」


「ごッ、護国卿!? …… かしこまりました」


 エルナとシャロンが侍従から恭しく受け取った。


「疲れた。早く帰ろう」


「「はい!」」


 御者台にはエルナとセリーナ。馬車の中は俺とシャロン。馬車の後ろの荷物区画には脱獄囚が十一人だ。

 考えてみたら馬車のサスペンションがかなり沈んでいるんじゃないだろうか。


 城門をくぐるまでは、本当にドキドキしたが、止められることなくすんなりと城を出ることができた。


 シャロンと目を合わせて、大きなため息をつく。さて、急がないと王都の門がしまってしまう。


 あらかじめ決められた道を進み、尾行がいないことをドローンで確認すると、馬車は宿には向かわずに宿に程近い倉庫街へと向かった。

 ある大きな倉庫に馬車が近づいていくと、扉の前に立っていた二人がすかさず扉を開ける。

 馬車は止まらすに倉庫の中に入っていき、すぐに扉が閉められた。


 倉庫の中は四十人ほどの人間が待っていた。もちろん全てシャイニング・スターの者たちだ。


「アラン! 予定よりも遅かったから凄く心配したわ」


「あぁ、色々とあってね。なんとか無事に戻ってこられたよ」


 早速、馬車の荷台部分が開けられた。


「おぉ!」


 覚束ない足取りで一人ずつ手を借りて荷台から降りている。

 クレリアに気づくと駆け寄ってきて、クレリアの前に揃って跪いた。


「「クレリア様!」」

「姫殿下!」


「あぁ……、みんな、こんなにやつれてしまって……」


「姫殿下、お久しゅうございます」


「…… ハインツ、ブルーノ、パウル、ランドル、ローマン、ウッツ、クサーヴ、エーリヒ、ホルガー。皆、私のためにすまない…… 苦労をかけた」


「なんのこれしき! ちょうど良い休養となりました」

「おぉ、そうですとも! 少々休みすぎたくらいです」


「…… そうか。だが、もうしばらくは休んでもらうぞ。今は体を元に戻すことだけを考えてほしい」


「はッ、一刻も早く体調を戻し、姫殿下のお役に立ってみせます」


「よろしく頼む」


 見慣れない二人の男が、助け出された男たちの後ろに跪いた。セリーナの報告にあった前宰相とその息子だろう。


「ハインツ、この者たちは?」


「ベルタ王国、前宰相、ライスター卿とその御子息にございます」


「なんと!」

「おぉ」


「クレリア・スターヴァイン王女殿下とお見受けします。お初に御意を得ます。私はヴェルナー、これは息子のアベルと申します。お見知りおきを」


「ヴェルナー・ライスター卿か。確か、十二の時に見事な茶器の一揃いを贈っていただいた」


「おぉ、覚えていてくださっていたとは! 確かにお贈りいたしました。ご無沙汰しております」


「して、なぜライスター卿が?」


「現宰相、ヴィリス・バールケの卑劣な罠に嵌まり、一族郎党は皆殺しに。息子共々、城の地下牢に幽閉されておりました。皆様の脱出に合わせて助けていただきました。感謝致します」


「………… そうか。役にたったのであれば幸いだ。恩を感じていただけるのであれば、我らのことは内密にしてもらえると助かる」


「無論にございます。今日のことが、私と息子アベルの口から語られることはありません。我が名にかけて誓います」


「かたじけない。…… この者らは本日中に王都を出る予定だ。卿らも同行し、適当な所で自身の道を行かれるがよかろう」


「…… 殿下、我らも共につれていってもらうことは可能でしょうか?

 私一人であれば、どこででも野垂れ死にますが、息子アベルはまだ若くあまりに不憫。どうか皆様の庇護を頂きたく、伏してお願い申し上げます」


「しかし……。アラン?」


「…… いいんじゃないか? まぁ、皆が納得するならば、だが」


「ダルシム?」


「クレリア様に忠誠を誓うのであれば問題ないかと」


「無論で…」

「父に国を捨てろと!?」


「アベル、黙りなさい。我らは、我らの誓いは、もう王と国より打ち捨てられているのだ。義理立てしても仕方あるまい」


「しかし、父上ともあろう御方が冒険者として生きていくなんて……」


「お前は何も見えていないのか? この方々がただの冒険者のわけがなかろう。私はお仲間に加えていただけるならば、冒険者にでも、物乞いにでもなってみせる。それが我らの悲願を叶える最後の希望だ」


「…… そう、なのですか?」


「ライスター卿、其方らの悲願とは?」


「宰相、ヴィリス・バールケの首にございます。我ら親子、ヴィリスの首のためならば命も惜しくはありません」


「…… 確かに首を取る機会はあるやもしれぬ。それがいつになるかは判らぬが」


「おぉ、やはり! 殿下、なにとぞ奴の首を私に! その機会を頂けるならば、我が一族の忠誠は、永遠(とわ)にスターヴァイン王家に捧げます」


「アランはどう思う?」


「特に問題ないな。宰相は、いけ好かない嫌な奴だったよ。今日は二回も毒を盛られた」


「毒を!? アラン! 大丈夫なの!?」


「勿論、大丈夫さ。まぁ、なんとかなったよ」


「あの男は好んで毒を使います。特殊な毒で嗅ぎ分けることは難しいのですが、さすがでございます。…… では、あの男の首は私に?」


「…… その機会が巡ってきた時には任せる、と約することはできる」


「それだけで十分でございます。それまで息子共々、全力を尽くして皆様のお役にたってみせましょう。

 我が剣は、クレリア・スターヴァイン王女殿下のために在ることを、我が名にかけて此処に誓います」


「我が剣は、クレリア・スターヴァイン王女殿下のために在ることを、我が名にかけて誓います」


 ヴェルナーがクレリアに臣下の誓いをたてると、その息子アベルも慌てて誓いとたてた。


「リア様、そろそろ時間が迫っております」


 おぉ、そうだ。王都の門が閉められる時間まで一時間もない。

 このあと救出された者たちは、サテライト十班の警護付きでガンツに向かう予定で、そのための馬や馬車、物資などの準備も万端だ。


「我らも王都での用が済み次第、ガンツに向かう。それまで息災であれ」


「「ははッ」」


 皆、口々に別れの挨拶を口にすると用意された馬車と馬に乗り、慌ただしく出発していった。


 さて、俺たちもこの倉庫を引き払い、宿に戻るとしよう。



更新が遅くなり申し訳ありません。


活動報告にも書かせていただきましたが、書籍第2巻のカバーイラストが公開されました!

素敵な絵でとても気に入っています。

発売日は3月30日で、Amazon、その他サイト様で予約受付中です。よろしければお願い致します!


書籍を買っていただいた皆様、ブックマークと評価を入れてくださった皆様、誤字報告をしてくださった皆様、本当にありがとうざいます!


これからもよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言]  このグローリアが来た理由、アランはすっとぼけながら、自分をなぜか心配していた。てきはどこだーと怒っていたといい、毒の暗殺へのけん制しても面白いかな?  今の話だと、アランがドラゴンを制御で…
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