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085. 救出作戦1

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。



--- 二日前 ---


「宰相閣下、ルチリア卿が面会に参りました」


「通せ」


 ルーテスとその従者三人が執務室に入ってきた。ルチリアにはソファーに座るように勧める。


「戻ったか。遅かったな」


「申し訳ありません。ガンツは思いのほか遠く……」


「まぁ、よい。報告を聞こう」


「は、冒険者アランについて噂されていることは概ね事実です。

 冒険者クラン、シャイニングスターのメンバーは百五名。

 いずれもCランク以上の冒険者たちで、リーダーのアランはAランクです。

 パーティーメンバー五人だけでオークの集落を全滅させるなど、実力は確かなようです。

 ドラゴンを倒したところを目撃した者はいません。クランの半数の五十名で倒したとのことです。

 ドラゴンがガンツに、倒したドラゴンの死体を運んできたという話も事実です」


「…… 事実だったか。ドラゴンを従えたとの話は?」


「それも事実のようです。アランが、ドラゴンの腕に登り親しげにしている様子を数百名の者が見ておりますし、会話をしているところも目撃されております。

 ドラゴンは人間の言葉を解し、名はグローリアといいます。アランの言うことに従っていたと複数の証言を得ることができました」


「ドラゴンが人の言葉を理解したというのも事実か。………… 危険だな」


「おっしゃる通りです。非常に危険な男です」


「…… やれるか?」


「もちろん可能です。しかし、シャイニングスターは、賊の襲撃を警戒して数十名で宿を固めております。先の賊を討伐した実力からも、多くの手勢が必要になりそうです」


「ならば、城に来た時か……」


「それが一番安上がりで確実でしょう。私にお任せください」



 ◇◇◇◇◇



 約束の時間である十二時の十分前には、城門に到着した。

 門には衛兵の他に先日、城で会ったザード儀典官がいた。どうやらわざわざ待っていてくれていたようだ。


 馬車の中を確認したザード儀典官が衛兵に頷きかけると、止められる事なく門は素通りすることができた。

 先日と同じように裏口のほうに誘導され、馬車を止めた。誘導されて馬車をとめた場所は、裏口から四十メートル程の距離で悪くない位置だ。


「アラン様、お待ちしておりました。では、さっそく参りましょう。領地の税制などの説明もありますので、従者の方も同席させることも可能ですが?」


「いえ、彼女達には理解できない話だと思いますので、待たせておきますよ」


「従者の方はあちらの建物で待っていることもできます。もちろん、馬車にいてもかまいません」


 ザード儀典官が示した方向には兵舎のような建物があった。従者専用の待合室があるようだ。


「私達は馬車で待っています」


「そうですか。では、アラン様。参りましょう」


 セリーナ達に頷きかけると、三人は黙って頷いた。彼女達は頃合いをみて、馬車の中で女官の服に着替え、城に潜入することになる。


 案内された部屋は、裏口に程近い先日と同じ商談室のような所だった。


「アラン様には、これから一時間で礼儀作法を学んでいただきます。陛下に拝謁することになるので失敗は許されません。大変でしょうが、一緒に頑張りましょう。

 叙勲式、祝賀会での振る舞いなども合わせて学んでいただきます。

 一三時から一六時まで、別の者に担当を代わり、領地を治めるために必要な知識を学んでいただきます」


 なるほど。十六時から式だというのにこんなに早く呼ばれたのは、礼儀作法と貴族になるための講習だったのか。

 王に拝謁するための礼儀作法を一時間で覚えろというのも無理があるし、貴族講習がたったの三時間というのも凄いな。本とか紙に書いた資料とか貰えるといいが。


「礼儀作法については、多少学んでいるので間違いないか確認してもらえますか?」


 クレリアとエルナから学んだ礼儀作法の知識をザード儀典官に披露してみせた。一通り話した後に、実際にザード儀典官を王に見立て、礼をやってみせる。


「素晴らしい! ほぼ完璧な礼儀作法です。アラン様は何処でこれらの事を学んだのですか?

 いえ、こんな事を話している場合ではありませんね。時間までに終えるのは絶対に無理だと考えていましたが、これならば何とかなりそうです」


 どうやら、一時間で礼儀作法を学ぶという講習はザード儀典官の発案ではないようだ。

 この後、ザード儀典官に礼儀についていくつか指摘を受け、講習は叙勲式、祝賀会での振る舞いへと進んだ。


 幸いな事に叙勲式の進行は、厳格に決められており、王のセリフ、俺のセリフも既に決まっているようだし、とても短いセリフだったので有り難い。


 祝賀会の時点では俺も貴族になっている事から、特に難しい作法は必要とされないとのことだった。

 特に今日の祝賀会は俺が主賓だし、貴族になったばかりだという事で、よほどの非礼でない限り許されるだろうとのことだ。


 次はテーブルマナーのようだ。実際に料理が運び込まれナイフとフォークを使い食べてみせる。テーブルマナーもクレリア達に教わっていたので問題ないはずだ。


「はい、そこまでで結構です。素晴らしい作法です。さすがは、王都で一番の話題になる御方は違いますね。本当に一時間で終わるとは思っていませんでした」


「分かりやすい説明だったので助かりましたよ」


「いえ、下手をしたら私の責任を問われることになるので、本当に助かりました。

 アラン様、感謝いたします。では、次の担当を呼んで参ります」


 ふぅ、次は貴族講習か。休憩時間はないのだろうか。



 ◇◇◇◇◇



 地下牢の衛兵たちの交代が、時間どおりにおこなわれるのを、仮想ウィンドウ上で確認すると、シャロンと視線を交わした。安心した様子が伝わってくる。


 ここ数日間、衛兵の交代は十三時ちょうどだったので、恐らくそうだろうと考えていたが今日も衛兵のシフトに変更はないようだ。

 同じシフトならば真夜中の一時まで交代はないはず。


 既に女官の服に着替え、準備は万端だ。

 衛兵の衣服は班長達に着せる九人分と、同じく地下牢に囚われている二名の分と予備で合計十二着、その他の食糧などの荷を三人で分担して運ぶことにしている。


「そろそろ行きましょう、エルナ。打ち合わせた通り、私の後ろにぴったりとついてきて」


「もちろん、分かっているわ」



(大尉。誘導をお願いします)


[了解。ミッション開始します。………… 二十五秒後に馬車を出て、十秒間でこの木の陰まで移動]



 仮想ウィンドウ上にそのイメージが表示される。

 イーリスは全ての歩哨の位置、視線の向きを元にこれらの指示を出している。これに従っていれば見つかることはないはず。


 馬車のドアを開くと走り始めた。



 ◇◇◇◇◇



 セリーナは馬車の扉を開けると、すぐに走り出したので慌ててついていく。馬車を止めた場所から、大きな木の所まで一気に走っていった。


 余りにも大胆な行動だったので、誰かに誰何されるかと思ったがそんな様子はない。


「行きましょう」


 セリーナは木陰から飛び出すと裏口に向かって走っていく。衛兵に見つかることなく城内に入ることができたようだ。

 城内に入るとセリーナは歩いて移動していく。


 セリーナは通路を進み、最初の階段を二階に上がっていく。地下牢にいくはずなのに何故?


 階段を登りきったところでセリーナは立ち止まった。何かを待っている。一分ほどそこで待っていると上がってきた階段を下り始めた。

 ひょっとして、通路ですれ違うはずだった人間を、二階に上がることでやり過ごしたの!?


 すごい! 探知魔法でここまで判るなんて!? まるで未来に起こることが分かっているよう。


 それからは誰ともすれ違うことなく暫く歩き続けた。


 セリーナは、ある一室の前で立ち止まるとノックもせずに、そのドアを開け部屋の中に入った。当然のことだが、部屋は無人だった。ただの物置のようだ。


「この先の突き当りを右に行くと地下牢へと続く階段よ」


 そう言うと布を取り出し始めた。

 私も打ち合わせていた通りに、五十センチ四方の白い布を三角に折り、鼻を覆い目だけ出すような感じで頭の後ろで結んだ。

 これで少なくとも衛兵たちに顔を見られることはない。


 ここからは私が二人を先導して地下牢へと向かった。布で覆っていても私が二人よりも背が高く、大人っぽい声を出せるので、女官の上役のように見えるだろうと考えてのことだ。


 地下牢へと続く階段の入り口の両側には二人の衛兵が立っていて、すぐに近づいていく私達に気づいた。



「なんだ、お前たちは? ここは立入禁止だぞ」


「囚人に着させる服を持ってきました。話を聞いていないのですか?」


「何も聞いていない。…… お前達のその布は何だ?」


「囚人はとても臭いのでしょう? 臭い匂いを嗅ぎたくないのです」


「臭いといってもそこまでじゃない。どんな指示を受けている?」


「囚人達を着替えさせ、身綺麗にしろとの仰せです。どう考えても私達の仕事ではありません。囚人に服を着させるのは、やってもらいますからね」


「いやいや、お前達がやれと言われたんだろう? それじゃ俺達は手伝うことはできないぜ」


 若い衛兵はニヤニヤとしながら、そう言ってきた。


「…… 私達に出来るはずがありません。いいでしょう、貴方の上役の方に相談してみます。案内してください」


 若い衛兵二人の先導で地下牢へと続く階段を降りていく。

 この二人の上役は地下牢にいるようだ。私達の幸運はまだ続いている。


「班長、女官が三人来ています。囚人達の服を持ってきたとか」


 衛兵は鉄の扉に小さく空いた鉄格子越しに上役に呼びかけた。すぐに人影が現れる。


「女官? 何も聞いていないぞ」


「それは私達の責任ではありません。囚人達を着替えさせ、身綺麗にしろとの仰せです。

 …… お願いします! 囚人達を着替えさせ、身綺麗にするのは代わりにやってもらえませんか?

 どう考えても未婚の私達がやる仕事ではありません」


「ちょっと待て。そもそも、そんな話は聞いていない。おい、ヴィリ。鍵を開けろ。俺が隊長に確認してくる」


 ヴィリと呼ばれた衛兵が鍵を開け、扉を開いた瞬間に、後ろからヴィリの首すじめがけて手刀を振り下ろした。


 シャロンも、ヴィリの隣にいた年若い衛兵を片付け、地下牢へと飛び込んでいる。

 私が地下牢に入った時には、セリーナは既に班長と呼ばれていた男を倒し、衛兵用の小さな詰所のような部屋に向かって走っていった。シャロンもそれに続く。


 班長の横に立っていた若い衛兵は、いきなり女官に仲間が倒されたことに混乱しているのか呆然と立っているだけだ。

 この若い衛兵は私が倒せということだろう。二人の信頼が嬉しい。


 衛兵だというのに帯剣もしていないとは不用心にも程がある。

 やっとやるべきことに気づいたのか、私に飛びかかってきた。脇に避けて脇腹に拳を叩き込み、たまらず身をくの字に折り曲げたところで、首筋に手刀を叩き込んだ。ドサリと衛兵が崩れ落ちる。

 セリーナ達との稽古に比べ、あまりにも遅い動きだ。ここまで容易い相手だとは思わなかった。セリーナ、シャロンも問題なく倒したようだ。倒した二人の衛兵を引きずってくる。


 鞄から捕縛用に切ってあった縄を取り出すと、三人で手分けして衛兵達を縛っていった。騒がれないように猿轡をして目隠しをしていく。


 地下牢は通路を挟んで五つずつ、合計十部屋。班長達は最奥の左側牢に入れられているとのことだった。


 打ち合わせ通り、六人の衛兵たちを牢の最奥まで引きずっていった。


 班員が入れられている牢は鉄の扉で、小さな鉄格子の窓越しに薄暗い中の様子をなんとか確認することができた。


 間違いない! 私の班の者たちだ。九人全員が生きていた!

 全員、魔法が使えないように目隠しをされ、手首には手錠がかけてある。


 セリーナが、衛兵から牢の鍵を手に入れていたので、班員が入れられている牢の隣に衛兵達を入れると鍵を掛けた。ここまでは順調だ。


 都合が悪いことに通路を挟んだ向かい側の牢と、その隣の牢に部外者の囚人が入れられていた。これではこの二人に会話が聞かれてしまう。


「おい、なんだか騒がしいな。もう飯の時間か? さっき食べたような気がするが?」


 班長は私達三人がおこなっている作業の音に気づいたようだ。


「エンデルス卿。黙って聞いてください。この地下牢に囚われている他の二人は、貴方にとって敵ですか?」


 敢えて班長の名を家名で呼んだ。班長はポカンと口を開け呆然としたように三十秒ほど身動きしなかった。他の班員も同様だ。


「…… いや、敵ではない。どちらかというと味方だ」


 味方ということであれば、とりあえず私の名前ぐらいは知られても問題ないだろう。


「そちらの二人。黙って聞きなさい。あなた達をどうするかは、とりあえず保留します。一言でも大声を上げれば、すぐに殺します」


 一人ずつ入れられている牢は、不思議な事に中がうかがえないようになっている。牢内から物音は聞こえたが、私の指示通り言葉を発することは無かった。


「お久しぶりです、班長」


「………… ノリアン卿、なのか?」


「そうです。お迎えにきました」


 セリーナとシャロンは、ブレードナイフを引き抜くと鉄製の扉の蝶番と鍵を壊し、扉を真っ二つにすると、扉を外した。


 あぁ、なんて酷い匂い! こんな環境で何ヶ月も暮らしていたなんて。


 三人がかりで、班員が付けていた目隠しと手錠を外していく。班員たちは呆然としながらもその作業を見守っている。


「…… ノリアン卿、で間違いないな?」


「はい。間違いなく、エルナ・ノリアンです」


「良かった! ついに気が触れて幻覚を見ているのかと思ったぞ。どうやってここに? いや、そんなことより早く逃げろ。今ならまだ助かるかもしれん」


「エルナ、とりあえずこの部屋から出ましょう。この部屋は人がいる部屋じゃないわ」


「そうね、そうしましょう。班長、話はあとで」


 手を貸して立たせるが、立つのがやっとで一人では歩けないようだ。もちろん、こういった事態も想定済だ。これで作戦の第二案を進めることが決定した。


 一人ずつに肩を貸して、衛兵用の詰所のような部屋に連れていった。ここならば大声を出さなければ、奥の二人に会話を聞かれることもない。


「ノリアン卿、まずは一つだけ聞かせてほしい。…… 見つけたのか?」


「もちろんです。クレリア様はゴタニアの街で見つけました。私が、いえ私達の班が最初に見つけたのです。これは大殊勲ものですよ」


「あぁ…… 神よ、感謝いたします。そうか、生きていらっしゃったか。やはりこのベルタ王国にいらしたのだな」


「クレリア様もこの王都にいらっしゃっています」


「なんだと!? なぜそんな危険な真似を! どうしてお止めしなかったのだ?」


「班長、順を追って話を聞きましょうや。いろいろと事情がありそうだ」


「…… そうだな、ブルーノ。すまなかった、ノリアン卿。私はまだ混乱しているようだ」


「いえ。当然のことだと思います」


 シャロンとセリーナが、次々と九人全員に回復魔法をかけていく。二人から光の奔流が皆の体全体に注がれていった。


「こ、これは回復魔法なのか?」


「そうです。次にこれを飲んでください」


 全員に液体の入った小瓶を手渡していく。飲むように促すと文句を言わずに一息で飲み干した。皆、しかめ面をしている。


「…… ノリアン卿。文句を言うつもりはないが、これは何だ? ひどい味だな」


「万能薬です。早く歩けるようになってもらわないと困りますので」


「「万能薬!?」」


 しばらくすると皆の青白かった顔に生気が戻ってきたように見える。


「…… まさか本当に万能薬なのか? 体の痛みがなくなったし、なんだか力が湧いてくるようだ」


 班長はそう言うと立ち上がってみせた。しかし、一人で歩くのはまだ無理そうだった。


「もちろん本物の万能薬です。一本、三十万ギニーはする代物です」


「…… 何ということだ。俺達のような死にかけに使う品ではないぞ。勿体ないことを。ノリアン卿、そろそろそちらの御二人を紹介してくれないか?」


「あぁ、すみません。紹介しましょう、こちらがセリーナ・コンラート。こちらがシャロン・コンラートです。私の仲間です」


「御姉妹かな? まずは礼を言わせていただきたい。先程の回復魔法で体中の痛みがすっかり治りました。コンラート卿の御二方、感謝いたします」


「ちなみに二人は貴族ではありませんよ」


「しかし……。いや、こんな事を話している場合ではない。早く三人で逃げるのだ。せっかく助けにきてもらって申し訳ないが、俺達はこのざまだ。いつ衛兵がくるかわからんぞ」


「衛兵は二交替制で先程交代したばかりです。時間には余裕があり、城から脱出する手筈も整っています」


「しかし、どうやって? …… 先に話を聞いたほうがよさそうだな」


「まずは確認です。あの牢に捕らえられている二人は何者ですか?」


「この国の前宰相のライスター卿とその御子息だ」


「前宰相!? どうしてそのような方が?」


「今の宰相の罠に嵌められたらしい。三年も前からこの牢に入れられているようだ」


「…… どうしてそのような身分の方が、殺されもせずに生かされているのですか?」


「今の宰相の顧問のような事をやらされているのだ。御子息の命をたてに脅されて、時々、政策の助言を求められている」


「衛兵は、前宰相である事に気づいていないのですか?」


「気づいていない。衛兵に気づかれれば、息子を、親を、殺すと脅されているのだよ。助言を求めにくるのは、ルチリア卿という名の貴族だけだ」


「牢から出しても問題ないと思いますか? クレリア様のことを知られても問題ないと?」


「私は問題ないと思う。息子以外の一族郎党を皆殺しにされている。万が一にも現宰相に与することはないだろう」


「では、望むのであれば連れてくることにしましょう。皆はここで休んでいてください」


 本当はこのような危険を犯すべきではないのかもしれないが、敵ではなく囚人が望むのであれば一緒に助け出すようにと、アランから指示を受けている。


 シャロン達と三人で一緒に牢の最奥まで行ってみた。普通の牢とは違い外から中がうかがえないようになっている。


「私達は仲間を助けに来た者です。あなた達が望めば一緒に連れていくことも考えますが、いかがですか?」


「………… それは息子も一緒に、だろうか?」


 牢の中からしわがれ声が聞こえてきた。


「もちろん二人一緒に連れていきます」


「では、是非ともお願いしたい。決して足手まといにはならないと、我らが家名にかけて約束しよう」


 これは貴族にできる最上級の約束だ。牢から出しても問題ないようだ。


「では、扉から離れてください。今から壊します」


 二人に頷きかけるとセリーナとシャロンは、ブレードナイフを振るい、あっという間に鉄の扉を破壊した。


「これは!? 」


 前宰相のライスター卿は、白髪の六十代と思われる初老の男で、痩せ細ってはいるが眼光の鋭く、確かに凡人には見えない。

 その息子は二十代から三十代の若い男だ。ライスター卿の息子の割には若い。


「父上!」

「おぉ、アーレント!」


 父と子は会えたことに手を取り合って喜んでいた。


 牢の中は班長達の牢とは違い、定期的に清掃されているようで、本や明かりの魔道具などもあり、投獄というより幽閉されていたようだ。


 二人とも歩けないようなことはなく、問題なく歩けて足取りもしっかりしている。これならば問題ないかもしれない。


「かたじけない。この恩はいつか必ず返す」


「礼を言うのはまだ早いでしょう。先程の約束、必ず守っていただきます」


「…… 了解した」


 二人を連れて班長たちのところに戻った。


「おぉ、ついにお会いすることが出来ましたな。ライスター卿」


「その声はエンデルス卿か。この煉獄に在って、そなたたちとの会話が私の唯一の慰めであり、正気を保つ術であった。私の心からの感謝を受け取ってほしい」


「いえ、それはこちらも同様です。死ぬ前に一度は、お会いしたいと思っていたので、とても嬉しいです」


 どうやら班長たちと元宰相ライスター卿との仲は良好のようだ。


「さて、ノリアン卿。そろそろ話を聞きたいのだが?」


「その前にその髪と髭、服をなんとかしましょう。失礼ですが、とても匂いますよ。身綺麗にしてもらいます」


 班長たちは自分達の格好にいま気づいたように見渡し、匂いを嗅いでいる。麻痺しているのか不快ではないようだ。


 持ってきた鞄から整髪道具を取り出すと、シャロン達と三人で、ハサミとブレードナイフを使い、バッサリと切っていった。

 見た目は二の次だ。騎士らしく短髪のほうがいい。


 さすがに身を清めるのは自分達でやってもらう。布は沢山持ってきたし、詰所の中にもいくらかあった。詰所の中にあった二つの桶にシャロンがウォーターで、水を満たした。


「次に、濡れた布で身を清めてもらいます。私達は部屋の外に出ていますので、全身を清めてください。着替えはここに置いておきます」


 二十分ほどで呼ばれたので詰所の中に入ると、すっかり身綺麗になり、衛兵の服を着た班長たちがいた。


「見違えましたよ、班長。多くはありませんが、精のつく食糧も持ってきています。衛兵達の食糧もあるようなので、食事をしながらでも話しましょう」


「…… 分かった。しかし、ノリアン卿。敵地にいるというのに随分と落ち着いているのだな?」


「そうですか? 確かに慌ててはいませんね。今、この城の中には私達のクランのリーダー、アランと、セリーナ隊長、シャロン副隊長というクラン最強の三人が揃っているのです。

 仮に城の兵全員と戦闘となっても何の問題もありません」


「エルナ、それはさすがに言い過ぎじゃない?」


「そう? やればできると思うけど?」


「うーん、確かに城の損害を気にしないというのであれば……。でもそんな事、アランが許可しないわ」


「そうね。アランは優しすぎるのが、唯一の欠点だわ」


「………… ノリアン卿。早く話を聞かせてくれ」


 簡単に食事の用意をして、アラン達とゴタニアの街で会ったところから話しはじめた。


 ゴタニアで、アラン達と出会ったこと。

 近衛騎士の他の者にも出会ったこと。

 冒険者になり、一旗揚げてやろうとガンツに行ったこと。

 盗賊狩りをやって名を上げていったこと。

 アランがドラゴンを討伐し、叙勲されることになったこと。

 王都に着き酒場で衛兵達が、スターヴェイクの近衛騎士と、捕らえられている者の名前などの話をしていたことを話していった。


 当然、クレリア様の御名前は出していない。この部外者の二人がどこまで信用できるか分からないうちは、一言でも話すつもりはない。


 班長たちは、空腹だったのか、食糧を貪り食いながら黙って話を聞いていた。


「なるほど……、ということは俺達の事に気づいたのは偶然だったのか?」


「そうです。酒場で衛兵の話を聞かなければ、このまま王都をあとにしていたことでしょう」


「そうか。一部の衛兵たちには、さんざんいびられたので、いつか殺してやろうと思っていたが……。残念だが許してやることにしよう。

 しかし、ドラゴンを討伐とは……。君達のリーダーのアラン様とは、いったい?」


「君達の、などと言ってはアランがかわいそうですよ。アランは班長たちのことを仲間と呼んでいました。反対を押し切って、救出すると決めたのもアランなのですから」


「…… 確かに普通であれば、城の地下牢から助け出すなどと狂気の沙汰だ。我らのリーダーは豪胆な方なのだな」


「そうですね。自分の叙勲の日に脱獄を企てるのは、世の中広しといえども、アランぐらいでしょう」


「なんと! アラン様は今日、叙勲されるのか!?」


「城に来ていると言ったでしょう? 今頃は叙勲式に参加しているはずです」


「………… 早くお会いしてみたいものだ。それで今後の計画は?」


「班長たち次第です。ふらつかないで歩けるでしょうか?」


 試しに立ち上がり歩いてみるが、皆なんとか歩けることは歩けるが、ふらついており、キビキビと歩くことは出来ないようだ。

 少なくとも数百メートルは、ふらつかないで歩ける体力が必要だ。


「しかし、一時間前とは比べ物にならない体調だ。先程の薬と食べたものが滋養となれば、もっとマシになるはずだ。もう少し時間が欲しい」


「もちろんです。この待ち時間も計画に折り込み済です。計画では二時間後にここを出て、馬車に乗り込む手筈です。あと二時間でなんとかしてください」


「分かった。やってみよう」


 そういうと皆は横になり、休み始めた。そう、仮眠をとるのもいいかもしれない。

 ここまでは計画通りで順調だ。アランのほうは問題ないのだろうか?




いつもながら更新が遅くなり申し訳ありません。


宣伝になって申し訳ありませんが、第二版が出来いたしました。

重版出来は、重版『しゅったい』と読むらしいです。

皆様は知っていたでしょうか? 私はいままで『でき』と読んでいたので、とても恥ずかしいですw

内容に変更はありませんが、よろしくお願いいたします。


ファミ通文庫様ツイッター

https://twitter.com/FB_twi/status/1082566997001482240


書籍を買っていただいた皆様、ブックマークと評価を入れてくださった皆様、誤字報告をしてくださった皆様、本当にありがとうざいます!

これからもよろしくお願いいたします!





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