071. ドラゴン4
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さて、無事にセリーナとシャロンにグローリアの紹介も済んだし、あとはこの片目のドラゴンの亡骸をどうやって、ガンツに運ぶかだな。
グローリアが運べるとしても、いきなりガンツに飛んでいくわけにはいかない。そんな事をすれば、間違いなく街はパニックになってしまう。
いや、どうやっても混乱は避けられないだろうけど、なるべく穏便に済ませたい。
やはりドラゴンが来るという事をある程度、街の人間に周知した上で運ぶしかないだろうな。
「イーリス、俺は一度ガンツに戻ろうと思う。このドラゴンの亡骸をグローリアが運べるとしても、ある程度は受け入れる態勢を整えたいんだ」
「分かりました。確かにそのほうがいいでしょう。では、運搬するのは夕刻近くになりそうですね」
「あぁ、大体そのくらいになるな。しかし、グローリアが本当に運べるかというのも心配だな」
イーリスが俺が言った事を伝えたようで、グローリアが、ガウガウと何か言っている。
「多分問題ないと思うと言っています。それに仮に浮力が足りなくても、何機かのドローンで補助してやれば問題ないと思います」
「そんな事が出来るのか?」
「フレキシブルアームで掴み、グローリアと一緒に飛びます」
そのイメージが仮想ウィンドウ上に表示された。グローリアがドラゴンの両肩を掴み、さらにドローン四機が四肢に一本ずつアームを延ばし運んでいるイメージだ。
なるほど、あのグニャグニャしたアームか。あれはあんなに長く伸ばせるんだな。確かにこれなら上手くいきそうだ。
「アームは不可視化出来るのか?」
「問題ありません」
「では、それでやってみよう。ガンツでの準備が済んだら連絡するよ。オークの魔石は食べやすいように此処に置いておく。じゃ、後は頼むぞ」
「分かりました。では、私達はそれまで意思疎通の学習をしていましょう」
オークの魔石をグローリアが食べやすいように岩の上に置いておく。
「では、グローリア。またあとで」
俺がそう言うと、グローリアも一声、挨拶を返した。
(長距離走行モードだ)
[了解]
来る時に四時間近くかかった行程だが、一時間程でガンツの近くまで戻ってくる事が出来た。
樹海が切れた所で待機していたらしい一団に駆け寄る。勿論、B隊のみんなだ。全部で四十五人もいる。セリーナ達の所に行ったのは五人か。
「アラン様!」
「なんだよ。こんな所にいたのか? ホームに帰っていればよかったのに」
「アラン様! よくぞ御無事で!」
「あぁ…、良かった!」
「勿論、無事に決まってるだろ。まぁ、今回はちょっとヒヤッとしたけどな」
「あぁ、本当に良かった! たった一人でドラゴンを退けるとは、さすがです!」
そう言ってきたのは、サテライト八班のリーダー、辺境伯軍のケニーだ。
「まぁ、何とかなったよ」
「アラン様、どのようにしてドラゴンを退けたんですか?」
こんな所で俺の事をずっと待っていてくれたんだ。皆にはちゃんと話してやらないといけないな。
そこで片目のドラゴンとの邂逅や、ドラゴンが使ってきた魔法、魔法で反撃した事などを順を追って話していく。
「ドラゴンが爆裂魔法を使うとは!」
「あぁ、俺もあれにはびっくりしたよ。そうこうしている内に、なんと、もう一頭ドラゴンが現れたんだ」
「なんですって!?」
「俺も驚いたが、ちょうど爆裂魔法を喰らいそうな時だったんで正直助かったよ。新手のドラゴンは俺を助けてくれたんだ。そのあとドラゴン同士の戦いになってな。お互い爆裂魔法を撃ち合う壮絶な戦いだった」
「あぁ! その音は我々にも聞こえました。あの音はドラゴンが戦っている音だったんですね」
「ドラゴン同士の戦いは正に死闘だった。かなり長い間、お互いボロボロになりながらも戦っていたが、俺を助けてくれたドラゴンが負けそうになってしまったんだよ。そこで我ながら無粋な真似だと思ったが俺の魔法で片方のドラゴンを倒した」
「………… 今、ドラゴンを倒したとおっしゃったのですか?」
「あぁ。倒したのは、もちろん最初に戦っていたドラゴンのほうだぞ?」
「… ドラゴンを倒したと?」
「そうだな。まぁ、実際にはドラゴンはボロボロだったからな。何とかなったよ」
実際には倒したのはドローンだが、他に説明のしようがない。ここは俺の手柄にするしかないだろう。
「信じられない!」
「おぉ! さすがアラン様だ」
「ドラゴンスレイヤー…」
「その後、助けてくれた新手のドラゴンを治癒魔法で治療してやったりしてたら、そのドラゴンに懐かれてしまったみたいなんだよ。
それからさっきまで、なんとか意思疎通出来ないかと思って色々とやっていたんだ。だから帰ってくるのがこんな時間になってしまったって訳さ」
「… そのドラゴンには襲われなかったんですか?」
「もちろん彼女はそんな事はしないさ。最初から大人しかったぞ」
「…… 彼女というのはドラゴンの事ですか?」
「あぁ、そうだ。一晩掛けてなんとか意思疎通できるようになったんだよ。やっぱり人間、一生懸命やればなんとかなるもんだな」
さすがにこの言い訳は無理があるよな。さて、どうしよう。
「…… にわかには信じ難いですが、さすがアラン様です!」
信じてくれたのか!? いや、これは完全に信じてもらったわけじゃなく半信半疑といったところだろう。
「それで倒したドラゴンを、あとでグローリアが運んでくれるって言うから、その準備をしようと思ってガンツに戻ってきたんだ。あぁ、グローリアというのは、そのドラゴンの名前な」
「… ドラゴンに名前があるのですか?」
「そうだ。俺も驚いたがドラゴンというのは人間と同じくらい賢い種族なんだ。名前ぐらいあって当然だろう? 彼女はなんと、俺達の仲間になる事を同意してくれた。クランの一員というわけだな。あとで紹介するから仲良くしてやってくれ」
「………… ドラゴンがクランの一員になって、あとで倒したドラゴンを運んでガンツまでやってくるということですか?」
「そういうことだ。まぁ、いきなりこんな話を信じろというのも無理なのは分かる。俺だって誰かにこんな話をいきなりされても信じやしないさ。
まぁ、あとでグローリアが来たら、本当の話だったのかと思ってくれればそれでいい」
「いえ、そのような事は…。私達はアラン様を信じています」
「とりあえず、ガンツに戻ろう。いろいろとやらなきゃいけない事がある」
「分かりました」
歩きながらB隊の皆がどうしていたのかを聞くと、ヴァルター達がA隊に連絡をとりに出掛けた後は、一晩中ずっとここで待っていたらしい。
確かにこの人数であれば魔物は問題無かっただろうけど、俺が眠りほうけている間も、皆は心配しながら夜を明かしていたと思うと申し訳ない気持ちで一杯になった。
いつか必ずこの借りは返そう。
十五分ほど歩けば、もうガンツの正門だ。今は十三時でこの時間だと入門待ちの人もいない。守備兵達のおざなりな検査を受けて門をくぐった。
「五人程ついてきてくれ。あとはホームで待機だ」
説明するのに一人よりも複数で行ったほうが説得力があるだろう。
「分かりました」
まずは守備兵のギード隊長だ。門の近くにある守備兵の詰め所のドアをノックして開けた。ここはもう何回も訪ねた事があるので慣れたものだ。
「シャイニングスターのアランです。ギード隊長はいますか?」
近くにいた守備兵に声を掛ける。
「あぁ、あんたか。また盗賊か?」
「いえ、盗賊ではないんですが、ちょっとお知らせしたい事がありまして」
すぐに守備兵に呼ばれてギード隊長が奥の部屋から出てきた。
「アランか。どうしたんだ?」
「すみません、いきなり訪ねまして。報告したい事があって来ました。実は昨日、ドラゴンを討伐しました」
「…… 本気で言っているのか?」
「えぇ、本気です。ですが信じられないのも分かります。今から私が言うことは、すぐに信じてもらわなくても構いません。しかし、混乱を避けるために是非、協力して頂きたいのです」
「… 聞こう」
「今、言った通りドラゴンを討伐しました。しかももう一頭、ドラゴンがいたんです。えー…、端的に言うと一頭のドラゴンを討伐し、もう一頭のドラゴンには懐かれました」
「…… 懐かれた? ドラゴンに?」
「ええ、そうです」
「で?」
「そのドラゴンとは結構、仲良くなりましてね。討伐したドラゴンをガンツに運んでくれると言うのです」
「ドラゴンが喋ったとでも?」
「いえ、身振り手振りでですが意思の疎通ができるようになりました」
「…… そんな話を信じろというのか?」
「いえ、今は信じていただかなくても結構です。しかし、後でドラゴンがこのガンツにやってきます。その際には大騒ぎになると思いますので、守備兵の方達に騒ぎが大きくならないように協力して頂きたいのです」
「…… まぁいい。仮にその話が本当だとしてだ、ドラゴンはいつ、何処に来るって言っていたんだ?」
「そこの正門前にくるはずです。恐らく三時間か四時間後になるでしょう」
イーリス達には、こちらの準備が整い次第、来るように指示しよう。
「なるほど…。いいだろう。今までのお前達の貢献に免じて本当だという事にしてやろう。話も俺のところで止めておいてやる。こんな話を上にあげて嘘でした、なんて事になれば、ただじゃ済まないからな。しかし、ドラゴンが現れなかったら、どうなるか分かっているんだろうな」
これでグローリアが運べなかったら、今まで築いてきた信用を無くす事になるな。いや、俺はグローリアを信じる。部下を信じてやれなくてどうするんだ。
最悪の場合でも、多分犯罪者として捕まるような事はないだろう。嘘つきと罵られ、信用を無くすぐらいだ。それぐらいならなんとかなる。
「分かっています。大丈夫、あのドラゴンはきっと来ますよ。では、他にも行く所があるのでまた後で来ます」
「… おう。ドラゴン、楽しみにしてるぜ」
鼻で笑うような感じでそう言ってきた。くそ、絶対信じていないな。あとでグローリアを見た時の隊長の顔をドローンに撮影しておくように、忘れずに指示しなきゃな。
詰め所をあとにして、商業ギルドに向かった。その次は冒険者ギルドか。この話をあと二回もすると思うとうんざりするな。
商業ギルドに着くといつもの受付に向かう。受付職員は俺の顔を見ると、待つようにという仕草をするとギルドの奥に向かっていった。よし、ついてるぞ。カリナさんがギルドにいるようだ。
すぐにカリナさんと、珍しくナタリーさんも一緒にやってきた。ナタリーさんはあまりギルドにいることがないので、会うのは久しぶりだ。
「こんにちは、アラン様。お久しぶりですね」
「えぇ、久しぶりです。今日は商業ギルドに依頼をしようと思ってきました」
「えぇ!? アラン様がギルドに依頼を? 是非、聞かせてください」
ギート隊長に話した話を、もう少し丁寧にカリナさんとナタリーさんに話していく。二人は終始驚きっぱなしだったが、なんとか話を聞いてくれた。
「つまり、後で正門前にドラゴンが運ばれてくるので、そのドラゴンの処理を商業ギルドにお願いしたいんです」
冒険者ギルドに依頼することも考えたが、俺は商業ギルドのほうが顔が利く。きっといい感じに処理してくれるだろう。
「アラン様。その話は本当の………。いえ、分かりました。この依頼、商業ギルドが正式にお受け致します。ギルドに出来る限りの事をさせて頂きましょう」
「ありがとうございます。凄く助かりますよ。正直、どうすればいいのかと途方に暮れていたんです。それで依頼料は、どれ位になるのでしょう?」
「…… 異例の事ですが、商業ギルドが実際におこなった作業の工数で依頼料を決めさせて頂くというのはどうでしょうか?
正直、ドラゴンの素材の処理など古い文献を漁ってみないと分からない事ばかりです。恐らく詳しく知っている者など一人としていないでしょうから、相場というものがありません。
正直、今の段階では依頼料を算出できないのです」
「分かりました。ではそうしましょう。ドラゴンがくるのは、大体三時間後になると思います。
私はそれまでに出来るだけ人手を集めるようにします。きっと大騒ぎになると思いますからね。
ちなみに守備隊には、もうこの事は伝えてあります」
「確かに自由になる人手は多い方がいいですね。でも、解体と運搬は商業ギルドで仕切りますから、考えなくていいですよ」
おぉ、それは助かるな。冒険者ギルドに運搬を頼もうと思っていたが、考えてみれば物を運ぶのは商人の方が得意なのかもしれない。
「それは助かりますね。では、時間までには私達は門のほうに行っていますから」
「宜しくお願いします。では、私達も色々と準備しなくては…」
そう言いながら、カリナさんはギルドの奥の部屋に向かい、ナタリーさんは受付のカウンターを乗り越えてギルドを出ていった。ナタリーさんは、きっとギルド長のサイラスさんに報告に行ったんだろう。
よし、次は冒険者ギルドだ。あと少しで冒険者ギルドに着くという所で見知った顔を見かけた。やっぱり今日の俺はついている。色々と手間が省けて助かるな。
「よう、カールじゃないか!」
「おう! アランか。狩りの帰りか?」
「まあな。カール、いま時間大丈夫か?」
「あぁ、俺達もいま帰りで、これから飲むぐらいしか用事は無いから時間はあるぞ」
「そうか。この間の話、覚えているか? 一つ貸し、って話さ」
「… あぁ、もちろん覚えてるぜ。その時が来たと?」
「そうなんだ。ちょっと手を借りたい事ができたんだよ。ちょっと冒険者ギルドまで付き合ってもらっていいか? もちろん、引き受けるかどうかは話を聞いてからでいい」
「あぁ、もちろんだ。俺達は出来るかぎりの事はするつもりだぜ」
そのまま一緒に冒険者ギルドに行き、受付でギルド長のケヴィンさんを呼び出してもらった。暫くしてギルド長のケヴィンさんが来てくれた。
「すみません。お呼び立てしてしまって。実は報告しておきたい事がありまして」
「[疾風]のカールも一緒か…。普通の話じゃないようだな。こっちに来てくれ」
いつもの会議室に通され、一同が席に着いた。シャイニングスターが六人、疾風が三人、ギルド関係者が二人だ。
守備隊の詰め所、商業ギルドでした話を繰り返すように話す。三回目ともなると大分スムーズに話せるようになるな。当然の事だが全員に驚かれた。
「つまり、あと三時間ほどするとドラゴンがガンツの正門までやってくると?」
「そうです。守備隊と商業ギルドには、この事を知らせました」
「何故、商業ギルドに?」
「ドラゴンの処理を依頼しました」
「… つまり、ドラゴンの素材は商業ギルドに任せるということか?」
「そのつもりです。しかし、こんな話を信じてもらえるのですか?」
「もちろん信じるさ。こんな嘘をついても誰も得しないからな。しかし、アラン…。素材に関しては冒険者ギルドに任せてもらいたかったな」
「すみません。商業ギルドには色々と世話になっているもので」
「で、アラン。俺達は何をすればいいんだ?」
「あぁ、[疾風]には俺達シャイニングスターと一緒にドラゴンを出迎えて欲しいんだ。
ドラゴンが姿を現せば、きっと大騒ぎになる。そんな時に慌てずに落ち着いた態度で、ドラゴンを出迎えている姿を見せれば少しは騒ぎを鎮めるのに役に立つんじゃないかと思うんだ。
勿論、危険な事はない。ドラゴンに一番近づくのは、俺達シャイニングスターだ。これは絶対にないと思うが、万が一ドラゴンが暴れても俺達でなんとかしよう」
「なんだ、そんな事でいいのか? よし、分かった引き受けよう。しかし、ドラゴンか…。近くで見られると思うとワクワクしてくるぜ」
確か[疾風]は六十人ぐらいのクランだ。俺達と合わせれば百人以上になる。きっと役に立つだろう。
「そういう事ならギルドからも、手が空いている者を出そう。きっと見物人も大勢来るだろうから、その整理をさせよう」
「ありがとうございます。助かります」
よし、何とか話はまとまったな。正直、もっと話が拗れるかと思ったが意外なほど皆が話を信じてくれた。これが積み上げてきた信頼というモノなのかもしれない。
カール達もケヴィンさん達も準備があるとのことで、話し合いはお開きとなった。
まだ三時間もあるんだから、ホームに帰って風呂と食事を済ませてしまおう。昨日から干し肉しか食べていないので、さすがに腹が減った。
そういえば、セリーナ達にも状況を知らせておかないといけないな。
約束の一時間半前にはクランの全員で正門に向かった。問題ないとは思うが準備を確認しておきたい。
正門に着くと既に見物人と思われる人が集まり始めていた。どこかから話が漏れているんだろう。おっと、セリーナから通信だ。
(アラン、私達はあと三十分程でガンツに着きます。どんな状況ですか?)
さっき、通信で確認したがセリーナ達はA隊を二つに分けていた。先にガンツに向かう十五人と、捕らえた盗賊達を運ぶ三十九人だ。クレリアやエルナ、ヴァルターも先発隊に入っているようだ。クレリア達にもグローリアを早く紹介したかったので丁度良かった。
(こちらは問題ないよ。準備が整い次第、グローリアを呼ぶつもりだ)
(私達が到着するまで待っていてくださいね)
(分かったよ、待ってる。以上)
さて、ドラゴンは何処に置いたほうがいいかな。往来の邪魔にならないような場所で作業がしやすい場所がいいだろう。
「おう、アラン。久しぶりだな」
後ろから声を掛けられたので、誰だろうと振り向くとサイラスさんだった。アリスタさん、カリナさん、ナタリーさんもいる。それに護衛と思われる十人程の屈強な男達もいた。
「お久しぶりです。サイラスさん、アリスタさん」
「おい、アラン。聞いたぞ。ドラゴンを仕留めたって?」
「ええ、たまたま運が良かっただけですよ」
「運でドラゴンが倒せるわけないんだがな。それにドラゴンを手懐けたって聞いたが?」
「ええ、なんか懐かれてしまいました。なかなか賢い生き物ですよ、ドラゴンは」
「そんな話は聞いたことがないぜ。今日は見物させてもらおう。こんな見ものは滅多にないからな」
「ドラゴンは、なかなか迫力がありますよ。楽しんもらえると思います」
「アラン様、ドラゴンが来るのはあと一時間ほどでしょうか?」
「恐らくそれくらいでしょう。しかし、ドラゴンはあまり時間を気にしていないようなので、正確な時間はわかりません。ところでカリナさん、ドラゴンは何処に置いたらいいと思いますか?」
「そうですね…。ちなみにドラゴンの大きさはどれくらいあるのでしょう?」
「そうですね、立った姿で十五メートル程でしょうか」
「十五メートル! それでは解体するのに、かなり広い場所が必要ですね。あの辺りはどうでしょう」
カリナさんが指差したのは、門から百メートル程離れた平らな場所だ。街道からも五十メートル以上は離れていて、往来の邪魔になる事はない。ふむ、確かに良さそうだ。
「では、あの場所にしましょう」
「あの…、ドラゴンにどうやって場所を指示するんですか?」
「あぁ、私がいる所にくると思いますから特に指示は不要なんですよ」
「なるほど。では、あの場所を少し片付けさせましょう」
カリナさんと一緒に下見に行くと、門の脇に控えていた鎌を持った男達が十五人ぐらいついてきた。格好からすると、商業ギルドの職員だろう。
「ここら辺にしましょう」
カリナさんがそう言うと、男達が疎らに生えていた草を刈り取り始めた。転がっていた石なども退けられ、二十分ほどで五十メートル四方程のスペースが整地された。これだけ広ければ十分だ。
街道の方から、かなりの数の人馬が駆けてくるのが見える。セリーナ達が帰ってきたようだ。
「おぉ! アラン様! よくぞ御無事で!」
馬から飛び降りるようにして降り立ったヴァルターに手を握られる。ヴァルターは涙を流している。
「あぁ、随分と心配をかけたようだな。ヴァルター、すまなかった」
クレリア、エルナ、セリーナ、シャロン、いや十五人全員に、たちまち取り囲まれた。
「アラン! 無事だったのね!」
クレリアもエルナも、今にも泣きそうな顔をしている。あぁ、こんなにも皆に心配を掛けていたんだな。本当に申し訳ない事をしたな。
「ああ、勿論さ。俺がドラゴンにやられるわけないだろう?」
「そうね! アランならドラゴンでさえも、いつか倒せるかもしれないわね」
そう言いながらクレリアは笑顔を浮かべた。
それを聞いていたB隊のみんなから微妙な空気が流れる。さて、また説明しなければならないな。
商業ギルドの人達から少し離れた所に集まってもらい、B隊のみんなに話した内容を伝えていく。人生の中で、一日にこれだけ多く人の驚いた顔を見たのは間違いなく初めてだ。
「… というわけで、これからグローリアがドラゴンを運んでくるんだ。皆にも紹介するから仲良くしてやってくれ」
「すごい……。すごいわ、アラン! ドラゴンを仲間にするなんて!」
「本当に驚きです! そんな事が本当に可能なんでしょうか!?」
クレリアとエルナは、とても嬉しそうだ。二人がグローリアを見ても怖がらなければいいんだけどな。
「おーい! アラン! 遅くなってすまん! 何とか間に合ったか?」
カールもクランを引き連れて来てくれた。多分、七十名近い人数がいるだろう。
「あぁ、間に合ったよ。カール、よろしく頼むぜ」
「勿論だ。任せておけ、って言っても俺達は特にすることは無いんだよな?」
「あぁ、ここにドラゴンが降り立つ。俺達とガンツの中間ぐらいに陣取って街の皆を守る、みたいな顔をして立っていればいいさ」
「そんなのお安い御用だ。しかし…、俺もドラゴンを近くで見たいんだが不味いか?」
「不味いことはないけど、ドラゴンが人間に慣れるまでちょっと待っててくれ。落ち着いたら合図するから、そうしたら近づいてきてもいいぜ」
「おぉ! そうか。じゃあ、そうするよ」
カールは[疾風]のメンバーを引き連れて俺の指示した場所に向かって引き返していった。
そろそろ、いい頃合いだろう。受け入れの準備も曲がりなりにも出来たし、夕方になり暗くなる前に済ませておきたい。
「よし、もうすぐグローリアが来るはずだ。みんな準備をしてくれ」
俺がそう言うと、荷物をどかしたり、馬を離れた所に繋ぎに行ったりと思い思いに準備を始めた。
(イーリス、そろそろ来てもらえると助かるんだが、どうだろう?)
[もちろん、いつでも行けます。そちらの状況も把握していますからね。グローリアは、魔石も食べて魔力も補給しましたし、準備万端です]
(よし、では出発してくれ)
いよいよだ。これでグローリアがドラゴンを運べなかったら酷い目に遭いそうだな。
仮想ウィンドウに、向こうの映像が表示される。
グローリアは羽ばたき浮かび上がるとドラゴンの亡骸の肩に掴みかかり、羽ばたき始めた。
おぉ! 浮いたぞ!
しかし、懸命に羽ばたいているが、十メートルぐらいの高度でゆっくりと移動するのがやっとのようだ。やっぱり自分より重い物を運ぶというのには、少し無理があったようだ。
四機のドローンが姿を現し、グローリアに近づいていく。アームを四十メートル程伸ばすとドラゴンの亡骸の四肢にアームを巻き付け、グローリアと共に上昇し始めた。
どんどんと高度と移動速度を上げていき、五十メートル程の高度に達すると、かなりの速度で移動し始めた。
よし、何とかなりそうだ。あのスピードならここまで十分もかからずに到着するだろう。
「そろそろ時間です。商業ギルドの方たちは、念の為に離れていてください」
近くにいたカリナさんとギルド職員達に告げた。やはり、最初の紹介は俺達のクランだけでやっておきたい。
「分かりました。アラン様、くれぐれも気をつけてくださいね」
「大丈夫ですよ。任せてください」
クランの皆も緊張しているのか、樹海の方角の空を見上げながら誰も口を利かない。
その状態で五分ほど経った頃、強化された視力がグローリアの姿を捉えた。
「よし、見えてきたぞ!」