063. クラン始動3
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いきなり剣を教えろと言われても教えられるわけがない。どうやら、皆は俺の剣術に興味があるらしく、ダルシム隊長の提案で対戦形式で模擬試合をする事になってしまった。
クランのリーダーとしては負けられない戦いだ。余裕があるように見せるために、二、三合、打ち合ってから次々と勝負を決めていく。なんと百人とだ。
皆の剣術は、エルナと同じ神剣流のようだった。この剣術は一撃必殺を意識した剣技が多く、どちらかというと隙ができやすい傾向にある。手数の多さで攻めるコリント流とは相性が良かった。
終わる頃にはもうヘロヘロだったが、なんとか余裕のあるフリをすることが出来たと思う。
いや、本当に酷い目にあった。エルナには、いつか仕返しをしてやろう。
皆で風呂に入って上がる頃には、もう夕食の時間だ。どうしても冷えたエールが飲みたくて厨房に頼んだ。
厨房のほうから、エラがジョッキを大事そうに抱えながらトコトコと歩いてくるのが見えた。みんなハラハラしながら、それを見守っている。なんとか俺の前までやってくる事ができた。
「あにき」
良かった。エラは、まだ兄貴と呼んでくれるらしい。
「エラ、仕事頑張ってるじゃないか」
「うん! 楽しい」
「そうか、頑張れよ」
「うん」
トコトコと厨房まで戻っていった。サリーさんは、ちゃんとエラ達の面倒を見てくれているようだ。
皆が料理を取り終わり、落ち着いた頃に声を掛けた。
「みんな! 聞いてくれ! 今回、盗賊共から奪った金は三十一万ギニー、その他の戦利品には二十五万ギニーの値がついた」
「「おお!」」
「この他にも報奨金と依頼料で、二十一万ギニー。更に盗賊に掛けられた懸賞金も入る予定だ」
「「おお!」」
「懸賞金が分かったら、また発表しよう」
こういう数字は出来るだけ皆と共有したほうがいい。そのほうが皆もモチベーションが上がるだろう。
「ダルシム隊長。夕食後、パーティーリーダーを執務室に集めてくれないか? 打ち合わせをしよう」
「分かりました」
夕食後、執務室にメンバーとパーティーリーダー達が集まった。
「さて、幾つか相談したい事がある。このクランは月払いの給金制なんだ。皆の給金を幾らにしたらいいと思う?」
「給金ですか…。朝食と夕食が出るのですから必要最低限な金額でよいと思います。五百ギニーもあれば十分かと」
五百ギニーじゃ幾ら何でも少ないだろう。昼食代を抜くと服も買えない。人間、金が無くなると、不思議と心も荒んでいくものだ。
「幾ら何でも五百ギニーじゃ少なすぎるな。千五百ギニーにしよう」
この金額であれば、たまには酒を飲みに行って、服の一着でも買えるだろう。みんな命を掛けて頑張っているんだ。せめてそれくらいの余裕ぐらいあってもいいと思う。
ダルシム隊長は何か言いたそうであったが反論はしなかった。
「アラン、私達も同じ金額にしよう。この一月、私は殆ど金を使わなかった」
メンバーのみんなが頷いていた。確かに俺も昼食代を抜くと、使ったのは服を一着と、バーベキュー用の鉄板ぐらいだ。確かに一万ギニーは多すぎだ。
「よし、ではそうしよう。隊長、誰かクランの金を管理をする人間を二、三人選んでもらいたい。あとは物資の調達係も数名、選んでくれ」
いい加減面倒になってきた。きっと俺より適任がいるだろう。
「分かりました。明日までに選出します」
「よし、次は盗賊狩りについてだ。敵に対して味方の人数が多いに越したことはない。しかし、このクラン全員、百五人が一緒に行動するというのは効率が悪すぎる。そこで討伐隊を二つ作り、別行動にしようと思う」
周りを見渡すが、特に異論はないようだ。まぁ当然だな。
「戦力的に考えてシャイニングスターのパーティーも二つに分ける。俺と俺以外という風にな」
「アランと別行動をとるということ?」
「そうだな。自慢じゃないが、現状ではそれぐらいで釣り合いが取れると思う」
「そうですね。私もそう思います」
シャロンとセリーナも異論はないようだ。クレリアも納得したように頷いた。
「討伐隊の一隊は俺が指揮をとる。もう一隊の指揮官はセリーナ、次席指揮官にシャロンを考えている」
周りを見渡すが、驚いてはいるものの特に発言する者はいない。クレリアもエルナも異論はなさそうだ。セリーナとシャロンは物凄く気合いの入った表情をしていた。
「ダルシム隊長、何か意見は?」
「いちばん情報を多く持つ者が指揮をとることは、指揮の理想形の一つだと思います。探知魔法が使える御二人が指揮をとるのは理に適っているかと。特に御二人は、先の戦いで能力があることを証明したのですから、我らに異論があるはずもございません」
ふむ、ここまですんなりと皆が納得するとは思わなかったな。勿論、俺がセリーナとシャロンを指名したのは、いまダルシム隊長が言ったことが理由だ。
しかし、もう一つの理由としては帝国軍の次席指揮官が、セリーナだからだ。もし俺が死んだら、シャロンより先任のセリーナが艦長になり、帝国軍の指揮をとることになる。その時のために出来るだけセリーナとシャロンに経験を積ませておきたかった。
「では、セリーナが率いる討伐隊をA隊、俺が率いるものをB隊としよう。」
丸めてあった地図をテーブルに広げる。
「次に襲撃する盗賊についてだ。この地図を見てくれ。この地点で盗賊が罠を張っているという情報を掴んだ。人数は総勢十八人。十四人程で罠を張っている事が多いようだ。残り四人はアジトだ。アジトはここだな。これをA隊でやってもらう」
「了解です」
「セリーナ、サテライト一班から五班を連れていけ。行程としては、行き帰りに一泊ずつ、計二泊になるはずだ」
「分かりました」
盗賊達をドローンで監視し、情報をまとめた動画をイーリスに作らせておいた。それを後でシャロンとセリーナに送ろう。
内容を確認したが動画のクオリティーは、はっきり言って低かった。いつかイーリスに魅せる動画の作り方を教えてやらないといけないな。
「B隊は、サテライト六班から十班だ。この地点にいる盗賊達を襲う。人数は二十人。これも行きと帰りで二泊の行程になるだろう」
サテライト六班から十班のリーダー達は、真剣な眼差しで地図を食い入るように見ていた。
「はっきり言って、この人数で襲えば楽勝だろう。盗賊とは比べ物にならない精鋭達が、倍以上の人数で奇襲するんだ。負ける要素がない。だから目指すのは完勝だ。誰一人として、かすり傷一つ負わずに帰ってきてみせろ。俺達の目標は、まだ遙か先だ。こんなところで躓いている暇はないぞ」
「了解です」
「分かりました!」
「出発はA隊、B隊共に明後日の早朝だ。明日は盗賊をどう襲ったら一番効率がいいか、皆で考えてみよう」
打ち合わせを終えて解散した。さすがに今日は疲れたので、すぐに寝てしまった。
翌朝、朝食後に皆で食堂に集まり、どうすれば盗賊を効率よく倒せるかを話し合った。
色々な意見が出たが、結論としてまとまったのは、エアバレットで吹き飛ばし、盗賊が転がっている間に別の者が駆けつけ、木刀で殴りつけるというものだった。殺さないようにするには、下手に剣を使うよりも、思い切り殴れる木刀の方が、やりやすいとのことだ。
早速、ホームの広場で連携を練習した。エアバレットを使えるものは、かなりいるようでA隊、B隊共に二十名以上の者が使えた。
魔法を使える者がエアバレットを放つと同時に、他の者がダッシュして木刀で殴りつけるという連携を暫く練習した。後は実戦で試すしかないだろう。
「アラン様、午後の予定は?」
「俺はちょっと用事があるんだ。うっかりしてたが、箱馬車が一台しかないだろう? やっぱり作戦で使う馬車は、囲まれていて中が見えないものがいいから、手に入るか分からないけど、探しに行こうと思う」
「そうですか…。分かりました」
ダルシム隊長は何故か残念そうにしていた。まさか…。
「おお! セリーナ殿! シャロン殿! 午後は何をされるのですか?」
予定は特にないと答えたセリーナ達は、たちまちダルシム隊長に捕まって広場へと連れていかれた。
やっぱりそうだ! 危うくまた鍛錬につきあわされるところだった。危なかった…。
箱馬車は商業ギルドで、あっけなく見つける事が出来た。希望通り中古で、あまり綺麗ではなかったが、長く使うわけじゃないし問題ない。価格は二万ギニーで、ホームまで届けてくれた。
セリーナ達は、まだ帝国格闘技の講習をしていたので、忙しいふりをして慌てて建物に逃げ込んだ。さすがに二日連続はきつい。
翌朝の早朝、シャイニングスターのA隊、B隊は揃ってガンツを出発し、最初の街道の分かれ目でA隊とは別れた。
(セリーナ、シャロン。みんなを頼むぞ)
(了解です)
(了解しました)
A隊の直掩にドローンを一機つけてあるので警戒も万全で問題はないはずだ。
セリーナとシャロンは今回の作戦に並々ならぬ、やる気を見せていた。情報を纏めた動画を何時間にも渡って詳細に確認し、自分達の考えた作戦を俺にプレゼンし、チェックさせていた。
作戦に隙はないし、もともと勝って当り前の戦いなので、それほど心配はしていない。
俺達B隊の道中も何事もなく過ぎ、二日目、盗賊達が待ち伏せるポイント付近に到着した。作戦は前回と同じだ。迂回班が二班、盗賊の背後に忍び寄り、合図と共に襲いかかる。
「迂回班二班は行動に移れ」
各班二十名ずつが、音もなく街道両側の山中に入っていった。ドローンによる映像では盗賊達は、街道の右側に八人、左側に十人いた。
迂回班がそれぞれ配置についたのをドローンで確認すると、馬車を進め始めた。馬車の馬にはかなり大きな音が出るベルが付けられており、カランカランという音がする。迂回班はこの音を聞いて近づいてくる馬車の距離を測り、盗賊達に忍び寄っていく作戦だ。
仮に頭のいい盗賊がいたとして、作戦に気づかれ迂回班を発見されたとしても盗賊達の二倍以上の戦力だ。それほど心配はしていなかった。
馬車に乗るのは十人だ。御者台には、俺と六班リーダーのヴァルターの二人。残りの八人は箱馬車の中で息を潜めていた。
馬に付けたベルのせいか、盗賊達はかなり前からこの馬車に気づいていた。今回は木の上には見張りはいない。盗賊たちが潜んでいる所まであと十メートルの距離で合図のファイヤーボールを打ち上げた。
バンッという合図の音と共に、街道の左右から悲鳴と怒号が聞こえてくる。馬車の中からも馬車班が飛び出てきて盗賊達に向かっていくが、既に決着はついたようだ。
次々と街道に盗賊達が蹴り出されてきた。
「アラン様、一瞬でしたね」
「あぁ、そうだな。俺達は何もすることがなかった」
全ての盗賊達が蹴り出されて、迂回班も街道に出てきた。
「誰か怪我をした者はいるか!」
確認をとるが声を上げる者はいなかった。手早く盗賊達が鎖に繋がれていく。盗賊達は何が起きたのか判っていないようで呆然としていた。
「よし、みんなよくやった。これ以上ないくらいに上手くいったな。では、盗賊達のアジトに行こう。あぁ、十班は悪いがここに残って盗賊の見張りだ」
皆もこんなに上手くいくとは、と口々に言いながらアジトに向かう準備をして、北へ三キロ程、いった所にあるアジトに向かった。
今回の盗賊のアジトは、なかなかユニークだ。なんと、木の上に大きな小屋を作っていた。勿論、粗末なもので、かろうじて雨露を防げるようなものだ。しかし、これを作る手間を考えれば、真面目に働いたほうがいいだろうに。
小屋を四十人で囲んだ。中にいる二人は勿論、俺達に気づいているが居留守を使っているようだ。
「おーい! そこの二人、大人しく出てこい! 俺が火を付けないうちにな」
…… 無視しているようだ。いい度胸だな。すかさず小屋に空いている窓枠から小屋の中に小さなファイヤーボールを叩き込んだ。慌てて火を消しているような音が聞こえてくる。
「おい! 俺を怒らせるなよ。今なら命だけは助けてやる」
少しして盗賊達は縄梯子を下ろしてトボトボと降りてきた。勿論、すぐに拘束された。
「よし、ヴァルター。お宝拝見だ」
「はい! アラン様」
縄梯子が切れないように一人ずつ登っていった。小屋の中は予想以上に物が少なく、弓、大量の矢、食料や、酒などを除くと木箱が数箱だった。隠してあった革袋に入ったギニーも見つけたが、五万ギニーも入ってなかった。くそっ! ハズレだ。
目ぼしい戦利品をロープで下ろし街道へと戻った。やはり、戦利品が少ないとみんなの士気も違うな。しかし、勝ち戦には違いがなく、暗くなっているという程ではない。
街道に戻ると御者をヴァルターに任せて、昨日野営した場所に戻り始めた。そろそろ、セリーナ達の戦いが始まる。
仮想ウィンドウ上に、セリーナ達の上空にいるドローンからの映像を表示した。もうすぐ迂回班が盗賊達の背後に着くところだ。
セリーナとシャロンは、それぞれ迂回班を率いていた。セリーナの班にはクレリア、シャロンの班にはエルナが入っている。
計画では時間がきたら馬車を走り始める手筈になっていた。どうやら迂回班は時間内に盗賊達の背後につけたようだ。
馬車が近づくにつれ、迂回班も盗賊達に忍び寄っていく。盗賊達が弓を引き始めた所でセリーナは合図を鳴らした。
俺達の戦いと同じように盗賊達は次々とエアバレットに吹き飛ばされ、駆けつけた男達に木刀でタコ殴りにされている。決着は着いたようだ。まぁ、当然か。
怪我人もいないようだし作戦は成功だな。あとは、洞穴にいる四人の盗賊だけだ。失敗しようがない。セリーナ達はハズレじゃないといいけどな。
翌日の十四時には、俺達B隊は、ガンツに到着していた。当然、守備兵に止められた。
「おい、って、シャイニングスターのリーダーか!? …… さっきお仲間が、盗賊を引き連れて戻ってきたばかりだぞ?」
「私達は、それとは別の盗賊です」
「ちょっと待っててくれ!」
守備兵が一人、応援を呼びにいった。程なくギード隊長を先頭に数人の守備兵がやってきた。
「おいおい、またかよ。一体どうなってんだ? これは」
「捕縛した盗賊です。お願いします」
「…… わかった。また鎖は借りておくぞ。おい!」
守備兵達が盗賊達を引っ立てようとした時に一人の盗賊が騒ぎ始めた。
「違うんです! 私達は盗賊じゃありません。この人達に突然襲われたんです!」
ギード隊長と一緒に騒いでいる盗賊を見に行った。
「本当なんです! 街道を歩いていたら突然襲われたんです!」
周りの盗賊達も同じように騒ぎ始めた。ギード隊長は手を上げて黙らせる。
「ほう? お前達は冒険者にも商人にも見えないが?」
「そんな! 格好だけで判断するなんて!?」
「俺が、盗賊みたいな格好をしたお前達と、Bランクの冒険者で百人以上のクランを率いる男、どちらを信じるか、分かるよな?」
「そんな!?」
「じゃあ、俺達の取り調べに耐えてみせろ。そうしたら考えてやるよ。今まで耐えられた奴はいないがな。連れてけ!」
盗賊達は騒ぎながらも連れていかれた。
「ご苦労だったな。鎖は明日、届けさせる」
「分かりました」
信用なんて曖昧なもので善悪が決められてしまう、この世界を少し恐ろしく感じた。しかし、これならばわざわざ襲われる芝居をしなくても良さそうだ。色々と選択肢が広がるな。
ホームに着くと、セリーナ達も先程帰ってきたようで、メンバーがこちらに駆け寄ってきた。
「アラン、無事戻りました。怪我人無しです」
「でかした、よくやったな」
セリーナとシャロンは、とても嬉しそうだ。
「大量の戦利品を手に入れることができたの! ギニーも十五万ギニー以上。アラン達は?」
あぁ、クレリア達はアタリを引いたのか…。
「俺達だって、まぁまぁだ。なぁ、ヴァルター?」
「…… えぇ、まぁまぁです」
更新、遅くなりました!
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