084. 救出計画
誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
一階の食堂にいくと、エルナは一番奥のテーブルでクレリア達と話をしていた。都合の良い事にダルシムやリーダー達も揃っている。
宿の人達には、俺達がシャイニングスターだということは知らせており、食事時と清掃時以外は給仕はしなくてよいと伝えていた。もちろん、これは襲撃の可能性を考えてのことだ。
宿の主人にその可能性をほのめかし、少なくない迷惑料を払うとあっさりと納得してくれた。宿の関係者は離れにある従業員用の建物にいるため、この建物にいるのはシャイニングスターのメンバーだけだ。
「アラン、もう紋章を描き終わったの?」
「いや、まだだけどエルナに訊きたい事があってね」
「何でしょう?」
「エルナが、ゴタニアに来る前に一緒に行動していた班の人のことだ。ハインツ、ブルーノという名に心当たりは?」
「…… ハインツというのは班長の名で、ブルーノというのは副班長の名です。でも、アランがどうしてその名前を?」
「やはりそうか。みんな、ちょっと集まってくれ」
食堂にいた全員が、何事かとクレリア達のテーブルに集まってきた。全部で四十人くらいはいるはずだ。
「以前、エルナと共に行動していた班の者たちが、この国の貴族に拘束され連行されていったという話は聞いていると思うが、その捕らえられた者たちがこの王都に、恐らく城の地下牢に囚われている事が判った」
「えぇ!?」
「本当ですか!? アラン」
「あぁ、本当だ」
「生きていたのか!?」
「なんということだ……」
「エルナ、捕らえられた者の数は?」
「九人です」
「そうか。そうなるとやはり城の地下牢の可能性が高いな。そうだとすれば全員が生きているかもしれない」
最近では俺がこんな突飛な事を言い出しても、みんなは何も訊かずに普通に信じてくれるようになった。きっと慣れてきたんだろう。人間の適応力は素晴らしいな。
「そんな…… 城の地下牢だなんて。それじゃ捕らえられた者たちは…… どうしたらいいの?」
「もちろん助け出すさ」
「…… アラン様、今は叙勲を控えた大事な時です。残念ですが、今は時を待ち、耐えるべきかと考えます」
「いや、俺は仲間を地下牢なんかに置き去りにはしない。ダルシム副官、悪いが助けることは決定事項だ」
「…… 承知しました」
「幸いなことに五日後に叙任式がある。その時に救出を試みてみよう」
「でも、どうやって?」
「まだ詳細は決めていないが、基本方針としては、俺が叙任式、祝賀会と出席している間に、救出班が牢から助けだし馬車に隠す。行事が終わった俺と一緒に城を出るという作戦だ」
「…… 救出班とは?」とエルナ。
「注意事項によると俺が連れていくことの出来る従者は三人までだ。セリーナ、シャロン、エルナ。やってくれるか?」
「無論です」
「「了解です」」
セリーナ、シャロンの二人がいれば戦力的には十分だ。エルナも行けば騎士たちに説明するのもスムーズにいくだろう。
「そんな…… 三人だけで?」
「無理を言って従者を増やせたとしても馬車は一台だ。それほど増やせるわけでもないし、そんなことで目立つべきじゃない。問題は従者が女で問題ないか、というところだな」
「恐らくそれは問題とはならないでしょう。多少好奇の目で見られるかもしれませんが、家を立ち上げたばかりですし、周りを女従者でかためる貴族もいないわけではありません」
近衛出身の何名かが頷いている。どうやら貴族の間では女従者というのは、そう珍しいものではないようだ。愛人のようなものだろうか。まぁ、多少変な目で見られても俺は気にしない。
「俺が入手した情報では、捕らえられた者達はかなり過酷な状況にあるようだ。恐らく痩せ衰え、ボロを纏っているだろう。そんな格好で城内を歩きまわれば、たちまち正体がバレてしまうだろう」
「どうすれば?」
「できれば、衣服だけでも衛兵と同じ物を手に入れたいところだな。城の衛兵と街の守備隊は同じ格好をしていた。衛兵や守備隊に装備を卸している商会を見つけたい」
「では、私がその商会を調べてみます」
「カトル、頼む。可能であれば衣服は十一着以上用意して欲しい。最悪、王都の守備兵を襲って身ぐるみを剥ぐという手もあるが、できればやりたくはない」
「わかりました」
「救出作戦が失敗し最悪の場合、城の衛兵、守備兵と戦闘になるかもしれない。皆もその心づもりでいてくれ」
皆の顔に緊張が走る。まぁ、無理もない。衛兵、守備兵だけではなく下手をすると軍とも戦うことになるだろう。
「なに、その時は隣国のセシリオ王国に行ってみよう。グローリアを連れていけば、きっと男爵にしてくれるさ」
この冗談に皆から笑い声が上がった。いや、冗談ではなく本当にそうするかもしれないな。
「作戦の詳細は決行日までに決める。皆もできることから準備を進めてくれ」
「「はッ」」
イーリスが城の警備状況を調べ終わらないと、検討すること、出来ることはあまりない。俺は紋章を仕上げるために部屋に引き上げた。
翌朝、朝食を食べに食堂にいくと丁度カトルが宿を出るところだった。商人組の他に、五人の臨時の助手を連れている。どうやら、その五人はカトルに助力を申し出たようだった。
「では、行ってまいります」
「カトル、頼むぞ」
昨日の酔っぱらい達は、やはり王城の兵舎に戻っていった。城の兵が街に飲みに出かけられるというのは、セキュリティー的にどうなのかとも思ったが、叙任式の際の救出作戦が難しいようなら、衛兵のフリをしての潜入作戦もアリだな。
クレリア達は既にテーブルについていて朝食をとっていた。ビュッフェ形式の朝食を皿にとり、俺もテーブルについた。
「アラン、私の班の者が全員生きているというのは確かですか?」
「いや、それは分からない。しかし、地下牢の一つの牢に九人が入れられているのは間違いない」
「…… そうですか」
そう言うとエルナは考え込んでしまった。クレリアも物思いに沈んでいる。
どうやらエルナとクレリアは責任を感じているようだ。
俺にとっては顔も名前も知らない者たちだが、エルナやクレリアにとっては苦楽を共にしてきた仲間だ。当然のことかもしれない。
不意にエルナの目つきが変わった。意を決したような鋭い目だ。
「アラン、救出作戦の時に衛兵は殺してもいいのですか?」
「いや、できれば殺すことは避けたい。ただの脱走ではなく仲間を殺されたとなれば、むこうも本気で捜索してくるだろう。少なくとも俺だったら本気になる」
「…… そうですか。シャロン、セリーナ。作戦の時に使えそうな格闘技を教えてくれない? 剣や木刀だと殺してしまいそうだから」
「もちろん」
「こういう時に使えるぴったりの技があるわ」
帝国格闘技は元々、対人格闘のために考えられた技で、実戦では隠密行動の時に特に威力を発揮する格闘技だ。まさに今回の作戦にはうってつけだろう。
エルナはエアバレットを使えるから無理に格闘技を覚える必要もないと思うが、魔法は予想外に騒音を出すことがある。使える手は多いほうがいいだろう。
早速、宿の中庭で訓練をおこなうようだ。救出には参加しないクレリアも一緒についていった。
さて、俺は昨晩仕上げた紋章の図柄を工房に届けに行こう。
城でもらった工房の地図に従い、三十分ほど歩いて工房に到着した。細工専門の工房らしく鍛冶工房のようにやかましくはない。
「こんにちは、親方はいますか?」
「ああ。親方! 客人ですぜ」
「俺に客? ってことは!」
細工職人には見えないゴツい大男が奥から走ってきた。この男が工房の親方のようだ。
「こんにちは。今度、男爵になる、」
「紋章の図面だな!? 早く出せ!」
「…… あぁ、これです」
「なんだ、こりゃ!? これが紋章だってのか? おい、間違いなくこれが男爵の紋章の図面なんだな?」
「ええ、間違いないですね」
「すげーな。こんな奇天烈な紋章は初めてだぜ。ドラゴンスレイヤーってのは、普通じゃないと思っていたが、これは予想以上だ。お前さんの主人は相当の変わり者みたいだな」
すっかり男爵の従者に間違えられたようだ。訂正するべきかな? 今後何か頼むかもしれないし訂正するべきだろうな。
「初めまして、シャイニングスター、リーダーのアランと言います」
親方の図面を確認する仕草が止まった。
「…… あんたが? いや、あなた様が?」
「そうですね」
「失礼しました!」
親方をはじめ四人いた職人たちもその場に跪く。
「あぁ、やめてください。俺はまだ貴族じゃないし、堅苦しいのは苦手なんで」
「…… では、お許しいただけるので?」
「もちろんです。そういうのは貴族になってからでいいですよ。今は只の冒険者ですから」
「本当ですか?」
「本当です」
「そうか、じゃあ遠慮なくそうさせてもらおう。何だよ、焦ったぜ。まさかドラゴンスレイヤーがこんなに若いとは思わなかった。なんで供の者を連れていないんだ?」
「まだ貴族じゃないし、皆、それほど暇じゃないですからね」
「いや必要だろ! …… まぁ、ドラゴンスレイヤーなら必要ないのか? 俺の名はクルス、よろしく頼む」
「こちらこそ。変な図柄で申し訳ないですね。代々、家に伝わる図柄なんですよ」
「いや、紋章としては確かに変わっているが、見ようによってはよく考えられているようにも見える。奇天烈なんて言ってすまなかったな」
「いえ、変わっているのは事実ですからね。全然気にしていませんよ」
「おっと、こうはしてられねぇ。悪いが作業に入らせてもらう。なにせ四日後の朝には城にとどけなきゃならねぇんだ」
「ところで、紋章のお代は?」
「手付金は既にもらってる。残金は物と引き換えに支払われるはすだ」
なんと、紋章は城の支払いのようだ。てっきり買わされると思っていただけに意外だった。
「よければ作業場を見せてもらえませんか? 邪魔はしないので」
「あぁ、相手は出来ねぇが見てくのはかまわないぜ」
親方について作業場に行くと細工工房らしく実に様々な工具が取り揃えられていた。
「これが紋章に使う板だ」
親方が見せてくれたのはミスリル製の板だった。これを削って紋章を作っていくのだろう。
「ところでミスリルの板をどうやって加工するんですか? とても硬いんですよね?」
「ああ。まぁ、これは焼きを入れていないミスリルだからな。焼きを入れたミスリル製のノミやヤスリをつかうのさ」
ミスリルは焼きを入れるとさらに硬くなるらしい。しかし、これを削っていくとなると大変な作業だ。
「さーて、この図柄ならなんとか今日中に写せそうだな」
親方はそういうと俺が書いた図柄をミスリル版にあて、尖ったアイスピックのようなもので絵が描いてある線を一点、一点打ち込み始めた。
なるほど、こうやって図柄を板に写していくのか。気が遠くなるような大変な作業だ。
「よかったら、私が描きましょうか?」
「ん? どういう意味だ?」
「よかったらその板にこの図柄を描きましょう」
「…… そんなことできんのか?」
「やらせてみてください」
「まぁ、お前さんの紋章だ。好きにしな」
(昨夜描いた帝国のマークを板に表示しろ)
[了解]
親方からアイスピックを受け取ると板に傷をつけていった。かなりの力を入れなければいけないのでペンで描くよりは大変だが、赤く仮想表示されたラインをなぞっていく作業だし問題ないな。
「おぉ!?」
手首を固定して一定の力を加えながら描くのがコツのようだ。慣れれば紙に描くのと大差ない。十分ほどで描き終えることができた。
「こんな感じでどうでしょう? ちゃんと描けてると思いますよ」
親方は板に図柄の書かれた紙をあて、同じかどうか確認している。
「…… 寸分の狂いもない。どうやったんだ?」
「絵を描くのが得意なんです」
「得意って……。 いや、やはりドラゴンスレイヤーは常人とは違うことが判った。ドラゴン討伐なんて嘘くさいと思っていたが、今なら信じることができるぜ」
「はは、そうですか。ありがとうございます」
「貴族にしておくのが勿体ないほどの腕前だな。貴族に飽きたらウチの専属絵師に雇ってやるよ。給金は弾むぜ」
「覚えておきましょう」
しばらく親方たちの作業を見学していたが、作業の邪魔をしては悪いので、工房をあとにして宿に戻ることにした。
宿に戻り、中庭で練習しているエルナ達の様子を見にいった。
「あぁ、アラン、ちょうど良いところに。セリーナ達に習った技を練習したいので付き合ってください。やはり体の大きい男の人で試してみたいのです。アランなら技をかけても大丈夫でしょう?」
「…… いいけど。どの技を教えたんだ?」
セリーナとシャロンに確認しようとするが、二人はサッと目をそらした。エルナがニヤリと笑う。なんだかとても嫌な予感がしてきた。
「それは秘密です。分かっていたら避けてしまうでしょう?」
「いや、どういう技か分からないと俺だって……」
「では、いきます!」
エルナは問答無用で突っ込んできた。
いや、酷い目にあったな。シャロン達がエルナに教えていたのは、急所を狙うエグい技ばかりで、普通の組手では禁じ手とされているものだった。俺じゃなければモロに技を食らっていただろう。
練習を見学していたクランの者たちもいたが、エルナの問答無用の攻撃を見て蜘蛛の子を散らすようにいなくなっていた。稽古相手にされてはたまらないと考えたようだ。
救出作戦にかけるエルナの意気込みは本物で、訓練は昼食も取らずに夕方まで続いた。
元々、エルナの筋は悪くない。今日一日の練習だけで、幾つかの技に関していえば実戦に通用するレベルまで上達していた。
「やっとどういう技か分かってきました。アラン、救出作戦まで毎日付き合ってくださいね」
「…… あぁ、わかったよ」
風呂に入って早めの夕食をとるために食堂に向かうと、皆がカトルを囲み何やら話していた。
「アラン様、こちらをご覧ください」
おぉ、あれは城の衛兵が着ていた衣服か?
「カトル! もう手に入れたのか?」
「はい。衛兵が着ている衣服を十五着。城の女官が着ている衣服を五着、手に入れました」
「すごいな! 大したもんだよ」
「商会を突き止めるのは何の問題もありませんでした。王都でも有名な服飾店でしたからね。さすがに商会から手に入れるのは足がつきそうだったので、下請けの情報を手に入れるのに少し苦労しました」
「アラン様、カトルは凄い商人ですよ! 我らには及びもつかない方法で次々と情報を手に入れていく様は圧巻でした」
そういってきたのはカトルの助手をしていた者達だ。
「…… 褒めてくれるのはありがたいのですけど、商人であれば自明の事ばかりですので。これらの服はいくつかある下請けの工房の一つから内密に手に入れたので、そう簡単には足はつかないと思います」
「そうか。よくやった、カトル。これで救出作戦が大いにやりやすくなるよ」
カトル達は皆に褒められ肩を叩かれて、とても嬉しそうにしていた。
「アラン様、商業ギルドの方がお見えです」
「商業ギルド? 何だろうな」
宿の入口に行ってみると商人っぽい格好をした三人の男がいた。後ろには護衛と思われる姿も見える。
三人の一人が歩み出てきた。四十代ぐらいの精悍な顔つきをした男だ。
「初めまして、アラン様。私は王都商業ギルド、ギルド長のヤンといいます。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。立ち話もなんですから、こちらにどうぞ」
ギルド長自ら訪ねてきてくれたのだから最低限のもてなしはしなければならない。食堂のテーブルについてもらい、茶を出すように目配せした。
「ギルド長自らお越しいただけるとは、どのような御要件でしょう?」
「いえ、大した用事でもないのです。ギルドがお世話になっている方が王都にいらしたというので御挨拶にきたというのが一番の理由です。
アラン様。この度の叙勲、誠におめでとうございます」
さすがは、商業ギルドの長というべきか、俺が男爵に叙勲されることも知っているようだ。
「ありがとうございます」
「それとお礼を。またもや盗賊を捕らえていただいたようで感謝致します」
そうか、まだ商業ギルドの盗賊討伐の依頼は継続して出ていたはずだ。先日捕らえた賊も盗賊としてカウントされ、ギルドから報酬が出るということか。
「あれが盗賊と呼べるものか怪しいですけどね」
「確かに。明らかにシャイニングスターの皆さんを狙った者たちでしょう。私も調べているのですが、賊の中の何名かは王都で活動している、いくつかの裏の組織の幹部でした」
「ほう、裏の組織ですか。どういった組織なのですか?」
「ろくでもない奴らです。スリや強盗、人攫い、はては殺人までやる悪党の集団です。いくつかの組織が集まって襲撃を企てたようです」
「そのようなことではないかと思っていましたが……。誰かに雇われていたのでしょうか?」
「おそらく。普段は仲違いしている者同士が集まったのです。そう考えるのが自然でしょう。何か分かりましたら御連絡するようにしましょう」
「それは非常にありがたいですね。また襲撃があるのではないかと、ずっとこの人数で警戒しているのですよ」
「賢明な御判断だと思います。その可能性は十分あるでしょう。私からもこの地区を警戒するように守備隊に呼びかけてみましょう」
「よろしくお願いします」
王都の商業ギルドには、守備隊を動かす力があるようだ。商業ギルドの依頼をこなしてきた甲斐があったな。
「それとアラン様宛にギルド経由で伝文が届いておりましたので、お持ちしました」
「私に伝文ですか? ありがとうございます」
渡された伝文は封筒のようなものに入れられており封がされていた。
誰だろう。可能性があるのはセシリオ王国にいるロベルトか、ガンツのカリナさんぐらいかな? あとで確認しよう。
このあと暫く競売の話や王都の治安の話をした後、長居をしてはと、ギルドの人達は帰っていった。本当に挨拶にきただけのようだ。
話をしてよく判ったが、このギルド長のヤンという人は、かなりやり手の人のようだ。今後とも仲良くしていこう。
さっそく先程受け取った伝文を開封してみた。
「お、ロベルトからだな。…… これは!?」
「アラン、何が書いてあったの?」
俺の驚きようにみんなが近くに集まってくる。クレリアに伝文を渡した。
『祝、ドラゴン討伐。我ら先行隊、これより王都に向かう。数、千。合流を望む』
伝文には受信した日付が書いてあり、その日付は二十五日前になっていた。恐らく俺が送った伝文を見てすぐに行動したのだろう。
(イーリス、この先行隊の現在位置を特定してくれ)
[了解です]
「千人!? どうして……」
クレリアが見た後、伝文は皆に回された。
「…… これは!? ロベルト殿は、何を考えているのか。リア様の許可もなくこんなことをするとは……」
「ドラゴン討伐の知らせに舞い上がってしまったってとこだろう。さて、どうしたものかな?」
「でも、拠点はまだ出来ていないでしょう? 千人もの人たちが来ても……」
「いや、人数が千人なら住もうと思えば住める程度には、拠点はもう出来ている」
「アラン! 配下の者たちから連絡があったの?」
「ん? あぁ、連絡というか伝言だな。大体の進行状況を伝えてきたんだよ」
「会わせてくれればいいのに……」
「そうだな、すまなかった。しかし、本当にどうしたものかな。まずは拠点をクレリアに見てもらう約束だったろう?」
「…… アラン、拠点は問題なく人が住める所なの?」
「あぁ、何の問題もないな。当初の計画通りとても快適な所だ」
「…… 快適、なの? 樹海の奥に作った街が?」
「もちろんだ。あぁ、ただ建物は出来ているが窓がまだできていないな。硝子の入手がうまくいっていないらしい」
「硝子窓? それは必要なものなの?」
「いや、窓は必要だろう? もちろん、板戸という手もあるが、やっぱり窓じゃなくちゃな」
周りに確認をとってみるが、頷いたのはセリーナとシャロンだけだった。
「…… アラン。窓がないだけで千人もの人が暮らすことのできる建物がもう既にあるということ?」
「あぁ、窓がなくてもいいなら現時点で五千から六千人は暮らせるだろうな」
「六千人!?」
拠点の建造計画は当初の計画よりはるかに進んでいる。イーリスは当初拠点の構築に一年はかかると予想していたが、拠点構築に選んだ場所での石材の加工が思いのほか簡単だったため、大幅に工期を短縮していた。
「アラン様。それだけの建物があるということは、既に外壁もあるということですか?」
「外壁? あぁ、街を囲む壁か。もちろん、出来てるよ。どんな魔物が来ても大丈夫なやつだ」
「素晴らしい! では、もう暮らすのに何の問題もないのでは?」
「まぁ、そうだけど。クレリアとの約束で、まずは拠点を確認してもらう約束だろう?」
「…… アラン。その約束はもういいわ。もう後には引けないし、アランが問題ないと考えるなら私はそれを信じる。皆はどう?」
「アラン様とリア様に問題なければ、我らに異論があるはずもございません」
「拠点については、いまのところ何の問題もない。王都での用事が終わり次第、拠点に出発したいところだが、救出作戦の結果しだいでどうなるか分からない。とりあえず、救出作戦に集中することにしよう。作戦の概要は明日、伝える」
「わかったわ」
「了解しました」
今のところ何もかもが流動的だ。叙勲は問題なくされるのか、救出作戦は上手くいくのか、ロベルト達はどうしているのか。一つずつこなしていくしかないな。
夕食を食べ終わる頃にイーリスから通信が入った。
[先発隊と思われる一行を発見しました]
(よし、報告は部屋で受けよう。セリーナ、シャロン、部屋に来てくれないか?)
((分かりました))
セリーナとシャロンが部屋にくると、イーリスも姿を現した。
「こちらをご覧ください」
部屋の壁全体がスクリーンのようになり、先発隊と思われる人達が野営しているウィンドウが何十も表示された。千人がひと塊になって移動しているのではなく、幾つかの隊に分けて移動しているようだ。
「これに間違いないだろうな。全員が兵士なのかな?」
「いえ、鎧を着ている者は四割ぐらいです。服装や持ち物、運んでいる道具類からすると、何らかの職人ではないかと推測します」
「職人か。きっとロベルトは拠点の構築を手伝おうという考えなんだろう。汎用ボットではどうしても出来ることに限りがあるから職人が来てくれるのは助かるな」
「大尉。この人達が王都に到着するのはいつ頃なのですか?」
「推定で四十日といったところかしら」
「四十日か。いずれにせよ、いま俺たちに出来ることはないな。この一行にドローンを一機、警護につけろ」
「了解です」
「では、次に救出作戦の件だ。今日、わかったことを教えてくれ」
「地下牢へと続く侵入経路で、一番良さそうなルートはこれでしょう」
城の透過図が表示され、馬車を止めた場所から城の中へ、それから地下牢へと続く経路が赤く表示された。
「女官の服を着ていれば城の中へと入るのは問題ないと思います。問題はやはり、城の中で城の人間に出会うことでしょう。地下牢へと続く入り口には衛兵が二人。地下牢のそばに衛兵が四人です」
「衛兵が六人か。思ったより少ないな」
「今日の警備状況は六人だったというだけですから、当日の状況がどうなるかは判りません」
「そうだな。当日午前中の状況をみて作戦を立てるしかないだろう」
「さっき女官の服を見てみましたが、あの服だと、剣やライフル、レーザーガンを持っていくのは厳しいと思います」
「そうだな。持っていけるのは、せいぜい電磁ブレードナイフと魔石ぐらいだろう。それでも大丈夫か?」
「「問題ありません」」
「とても作戦とは呼べるものじゃないが、臨機応変に対応していくしかないだろう。二人とも、これらの情報を元にシミュレーションしておいてくれ。最初に言っておくが、無理そうならすぐに作戦は中止だ。別の手を考えるからそのつもりでいてくれ」
「「了解です」」
臨時の会議を終え、二人は部屋を出ていった。明日、みんなに作戦を説明するための資料作りをして、この日は早めに休んだ。
翌朝、皆を食堂に集めると作戦の概要を説明することにした。
「これが地下牢への侵入経路だ」
紙に書いた城の見取り図をエルナは食い入るように見つめた。
「地下牢付近の警備状況は少なくとも衛兵が六人。これを三人で片付ける必要がある」
「分かりました。セリーナとシャロンがいれば何の問題もありません」
「アラン、私達に出来ることは無いの?」
「作戦が失敗し最悪の場合、三人は衛兵たちを蹴散らしながら、城を脱出することになるだろう。
それに備えて城の城門付近で、不自然にならないように待機してほしい。馬車や馬も用意しておくべきだろうな。
救出が上手くいった場合、助けた者達はガンツのホームにそのまま移動してもらう。目立たないようにサテライトの一班を警護につけることにしよう。
撤退戦となった場合の準備、成功した場合の脱出班の準備を今日から取り掛かってくれ」
「「はッ」」
この後、ダルシム副官とリーダーたちで作戦の詳細を打ち合わせると皆は準備に散っていった。
はっきり言ってこの作戦は行き当たりばったりだ。全ては救出班の三人の行動で決まる。俺は作戦が失敗した時のことを考えておくことにしよう。
エルナ、セリーナ、シャロンは、女官の服に似た丈の長いエプロンドレスのような服に着替えていた。本番に近い服装で練習することにしたようだ。
「では、アラン。今日も練習に付き合ってください」
「わかったよ。では、今日はナイフを使用した近接格闘術をやってみようか。俺が剣士役をやろう」
宿の中庭に移動し、置いてあった木刀を手にした。
「ナイフで剣に勝てるというのですか?」
「やりようによっては、十分勝てるぞ。シャロン」
俺が木刀を構えるとシャロンは電磁ブレードナイフを抜き、ナイフを前腕に添わせ、低く構える宙兵独特の構えをとった。
帝国格闘技とは一味違うナイフ格闘術だが、構えた雰囲気からするとシャロンの腕前は相当なものだ。
試しに二、三合、打ち込んでみるが、シャロンは紙一重のところで全て躱した。次の一合を振り抜いた時、シャロンはナイフを一閃させ、木刀を切り落とすと同時に素早く踏み込み、手首を極められ、あっという間にナイフを首に当てられていた。
ナイフを手にしたシャロン相手に同じパターンの剣技は命取りだな。これに対応するには絶えず違う技を繰り出し、近寄らせないようにするしかないだろう。
「すごい! …… なるほど、このブレードナイフであれば剣にも勝てるということですか。気に入りました。シャロン、お願い。私にその技を教えて」
「もちろん」
救出作戦の準備をしながら、ついに叙勲式の日を迎えた。
エルナの技は驚くほど上達し、クランメンバーとの模擬戦では容易に相手を無力化していた。
作戦をおこなう上であらゆるケースを想定して綿密な計画も立て、できることは全てやった。
セリーナ、シャロンが俺に同行するため、クランの皆の指揮はダルシムが執ることになる。
「とても良く似合っているわ、アラン」
「そうか? まぁ、確かに良く出来ているよな」
オーダーメイドで作った服は、やはり出来合いの服とは違いぴったりのサイズだったし、帝国テイストが加わっているので、俺の感性からしてもなかなかカッコいい。
「…… アラン、くれぐれも気をつけて」
「わかっているさ。きっと助け出してみせる。では、行ってくるよ。ダルシム、皆を頼む」
「承知しました。お任せください」
俺、エルナ、シャロン、セリーナを乗せた馬車は城に向かって走り始めた。
更新が遅くなり申し訳ありません。
活動報告にも書かせてもらいましたが、『航宙軍士官、冒険者になる』のコミカライズ作品が、コミックウォーカー様にて連載開始されました!
たくま朋正先生の作品で、精密な作画に思わず引き込まれます。是非、読んでみてください!
書籍を買っていただいた皆様、ブックマークと評価を入れてくださった皆様、本当にありがとうざいます!
誤字報告をしてくださった皆様、本当にありがとうございます!
千件近くの報告があり、一人ひとりのお礼を言えないことを申し訳なく思っています。
これからもよろしくお願いします!w




