056. 晩餐会2
誤字、脱字、御指摘、感想などもらえると嬉しいです。
「さて、飯も食い終わったし、ようやく本題だ。先日も話したがアリスタ達を助けてくれた礼の話だ」
いよいよ本題か。勿論、今日がただの晩餐会ではなく、この話になるのは分かっていた。さて、どんな話になることやら。
「正直なところ、礼を何にすればいいのか迷ってしまってな。どうせなら、本人達に訊いてしまおうと思ったって訳だ」
「なるほど、それで今日お招き頂いたのですね。わざわざ有難うございます。先日お伝えした通り、我々としては当然の事をしたまでですから、頂けるものであれば何でも… というのが、俺達の正直なところです」
「ふむ、しかしなぁ、アラン、俺は本当に感謝しているんだ。アリスタは俺の一番大事な宝だ。それを助けてくれ、守ってくれたお前達には、やはりお前達が一番喜ぶものを俺の感謝の気持ちとして渡したいと思っているんだ」
「お父様…」
「…… なるほど、お気持ちは分かりました。そういうことであれば、実は困っていることがありまして、相談に乗って欲しいのです」
「おお! 何だ? 言ってみろ」
「実は、仲間が近日中、そう、恐らくひと月後ぐらいには、こちらに来る予定なのです。人数が多いので出来たら仲間だけで住めるような所を用意したいと考えているんです」
近衛のダルシム隊長は、こちらへの到着予定が大体それぐらいになるだろうと言っていた。
この話にクレリアとエルナが反応する。
「ほう、何人ぐらい来るんだ?」
「五十人以上ですね」
「アラン、五十八人よ」
「五十八人もか! … アラン、お前、クランを立ち上げようっていうのか?」
クランとは、確か冒険者のパーティーが幾つか集まり、一つのパーティーでは成し得ない目的のために徒党を組む、ギルドにも認められた機構だったはずだ。そう、俺は、いや俺達はクランを作ろうとしているのだろう。
「そうです。いろいろと縁がありまして俺達を慕ってくれ一緒にやっていこうという仲間達が、このガンツに集まってくれるんです」
実際にはクレリアを慕って、こちらに来る近衛騎士団の人達なんだけどな。
「確かにお前達の実力ならば、それぐらいの人数は集まるか… なるほど、クランの拠点を用意したいということか」
「こちらに着いたばかりで何も分からず、どうしようかと途方に暮れていたところです」
「…… お前達は知らねぇかも知れないが、二ヶ月前、このガンツで五本の指に入ると云われていた大手クラン[大嵐]が解散した。メインメンバーの何人かが相次いで死んで、その後に内部分裂を繰り返した挙げ句にあっさりとな。そいつらが使用していた拠点は、商業ギルドで押さえてある」
「おぉ! それは良さそうですね!」
俺の反応を見てサイラスさんはニヤリと笑った。
「確かに良いかもしれないな。[大嵐]は最盛期には百名以上のメンバーがいたし、クランに必要な設備は全部揃っている。少し古くなってはいるが、改装すれば問題ないだろう」
「サイラスさん、お願いします! そこを紹介してくれませんか?」
「おいおい、俺はお前達にやる礼の話をしてるんだぞ? それがお前達の望みだって言うのだったら、叶えてやろうじゃないか。流石にあれだけの広い土地と建物をくれてやるわけにはいかないが最低限の賃貸料で貸してやろう。ついでにいい感じに改装もしてやるよ」
「それは… 。大変有り難いんですが、いいんですか?」
「ああ、元々新しい借主を見つけるために、ある程度は改装しようって話になってたんだ。それをちょっと盛大にやればいいだけよ。なに、ギルドの金を使うから俺の懐は傷まないし、一石二鳥だな!」
それでいいのか、商業ギルド。
「迷惑にならなければいいんですが…」
「なに言ってんだよ。権力をこういう時に使わなきゃ、いつ使うんだよ。俺がここまで金持ちになったのだって、ギルド長になって自分の商会を贔屓にしただけだからな」
「お父様、そこまで言っては身も蓋もありませんが…」
「ま、あれだ。やりすぎなきゃいいんだよ。何事もな」
「有難うございます。これで私も肩の荷が降りました」
「まだ、礼を言うには早いぜ。まぁ、改装は任せておけ。しかし、家具や備品なんかは、さすがに出せぬぞ。そこまでやるとやりすぎだ。そこらへんは自分達で用意してくれ」
「勿論ですとも。そうなると一度現場を見ておきたいですね」
「いいだろう。腕のいい職人も紹介してやるから一度、見に行ってみるといい。カリナに案内させよう」
「有難うございます。助かります」
「しかし、いきなり六十人超えのクランの誕生か…、多分ガンツでも四番目か五番目の規模になるはずだ。アラン、お前達は何を目指す?」
「それはもちろん頂点を。俺達は一旗揚げるために、このガンツに来ました。やるからには頂点を目指します。いえ、目指すのではなく、このガンツの冒険者の頂点に立ってみせます。 ……… とは言っても、未だBランクなので当面の目標はAランクになることですかね」
「ほう! なかなか気持ちのいい事を言ってくれるな! このガンツの冒険者の頂点に立つって事は世界一の冒険者になるって事だぞ? おもしろい! いいだろう、俺もそれに協力してやろうじゃないか」
「… それはどういう事でしょう?」
「冒険者ギルドのランクは、ギルド内の評価制度によって決められている。勿論、上層部の指示によっても変わるがな。それで、その制度による評価っていうのは、他のギルドからの依頼の評価が高いと、かなり違ってくるんだよ」
これはバースも言っていた事だろう。
「それは聞いた事がありますね」
「ほう、物知りだな。つまり、ウチのギルドからお前達に指名依頼って形で仕事を振ってやるって言ってるんだよ。勿論、評価は、贔屓目無しで真っ当に審査するがな」
「それは物凄く有り難いですね。是非、お願いします」
「さて、何がいい? 護衛か? 素材の入手か? 調査なんてのもあるが、これは勧めないな。割が悪すぎる」
「…… その中に、盗賊狩りというのは有りますか?」
「…… アラン、確かに盗賊は商人の一番の敵だ。俺達商人は盗賊を憎んでいる。誰しも身内を奴らにやられているからな。しかし、奴らは神出鬼没だ。運良く会えればいいが、普通は盗賊なんて狩ろうと思って出掛けても狩れるもんじゃない」
「需要があるんであれば、まずはやらせてみてはくれませんか?」
「…… いいだろう、まずはやってみることだ。依頼は出しておこう」
「あぁ、出来ればクランの拠点を先に見ておきたいんですが、いいですか? 家具とか手に入れるのに時間が掛かるかも知れませんから」
「ああ、急いでいるわけじゃないからな。依頼に期限は付けないで出しておく。拠点のほうは明日にでも職人を連れて見てきたらどうだ?」
「有難うございます。そうします」
「さて、これで大方の話はまとまったな。そうだ、アラン、お前、商業ギルドのギルド会員になっておけよ。酒の事とかも色々とあるからな」
「分かりました」
「あの! 私、皆様にお聞きしたいことがあるんですけど、あの先日、使わせて頂いた温風の出る魔道具はどのようにして手に入れたのでしょう? 出来れば入手先を教えて頂きたいのですが…」とアリスタ。
パーティーメンバーが一斉に俺を見る。
「あぁ、あれは私が作ったんですよ。もしよろしければ二台程在庫があるので、お譲りしましょうか?」
「…… アラン、お前、作ったって…、どうやって作ったんだ?」
「私はこう見えても、魔術ギルドのAランクなんですよ。魔道具作りは魔術ギルドで学びました」
「Aランク…… お前、魔術師だったのか」
「すいません、余りそういう括りに詳しくなくて…。Aランクだと魔術師になるんですか? 」
「まぁ、Aランクなら普通は魔術師って名乗ってるだろうな」
「なるほど、では魔術師で冒険者って感じですかね?」
「そんな奴、聞いた事無いけどな。まぁ、それはいい。で、魔道具って幾らだ?」
「お世話になるので、特別に一台当り、二万ギニーでお譲りしましょう」
「二万ギニー! 随分安いな。ここはその言葉に甘えて二台とも購入しよう」
「有難うございます。では、明日、拠点を見せて頂く際にお持ちしましょう」
「それとアラン様、遅くなりましたが、こちらをお納めください。先日の盗賊達の代金になります」とカリナ。
小さな革の袋を渡された。礼儀として袋の口を開けて、中身を確認すると六枚の金貨が入っていた。
「はい、確かにお支払い頂きました」
その後は、晩餐も、話も終わったことだし長居しても、ということで、失礼することにした。当然、帰りもカリナさんが馬車で送ってくれた。
「では、アラン様。明日なんですが、職人と都合をつける必要もありますので、十時頃でも宜しいでしょうか?」
「勿論です。そちらの都合に合わせましょう」
「では、また明日に」
カリナさんは馬車で帰っていった。
「ちょっと皆で御茶でも飲みながら話をしようぜ」
キラさんに御茶を出してもらって、皆で食堂の席に着いた。俺達以外に宿泊客はいないので、この格好でも問題はない。
「さっきは、相談もせずにいろいろと勝手に決めてしまったんだが、問題なかったかな?」
恐る恐る聞いてみた。今更駄目と言われてもしょうがないことばかりを勝手に決めてしまったが。
「問題なんて全くないわ、アランが近衛の皆の事を気にかけてくれて、とても嬉しい」
「そうですね、リア様。商業ギルドのギルド長を相手に、百五十万ギニーの商談をまとめ、クランの拠点を用意させ、しかも支援と今後の依頼まで勝ち取るなんて、さすがは私達のリーダーだと思います」
おお! クレリアとエルナは高評価だ!
酒の話は、単純に面白そうだったからだし、拠点の話は、恐らく近衛の人全員が風呂付き宿に泊まるのは無理だろうから、俺達だけ風呂付きの宿に泊まるのは申し訳ないなぁと思っていたからだし、盗賊狩りの話は魔物狩りより儲かりそうだと思っていたからなんだけど、これはちょっと言えないな。
「セリーナとシャロンは問題ないかな?」
「勿論です。どれもいい話で文句のつけようがありません。エルナさんが言った通り、さすがはアランですね」
「私達がアランの決めた事に反対するわけがありません」
行き当たりばったりで決めた事ばかりだが、好評だったようだ。今日の俺はついている。
「そうか、では問題ないな。では明日はクランの拠点の見学だな」
------
「只今、戻りました」
「ああ、カリナ、戻ったか。カリナが戻ったらアリスタ達とも話をしようと話していたのだ」
程なく、呼ばれたアリスタとナタリーがやってきた。
「さて、彼奴等の事、どう思った?」
「まず、驚いたのはアランさん達の御召し物ですね。あれほどの逸品をどのように手に入れたのでしょう?」とアリスタ。
「ああ、そうだな。あまり不躾に見るわけもいかなかったので、俺はそれほどは見ていないが尋常ではない代物だったな」
「私は馬車で御一緒させて頂いたので、近くで拝見することが出来ました。全ての方が召していたものに共通するのですが、生地が恐ろしいほどにきめ細やかに編まれています。いえ、細かすぎて編まれているのかさえ分からないほどでした」とカリナ。
「そうね、それは私にも分かったわ。それにあの意匠。アランさんとリア様の意匠は、カリナも言っていたけど、荘厳で神々しいというのがぴったりのものだったわ。いえ、他の方々の意匠も異国のものだったけれども、洗練されていて素敵だった。あぁ、あんな衣装がこの世に存在したとは…」
「はっきりと言える事は、ウチの商会が王族に卸している衣装よりも遥かに上等な衣装をアラン達は着ていたって事だな」
「そうですね。間違いなく王族よりも、いえ王よりも良いものをお召になっていました」とアリスタ。
「あとはアラン達の冒険者としての実力だな。聞いていたよりも遥かに実力がある。Aランク以上、Sランクと言ってもいいほどだ」
「それほどですか!?」
「ああ、ジェネラル・オークがいるオークの集落をたった五人で落とすなんて正気の沙汰じゃない。本来なら百人以上の騎士団でやるもんだ。オークが恐ろしいのは群れた時だ、一匹づつ出てくるオークなんざ目じゃないが、五匹、十匹と群れた時のオークは手がつけられない。それを七十五匹だ。アランは大した事がないみたいに話していたが、それは自信の裏返しだろうな。つまり、七十五匹のオークなんざ目じゃないって言っていたってことさ」
「それにアラン様のクランに加わるという五十八人の冒険者達も気になりますね」
「ああ、そうだな。普通はクランっていうのは、何年も掛けて少しづつ大きくしていくもんだ。それを一気に六十人以上のクランを立ち上げるとはな。まぁ、他の連中が同じ事をやろうとしてもすぐに資金が尽きて潰れるだろうな」
「アランさん達は、かなり裕福ですからね」とアリスタ。
「金だけじゃない。人を引きつける力がなければ、クランは作れない。まぁ、冒険者ならアラン達の実力を間近で見せられたら、ついていこうと考える気持ちになるだろうな。あのアラン達が半端者を仲間にするとも思えないから、その仲間達もかなりのもんだろう。ひょっとすると新しい最強クランが誕生するかもしれん」
「お父様、お酒の話はどうなのでしょう? 本当に可能だと思いますか?」
「ああ、あの話にも驚いたな。しかし、あの口ぶりだと、相当の自信がありそうだ。しかもあの成功報酬だ。あれは、酒ができた暁には、どれだけの儲けが出るのか分かってて言っていたな。分かっていながら二百万なんて端金を言ってきやがった」
「ええ!? 二百万ギニーが、端金なのですか!?」とアリスタ。
「ああ、もしあの酒を作ることができれば、儲けは何百万どころじゃない、何千万、いやそれ以上だ。俺が命を心配しなきゃいけないぐらいのヤバイ話だ。それを大した交渉もせずにあっさりと百五十万で手を打つとはな。… 少なくともアイツの目的は金じゃないってことか」
「そういえば、晩餐の様子を見て、新たに判ったことがあります。アランさん、シャロンさん、セリーナさんは、この周辺の国の出身ではないですね。カトラリーの扱い方が、微妙に異なっていました」とアリスタ。
「ほう、そんなことが判るのか」
「周囲を見て、それに合わせようとはしていましたが、ナイフの扱い方が三人とも同じく異なっていました。しかし、それでいて洗練された仕草でしたね。恐らく基本的な作法が違うのだと思います」
「なるほどな、たしかにあの酒を普通に作ってる国といっていたから、周辺国ではないんだろう。三人は同郷か」
「それに対してリアさんとエルナさんは、私達と作法が全く同じです。この国の周辺の出身なのでしょう」
「なるほどな。国の違う者同士か、どういった関係なのか気になるところではあるな」
「サイラス様、盗賊狩りの件、やはりアラン様のパーティーでも厳しいのでしょうか? 私には盗賊を捕縛した際の手際から、うってつけのように思えたのですが…」とカリナ。
「ああ、そのことか…。俺もさっき考えていたんだが、思ったよりいけるかもしれん。
通常、盗賊の討伐にいくような集団は、当然ながら盗賊に負けないように大人数で出掛ける。
だが、当然その集団は盗賊の見張りにみつかり、盗賊は隠れてしまう。
しかし、アイツ等ならどうだ? 馬車一台で盗賊に近づけば、盗賊は当然、いいカモが来たと思い襲いかかる。
そこに待ち受けていたのは、オークの集落を殲滅できる戦力だ。どっちが勝つかなんて決まったようなもんだな」
「では! アラン様達は、盗賊を…」
「いや、そんな簡単な話じゃないな。この近辺は盗賊の被害が多いとは言っても、どの道にも必ずいるわけじゃないし、奴らも常に罠を張っているわけでもない。
街道は、網の目のようにいくらでもあるんだ。変な話だが、そんな中で上手く盗賊と出会えるかっていうとそうは思えないな。
仮に盗賊がいる場所でもわかっていれば別だが、そうじゃないのだから、やはり今回の話は上手くいかないだろうな」
「そうですか… 確かにそうかもしれませんね」
「まぁ、とりあえずやらせてくれって言ってるんだ。やらせてみればいいだろう」
「しかし、本当に不思議な方々ですね」
「ああ、本当だな。一時は商業ギルドの子飼いの冒険者にしようか、とも考えてたが、あれはそんな枠に収まる奴らじゃないな。まだ、まるで底が見えない。いずれにせよ、久しぶりに面白そうな奴らに出会ったぜ。カリナ、悪いがしばらくアラン達の面倒を見てやってくれ」
「かしこまりました。サイラス様」




