072. ドラゴン5
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「よし、見えてきたぞ!」
「ええっ!? アラン! どこ? 見えない!」
「あそこだよ」
指差すと近くにいた者たちが、俺の指差す方向を突き止めようと一斉に周りに集まってくる。
「本当だ! 私には見えます!」
「おぉ! 私も!」
目がいい者達は気づいたようだ。見えてもまだ黒い点にしか見えないだろう。
「アラン! 私には…… あぁ、私にも見える…」
グローリアの飛ぶ姿は、段々と大きくなっていく。今では全員に姿が見えているはずだ。
街のほうからは、叫び声や驚く声が聞こえてくるが、クランの者は誰一人、口をきく者はいなかった。
グローリアの飛んでいる高度は百メートルぐらいだろうか。恐らくドローンのエンジン音が聞こえないように高度をとっているんだろう。直線距離で二百メートルを切った。そろそろ、ドローンがアームを外すはずだ。
予想通り急に重さを増したようにグローリアの羽ばたきが激しくなり、ゆっくりと降下しながらこちらに近づいてくる。地表に近づくと懸命に羽ばたいているせいで、かなりの風が吹き荒れた。
グローリアは俺達から二十メートル程の所にドラゴンの亡骸を静かに横たえると、一回の羽ばたきで、俺達のすぐ近くにゆっくりと降り立った。
イーリスがその横に姿を現す。勿論、その姿が見えているのは帝国軍の者だけだ。
「グローリア、御苦労さま。大変だったろう?」
グローリアはガウガウと何事かを喋り始めた。
「一族の戦士達が手伝ってくれたので楽だった、と言っているようです」
「そうか。いずれにせよ、凄く助かった。ありがとう。さて、俺の一族を紹介するよ。ここの周りにいる人間達が一族の者達だ」
グローリアは一通り皆を見渡し、今度は街のほうを見ながら、またガウガウと喋っている。
「あちらにいる人間達は違うのか、と訊いています」
「あぁ、あっちは違うな。他にもいるが、一族の者はここにいる人間だけだ」
グローリアは納得したように一声あげた。グローリアのすぐ前に立ち、皆のほうを向くと皆はあんぐりと口を開けて驚愕の表情だ。思わず笑いそうになってしまう。
「紹介しよう。新しくクランに加わったグローリアだ。みんな仲良くしてやってほしい」
「………… アラン、ドラゴンの言葉が分かるの?」
「そうだな。なんとなくだけど分かるようになった。大したもんだろ? それにグローリアは賢いから簡単な人間の言葉は理解出来るんだ」
実際にはグローリアは言葉を理解できる訳ではないが、俺やセリーナ達抜きで皆がグローリアと会う事はないだろうから、こう言っても差し支えないだろう。
「すごい…… 本当に凄いわ! グローリア! 私はクレリア、よろしくね!」
グローリアも一声あげて挨拶を返した。
「よし、ではみんなに順番に名乗ってもらおう。余り時間を掛けたくないから手短にな」
「では…。私はエルナ。グローリア、よろしく」
近くにいた者から順に名乗っていく。グローリアは律儀にも一人一人に挨拶を返していた。全部で六十人もいるから大変だ。セリーナとシャロンは既に挨拶は済んでいたが、挨拶は何度したっていい。
グローリアは全員の挨拶が済むと空に向かって大きな咆哮をあげた。皆が驚いてあとずさる。
「一族に加わった事を認めてもらえて嬉しいようです」
「あぁ、グローリアは皆に仲間になる事を認めてもらえて喜んでいるんだ。別に機嫌が悪いわけじゃないからな」
「あぁ、ドラゴンと言葉を交わしているなんて! まだ信じられないわ」
「本当に凄い事です!」
やっと緊張が解けたのか、みんな口々に驚きを述べているが、いつまでもこうしている訳にはいかない。
「グローリア、腕に登ってもいいかな?」
ガォと返事をされたので、グローリアの膝までジャンプし、さらに膝から腕にまでジャンプした。
おぉ、結構高いな。高さは大体八メートルぐらいはあるだろう。グローリアが顔を寄せてきて俺を上から覗き込む。間近で見るとやはり顔も大きいな。触れるぐらいに顔を近づけてきたので鼻先をポンポンと撫でた。
ガンツの街のほうを見渡すと今や凄い人出だった。恐らく五百人近くの人がいるだろう。守備隊の人達や冒険者ギルドの職員達が、前に出ないように押し留めていた。
ズームしてみると騒いでいる様子はなく、俺がドラゴンの腕に登ったので固唾を呑んで見守っている感じだ。
お、守備隊のギード隊長がいるぞ。ポカンと口を開けてこちらを見ている。いつもは儼しい顔をしている隊長が随分と間の抜けた顔をしている。これで嘘じゃないと分かってもらえただろう。
試しに腕を振ってみると観衆は、「おぉー!」という歓声をあげ始めた。その顔は喜んでいるように見える。
よし、これはいい反応だぞ。ドラゴンに対する恐れでパニックになる事を心配していたが、そうでもないようだ。街の人達には是非、グローリアが無害であることを知ってもらわなければならない。
あぁ、カールが両腕を振ってピョンピョンと跳ねているな。もう近づいてもいいかと言いたいんだろう。カールを指差してこっちに来いと手振りをした。
「グローリア、一族の者ではないけど、人間達が近くでグローリアを見たがっているんだ。近づいてきても大丈夫かな?」
グローリアはすぐに、ガォと返事をした。そういえばさっきからイーリスの翻訳を聞かなくても肯定の返事だと分かった。俺もドラゴンの言葉が分かってきているのかもしれない。
カールが駆け足でやってきた。[疾風]のクランの者達は用心深く恐る恐る近づいてくる。それに合わせて、カリナさん達商業ギルドの職員もやってきた。
出迎えるべくグローリアの腕の上から飛び降りた。
「アラン! お前、本当にドラゴンを手懐けたんだな! すげーぞ!」
「手懐けたっていうか、仲間になってもらったのさ。なかなかの迫力だろう?」
「あぁ、半端じゃないぜ! …… なぁ、アラン。一回でいいんだ。ドラゴンに触ってもいいか?」
「人間が触ってもいいかな?」
グローリアを見上げて訊いてみると、ガォと返事をした。
「こっ、言葉が分かるのか!?」
「あぁ、勿論だ。ドラゴンは人間と同じくらい賢いんだよ。触ってもいいってさ。でもカールだけだぞ」
ドラゴンが言葉を理解できるというのは嘘だが、この話が広まってドラゴンにちょっかいを出す人間が少しでも減ってくれれば嬉しい。
「あぁ、恩に着るぜ。アラン」
カールは恐る恐る近づくと、グローリアの足をなでた後に、感触を確かめるようにペシペシと叩いている。グローリアが何をしているのかと長い首を曲げて上からカールに顔を近づけた。カールは驚いて慌ててグローリアから飛び退った。
「アラン、見たよな!? 俺は今、ドラゴンに触ったぞ! あぁ、やったぜ、孫の代まで使えるいい自慢話が出来た」
「そうか、それは良かったな」
カールは結婚してたのか? とてもそんな風には見えなかったが…。
「アラン様、サイラス様もお願いします!」
そう言ってきたのはカリナさんだ。サイラスさんもいつの間にすぐ近くにきていた。
「… 勿論、いいですよ」
そう言うとサイラスさんも恐る恐る近づいてきて、カールと同じようにグローリアの足に触った。
よし、今後はこういう事は断るようにしよう。自分で許可を出しておいて何だが、なんとなくグローリアが見世物になっているようで、あまり気分がいいものじゃない。
「アラン、感謝するぜ。生きているドラゴンに触った奴なんて、この世に五人といないだろうからな」
「いえ、いろいろと御世話になっていますからね」
(イーリス、そろそろ御披露目はいいだろう)
[分かりました。この後、グローリアに棲み家を見せてもらう約束をしているのです。拠点に作るグローリアの住居の参考にするためです。引き続き言語の学習もする予定です]
(分かった。よろしく頼むよ)
「このあと彼女は何か用事があるそうだから棲み家に帰るんだ」
「ええっ!? もう会えないの?」
「いや、また近いうちに会う約束はしているよ」
「そう…」
「飛び立つから皆、離れてくれ」
皆がグローリアから十メートル程の距離をとった。
「じゃあ、グローリア。また会おう」
グローリアは一声あげると飛び立ち、俺達の上空をゆっくりと一回りすると樹海のほうへと飛び去っていった。街のほうから、また歓声が上がっている。
「まだ夢を見ているみたい…。ドラゴンと会話したなんて」
「本当ですね、リア様。こんな日がくるとは思ってもみませんでした」
「ドラゴンにも用事があるとは思いませんでした」
「そりゃ、用事ぐらいあるさ。結構忙しいみたいだぞ」
イーリスに棲み家を案内したり、意思疎通のための学習に色々とイーリスに付き合わされるんだろう。大変だろうが直接通信できるようになると助かるので頑張ってもらおう。
あぁ、そういえば、グローリアにも通信機を持たせないといけないな。予備があるから身に付けられるようなベルトか何かを作るようにしよう。
「アラン様、では作業に取り掛かります」
おぉ、そういえばこれからが本番だった。
「よろしくお願いします、カリナさん。どのような手順で進めるのですか?」
「幸いにしてドラゴンの解体処理についての文献が見つかりました。これに沿って進めていきます」
カリナさんは古そうな本を恭しく持っている。確かにドラゴンの亡骸なんて滅多に手に入らないだろうから貴重な本だろう。
「なるほど…。鱗や血が貴重だと聞いた事がありますが…。もう丸一日ぐらいは経っているので、血の回収は難しいでしょうね」
「いえ、この本によるとそうでも無さそうです。いずれにしろ、ドラゴンの素材で捨てる物などありませんよ。ドラゴンの一部だというだけで例え腐ったものでさえ高値がつくでしょう」
ほう、それは有り難いな。確かに変わった蒐集家は何処にでもいるからな。それにしてもどうやって解体するんだろう?
「作業を見学してもいいですか?」
「勿論です。アラン様は我々の雇い主なのですから。しかし解体作業は少なくとも三日は掛かると見積もっています。それも今から交代制で昼夜を問わずに作業をおこなうと仮定しての話です」
なんと! そんなに掛かるのか。流石にそんなには付き合ってられないな。
「昼夜を問わずに作業をするのですか?」
「もちろんです。素材はなるべく傷まないうちに回収しなければいけませんからね。既に警備の冒険者も手配済です」
「その仕事は俺達が請け負ったんだ」
そう言って前に出てきたのはカールだった。
「おぉ、そうなのか! カール達なら安心して任せられるな。よろしく頼むよ。あぁ、そういえば礼がまだだった。今日はありがとう、助かったよ」
「なに、借りを返しただけだ。警備のほうも任せておけ。きっちり守るぜ」
街の方から人々がぞろぞろと歩いてくるのが見えた。グローリアがいなくなったため、守備隊の人達も抑えていられなくなったのだろう。慌ててカール達[疾風]がドラゴンの亡骸を守るように円陣を作り始めた。
人々は単にドラゴンを間近で見たいだけのようだ。[疾風]の制止におとなしく従い、ドラゴンを見ては口々に何か言っている。
商業ギルドの人達が、ドラゴンの周りに杭を打ち始めている。なるほど、ロープを張って簡単な柵をつくるようだ。もう薄暗くなってきているので篝火の準備もしている。
なかなかの手際の良さだな。やはり商業ギルドに依頼して正解だった。
その作業を見ていても暇なのでクランの皆も準備を手伝う事にした。
「おう、アラン。ドラゴンの話、本当だったんだな」
そう声を掛けてきたのは守備隊のギード隊長だ。冒険者ギルドのケヴィンさんもいる。
「そうですね。信じてもらえたようで何よりです」
「あのドラゴンが暴れるような事は無いんだな?」
「ええ、信じてもらえるか分かりませんが、そんな事は絶対にないと言っておきましょう」
「今度は信じてやるよ。じゃあな」
ギード隊長は守備兵を引き連れて詰め所に戻っていった。
「見事なドラゴンだな、アラン。手が足りなかったら冒険者ギルドから人を出すから言ってくれ」
「分かりました。ありがとうございます。今のところは大丈夫そうですが、その時はギルドに依頼します」
「頼むぜ。何だってやるからな」
ケヴィンさんはドラゴンを見て、さらに落ち込んだようにギルドに帰っていった。よほどドラゴンを冒険者ギルドで扱いたかったんだろうな。
俺達のクランが手伝ったことにより解体準備が整ったようだ。いよいよ解体だ。クランのみんなも固唾を呑んで見守る。
しかし、解体作業の始まりは凄く地味な作業だった。二十人程の男達が大きなペンチのようなものでドラゴンの鱗を取っていく作業だ。三十分程見ていたが一枚ずつとっているため大して捗った様子はない。同じく見守っていたカリナさんに声を掛けた。
「ずっとこんな感じでしょうか?」
「そうですね、今晩はずっとこんな感じです。この本によると鱗を取らないと禄に刃物も使えないそうですから」
なるほど確かにそうかもしれない。解体作業には興味はあるが、この作業をずっと見ている程じゃない。俺達はホームに帰るとするかな。
「では、私達はこれで帰ります」
「分かりました。あぁ、アラン様。サイラス様から明日の晩に晩餐でもどうでしょうか、とのお誘いですがいかがでしょうか? 勿論、パーティーの皆様も御一緒にです」
近くにいたパーティーの皆に目で確認をとるが、特に異論はないようだ。丁度いいな。俺もサイラスさんに訊きたい事がある。
「分かりました。是非、お願いします」
「有難うございます。サイラス様もお喜びになるでしょう。では、夕方六時に馬車でお迎えにまいります」
「ありがとうございます。助かります」
警備担当のカールに挨拶をして、守備隊のおざなりの検査を受けるとホームに向かった。
ホームまであと少しという所で門の周りに人だかりが出来ているのが見えた。何事だろう?
「おぉ! リーダーが来たぞ!」
「お願いします! 私をクランに入れてください!」
「私達はCランクのパーティーです!きっと御役に立てます!」
どうやらクランに入りたい人達のようだ。盗賊狩りで名前が売れてきた頃から何人かこういった人達が来ていたが、これだけの人数は初めてだ。
「悪いが人は募集していないんだ。俺達は既に百人以上いるからな。もし募集する事があれば告知をするから、その時にまた来てくれ」
こう言っても何人かは縋ってきたが、根気よく言うとやっと諦めてくれた。どうやら今日の事は、クランの名前を売る良い宣伝になったようだ。いや、ひょっとしたらドラゴンの素材の分け前が目的かもしれないな。
ホームの入り口にはサリーさんをはじめ従業員の人達が整列している。今度はなんだ?
「アラン様、ドラゴン討伐、おめでとう御座います。今日は御馳走を作りましたよ」
「あぁ、ありがとう。それは楽しみですね。そうだ、夕食の時にはワインの樽も出してください」
「分かりました」
こういう時ぐらい少しぐらい飲んでもいいだろう。
既に風呂に入った俺は、一足先に晩酌を始めることにして厨房に冷えたエールを頼んだ。
すぐにエラが大事そうにエールのジョッキを抱えてトコトコと運んできた。もう慣れたもので危なっかしい素振りはない。
「はい、あにき」
「ありがとう、エラ」
ジョッキを受け取って早速一口飲んだ。あぁ、やっぱり冷えたエールが一番だな。
「あにき、ドラゴンって何?」
「エラはドラゴンを知らないのか? そういえば見れなかったんだよな。うーんと、凄く大きいワイバーンみたいな感じの奴だ。ワイバーンは知ってるか?」
「知らない」
「そうか、じゃあ今度仲間になったドラゴンに会いに行く時にエラも連れてってやるよ」
「本当!?」
「あぁ、約束だ」
盗賊狩りに行っていた連中が明日帰ってくる。出来るだけ早いうちに紹介するつもりだったから、その時にエラも連れてってやろう。あぁ、テオも仕事が抜けられるようなら連れてってやるか。
「ありがと、あにき! もう一杯持ってくる!」
エラなりの感謝のつもりなのだろうがエールは有料だし飲み始めたばかりだ。まぁ、もう一杯くらい飲むつもりだったからいいけど。
エールを飲んでいるうちに皆も風呂に入ったようで食堂に集まり始めた。ビュッフェ形式の食事も運ばれてくる。確かに今日はいつもより御馳走だ。
食事が始まるとグローリアの事をみんな口々に話している。正に興奮冷めやらぬといった感じだ。
「アラン、食事はもう食べ終わったでしょう? ドラゴンとの戦いの事、もっと詳しく訊きたいのだけど…」
聞こえたらしい近くの席についていた者が一斉にこちらに振り向いた。確かにさっきは簡単にしか話してないからな。一度詳しく話す必要があるだろう。
「分かったよ。みんな、話が聞こえるようにちょっと近くに来てくれないか?」
皆が一斉に席を立ち、俺達のテーブルを囲むように立つ。
俺はドラゴンを探知したところから細かく話し始めた。
「……というわけでグローリアがガンツに来ても問題がないように、俺は戻る事にしたって訳さ」
勿論、イーリスやナノムの事は適当に誤魔化して話している。皆が納得してくれるといいが…。
「アラン、私もドラゴンの話す言葉を覚えたいのだけど教えてくれないかしら」
「うーん、俺もグローリアの言葉の内容が分かる訳じゃなくて、声の感じや仕草を見て、なんとなく分かる程度だからな。難しいかもしれないな」
「そう…」
「皆も気づいていると思うが、今回のドラゴン討伐で叙爵という可能性もあると俺は考えている。皆の意見を聞かせてもらえないだろうか?」
「スターヴェイク王国であれば、少なくとも男爵位には叙勲されるわ」
「私もそう考えます。問題は、この国ではその爵位がどの位になるか、ということでしょうか」
元王女であるクレリアと貴族であるダルシムがいうのであれば、やはり叙勲される可能性は高いか。そう、俺達の目標のためには領地を持つ事が許される男爵位が少なくとも必要だ。
「そうか。やはりこの国の事はこの国の人間に聞くしかないな。幸いなことに明日、商業ギルド長のサイラスさんに晩餐に招待されている。聞いた話じゃ王族関係者とも付き合いがあるようだから、明日聞いてみようと思う」
「それが宜しいでしょう。それからアラン様。アラン様の副官として一つだけ言いたい事があります」
「何だ?」
「アラン様は先程の御話で、ドラゴンを探知した際にB隊の者を守るために、たった御一人でドラゴンに立ち向かわれました」
「… まぁ、そうだな」
「それでは困るのです! アラン様は我らにとってかけがえのない御方。万が一にも失う事になっては我らの夢が潰える事になります。アラン様はドラゴンの処理をB隊に任せ、ガンツに戻るべきでした。ここにいる者はアラン様のためならば何時でも命をなげうつ覚悟が出来ている者達です」
ダルシムの言っている事は本来こんな場でいうべき事ではない。部下の前で指揮官を批判するとは…。しかしダルシムの顔つきを見ると、それを分かっていて言っているようだな。
暗に俺を一人でドラゴンに向かわせたB隊を批判して、いや違うな。この場にいる全員に覚悟を問うているのだろう。
周りを見渡すと確かにみんな覚悟を決めたような顔つきをしていた。確かに俺が死ねば建国の計画は遅れたかもしれない。この国では女性であるセリーナやシャロンが貴族に叙勲されるのは難しいだろう。
「…… なるほど、よく分かった。今後、命が危険にさらされた時にはそうさせてもらうかもしれない。しかし、今回に限っていえば俺に命の危険は無かった」
「しかしドラゴンが、」
「ダルシム副官、いや、皆も聞いてくれ。俺にとってドラゴンの一頭や二頭は問題じゃない。やる気になれば、ドラゴンが俺の存在に気づく前に倒せるだろう」
俺には大抵ドローンがついている。ドラゴンが束になってかかって来ても何の問題もない。
あまり辻褄の合わない事は言いたくはないが、今回俺を助けるためにヴァルターは身を危険に晒してA隊に合流した。こんな事は今後起こって欲しくない。
「…… アラン様は複数のドラゴンを相手に戦えると?」
「あぁ、何の問題もない。それよりもヴァルター! 俺はお前達の事を問題にしたい」
「えぇ!? 私ですか!?」
「そうだ。いくらなんでも夜の街道は危険すぎるだろ? なんて無茶な事をしたんだ! 今回は俺の指示も悪かったから許すけど、次にこんな危険な事をしたら許さないぞ」
「わっ、分かりました!」
周りを見渡すと多くの者が呆然としているようだ。やはりドラゴンを複数相手に出来るというのは信じられないかな。
「ダルシム副官、私も言ったでしょう? 貴方達はまだアランの実力を分かっていないと。アランならドラゴンなんて目じゃないわ」
「…… 本当にそんな事が?」
「現にドラゴンを倒してみせたでしょう?」
「…… そうでした。アラン様、差し出口を申しまして誠に申し訳ありません」
「いいさ。副官というのはそういうものだろう? これからも遠慮なくドンドン意見を言ってくれ。さて、せっかく新しいワインの樽を開けたんだ。もう少し飲もうじゃないか」
「「はい!」」
開けたワイン樽は大きな樽では無かった事もあって、一時間もするとワインが無くなり宴会はお開きとなった。よし、叙勲されると決まった場合には大宴会を開く事にしよう。
今日は特に何かをしたわけではないが色々と気疲れした。早めに休む事にしよう。
更新が遅くなりまして申し訳ありません。
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