053. オーク狩り
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[夜明けです。起きてください]
朝、ナノムに起こしてもらい、朝風呂に入りにいった。この宿も深夜の掃除の時間を除き、いつでも風呂に入っていいらしい。風呂の利用客は俺一人で貸し切り状態だ。やっぱり風呂がある生活は最高だな。
風呂から上がり、ドローンが夜の間に調べてきた情報を確認してみた。やはり魔の大樹海側の魔物の分布は桁違いに多い。お、これなんか良いかも知れないな。
そろそろ、朝食の時間なので食堂に向かった。昨夜、女将のキラさんに朝は早めに出発すると伝えると朝食もそれに合わせて早めに用意してくれると言ってくれた。迷惑になるので普段通りでいいとも言ったが、どうせ起きている時間だから、というので甘えさせてもらった。
食堂に降りていくと程なく皆も降りてきて早速朝食をとった。朝食はパンと何かのジャム、サラダ、具沢山のスープだった。朝食らしくて実にいい。
朝食を食べ終わると支度をして冒険者ギルドに向かった。大体、十五分ぐらいで冒険者ギルドに着くとギルド内は冒険者でごった返していた。
「まだ早朝だというのに凄い賑わいだな」
「やはり、朝のギルドは混みますね」とエルナ。
皆、熱心に掲示板を確認している。
「では、手分けしてBランク、Cランクの掲示板を見ていこうか。今日はとりあえず様子見だから遠出するような依頼は無しだ」
「「了解」」
掲示板はランク別の依頼で張り出されていた。俺達はCランクなので受けられる最上のランクはBランクからだ。
Bランク、Cランクの掲示板はそれほど混んでいなかったので、程なく全てを見ることが出来た。じゃまにならないように掲示板から少し離れた所に集まる。
「何かいい依頼はあったかな?」
「特には無かったですね」とエルナ。
皆も首を振っている。護衛依頼や、よく分からない魔石・素材の収集などは有ったが、冒険者初心者の俺達には手を出しづらい依頼だ。
「確かにな。では常時依頼の魔物の駆除にでも行こうか?」
常時依頼とは、常に張り出されている依頼で、例えばグレイハウンドの魔石の買取、一個三百ギニー、討伐報奨金五十ギニーといった感じだ。
皆、異論は無いようだったので方針は決まった。しかし、闇雲に出掛けてもしょうがない。ターゲットの獲物は決めて行くべきだろう。
「何を狩りにいこうか? 俺としてはオークがいいと思うんだけど?」
オークの魔石の買取は一個六百ギニー、討伐報奨金百五十ギニーだ。倒す手間はグレイハウンドより無いし、メンバー全員が魔法が使える俺達とは相性のいい魔物に思えた。
「それはいいと思うんですけど、問題はオークが何処に居るかということですね」とエルナ。
「あぁ、それは任せてくれ。なんとなく居そうな場所に心当たりがあるんだ」
「はぁー…、ではオーク狩りにしましょう」とエルナ。
「問題はちょっと場所が遠いんだよな。大体十五キロ以上はあるな。歩いていくにはちょっと遠いだろ?」
「そうですね。では、私達はせっかく馬があるのですから馬で行きましょう。タースとシラーも運動させないと可哀想です。足りない分は貸馬屋で借りれます」とエルナ。
おお! 貸馬屋なんてものがあるのか。それはいい。問題は貸馬屋が何処にあるかだな。
冒険者ギルドを出て、貸馬屋を探してキョロキョロとしているとすぐそばから声を掛けられた。
「何かお探しですか? 兄貴」
見ると十歳か十一歳くらいの小汚い格好をした少年だ。
「あぁ、貸馬屋は何処かなと思ってな」
「それなら俺が案内しますぜ、兄貴」
「… 幾らだ?」
「じゅ、いや、五ギニーで」
「じゃあ、頼むか」
「毎度! 俺、テオっていいます。貸馬屋は二箇所あって、高いけどいい馬が揃ってる店と、安いとこがあるんですけど?」
「高い店だな」
「そうこなくっちゃ、兄貴! ちょっ、ちょっと待ってて」
テオはそういって少し離れたところに立っていた四歳ぐらいのボロを着た女の子の手を引っ張って連れてきた。
「こっちです! 兄貴」
先頭にたって案内し始めるが、女の子を半ば引きずるように引っ張っている。
「おい、そんなに急がなくてもいい。妹か?」
「そうです、兄貴。ほら、エラ、兄貴に挨拶しろ」
「… エラです、あにき」
「そうか、俺はアラン。よろしくな」
貸馬屋は幸い宿と同じ方向にあったので、余計な手間にはならなかった。
「じゃあ、テオ。これな」
大銅貨五枚、五十ギニーを渡した。
「えっ!? 五ギニーじゃ…」
「それでなんかエラに食わしてやれよ」
「あっ、ありがとう! 兄貴! ほら、エラも兄貴に礼を言え」
「あにき」
あにきは礼じゃないけどな。
エルナに三頭の馬を選んでもらっていると、テオが店の主人から小銭を受け取っていた。恐らく客を連れてくると幾らか貰えるシステムなのだろう。
貸馬の値段は一日、三百ギニーで保証金が一頭当り一万ギニー必要だった。勿論、後で返ってくる金だが、貧乏人は借りられないな。
エルナが納得した馬三頭を連れて、宿にいるタースとシラーを連れに宿に向かった。するとテオとエラもついてくる。
「ん? どうしたんだ、お前ら」
「いや、いくらなんでも貰いすぎたからもっと案内するよ。兄貴」
「宿に戻ったらすぐ馬で出掛けるからな。もう用はないぞ」
「じゃあ、見送るよ。俺達、暇だから」
「勝手にしろ」
「アラン、ではテオにゴミ捨てを頼んだらどうですか?」とセリーナ。
「おお! 俺はゴミ捨ては得意だぜ。どっちかっていうとそっちが本業だ。なんでも捨てるぜ! 兄貴」
「じゃあ、頼んだらいいんじゃないか?」
ゴミなんかあったかな?
宿の馬の世話係の少年に手伝ってもらいタースとシラーの準備をしていると、セリーナとシャロンが部屋から、旅で食べなかった保存食、干し肉や焼きしめたパン、乾燥豆などを持ってきた。殆ど食べなかったので結構な量だ。
なるほど、確かにもう食べないだろうし、このままだと近いうちに確実にゴミになるだろうな。
セリーナとシャロンも相当なお人好しだ。
「これがゴミ?…」
「まだ食べられるけど、私達はもう食べないから。あげるわ」とシャロン。
「あ、ありがとう! 姉貴!」
テオとエラに盛大に見送られながら俺達は出発した。
ガンツを出る時は、特にチェックは無いらしい。前を通った冒険者の真似をしてギルド証を守衛にかざして門をくぐった。
「じゃあ、こっちだ」
俺が先頭になって前を進む。行き先はもちろん大樹海側だ。大樹海と言ってもガンツに近いこの辺りは、木が密集しているわけではなく、馬で目的地まで行けることは、映像で確認済みだ。
二時間ほど進む間にグレイハウンド五頭、ゴブリン三匹を駆除した。やはり大樹海側は、魔物の量が桁違いらしい。
空からの見晴らしのいい場所で馬を降りた。
「到着ですか?」とエルナ。
「あぁ、この先、七百メートルぐらいのところにオークが、うじゃうじゃいるんだよ」
「…… それはオークの集落では?」とエルナ。
「ん? あいつらは集落なんか作るのか? 魔物全集にはそんな事は書いてなかったけどな」
「作りますよ! アラン、無茶です! これだけの人数でオークの集落を襲うなんて!」とエルナ。
「そうかな? えーと数は、七十五頭ぐらいかな。なぁ、エルナ、オークの数え方って頭でいいのか?」
「… オークは匹です。アラン! 無茶です!七十五匹のオークなんて……… あれ?… 倒せる?」とエルナ。
「エルナ、私は問題ないと思うけど?」とクレリア。
「そうですね。私もそう思います」とシャロン。
「… 分かりました。やってみましょう」とエルナ。
馬を繋ぎ、地面に簡単な分布図を書いて作戦を打ち合わせる。下手に分散していくよりも全員で正面から進み、何か不測の事態が起きたらここまで走って戻る事にした。
(ディー・ワン、馬に魔物を近づけるな)
[了解しました]
五人で慎重に森の中を進む。二百メートル程近づいたところで、二匹がこちらに向かって歩いてくるのが分かった。まっすぐではなく、俺達の前を斜めに横切る感じだ。勿論、気付かれてはいない。
ハンドサインで、クレリアに始末を頼んだ。自分の後頭部を指差しヘッドショットを指示する。俺達の前を横切り通り過ぎた後にクレリアの二本の炎の矢が発現し、二匹のオークの頭に突き立った。
特に騒ぐ事もなくオークは崩れ落ちた。
更に百メートルほど音も無く進む。今度は五匹ほどのオークが動かないで止まっている反応だ。さらに近づくと、少し開けた場所の地面に、五匹のオークが寝ていた。ブーブーとイビキをかいている。
サインで、クレリア、シャロン、セリーナにヘッドショットを指示した。三人でどれを狙うか慌ただしくサインの応酬が行われる。やっと決まったようで三人が立ち上がりフレイムアローを放った。全弾、頭に的中だ。
シャロン、セリーナが二本づつ、クレリアが一本の分担にしたらしい。
そのまま更に二百メートル程進むとまた、寝ているオーク七匹を見つけ、これも同様にクレリア、シャロン、セリーナが始末した。これで十四匹、残りは六十一匹だ。
更に百メートルほど近づくとエルナのいう集落らしきものが見えてきた。直径百五十メートルぐらいの円形に開かれた場所で、所々に長い葉を立て掛けたような小屋というより、日除けのようなものが建っている。ほとんどのオークはその日除けの下で寝ていた。
ここまでくると、もう魔法で遠距離攻撃するのがいいだろうな。とりあえず立っている奴、歩いている奴から片付けよう。
一番近い順にクレリア、シャロン、セリーナに交代でヘッドショットを指示していく。ドサリ、ドサリと倒れていき、それが九匹を数えた時に集落の奥の方から叫び声が響いた。気づかれたか。
「各自、任意に攻撃開始!」
指示しながら、歩いて集落の中に入っていった。次々とロックオンしていき、十本づつ超高速フレイムアローを一斉に放っていく。当然、オークの眉間や、こめかみに必中だ。バタバタとあちこちでオークが倒れていった。
エルナのウィンドカッターが飛んでいくのが見える。あるオークの首を落とした後も飛び続け、次々と首を落としている。やるな、エルナ。
何回かフレイムアローを放った後に集落の奥から凄まじい雄叫びが上がった。
「こっ、これは!? アラン! これは不味いです! 恐らくジェネラル・オークです!」とエルナ。
なんか凄そうだ! 集落の奥から一際大きい、ガタイの良いオークが雄叫びを上げながら近づいてくるのが見えた。
まだ七十メートルは先だが、他のオークと比べると凄い迫力で貫禄たっぷりで歩いてくる。三メートル以上は身長があるに違いない。
「エルナ! 教えてくれっ! ジェネラル・オークはどう不味いんだ!?」
「アラン! ジェネラル・オークですよ!? それは! ……… えーと……、あの…、顔を傷つけないで倒してください」
「… 了解」
ジェネラル・オークは胴体に深々と突き刺さった五本のフレイムアローであっけなく崩れ落ちた。
他のオークもクレリア、シャロン、セリーナによって狩り尽くされたようだ。おっと、あそこに隠れているな。草むらに隠れていた二匹のオークを片付けた。
これで全部片付いたな。
「よし、作戦終了だ! みんなよくやった。クレリア、なんかすげぇ奴を倒したぞ! 見にいこうぜ」
近くにいたクレリアに声を掛けて見に行くとジェネラル・オークは、他のオークとは明らかに違った姿をしていた。身長は三メートル二十センチはあるだろう。凶悪な顔つきをしていて、下顎から二本の牙が上に向かって伸びている。
「凄い顔つきだな。エルナ、なんで顔を攻撃しちゃ駄目なんだ?」
「生首を剥製にすると凄い高値で売れるそうですよ。魔除けになるとか」とエルナ。
「うへぇ、悪趣味だな。こんなのを飾る神経が判らない。まぁ、高いなら持って帰るか。直ぐに切って血抜きしておこう。みんなも他の魔物が近づいて来る前に魔石を採って撤収しよう。あぁ、討伐部位は右耳だから忘れずにな」
皆に二枚づつ麻袋を渡して魔石と右耳の回収を頼んだ。全ての魔石と耳を回収するのに五人がかりで一時間半ぐらいの時間が掛かった。
ジェネラル・オークの小屋というか日除けには、冒険者のものと思われる古びた剣や金属の破片、大銀貨が五枚の他、数枚の小銭、全部で五百七十五ギニーがあった。豚のくせに貴金属が好きだったらしい。硬貨だけ回収しておこう。
「よし、撤収しよう」
「ふぅ、魔石と部位の回収に疲れました」とシャロン。
「ほんとだな、なんとか魔石を簡単に取れる方法はないもんかな」
「しかし、アラン。教えてもらったハンドサインは凄く役に立ちましたね」とエルナ。
「そうだな。そもそもこういう作戦のために考えられたものらしいから、当然と言えば当然かもな」
馬の所に戻り、乗り込むと直ぐにガンツを目指した。もう午前十一時を過ぎた頃だ。ガンツに着くのは十三時くらいになってしまうだろう。
帰りは幸いにも魔物にも出会わずガンツに着くことが出来た。
馬から降りて守備兵にギルド証を見せる。
「袋の中身はなんだ?」
「オークの魔石と耳、生首です。見ますか?」
「いや! いい! 通って良し」
冒険者ギルドに着くと悩んだ。本来なら馬を返し、置いてきた後にギルドに来るべきだが、もう気分的に疲れたので、ギルド前にある駐車スペースに馬を繋ぐと昨日見た男が近づいてきた。よく見ると片目が潰れている。古い傷のようだ。
「幾らだ?」
「馬五頭で五十ギニーになりやす」
「じゃこれな」
「へい、有難うごぜえます」
男とその仲間はそのまま馬の警護についた。
「さて、受付はどこだろうな?」
「恐らくこっちでしょう」とエルナ。
普通の受付とは違い、大きな台がある受付にきた。査定受付と看板に書いてある。
「モノはなんだい?」
受付担当の男が訊いてきた。
「オークの魔石と右耳、ジェネラル・オークの頭ですね」
「あはは、にいちゃん、冗談が上手いな」
袋をよこせとばかりに手を差し出してきたので、生首の入った麻袋を渡す。男は袋を覗き込んだ。ビクッとして袋の口を閉じる。
「こっ、これは何だ!?」
「ジェネラル・オークの頭ですよ」
「… 本当だったのかよ」
また、ゆっくりと袋の口を開け覗き込んだ。すぐに袋の口を閉じる。
「おい! ちょっと人を呼んでくるから待っててくれ!」
台の上に麻袋を置くとギルドの奥に走っていってしまった。
「何だろうな?」
「「さぁ」」とシャロンとセリーナ。
「まぁ、こうなるとは思ってましたよ。私は」とエルナ。
ギルドの奥から計六人の男達が走ってきた。
「どれだ!?」
「この袋です」
新しく来た男が覗き込む。
「… 間違いないな。ここだと他の業務に差し支えがある。君達、ちょっと奥に来てくれないか?」
「分かりました。行こう」
案内されるままにギルドの奥に入って行き、会議室のような所に通された。テーブルが血で汚れるのも構わずジェネラル・オークの生首がテーブルに置かれる。
「ギルド証を見せてくれないか?」
言われるがままにギルド証を渡す。
「Cランクか。このジェネラル・オークはどうしたんだ?」
「もちろん、狩ってきたんですよ?」
「何処で?」
「馬で南西に二時間くらい行ったところですね」
「一ヶ月前に目撃報告のあった場所ではないですか?」と別の男。
「そうかもしれん。しかし、この五人だけで?」
「そうですね」
「… 信じられん。たった五人とは」
「何か問題でも?」
「…… いや、無いな。それでこの首はギルドに譲ってくれるという事でいいのかな?」
「えーと、他に販売先があるんですか?」
「… この際、正直にいうが、ここまでデカく綺麗な首は、商業ギルドでもオークションでも大喜びで扱う品だろうな」
「なるほど…。冒険者ギルドに譲ると貢献度、評価みたいなものが上がる、とか?」
「それは勿論だ。ギルドの利益を優先して考えてくれる冒険者は、ギルドとしても当然優遇する」
「どう思う?」
パーティーメンバーに向かい確認してみる。
「いいのではないですか?」とエルナ。みんな頷いている。
「では、譲りましょう。ちなみに幾らぐらいになるのですか?」
「あぁ、過去の買取価格を参考に決められる。少し時間が欲しい」
「構いません。特に急ぎませんので。では、他の魔石と討伐部位の算定をお願いします」
セリーナとシャロンに促すと二人はテーブルの上に袋を載せた。
「これは?」
「他のオークの魔石と討伐部位ですね」
「あぁ、他にもオークを狩ったのか」
「… そうですね」
どちらかというとオークのついでにジェネラル・オークを狩ったのだが。
男が別の係員に促すと係員が袋を覗き込む。
「これは!」
「どうした!?」
「いえ、凄い数のオークの魔石だったので」
「何!?」
慌てて男が覗き込んだ。
「これは!? これはいくつあるんだ?」
「取り忘れがなければ七十四個のはずです」
ジェネラル・オークの魔石は他のオークより大きく、キープしたかったので、相談して手元に置くことにしてある。
「…… これも、ジェネラルと同じ場所で?」
「そうですね、オークの集落? みたいな所で」
「…… つまり、君達はオークの集落を襲って、これらのものを?」
「そうです」
「君達五人だけで?」
「そうです」
「なるほど……… いや、分かった。これらは直ぐに算定する」
慌てて係員達は魔石と右耳を検め始めた。
「間違いなく七十四個あります」
一人の係員が走って部屋を出て行った。直ぐに戻って来て、男に何かを渡した。
「では、これがオークの魔石の価格六百ギニーと討伐報奨金百五十ギニーを七十四匹分で、五万五千五百ギニーだ。受け取ってくれ」
「はい、確かに。有難うございます。では、問題がなければこれで失礼します」
「あぁ、いや、ちょっと待った。挨拶が遅れたが、俺は冒険者ギルド、ギルド長のケヴィンという」
「ギルド長でしたか、これは失礼しました。Cランクパーティー、シャイニングスターのリーダー、アランといいます。当分の間、こちらで活動させて頂きますので、どうか宜しくお願いします」
「いや、こちらこそ宜しく頼む。よければメンバーも紹介してくれないか?」
みんなを目で促す。
「リアです」
「エルナです」
「シャロンです」
「セリーナです」
「これはまた皆、なんと美…、いや、なんでもない。今後共宜しく頼む」
「では、失礼します」
係員に案内されてギルドを出た。
「ふぅ、なんか大事になっちゃったな」
「こうなるとは思ってましたよ。私は」とエルナ。
あぁ、そういえば馬の見張りを頼んでいたんだよな。
「悪い、随分待たせたな。これを受け取ってくれ」
追加の大銅貨五枚を見張りの男に渡した。
「… 有難うごぜえます。お名前をお聞きしても?」
「アランだ。また頼むよ」
「へい、こちらこそ。アラン様」
「あんたの名前は?」
「ジルです」
「またな。ジル」
「へい」
貸馬屋に馬を返して保証金を受け取った。もう十四時に近い。
「随分と遅くなっちゃったな」
「そうですね。あの、私、出来ればお風呂に入りたいんですけど…」とシャロン。
「あぁ、俺もだ」
みんなも同意見だったので、風呂に入った後に遅い昼食を食べる事にした。
風呂から上ってみんなが揃ったのは、もう十五時近かった。
「今からちゃんとした昼食を食べると夕食が食べられなくなるし、街をぶらつきながら、買い食いでもしないか?」
「そうしましょう! 早くこの街にも慣れたいし」とクレリア。
みんなも賛成したため街に出ることにした。
屋台はあることはあるが、イマイチ、ぱっとしない感じのものが多い。彷徨っていてもしょうがないので、そろそろ決めるかと相談していると声が掛けられた。
「兄貴! 姉貴達も! どうしたんですか?」とテオ。後ろに干し肉を齧っているエラもいる。
「よぉ! テオじゃないか。いい所であったな。美味い屋台とか知らないか? 奢ってやるぞ」
「ほっ、本当!? じゃあ、こっちです! 俺達は食った事無いけど、みんな美味い美味いって言ってる屋台があります!」
干し肉を齧るエラを引きずるようにして早足で案内するテオの後をついていくと、大きな通りからちょっと入った所に、屋台がありその周りで何人かが串焼きのような物を食べているのが見えた。
「ここです、兄貴! 美味いって評判ですよ!」
なんともいえない美味そうな香りだ。厳ついオヤジが大き目の肉と野菜を交互に刺した串焼きを焼いている。
「おやっさん、その串焼き七本くれ」
「はいよ! ちょっと待ってくれよ」
一分ぐらい待った後に焼き上ったようだ。
「はいよ! 一本十ギニーで七十ギニーだ」
結構いい値段だなと思いつつ、七十ギニーを渡して、一人づつ受け取った。テオ達の分は取ってやった。
「兄貴、二本も!? いいの?」
「馬鹿、一本はエラの分だ」
「エラ! 兄貴に礼を言え!」
「あにき」
早速、食ってみよう。
むぅ! これは美味い! 鶏肉のようだが、物凄く柔らかく今までに無い食感だ。それにタレが美味いな。基本塩味のガーリックが効いたタレで、いくつかのハーブも使っているのは間違いない。何回か付け焼きしたのだろう。香ばしい香りもたまらない。これでは一本十ギニーでもしょうがないな。
「おやっさん、この美味い肉は、何の肉なんだ?」
屋台に近づいて訊いてみた。
「こりゃ、ビッグブルーフロッグの太ももとか、ふくらはぎの肉だな」
あぁ、魔物全集に載っていた。何でも一メートル近くある青くてデカいカエルとか。青い物は余り食欲が湧かないが、これだけ美味ければ、ありだな。
美味しい美味しいと言っている皆には聞こえなかったみたいだ。言わないほうがいいだろう。
テオとエラも必死になって食べている。
「テオ、お前の親はどうしたんだ?」
「母ちゃんは死んだ。オヤジは冒険者やってるんだ。っていっても、もう一年も前から戻ってきてないけど…。しょうがねぇから気長に待ってる感じだよ」
「… そっか、まぁ頑張れよ」
「もちろんさ、兄貴」
テオ達と別れ、店を冷やかしながら宿に戻った。宿に戻るともう夕食の時間だ。
今日も中々の夕食を堪能しているとカリナさんが訪ねてきた。
「お食事中に申し訳ありません。アラン様」
「いえ、全然構いませんよ。一緒にワインでもどうですか?」
「すぐに帰りますので。サイラス様より御伝言です。明日の夜、サイラス様の御屋敷でアリスタ様の無事を祝い、ささやかな内輪だけの晩餐会を予定しております。是非とも皆様の御参加を、との事ですがいかがでしょうか?」
「皆、どうだろう? 俺は招待を受けるべきだと思うけど」
皆、問題ないとのことだったので、招待を受けることにした。
「有り難うございます。では、そのようにお伝えします。では、明日の十七時頃に馬車でお迎えに参ります」
「そうですか、それは助かりますね。では、そのように」
「それでは失礼します。アラン様」
「じゃあ、明日も今日と同じように早めに終わる常時依頼でもこなすか」
みんな、それで問題ないというので、そうする事に決め今日も早めに休むことにした。
通貨の価値ですが、下記ぐらいの価値と考えて貰えると嬉しいです。
銅貨 一ギニー 百円
大銅貨 十ギニー 千円
銀貨 百ギニー 一万円
大銀貨 千ギニー 十万円
金貨 一万ギニー 百万円
大金貨 十万ギニー 一千万円
白金貨 百万ギニー 一億円




