062. クラン始動2
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「ノリアン卿、いいだろうか?」
食堂での会議を終えて、クレリア様と私室に戻ろうとしたところをダルシム隊長に声を掛けられた。
「なんでしょう? 隊長」
「良かったら少し話をしないか?」
「エルナ、久しぶりに仲間達とゆっくりと話でもするがいい。私は部屋に戻っていよう」
素早く見渡すと部屋の片隅には近衛のサーシャが待機しており、さり気なくクレリア様のあとをつけ警護する準備が整っているようだった。サーシャは私の視線を受けて軽く頷いた。
「… 分かりました」
気がつけば私の周りにはダルシム隊長、ヴァルターの他に、先程決まった八人のパーティーリーダー達が集まっていた。何事だろう?
「どのような話でしょう」
「いや、そう構えなくてもいい。別に変な話ではない。リア様やアラン様とずっと行動を共にしてきた君にいろいろと聞きたいことがあるだけだ」
なるほど。いきなりアラン達と行動を共にすれば疑問が出るのは当然か。
「分かりました」
「まず聞きたいのは、アラン様や、シャロン殿、セリーナ殿が使う探知魔法についてだ。あれはどのような魔法なのだろうか?」
私は、いつかアランに聞いた探知魔法の原理や探知範囲について話した。
「信じられない! そんな事が可能だと!? いや、この目で見ているのだから信じる他ないのだが、そんな魔法をアラン様だけならともかく、シャロン殿達まで使えるとは…」
「アランやシャロン、セリーナは軍人です。恐らく軍にのみ伝わる秘術なのでしょう」
「アラン様が所属していたという軍は、恐ろしく強大な力を持っていたに違いないな。叶うことなら、そのような軍には出会いたくはないものだ。いや、その軍の将軍であるアラン様が我らのリーダーなのだから、そのような心配は無用か」
ダルシム隊長の意見には同意するしかなかった。らいふるや、ぶれーどナイフなどのアーティファクトを装備している軍に敵うわけもない。
「ノリアン卿、リア様の伴侶となられるアラン様を呼び捨てにするのは感心しないな」
近衛の先達にあたるデリー卿に窘められた。
「いや、デリー卿。ノリアン卿は、これまでの行動から、アラン様よりそう呼ぶことを許されたのだ。アラン様は、とても気さくな御方だ。建国の暁にはそうもいかないが、我らもそれを許されるぐらい御仕えし信頼を勝ち取ることを目指すべきだろう」
「… 分かりました」
「アラン様が稀代の魔術師というのは分かっているが、剣の腕前はどうなのだろう? ゴタニアの街で御相手させてもらったが、一瞬の事だったのでよく判らなかったのだ」
「アランは、コリント流剣術の使い手です。その腕前は、一言で言えば、凄まじい、でしょうか」
「コリントというのは、確かアラン様の家名だったはず。なるほど、自ら流派を興すほどの剣豪の血筋ということか。しかし、ノリアン卿。凄まじいだけでは、よくわからん」
「一度だけ、アランの切り札を見せてもらいました」
「「切り札を!?」」
「ノリアン卿は、そこまでアラン様に信用されているのか…」
「して、どうだったのだ? その剣技は?」
「凄まじいです。あの剣技に敵う者がこの世にいるとは思えません。私は剣聖と剣王を同時に相手しても勝つと思っています」
「なんだと!? あの剣聖と剣王を同時に? 想像もできん…。なるほど、凄まじい、か」
「最近では、リア様と私はアラン達にコリント流の稽古をつけてもらっているのです」
「なんと! アラン様は、そんなことまでして下さるのか。出来れば我らにも教えて頂きたいものだ」
「基本的な事であれば、リア様と私でも教えることはできるでしょう。リア様は本当にお強くなられました。多分、ここにいる者でも簡単にはリア様に勝つことが出来ないでしょう。いえ、負けるかもしれません」
「…… ノリアン卿。それは本気で言っているのか? 我らがリア様に剣で負けると?」
「私でも十回に一回は負けますから」
「おおっ! なんということだ! それほどまでにお強くなられたのか! この短期間にそれほどまで…。恐らく血の滲むような鍛錬をなさったのだろう…。さすがは我が主。我らも明日から、より一層の剣の鍛錬に励むぞ! 主より弱い近衛など存在している意味がないからな」
「「分かりました!」」
リア様がお強いのはリア様にコリント流が合っているからだ。神剣流では、手こずるだろう。
「そういえばシャロン殿、セリーナ殿は体術であれば、アラン様を上回るという驚くべき事を聞いたのだが?」
「はい、間違いありません。アラン達は体術のことを格闘技と呼んでいて私達の知る体術と似てはいますが、いろいろと異なる武術です。アランとシャロン達の実力差は僅差ですが、アランは未だ一度も二人に勝てていません」
「未だ一度も、というと定期的に対戦を?」
「はい。リア様とアランと私は、二人を師として稽古をつけてもらっているのです。しかし私など子供扱いです」
「リア様もか。しかし、近衛の中でも優れた技量を持つノリアン卿が子供扱いとは…。アラン様の所属していた軍とは一体…」
「いえ、あの二人が軍の標準というわけではなさそうです。シャロンとセリーナは、アランの国の英雄の息女だそうです」
「「英雄の!?」」
「はい。なんでも、民を救うために数千の敵に囲まれながら自らを犠牲にして果てた英雄だとか。信じ難いことに、単身でその半数以上を道連れに果てたとの事です。アランは、その英雄の事を本当に尊敬しているようでした」
「数千…、それも単身……。なんという英雄だ! にわかには信じられんが、他ならぬ、あのアラン様が尊敬されるというほどの御方だ。恐らく事実なのだろう…。傑物の子が傑物とは限らないが、あの二人も只者ではないということか…。アラン様が二人を可愛がることにも得心した」
「先日の盗賊討伐の折、シャロン殿、セリーナ殿の指揮が卓越していたというのを、共をした者達から聞いております。やはり英雄の血を引く御方は違うのでしょう」
「かもしれん。あぁ、このような方々と巡り合うとは、なんという僥倖か! もはや天が我らに味方をしているとしか思えん」
ダルシム隊長の言う事には全面的に賛成できた。しかし元を正せば全てはクレリア様の人徳と幸運のおかげだと思う。さすがは私の主、クレリア様! 間違いなくクレリア様もルミナス様に愛されている。
皆のアラン達への興味は尽きることがなく、話し合いは夜遅くまで続いた。
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朝風呂に入ろうとして風呂場にいくと、夜が明けたばかりだというのに、既に何人かの人達が入っていた。
話を聞くと未だ冒険者になっていないので、早めにギルドにいって登録するらしい。辺境伯軍の内、十人ぐらいは冒険者になっていなかったそうだ。たぶん、潜伏先に冒険者ギルドが無かったのだろう。
セリーナとシャロンは、昨夜、問題なく治癒魔法ヒールを覚えることができた。まぁ、あの作品のクオリティーであれば、当然といえば当然だろう。
あの後、打ち身バージョンと骨折バージョンも作って送っておいたので、セリーナとシャロンは大抵の怪我には対応できるだろう。
こんなことならもっと早く作っておくべきだったな。
ダルシム隊長からは、決定したパーティーのリーダーとそのメンバーのリストを渡された。勿論、自分ではすぐに覚えられないのでナノムに記憶させている。
(ナノム、しばらくの間、クランのメンバーが視界に入った時に、その人の頭の上に名前をタグとして仮想表示するようにしてくれ。あぁ、パーティー毎に色を分けて欲しいな。リーダーは太字だ)
[了解]
これでクランのメンバーの顔と名前を覚えることができるな。
十時になり、カリナさんがギルドの査定員三人と共に馬車二台でやってきたので、早速、戦利品が置いてある部屋に案内した。
「カリナ様、この木箱は!?」
査定員が木箱を見るなりそう言った。
「ええ、そうね」
「何かおかしいことでも?」
「この木箱は、商業ギルドで発注して作らせているものです。商業ギルド間で荷をやり取りする時に使う箱ですね。つまり、この木箱の荷は元々は商業ギルドの物だったということです」
見ると全体の七割ぐらいの木箱が同じような作りをしていた。
「だからといって、査定には何の関係ありません。アラン様はきっとこの荷を運んでいたギルド員の仇をとってくださったのでしょう。アラン様、ありがとうございました」
「いえ、そのための指名依頼ですから」
査定員達は次々と木箱の中身を確認し、相談しながら二人がメモに何やら書き込んでいる。品物は、魔石や、何か分からない魔物の素材などが多かった。ガンツから他へ運ぶ途中だったのかもしれない。
最後にテーブルの上に置かれていた、十個の宝石、二本のネックレス、三個のブレスレットを査定員が拡大レンズのようなものもので、念入りに見ていった。その査定も終わり、合計を計算しているようだ。
「アラン様、査定が出ました」
そう言いながらメモを渡された。これは俺の控えらしい。
おおっ! 総額二十五万二千四百五十ギニーだ。
内訳を見てみると、ブレスレット一個だけで十万五千ギニーの値がついていた。多分あの大きな宝石が沢山ついているやつだろう。他にも高額なのはやはり宝石や貴金属か多かった。
「分かりました。こちらでお願いします」
物の価値など分からないし、カリナさんと商業ギルドを信じるしかない。データが溜まって行けば、自分でも分かるようになるだろう。
カリナさんから、二十五万二千四百五十ギニーを受け取った。
「では、運びだします」
「分かりました。手伝わせましょう」
廊下に出ると丁度、十人ほどが歩いているのが見えた。名前タグによるとサテライト八班のリーダー、辺境伯軍のケニーだ。
「おーい! ケニー! 荷物を運ぶのを手伝ってくれないか?」
「分かりました!」
十四人で運ぶと、あっという間にギルドの馬車に載せることができた。
カリナさんに来てもらった礼をいうと商業ギルドの馬車二台はクランを去っていった。
「アラン様、幾らぐらいになったんですか?」
ケニーが小声で訊いてきた。
「みんなには、まだ言うなよ? なんと二十五万ギニーだ」
こちらも小声で返す。
「おお! それは大金ですね」
「ああ、苦労した甲斐があったな」
ケニー達は、これから冒険者ギルドにいってパーティー登録をしてくるとのことで、その場で別れた。
十三時に冒険者ギルドで皆と待ち合わせているので、これからパーティーの皆と何処かで昼食を食べた後に行けば丁度いいな。
時間通りにパーティーのみんなと冒険者ギルドに着くと、ギルド前は人でごった返していた。
勿論、ウチのクランのメンバー達だ。恐らくギルドの中に、この人数で入ると迷惑になるからだろう。今も往来の人達には、まぁまぁ迷惑になっているが…。
失敗したな。集まってもらう時間をずらすとかして混雑を避ければ良かった。しかしもう今更だ。
「ダルシム隊長、手早く済ませてしまおう」
「分かりました」
俺達がぞろぞろとギルド内に入っていくと、たちまち注目を浴びた。
「なっ、何ですか? あなた達は!?」
受付の若い女性職員を怖がらせてしまったようだ。別の職員がギルド奥に駆け込んでいくのも見えた。あぁ、本当に失敗した。
「クランの登録をしにきたんです。後ろにいるのはクランに登録するパーティーのメンバーです」
「クランの? …… それだけですか?」
「それだけです」
ギルド長のケヴィンさんと、数人の男性職員が走ってくるのが見えた。あぁ、やっぱり。
「これは何の騒ぎだ!」
「すいません、お騒がせして。クランの登録に来ました」
「…… 後ろにいるのは全てクランのメンバーだと?」
「そうです」
「… いいだろう。手続きを進めよう」
「では、クランのリーダーのギルド証と登録するパーティーのメンバーの全員のギルド証を提出して下さい」
「私がクランのリーダーです。そして登録するパーティーがサテライト一班です」
俺のギルド証と、ダルシム隊長以下、九名のギルド証が受付に提出される。それを見て受付職員は懸命に台帳に書き込み始めた。
「全員、Cランクか…」
ケヴィンさんが、サテライト一班のギルド証を見て呟いた。
「サテライト一班のクランへの登録、出来ました」
「では、次はサテライト二班をお願いします」
サテライト二班のみんながギルド証を提出する。
「… 分かりました」
「これも全員Cランク…」
その後、次々と登録を済ませていった。勿論、登録を済ませたパーティーはホームに帰ってもらっているので、混雑状況は改善されていった。
「サテライト十班のクランへの登録、終わりです!」
受付職員はちょっと機嫌が悪くなっているようだ。まぁ、一度に登録にきたこちらも悪かったのだろう。
「アラン、ちょっと話があるんだがいいだろうか?」とケヴィン。
話があるのは俺だけというので、みんなには帰ってもらった。いつもの会議室に通される。部屋には俺とケヴィンさんと職員が一人だけだ。
「アラン、彼らは?」
随分と抽象的な質問だな。
「以前、他所で知り合いまして一緒にガンツで一旗揚げてやろうと集まった仲間ですね」
「なるほど…。では、Cランク冒険者が百人、全て新参ということだな?」
全員Cランクだったのか、そこまで見てなかった。まぁ前職を考えれば当然だな。
「そうです」
「… まさか、全員が評価試験でCランクに?」
「全員がそうかは分かりませんが、恐らくはそうでしょう」
「すると実力はCランク以上ということか… 彼らは何者なんだ?」
「私の口からは何も言えませんね。詳しく訊いたこともありません。彼らに訊いてみてはいかがでしょう?」
「まぁいい。ギルドとしては戦力が増える事は喜ばしいことだ。しかも、全員がCランク以上で百人以上のまとまった戦力となれば尚更だ。いざという時には頼らせてもらうぞ?」
これはギルドの規約にある強制依頼という意味だろうな。災害時などにギルドから依頼される依頼だ。
「分かりました。もちろん協力しましょう」
「では、宿を教えておいてくれ。これはクランのリーダーには訊いていることだ」
「[大嵐]が使っていたホームです。今は私達が使っています」
「改装しているというのは聞いていたが、君達のクランだったのか…。それで、今後どんな依頼を受けるつもりだ?」
「しばらくは商業ギルドの指名依頼を継続的に続けるつもりです。具体的には盗賊討伐ですね」
「商業ギルドの…。確かにあの人数と実力なら、いいかもしれないな。いいだろう。聞きたいことは聞けた。時間をとらせて済まなかったな」
「いえ、お騒がせしてすいませんでした」
冒険者ギルドを出てクランのホームへと向かった。
よし、これで今日やる事は済んだな。あとは、夕食の時にでも、皆に戦利品の売却金額の報告をして、その後、簡単な打ち合わせをしてって感じでいいかな。今日の午後は、ゆっくりと過ごそう。
ホームに着くと、そこはまるで戦場のような有様だった。みんなが建物前の広場一杯に広がって木刀を持ち、二人一組になって実戦さながらの稽古をしている。なんでこんな事に?
門の近くにエルナがいたので聞いてみる。
「エルナ、なんでみんな急にこんな事を?」
エルナは俺の顔を見て、ニヤっと笑った。嫌な笑い方だ。
「… さぁ? わかりません」
「おお! アラン様! 丁度良い所に。アラン様はリア様やノリアン卿に剣術を教えているとか。 是非、我らにも教えてください!」
手を引かれて広場の中央に連れていかれる。
「全員集合! 今からアラン様が剣術を教えてくださるぞ!」
「「おう!」」
くそっ! エルナに、はめられたのか。
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未だに月間三位を維持できているとは!
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