070. ドラゴン3
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グローリアが俺の一族に加わるっていうのは、まだ分かる。言い換えれば俺達の仲間になるという事だろう。むしろ大歓迎だ。
しかし、その条件が伴侶となるドラゴンを見つけて来なければならないというのならば、少し話は変わってくる。
「その伴侶というのは、すぐに必要なんだろうか?」
[…… いえ、すぐにという訳ではなさそうです。グローリアは、まだ成長しきっていないようです。恐らく人間で言えば、まだ成人していないといったところでしょう。正確な時期は分かりませんが、そのうちにという事のようです]
ふぅー…、助かった。すぐに必要と言われたらどうしようかと思った。しかし、この大きさでまだ成長中なのか。確かに片目のドラゴンよりは小さいが…。
グローリアの大きさは直立した状態で十二メートルはあるだろう。片目のドラゴンは、きっと十五メートル以上はあったに違いない。あれが大人だとすれば、まだ時間的余裕はありそうだ。
[グローリアが今更ながら、なぜ人間である艦長と意思の疎通が出来るのか疑問に思い始めたようです。そちらに姿を現していいですか?]
「もちろんだ」
しかし、今更その事に気づくとはな。グローリアもきっと混乱しているんだろう。
イーリスが俺のすぐ隣に姿を現した。もちろんこの姿はナノムが視神経に干渉して見せている幻影だ。グローリアが驚いて後ずさる。
まぁ、無理もないな。俺だっていきなり現れたら驚く。
「グローリア、この人はイーリス。俺の一族の偉い人だ」
イーリスは階級的に言えば名誉大尉だ。実質的な権限はないが階級的には、この惑星の帝国軍のナンバー2だと言ってもいいだろう。
「よろしくね、グローリア。私が魔法を使って貴方の心に族長の言葉を伝えているのよ」
イーリスがグローリアにイメージを伝えて、理解したようでイーリスに向かって深く頭を垂れる。それにしても族長っていうのは勘弁して欲しい。
「…… 理解したようですが、なぜ戦士達も私も姿を消したり現したり出来るのか不思議に思っています」
「それは… そういうもんだと思ってもらうしかないな。上手く説明できないし」
グローリアがまた、ガオガオと何事か言っている。
「…… 怪我が治っている事も、いま気づいたようです。艦長が治したと説明しておきました」
本当に今更だな。結構苦労した俺からすれば、男の心配より先に気づいて欲しかった。
グローリアは、また犬のように躰を伏せて俺に敬意を表しているようだ。
「グローリア、それは止めてくれ。俺達の一族ではそんな事をしないんだ。ただ礼を言ってくれればそれでいい」
ドラゴンの流儀で感謝しているのは分かるが、俺の感覚からすると不必要に卑屈になっているように見えてしまう。
「理解したようです」
「良かった。それで訊きたい事があるんだが、どうして片目のドラゴンと戦っていたんだ?」
「…… 自分の縄張りに入ってきて挨拶をしに来なかった事。人間を襲っていた事。言葉が通じなかった事を理由に挙げています」
「ちゃんと意思疎通をしているように見えたけどな。何で人間を襲う事が戦う理由になるんだ?」
「…… どうやら人間を襲う事は、全てのドラゴンの禁止事項になっているようです」
「そういえば片目のドラゴンも、冒険者に片目をやられる前は、人間を襲っていなかった。きっとそういう考えがあったんだろう。なぜ人を襲う事が禁止事項になっているか理由を聞いてくれ」
「…… よく分からないそうです。しかし、大昔にはドラゴンと人間が共に暮らしていたと母親から聞いた事があるそうです」
「ほう! そんな時代があったとは実に興味深いな。ところで母親は亡くなったのかな?」
「はい、それは確認しました。随分前に亡くなったようです」
「そうか、じゃあずっとひとり暮らしだったのか…。片目のドラゴンに言葉が通じなかったのは何故だろう。遠くから来たドラゴンだったのかな?」
「…… 恐らくそうでしょう。遠くというのは別の大陸の事を言っているようです」
「なるほど…。大陸が違えば交流もそうそう無いだろうから言葉が通じなかったのも無理はない。しかし、あの戦い方は、ある種の決闘のように見えたけど、そうでは無かったという事か?」
あの戦い方は何か共通のルールがあるように見えた。
「…… やはり決闘のようです。言葉は通じなかったが決闘のルールを知っていて驚いたようです。片目のドラゴンが、挑戦の雄叫びに応えて決闘を受けたのに、負けそうになりルールを破った事に腹を立てています」
グローリアは、三十メートルほど離れた所にある片目のドラゴンの死体に向かって軽く咆哮をあげた。
やはり、グレネードの打ち合いは決闘だったのか。きっと噛みつきなどの格闘戦はルール違反なのだろう。
「具体的には何がルール違反だったのか訊いてくれ」
「…… あのドラゴンは決闘で敵わないと理解した時点で降伏の儀式をやるべきだったようです。あのように決闘の流儀に従わないことは、とても卑劣な行為だったようです」
そうか。それを聞いて片目のドラゴンを処分した事に感じていた罪の意識が少しだけ軽くなった。いや、ひょっとしたら大陸が違う事によるルールの違いだったのかもしれないな。しかし今となっては確認しようもない。
「あのドラゴンの死体をどうすべきかを訊いてみてくれ」
グローリアが埋葬か火葬にでもすべきだというならば、残念だがその通りにしよう。
「…… 艦長の好きにすればいいと言っています。私は食べた事はないがドラゴンの肉はとても美味しいと母親が言っていたそうです。大昔には決闘では降伏が許されず、戦いに勝った場合は負けた相手の肉を食べていたそうです」
「美味いと言われても…。俺はあまり食べたくはないな」
俺はもうグローリアの事を単なる魔物には見えなくなっている。グローリアと同じ姿をしている生き物の肉を食べたくはない。肉の状態になっていれば食べることができるかもしれないが…。
「では、このドラゴンは何とかしてガンツに持って帰るか…。イーリス、何か提案は?」
「そうですね。これだけの重さのものは、流石にドローンを何機か使っても無理です。分割して運ぶしかないでしょう」
「そうだろうな。鱗や血が貴重なのであれば出来れば避けたかったが、しょうがないな。いや、分割するのだって一苦労だぞ。これは」
仮に死体を分割してドローンで運ぶとしても、ガンツに直接運び込むわけにはいかない。ガンツの近くの樹海までが精一杯だろう。そこから台車か何かに乗せて運ぶにしても、かなりの人手がいるし結構な作業だ。さて、どうしたものか。
「グローリアに何を話しているのか訊かれたので答えたんですが、グローリアならば運べるかもしれないと言っています」
「なんだって!? 自分の躰よりも大きいドラゴンを、飛んで運べるっていうのか?」
「…… そこにある石を貰えれば、という条件のようです。その石が無ければグローリアでも出来ないそうです」
「ひょっとして石っていうのは、このオークの魔石の入った袋の事か!?」
「そうです」
そういう事か。やはりドラゴンは魔力を感知する力を持っているようだ。片目のドラゴンも俺が放ったファイヤーグレネードを見て、ファイヤーボールとは考えずに慌てて避けていた。魔力を感知できれば、袋に魔石が入っている事は簡単に分かる。
袋から魔石を三つ、取り出してグローリアに見せた。
「これをどう使うんだ?」
「…… 食べるそうです」
「…… 魔石を食べるって、大丈夫なのか!? いや、大丈夫なんだろうけど…。そうか、食べる事によって魔力を補給するという事かな? ドラゴンは飛ぶ時に羽と共に魔力を使っていると聞いた。魔力が沢山あれば、それだけ飛翔する力が高まるということか?」
飛行がある種の魔法ということであれば、そんな事も可能なような気もしてきた。
「…… そういう解釈で良さそうです。グローリアが一族の集落まで運ぶと言っています。集落がどんな所か楽しみだとも…」
「あぁ…、グローリア。俺達が今いる場所にグローリアは連れていけないんだ。その…、グローリアは躰が大きいだろ? だからちょっと難しいんだよ」
イーリスが伝えたようで、グローリアは項垂れてしまった。一族から、いや俺から除け者にされたと感じたようだ。
今までの行動からグローリアは一族に加わった事よりも、一族の者にどれだけ認められているかを重視しているように感じる。
「いや、違うんだ。今、新たな集落を作っているんだよ。ほら、樹海の奥のほうに、いま作っているやつだよ」
樹海に住んでいるグローリアならば、きっとイーリスが作っている拠点の事も知っているだろう。
イーリスが伝えると、興奮気味にガオガオと喋り始めた。
「…… あれが新しい集落だとは、と驚いています。拠点にグローリアの住む所も作るようにしましょう」
「あぁ、頼むよ。広くて快適な場所を用意してやってくれ」
集落については、ひとまず納得してくれたようだ。ふぅー、良かった。さすがにグローリアをクランのホームに連れていくわけにはいかないだろう。
「では、早速、グローリアにドラゴンが運べるか試してみますか?」
「いや、その前にやっておきたい事があるんだ」
◇◇◇◇◇
A隊が野営地を出発して二時間、もうすぐあと一時間ほどで盗賊が罠を張っている場所に到着する。今のところ何の問題はない。
その時、ドローンよりアラーム警告を受けた。何者かが街道をかなりのスピードで近づいてくる。
シャロンと視線を交わした。それだけでシャロンの考えている事は何故か理解できる。シャロンも特に思い当たる事はないようだ。
(ディー・ツー、偵察を)
[了解しました]
直掩のドローンを偵察に向かわせると、すぐに映像が映し出された。魔物ではなく人馬に乗った五人だ。よほど急いでいるのか、馬を駆けさせ、それぞれ予備の馬を二頭ずつ連れている。そのうちの一人がズームされた。
あれは、ヴァルターだ! なぜヴァルターがここに? まさかアランの身に何かあったの!?
いや、もしそんな事があれば、とっくにイーリスから連絡があるはずだ。だとするといったい何事だろう? ここに来たのはアランの指示だと思うが、全く理由が分からない。とにかく話を聞いてみよう。手を挙げて隊列を止めた。
「セリーナ隊長、何か?」
「何者かが後方から近づいてくるわ。念の為、確認してみましょう」
十分ほど街道で待機しているとヴァルター達が見えてきた。やはり馬を飛ばしている。私達を見つけて更に加速してきたようで、着いた時には馬も人も息も絶え絶えになっていた。
「リア様! セリーナ隊長! アラン様が、アラン様が!」
「どうしたというの? 落ち着いて話して」
ヴァルターは懸命な努力をして十秒ほどで息を整えてみせた。
「オーク討伐の帰りにドラゴンに襲われました。アラン様が我らを逃がすために、御一人でドラゴンに向かわれたのです」
「アランが!? それでアランは無事なの!?」
「分かりません…。申し訳ありません、リア様。我らではアラン様の足手まといにしかならなくて…。セリーナ隊長、お願いします。アラン様を助けに戻ってください!」
何かがおかしい。ヴァルター達は当然、昨夜アランに定時連絡する前に出発したはずだ。しかし、アランに連絡した時には、そんな事は一言も言っていなかった。
「アランのことだから問題ないとは思うけど…」
「セリーナ、相手はドラゴンよ!? いくらアランでも問題ないわけ無いわ! すぐに戻りましょう!」
「少し考えさせて。私はA隊の隊長として、よく考え、これからどうするか決めるわ」
考えていることが皆に判るように目を閉じてアランに通信した。
◇◇◇◇◇
お、セリーナとシャロンから同時に通信だ。グループ通信で受けよう。
(アラン! 大丈夫ですか!?)
(ん? 何がだ?)
(ドラゴンに襲われたって、本当ですか!?)
(あぁ、まぁそうだな。でも、何でその事を知っているんだ?)
(ヴァルターの他、四人が馬を飛ばしてこちらまで来ました)
(ええっ!? ヴァルターが? あいつら、ひょっとして夜も馬を走らせたのか!? くそ! 危ない真似しやがって)
(そんな事よりドラゴンは大丈夫なんですか!?)
(もちろん大丈夫だよ。あぁ、そうだ。ARモードの通信で、ちょっとこっちに来れないか? 見せたいもの、いや紹介したい女性がいるんだが)
((しょ、紹介したい女性!?))
グローリアはなるべく早くセリーナ達には紹介しておきたい。イーリスは俺の視線を受けて頷いた。各人のナノムを同時に制御するARモード通信は、さすがにイーリスの処理能力がないと実現出来ない。
(あぁ、そうだ。二人には出来るだけ早く会わせたいんだ)
((行きます!))
すぐにセリーナとシャロンが三メートル程離れた所に姿を現した。グローリアにも同じく二人が見えているようで、いきなり二人が現れたのでまた驚いて後ずさっている。
セリーナ達に見えているものは、俺の視界やグローリアの視界を合成し位置補正したものだろう。
二人はグローリアを見て、驚愕の表情になると腰のホルスターから素早くレーザーガンを引き抜きグローリアに向けた。いや、思わず反応しちゃうのは分かるけど現実には二人はここにはいないからな。
「これがドラゴン! アラン…。そんなに近づいて大丈夫なのですか?」
「あぁ、もちろんだ。紹介しよう。彼女はグローリアだ」
「彼女…?」
「これが紹介したい…女性?」
「そうだ。いや、こう言ったほうがいいかな。新兵のグローリア一等兵だ」
「しん…」
「…ぺい?」
「さっき帝国軍の一員に正式に登録した。入隊の宣誓も頑張って正式にやったんだぞ。宙兵隊所属の一等兵だ」
「宙兵? ドラゴンが?」
「ドラゴンが… 一等兵」
いきなり過ぎたかな? 二人共、随分と混乱しているようだ。
グローリアには酷いことをしていると思う。いくら意思疎通のためとはいえ、思考を読むような事をしてプライバシーの欠片もない。
ドラゴンの掟で、俺の仲間に加わるという事が変えられないのであれば仕方のない事なのかもしれないが、それだけの犠牲を強いるのであれば、せめて正式な身分を用意したかった。
グローリアにとって帝国軍の軍籍など意味がないのかもしれないが、俺やセリーナ達にとっては大きな意味を持つ。これで俺達はグローリアを単なる魔物として扱う事は出来なくなった。
これぐらいしか出来ないが、いま俺にできる精一杯のことだ。
「二人にとっては初めての部下ということになる。よく面倒をみてやってくれ」
「「部下…」」
グローリアは、二人に頭を下げてガオガオと何事か呟いた。
「新たに一族に加わったグローリアです、よろしく、と言っているようです」
イーリスの翻訳は、この短時間で翻訳が正確になってきているように感じる。
「あぁ、グローリアはまだ上手く言葉が喋れない、というかまだデータが少なくてな。いまお互いに学んでいるところさ。じきにイーリスの通訳無しでも直接、意思疎通が出来るようになるはずだ」
二人はレーザーガンをホルスターに戻した。やっと状況が分かってきたようだ。
「よろしく、グローリア。私はセリーナ・コンラート少尉よ」
「私はシャロン。グローリア、よろしくね!」
グローリアは二人の返答を聞くと空に向かって短く咆哮をあげる。
「二人に受け入れられて喜んでいます」
そう聞いて二人もやっと笑みを浮かべるようになった。
「凄い! 本当にドラゴンを仲間にしたんですね!」
「色々と偶然が重なってな。グローリアは、かなり強いぞ。俺達の心強い味方になるだろう」
イーリスが俺が言ったことを伝えたのか、グローリアは嬉しそうに咆哮をあげた。
「あぁ! 向こうで誰かが私に話しかけています。もう戻らないと」
「そうか、じゃ詳細はまた連絡するよ」
セリーナとシャロンはかき消すように姿を消した。
◇◇◇◇◇
私に話しかけたのはクレリアのようだ。発言をプレイバックしてみると私が長考しているのに焦れて声を掛けただけのようだ。
「よく考えてみたけれど、やっぱりアランは心配いらないわ」
「そんな… お願いします! セリーナ隊長! 一緒に戻ってください」
「私も戻るべきだと考えます。隊長」
「ヴァルター、ダルシム副官。あなた達はまだアランの本当の実力が分かっていない。アランならドラゴンなんて問題じゃない」
「でも… セリーナ。いくらアランでも…」
「クレリア、あなたまでアランが信じられないというの? 大丈夫、何の心配もいらないわ。とはいえ、なるべく早くガンツに戻ることにします。盗賊達を手早く片付け、盗賊達を移送する隊と、先行し馬で今日中にガンツに戻る隊とに分ける事にしましょう」
「おぉ! 有り難うございます! みんな! 頼む! アラン様の一大事だ! 何としても最短でガンツに戻るぞ!」
「「おう!」」
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