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057. クラン

誤字、脱字、御指摘、感想などもらえると嬉しいです。



 今日は、魔物狩りは休みなので朝もゆっくりだ。カリナさんが迎えに来てくれる時間が半端なため、出掛けるわけにもいかない。みんなは朝食後、宿の中庭で剣の稽古をするらしい。


 俺はイーリスに確認したい事があったため部屋にこもった。


(イーリス、近衛の人達の現在位置は分かるか?)


[分かりません。しかし通るであろう街道は推測出来ます。付近のドローンを向かわせますか?]


(見つけるのにどれくらいの時間がかかる?)


[三十分以内には発見出来ると思います]


(よし、向かわせてくれ)



[発見しました]


 早いな。まだ探し始めて十分ぐらいだ。


 仮想ウインドウ上にドローンからの映像が表示され、馬に乗った一人の男がズームされる。確かにダルシム隊長だ。


 引きの映像で確認すると、恐らく二十人程度の馬と馬車で構成された集団で移動しているようだ。幌なしの馬車で乗っているため人数も確認できる。


 その集団の二百メートル後方に同じ様な別の集団がいる。集団を分けて移動しているようだ。多分五十人以上の集団が一塊になって移動しているのは異様に見えるからだろう。


 ん? 集団が多くないか? 五十八名であれば集団は三つで足りるはずが、三つ以上の集団が見える。


(全体の人数を確認出来るか?)


 ドローンの映像が街道沿いに移動していく。低空で飛びすぎじゃないか? ステルスモードで不可視化しているとはいえ、エンジン音が聞こえているようで、みんな慌てた様子で空を見渡してキョロキョロとしている。


[確認しました。全部で百名です]


(関係者ではない別の集団が混じっているのか?)


[そうは思いません。全ての集団において、ゴタニアで確認した近衛隊員の存在を確認しました]


 途端にゴタニアでの顔写真と、この映像から切り出したと思われる十人以上の顔写真の画像が並べられる。確かに同一人物であり、見た顔だ。


 どういうことだろう? 護衛依頼でも受けているのだろうか?


(鎧を着ていない者はいるか?)


[いません]


 百人全ての人物像がウインドウ一杯に表示された。おお! 女性も何人かいるな、エルナの同僚だろうか?


 鎧を着ていない者が混じっていれば、護衛依頼でも受けているとも考えられたが、一人もいないのであれば、全て関係者と考えるべきだろう。


 百人ちょうどという事にも意図的なものを感じるし、ズームされた画像の人物達は兵士のように見えた。


 これは予想外だな。


 拠点を整備するにあたって、近衛の五十八名全員がガンツに向かっているのかを確認したかっただけなんだが、減っているどころか増えているとは思わなかった。


 恐らく五十八名では不足と考えたか、他に希望者がいたから連れてきた、という事だろう。


 追加の人達は、ロベルトの言っていた辺境伯軍の人達と考えるのが自然か。


 拠点に百名以上のキャパシティがあればいいんだが…。しかし、来てしまったものはしょうがない。今、考えても仕方のないことだ。


(この集団のガンツへの到着予想日数は?)


[二十三日後です]


 予定よりも早いな。きっとダルシム隊長のことだから急がせているんだろう。


(この集団は、一日一回はチェックするようにしてくれ。問題があれば連絡するように)


[了解しました]



(それとイーリス、もう知っているかもしれないが、アルコール度数を高めた酒を作る事になった)


 セリーナは、時々イーリスにモニターを許可しているからきっと知っているはずだ。


[… はい、知っています]


(この星の鍛冶屋が扱えるような技術と素材を使って製造可能なアルコールの蒸留器を設計してくれ)


[こんな感じでしょうか? しかし、鍛冶屋の設備を見たことがないので、製造可能かどうかは分かりません]


 仮想ウインドウ上に蒸留器の設計図のイメージが表示される。ほう、こんな形をしているのか。銅製のヤカンを歪に歪めたような形をしている。


 ワインなどのアルコール飲料を加熱すると、アルコールのほうが先に蒸発する。その蒸発した気体を別の場所に誘導し、冷してアルコールに戻す事により、濃いアルコールを精製出来る。それを効率的におこなうことが出来るのが蒸留器だ。


「確かにそうだな。近日中に鍛冶屋を見てくる。暫定的にこれに決めよう。少し小さいな、もう少し大きく … いいだろう。その大きさの蒸留器を作るための手順を紙にまとめると何枚ぐらいだ?」


「百五十三ページです。ちなみに取扱説明が五十七ページになります」


 ああ、気が滅入るな。二百ページ以上も書き写すのか。いや、酒の作り方も含めたらもっとだろう。

 百五十万ギニーは安かったかもしれない。


(いいだろう。次に俺が昨日飲んだ酒の情報をナノムから入手してくれ)


[入手しました]


(酒のアルコール度数は?)


[約二十一度です]


(では、もっとアルコール度数が高い、そう二十五度程度で、もっと美味い酒を作りたい。恐らく既存のワインに蒸留したアルコールを混ぜて作るような酒になると思うが、その酒の製造工程を研究してみてくれ)


[艦長、私には酒の美味い不味いは分かりません。人類世界の既存の酒造設備と製造工程のデータはありますが、この蒸留器を使用して、この惑星に存在する材料を使って酒造するノウハウはありません]


(わかっているさ。これからしばらくの間、俺はいろいろな酒を飲むようにしよう。それらの酒や、発見済の原料のデータを元に研究してみてほしいんだ。人類世界で評価の高い酒のデータは揃っているだろう? それに近いものを作るつもりでやってみてほしい)


[データを集めたとしても研究のための評価プログラムが不完全で、うまくいかないと思います]


(システムのリソースは余っているだろう? シミュレーション・モジュールを構築して、いろいろと研究してみて欲しい)


 シミュレーション・モジュールは、現実世界と同じ状況を完全にシミュレートした限定的な仮想世界を電脳空間に作り上げ、様々な実験、検証をおこなうことの出来るシステムだ。仮想であるため、時間を進めるのも戻すのも自由自在だ。かなりCPUパワーを使用するため、よほどの事でもない限り使用されることはない。


[このような事のために、シミュレーション・モジュールを構築するのですか?]


(このような事とは随分だな。これは今後の活動資金を得るための作戦行動の一環だぞ。また、ごく一部ではあるが、科学技術の向上にも繋がっていて作戦の趣旨にも合致している)


[… 了解しました。やってみましょう]


 なんとかイーリスを丸め込めたので、俺が美味いと思う酒の詳細をあれこれとイーリスに伝えているうちに、カリナさんがくる時間となってしまった。


 迎えに来たカリナさんは、いかにも職人風の男を伴っていた。


「アランさん、こちらは今回、一緒に下見にいってくれるトルコさんという親方です」


「宜しくお願いします。アランといいます」


「トルコだ、宜しく頼む」



 まずは、ドライヤーの納品を済ませてしまおう。


「カリナさん。先に魔道具を納めさせてください。こちらがドライヤーという魔道具になります」


 木箱から出して動作させてみる。もちろん二台とも動作に問題はなかった。ちなみに魔石はサービスだ。


「はい、ではこちらが代金になります」


 小さな革袋を渡される。中には金貨四枚が入っていた。


「はい、確かに」



 納品が済むと早速、皆で拠点に向かった。この馬車は大きく全員で乗っても余裕だ。五分程で四階建の大きなレンガ造り建物の前で馬車は止まった。


 建物の前は大きな広場になっていて、広場の脇には厩舎のようなものもあり、かなりの馬を入れられそうだ。建物の周りには十人程の職人と思しき人達がいてあれこれ言い合っている。恐らく改装の下見にきた職人達なのだろう。サイラスさんは仕事が早い。


「こちらが今回の物件になります」とカリナ。


「予想していたよりも、かなり大きいですね」


「そうですね。これ程の大きさはガンツでも中々珍しいです。それでは中に入ってみましょう」


 ぞろぞろと七人で建物の中に入っていく。カリナさんは入り口に近い一室に入った。


「こちらがこの建物の標準的な部屋になります」


 部屋は四メートル四方の部屋で、二段ベッドが左右に一つづつ置かれ、中央にテーブル、四つの椅子が置かれていた。ほう、中古とはいえ家具は置かれているじゃないか。部屋は空の状態かと思った。


 親方のトルコさんが、ベッド、テーブルなどを確認していく。


「全部がこれと同じ感じなら、ガタを直して塗り直せば十分だと思うが? もっともベッドの中身は全部入れ替えだがな」


「そうですね、使えるものであれば使いましょう」


 ざっくりと他の部屋を見て周る。どの部屋も似たり寄ったりだ。トルコさんはメモのようなものに何やら書き込んでいる。恐らく数を数えているのだろう。


「こちらが食堂として使われていた部屋ですね」


 長テーブルが四列並べられた大きな部屋で、テーブルには一列に三十人は座れそうだ。


「ここのテーブルや椅子もまだ使えるな」とトルコ。


 まぁ、二ヶ月前まで使っていたものだろうから、そうそう使えないものは無いはずだ。


 厨房や、物置部屋などを見て周る。概ね問題無さそうだ。


「こちらが浴室ですね」


 おお! 大事なものを忘れていた。浴室は重要だ。


 一度に十人以上は入れそうな浴槽でこれも概ね問題なさそうだ。


「これは魔石でお湯を沸かす風呂ですか?」 これは重要だ。


「そうですね。こちらの風呂の改修はギルドでおこないます」


 問題ないようだ。魔石なら売るほど持っている。


「女性用のお風呂はありますか?」とシャロン。


「現状はありません。必要であればギルドで用意しますが?」


 みんなが俺を一斉に見てくる。凄い圧力だ。


「すいませんが、お願いします」


「分かりました。では先程の空き部屋を改修しましょう」


 「宜しくお願いします。」


 二階、三階と見て周るが、みな作りは同じようだ。最上階の四階へと進んだ。


「この階のこの一角は幹部用の部屋として使われていたものです」


 部屋の大きさは変わらないが、二段ベッドが一つしか置かれていない。幹部でも二人部屋か。


「こちらがクランリーダーの執務室として使われていた部屋です」


 通常の部屋二部屋分の大きさで、机、椅子、長椅子、大きなテーブルが置かれていた。多分、打ち合わせとかをする部屋なのだろう。


「これで一通りの部屋を見て廻りました。ギルドとしては全ての部屋の設備の確認、改修をおこないます」


 それは助かるな。ちなみに四人部屋は二十八部屋あった。つまり、四人部屋だけで百十二名までのキャパだ。


「それでどれぐらいの数の部屋の家具に手を入れるんだ?」とトルコ。


「全ての部屋のものをお願いします」


「アラン、それは多すぎませんか? 六十三人では、半分の部屋も使いませんよ」とエルナ。


 エルナはちゃんと数を数えていたようだ。


「今後、増えるかもしれないだろう? どうせなら余裕をみて最初にやっておこう」


 俺がそう言うと特にみんなに異論はなく納得してくれた。既に七割から八割の部屋が埋まることは判っている。あぁ、そうだ。


「カリナさん、一般的な事をお聞きしたいんですが、例えば百人ぐらいの冒険者がここに暮らしたとして、食事や掃除、洗濯、馬の世話などの世話する人は何人ぐらい必要ですか?」


「最低でも十人は必要でしょうね。そういった人材が必要であれば、商業ギルドで用意することも出来ますが?」


「あぁ、それは助かります。では、余裕をみて十三人の人材をお願いしたいです」


 カリナさんは、人数を聞いて怪訝そうな顔をしている。


「分かりました。では人材の内訳はこちらで適当に決めて集めてみます。雇用開始はいつ頃からにしますか?」とカリナ。


「改修はいつ頃終わるのでしょう?」


「まだハッキリはしていませんが、二十日後を予定しています」とカリナ。


「では二十日後からにしましょう」


「分かりました。ちなみに日当は平均して一人百ギニー程度で考えておけばいいでしょう」


「了解です。宜しくお願いします」


 次は家具だ。


「ざっくりとした見積だが、全部の部屋の家具の修復で七万から八万ギニーだな。十万はかからないはずだ」とトルコ。


「分かりました。ではお願いします。修復の期限は二十日後としましょう」


「そんなにはかからないが了解した。早速、明日から作業に入ろう」


 何か連絡する必要があった時のためにと、トルコさんが、自分の工房の場所を教えてくれた。


 これで打ち合わせは済んでしまった。皆がもう少し見て廻りたいとの意見が多かったので残ることにして、カリナさんと親方は帰っていった。


「凄いわ! アラン。これが私達の拠点になるのね!」とクレリア。


「これほど大きなものだとは思いませんでした。リア様、確かクランの拠点はホームと呼ばれているはずです」


「そう、これが私達のホーム…」


「へぇ、ホームっていうのか。シャイニングスターのホームね。ん? クランの名前ってどうなるんだ? 新しく付けるのかな?」


「いえ、普通は中核となるパーティーの名前と同じです。だからシャイニングスターのホームでいいと思いますよ」


「そうなのか…。そうなると俺達はシャイニングスターのシャイニングスターって感じだろ? なんか紛らわしくなりそうだけどな」


「でも、そういう慣例なんです。私達にはどうしようもありません」


「確かにそうか。それでみんなやってきているなら、それほど不便でもないのかもな」



 結局全員で、また一階から四階までの全ての部屋を見て周った。


「ところで私達は幹部ということでいいんですか?」とシャロン。


「それは当然、そうでしょう」とエルナ。


「では、この四階の二人部屋に住むんですね」


「部屋は多分余るだろうから、一人部屋にしてもいいんじゃないか?」


「別に私達は二人部屋のままで構いません」とシャロン。セリーナも頷いている。


「そうね、私達も二人部屋のままで問題ないわ」とクレリア。


「俺は一人部屋が良いけどな」


「アランはリーダーなのだから一人部屋のほうがいいでしょう」とエルナ。


 みんな、思い思いに部屋を選んでいる。


「何か必要な家具や、備品があったら言ってくれ。今の内に頼んでおこう」


「私、衣服を収納するようなものが欲しいです」とシャロン。


「「私も!」」


「あぁ、ではシャロン。どういうものが欲しいのかを紙に書いておいてくれ。明日にでもトルコさんに渡して作って貰おう」


「分かりました」


 俺も厨房にいろいろと欲しいものがある。百人以上の食事を作るのだから火の魔道具は何台か必要になるだろう。


 大きな冷蔵の魔道具も必要だな。出来れば冷凍機能が付いたものがいい。作れるだろうか? あぁ、ミキサーも必要だな。


 そういえば、明かりの魔道具が大量に必要じゃないか。これは自分で作るしかないな。


 一通り見直して、皆は満足したようだ。


 俺は商業ギルドに登録する用事があるので、一人で行くつもりだったが、有り難い事にみんなつきあってくれるらしい。ギルドに行く途中のどこかで昼食をとることにした。


 拠点、いやホームを出てすぐの所に食堂があったので、試しに寄ってみることにした。


「いらっしゃい! 五名かい?」


 食堂に他の客はいない。そうだと答えて適当な席に座った。食事のメニューはなく、価格は十ギニーという看板のみで、お任せ定食のようだ。


 しばらくして料理が出された。ビッグボアと数種類の野菜の炒めもの、野菜炒めのようだ。スープと大き目のパンが付いている。俺は追加でワインを頼んだ。


「美味しいですね!」とシャロン。


「うん、美味いな」


 味はシンプルで、ガーリックを軽く効かせて、塩、胡椒のみだ。野菜の炒め加減が絶妙でシャキシャキ感も残っていて、大ぶりのビッグボアの肉もいい感じだ。


 するとそれを聞いた中年の店主らしき人が厨房から出てきた。


「どうだい、味は?」と店主。


 今の会話が聞こえていたくせに訊いてきた。少しウザい。


「美味いですよ」


「だろう? そうなんだよ、不味くないっていうのになぁ。客がこないんだよ」


「なんでですかね」


「ウチは栄えているところから離れているからなぁ。[大嵐]が潰れたの、知ってるだろう? それからウチはさっぱりだ。ウチの客は、結構な割合で[大嵐]の客が多かったんだよ」


 話好きなのだろうか。こっちは食事中なのでほっといて欲しい。


「あぁ、クランの…」


「はぁ、お客さんどう思う? もう店、畳んだほうがいいと思うかい?」


 勝手にすればいい。しょうがない、いい情報を教えてやるか。


「今度、向かいの建物に新しいクランが入りますよ」


「ええ!? それは本当かい!? どこのクランか知ってるか?」


「ええ、シャイニングスターってクランです」


「シャイニングスター? … 聞いたことないなぁ。お客さん知ってるか?」と店主。


「… ええ、俺達がそうです」


「おお! そうなのか! じゃあ、確かな情報だな! そうかそうか、いつ頃から入るんだい? 人数は?」


「二十日後過ぎくらいからですね、人数は … 六十人以上ですね」


「六十人! 大した人数じゃないか! そうかそうか、そんなにか。お客さん達メンバーなんだろ? 入ったら一度、リーダーの方に挨拶に行きたいんだが、話、つけちゃくれないだろうか? もちろん、それなりに礼はするよ。そうだ! このメシ代をタダにするよ。それでどうだい?」


 まぁ、タダになるならいいか。


「いいですよ。俺がクランのリーダーです」


「ええ!? あんたが? いや、あなた様が!?」


「ええ、アランと言います。今後とも、よろしく」


 これでタダになったのだろうか?


「しかし、クランの食事は、三食出すつもりだから余り客は増えないかも知れないですね」


「ええ!? そんな殺生な!」


「三食もクランで出すのですか?」とエルナ。


「そのつもりだったけど?」


「珍しいですね。もちろん街中での話ですが、大抵の組織では朝、晩の二食が普通です」


「そうそう!」と店主。


「そうなのか? そういえば宿とかもそうだよな」


「そうそう!」


「二食でもよいのでは? 外に食べにいくのも結構楽しいです」


「そうそう!」


「三食だと、人数が多いから作る人が大変か…」


「そうそう!」


「じゃあ、二食にするか」


「有難うございます!」


 昼食の代金は、勿論タダにしてくれるといったので、遠慮せずにそうさせてもらった。



 商業ギルドに行く途中には冒険者ギルドがあるので寄ってみた。ひょっとしたら、サイラスさんがもう依頼を出しているかもしれない。


 早速、幾つかある受付のうち、指名依頼と看板に書かれている窓口にいって確認する。


「指名依頼が来ているか確認したいんですが?」


「パーティー名をどうぞ」


「シャイニングスターです」


「… はい、商業ギルドから指名依頼が入っています。こちらが内容になります」


 依頼票を渡される。


「これは、私が持ち出していいんですか?」


「勿論です。依頼を受ける場合には、その旨を伝えて再度提出してください」


 他の人の邪魔にならない場所に移動して、みんなで依頼票を覗き込んだ。


 依頼内容は、盗賊の捕縛、または討伐となっている。報酬は、盗賊一人の捕縛・討伐で千ギニー。捕縛でも、討伐でも同じ金額だ。依頼期限は未設定となっていた。そういえば、サイラスさんとは報酬の話はしていなかったか。


 千ギニーか、微妙な価格設定だな。たしかに商業ギルドとしては捕縛でも討伐でも、盗賊がいなくなればいいので、同じ金額なのは納得できるが、千ギニーは少し安いような気もする。


「なんか微妙な感じじゃないか?」


「そうですね。もう少し高いとは考えていました」とエルナ。


「仮に十人捕らえたとすると、領地からの報奨金が、五千ギニーが十人分で 五万ギニー、これに加えて商業ギルドから十人分で 一万ギニー、合計で六万ギニーか。まぁ、短期間で片付ける事ができれば、ありだな。日数が掛かるようなら魔物狩りのほうが全然儲かるか…」


「でも、盗賊の場合はそれ以外の収穫も期待出来ますよね」とシャロン。


「そうだな。盗賊の所持品も無視出来ないな。なるほど、それを見越しての価格設定か。さすがは商業ギルドのギルド長だな」


「せっかく依頼を出して貰ったのだから受けるべきでしょう?」とクレリア。


「そうだな。今は収入よりもランクを上げるための評価稼ぎと考えようか。みんなどう思う?」


 皆、頷いて同意したので、依頼を受けるべく再度受付に向かった。


「この指名依頼を受ける事にしました」


 受付職員は依頼票の番号を台帳に書き込むと再度、手渡してきた。


「それでは、依頼達成したら、こちらに依頼主のサインを貰って再度提出してください」


「了解です」



 依頼票を受け取り、ギルドを出ようとした時に後ろから声を掛けられた。


「おい、あんた達がシャイニングスターか?」


 振り向くと見たことのないオヤジの冒険者が立っていた。いかにもベテランという風体で、腕っぷしも強そうだ。


「あぁ、そうだな。なにか用でも?」


「悪いが少し話があるんだ。ちょっと隣の酒場まで付き合ってくれないか?」


「… 話って言われてもな。どんな話だ?」


「[緑の風]ってパーティーの件だ」


 [緑の風]? どこかで聞いた名前だな。あぁ、そうか。アリスタさんの護衛をしていたパーティーの事か。この男は関係者なのか?


「俺だけか?」


「いや、出来れば全員で来てもらいたい」


 皆に目で確認をとるが、異論はないようだ。


「分かった」


 男についていき、ギルドの隣にある酒場へ入ると一番奥のテーブルへ座った。オーダーを取りに来た店員に男は人数分のエールを注文した。奢りのようだ。


 みんなは、エールじゃないほうが良かったようで微妙な顔をしている。


「時間を取らせてすまん。俺は[疾風]ってクランのリーダーをやっているカールっていうもんだ」


 名乗られたのなら、こちらも名乗るのが礼儀だろう。


「シャイニングスターのリーダーのアランだ。パーティーメンバーのリア、エルナ、セリーナ、シャロンだ」


 座っている順に紹介した。皆は厳つい男に少し警戒しているようだ。


「そうか、じゃあ、アラン。確認だが[緑の風]を弔ってくれたという事で間違いはないな?」


「そうだな。確かに弔った」


「そうか、[緑の風]はウチのクランの所属だったんだ。まずは礼を言う。奴らを弔ってくれて、ありがとう」


「いや、当然の事をしたまでだ。しかし、どうしてその事を知っているんだ?」


「あぁ、こういう場合には、クランのリーダーは所属のパーティーの最後ぐらいの情報は訊く権利があるのさ。それでギルドを通してだが、依頼主から情報を手に入れた」


「なるほど、そういう事か」


「アラン達は、[緑の風]に代わって依頼主を盗賊から救い、奴らのギルド証と遺品を回収して、奴らを弔った。だろう?」


「ああ、そうだな」


「なかなか出来ることじゃない。いや、こんな話は聞いたことがないぐらいだ。遺品も見せて貰ったが、アラン達は金にも手を付けずに回収してきてくれたじゃないか。自分で見ていなけりゃこんな話、信じないところだ」


「遺族がいるかと思ってな」


「ああ、そうだ。あいつらは、この街の出身でな。所帯を持っている奴もいたし、全員に家族がいた。遺品は俺が責任をもって遺族に届けさせてもらった。皆、凄く感謝していたぜ」


「そうか、それは良かった。回収してきた甲斐があったよ」


「[緑の風]の奴らとは、奴らがガキの頃からの知り合いでな。成人してすぐに俺のクランに入った。それから少しづつランクを上げていって、やっとの事でCランクにまで上がったんだ。これからって時だったのにな」


「… そうか。それは… ついてなかったな」


「あぁ、本当だぜ、本当についてなかった。ちくしょう! … いや、すまねぇ。… それでな、依頼主からの情報は、さっき確認した事柄ぐらいの情報で、ロクな情報が聞けなかったんだ」


「それで、事の詳細を訊きたいと?」


「あぁ、特に盗賊共の最後をな。依頼主からは盗賊はみんな死んだとしか教えられなかった。


 アラン達は人間が出来てるみたいだから、あっさりと殺したんだろうが、出来れば俺がこの手で、惨たらしく殺したかったぜ。


 俺はもう昨日から、俺だったらどう殺すか、そればかり考えていて悔しくて悔しくて眠れないぐらいなんだ」


「あぁ、カール。それは間違ってるぜ。盗賊共の最後は、そりゃ悲惨だった。いままで俺が見聞きした中で一番と言えるぐらいにな」


「何だと!? 本当か!? アラン、頼む! 聞かせてくれ!」


 俺は事の始まりから聞かせる事にした。


 まず、俺達が現場に到着した時には、すでに[緑の風]は全員、事切れていた事。しかし、善戦して盗賊三人を倒していた事。


 現場にいた五人の盗賊を生きたまま捕らえた事。


 女性三人が捕らえられて盗賊のアジトに連れていかれていた事。


 助けるために盗賊に案内をさせてアジトに行った事。


 なんとか、乱暴されていた女性三人を助け出し、七人の盗賊を捕らえた事。



「それで、盗賊をどうするかって話になった時に、彼女達から盗賊を買い取りたいって話が出たんだ」


「あぁ! そうか! そういう事なんだな!」


 カールは、盗賊がどのように殺されるかを想像して、期待に胸を膨らませている。


「ああ、そうだ。俺は彼女達と一緒に洞窟に入ると、ロープを人数分用意して盗賊達に、こう言ってやったんだ。[お前達! そのロープで自分の足を縛れ! 一番きつく、一番固く縛れた奴がいたら、本当に反省してると考えて、俺が彼女達に慈悲を願いでてやる!]ってな」


「…… アラン、お前もひどいやつだな! それで!? それでどうなったんだ!?」


「そうしたら奴らは我先に自分の足を縛ったよ。もの凄く必死になってな。そのあとな、自分がどれだけ固く縛れているか、俺にしつこく見せてくるんだよ。自分はこんなに固く結ぶ事ができたぞってな」


「おお! そうか! そうだろうな!」


「すると今度は彼女達が、俺に洞窟の外に出ててくれ、なんて言い出したんだ。俺がいると、どうにも集中出来ないらしい。


 しかし、足を縛ったとはいえ十二人もの盗賊だ。俺は外に出るのを躊躇したんだが、意外にも彼女達は剣の使い手だったんだよ。凄くよく切れそうな剣も持ってた。


 だから俺は大人しくその言葉に従う事にした。


 俺が出ていこうとすると、盗賊共はみんな口々に[慈悲はどうしたんだ! お願いだから助けてくれ!]なんて騒いでいたがな。


 そして… 俺が洞窟を出る前に盗賊共の悲鳴が聞こえ始めたんだ」


「あぁ…」


「それから小一時間ぐらいの間、盗賊共の絶叫が絶えず洞窟の外にまで聞こえ続けてた。本当にずっとな」


「一時間もか…」


 実際には二十分ぐらいだったと思うが、こんな嘘でカールが眠れるようになるのであれば、この嘘も許される気がした。


「洞窟から出てきた彼女達は、実に満足気に微笑んでいたよ。あれだけ酷いことをされていた彼女達が満足したんだ。いったいどんな事をしたのか…。その事にビビって俺は洞窟には入れなかった。だから本当の意味では盗賊の最後は見てないんだよ」


「あぁ、そうか…。いや、俺も入れたかどうかわからないな。しかし、すげぇな。俺が徹夜して考え抜いた殺し方よりも、遥かに悲惨な死に方だぜ」


「あぁ…、あれ以上はなかなか無いだろうな。その後、街道に戻って遺品を回収して、亡骸を埋葬した。あぁ、三人いた盗賊共の死体は、街道から蹴り落としたけどな。これが事の詳細の全部だ」


「そうか、いや埋葬したって簡単に言うが十人もの人間を埋めたんだ。それだって大変だったろうに… 。アラン、それに、リア、エルナ、セリーナ、シャロン。もう一度礼を言わせてくれ。本当にありがとう」


 土魔法を使ったから、そうでも無かったんだが、これは言わなくてもいいか。


「まぁ、当たり前のことをしたまでさ。…… あぁ、カール。この話なんだけどな、他所ではしないで欲しいんだ」


「あぁ、皆まで言うな、分かってるぜ。彼女達の名誉のためって言うんだろ? 当たり前だ。彼女達は、[緑の風]のメンバーの敵討ちをしてくれたんだ。それも最高の形でな。俺にとっても恩人だ。口が裂けたってこの話は絶対にしゃべらねぇ。誓うぜ」


「そうか。カール、悪いな」


 幸い酒場はガラガラで、近くに人はいなかったので話は他に聞かれてはいない。迂闊だったな。この話が漏れたらアリスタさん達の悪い噂がたったかもしれなかった。


「しかし、アラン達は大したもんだぜ。自分達よりも人数の多い盗賊を相手にして無傷だったんだからな」


「まあな。ここだけの話だが俺達は全員魔法が使えるんだよ。だからそれほど苦労はしなかったな」


「なに!? 全員!? … ちなみにランクは何なんだ?」


「全員Bランクだ」


「おいおい、若いのに凄いじゃないか! なるほどなぁ、Bランクなら楽勝かもな」


「ちなみにカールのランクは?」


「俺はAランクだ。まぁ、クランのトップなら当然だろ?」


「はぁー…、やっぱりそうだよな」


「ん? どうしたんだ?」


「いや、実は今度クランを立ち上げる予定なんだけど、やっぱりリーダーがBランクだと格好つかないかな?」


「なに!? その年でクランを立ち上げるのか! やるじゃねぇか! そりゃ本当に大した事だぞ。あぁ、リーダーのランクの話な、小さいクランならBランクのリーダーも結構普通にいるぜ。さすがに大手クランになるとAランクだけどな」


「そうなのか… ってことは、カールのクランは大手なのか?」


「おいおい、[疾風]を知らないのか…、ってお前達は新参だったな。まぁ、このガンツで[疾風]を知らない奴は、新参ぐらいなもんだ。十分、大手っていっていいクランだな。まぁ、クランの事で分からない事があれば、俺が教えてやるよ。いつでも聞いてくれ」


「おぉ! それは助かるなぁ。宜しく頼むよ。カールはどこに住んでるんだ?」


「俺は[木漏れ日]っていう宿を定宿にしている。なんかあったら気軽に訪ねてくれよ」


「俺達は[春風]だ。こっちも同じくなんかあったら来てくれ」


「[春風]だと? おい、随分金持ちだな」


「まあな。どうしても風呂に入りたくてな。近々移る予定なんだが、その時は連絡するか伝言でも預けるよ」


「ああ、わかった。時間を取らせてすまなかったな。話ができてよかったぜ。おかげで今日はなんだかよく眠れそうだ」


「それは良かった。あぁ、エール、奢ってもらって悪かったな。今度は俺が奢るぜ」



 俺達は一緒に酒場を出て、カールとはその場で別れた。俺達はそのまま商業ギルドへと向かった。





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評価を入れてくださった方、有り難うございます!

ブックマークに加えてくださった方、有り難うございます!


未だにそんな馬鹿な!という気持ちが大きいです。

正に日刊ランキング、恐るべし! という感じです。


現時点では

ローファンタジーの日刊ランキングの二位

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もちろんスクリーンショットで保存したので、もう思い残すことはありませんw


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