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005. 出発・邂逅



 夜明けと共に起きて肉を焼き始めた。肉を焼き終わったらハーブをちぎって野菜で巻いていく。あとは梱包用の葉で包んで、肉巻き弁当の完成だ。


 バックパックにはプロセッサ モジュールの袋、制服とツナギ、非常用固形食の残り、ペットボトルの水3本、レアメタル一瓶が入っている。


 バックパックを背負い毛布は両脇にくるように調節してレーザーガンはポケット、ライフルを肩に掛ける。

 久々のフル装備を背負い、湖畔から距離をとって川に向かって歩きだした。


(芋モドキをハイライト表示してくれ)


 こうしておくと芋モドキを視界に捉えたときに、明るい赤で色を付けてくれるのでなかなか便利だ。


 早速、芋モドキが赤く表示されている。引っこ抜いて芋をバックパックのサイドポケットに入れていく。

 すぐにサイドポケットが一杯になったので採取をやめた。先は長いのであまり時間は掛けられない。


 二時間ほどで小川まで行くことができた。

 湖の近くの川での水浴びは、例の生物が怖いので、もう少し川沿いを歩いて良さそうな場所を探そう。

 三十分くらい河原を歩いていくと見晴らしのいい少し水深の深い良い感じの場所があった。よし、ここにしよう。


 水深が深いといっても底まで見えているので不審な生物はいない。十分ほど警戒していたが特に問題がないので手早く水浴びをしてみる。


 うひゃー、冷たい! でも三日ぶりに体を洗える喜びでテンションが上がる。着ていたツナギも洗ってしまおう。

 ボディソープやシャンプーが無いのが玉に瑕だが、それでも爽快だった。

 ふぅ、スッキリした。予備のツナギを着ると洗ったツナギはよく絞ってバックパックに引っ掛けておこう。だらしがないが仕方ない。

 ペットボトルに水を補給してまた歩き始めた。


 それから一時間ほど河原を歩いていくと微かにゴーっという音が聞こえた。まさかと思い、走り出して近づくと滝だった。落差は三十メートル以上はありそうだ。


 滝なんてネットのホロビットでしか見たことはなかったが、なかなか豪快だ。

 しかし、困ったな。これは大きく迂回しなければならないだろう。

 しばらく探していると獣道らしきものが見つかった。


 獣道は川から離れる方向へ続いていたが、しようがない。一から道を切り開く時間はないし、なんとなく下っているので問題ないだろう。


 何時間か歩いて腹が減ったので弁当を食べることにした。

 うむ、肉巻きは冷えてもなかなか旨い! 丁度、正午頃だ。

 一日の時間が分かってから仮想ウインドウの片隅に小さく時刻を表示するようにした。


 食事を終えてまた歩き始めた。そういえば明るいうちに寝る場所も探さなきゃいけないな、と考えていると突然、開けた場所に出た。左右に長く続いている。


 まるで誰かが作った道のようだと考えた次の瞬間、視界に入ったものを見て固まった。


 本物の道だ!


 車輪のついたものがつけたであろう(わだち)があった。山の斜面を削って作ったような道で、道幅は五メートルくらいある。

 ライフルを構え耳を澄ます。

 とりあえず問題はないようだ。

 しかし驚いたな。あの緑色の奴らなのだろうか。いや、奴らは断じて知的生命体ではない、そう決めた。


 よく見ると轍の他に馬の足跡のようなものもある。本当にこの惑星に馬がいるのだろうか。とにかく蹄を持つ動物だ。

 物語に出てくるような馬車ということか。馬の足跡はあちこちにある。馬車と複数の馬ということだろう。


 蹄の向きは、こちらが前のはずなので馬車は右から左へと進んだことになる。(わだち)の間隔が広いので結構大きな馬車のようだ。

 追いかけてみよう。初の知的生命体の手掛かりだ。こんなチャンスは、もう二度と来ないかも知れない。

 足跡は真新しく見える。二日は経ってないだろう。

 よし、久々に本気を出すか!


(長距離走行モード)


[了解]


 俺は馬車を追いかけて走り出した。


 人間は肺によって体内に酸素を取り入れ、体内から二酸化炭素を排出する。

 長距離走行モードはナノムが肺の細胞に干渉してこの交換効率を最大限に上げ、更に血液に干渉して血中酸素濃度を最大限にまで高める。つまり走ってもあまり苦しくならない。

 これにより、かなりのスピードで長時間走り続けることができるが、健康面では体にはあまりよくないため常用はできない。



 もう何時間も走り続けている。もう百キロメートル以上は走ったはずだ。走り始めた時と同じペースで走り続けているが、まだ追いつかない。


 そろそろ夕方なので今日の追跡は諦める頃合いかもしれない。

 その時、強化された聴覚が何か争うような音を捉えた。

 道は山間を縫うように曲がりくねっているため、まだ何も見えない。


 走るのをやめ警戒しながら近づいていく。

 大きく左に曲がった道を進むと百五十メートルくらい先に音の原因が見えてきた。

 馬車が倒れており、二体の人型の生物とでかい狼のような生物が十五頭以上が入り乱れていた。


 すかさずズームする。


「あれはっ!!」


 どう見ても人類にしか見えない生物が映っていた。


 剣をもった男一人と女一人だ。倒れた馬車を背にしてお互いをカバーしながら戦っているようだ。

 周りには何人もの人間、馬が倒れている。


「くそっ!」


 ライフルを構える動作に入った瞬間、狼が一斉に二人に襲いかかった。


(助けるぞ、照準は任せる)


[完了]


 瞬時にナノムが答えた。

 勿論、それを見越して既にトリガーは引き始めている。


 チュンッ チュンッ チュンッ パルスライフルがレーザーを照射した。人間に当てないように分けて斉射したようだ。

 全ての狼が崩れ落ちた。立っていた二人は既に押し倒されている。くそっ! 強化した足で走りだした。


 近づいていくと惨状が明らかになった。

 全部で十人。男八人と女二人だ。全員、鎧のようなものを着ている。

 最後に倒された二人以外は、みんな喉を食い破られていて明らかに死んでいる。

 急いで倒された二人に駆け寄った。


 中年の男は まだ生きているが、同じく喉を食い破られている。喉から、口から大量の血が溢れ出ている。これはもう手の施しようがない。

 若い女のほうは喉は無事だったが、左手が肘の先から、右足が脛の部分、足首の上で食い千切られて、大量に出血しており気を失っている。


 男は馬車に半ば寄りかかるようにしていた。男と目が合う。

 男は二、三秒の間、目を合わせていたが、女に目をやり、また俺と目を合わせる。

 女を頼むという意味だろうと俺が頷くと、ゆっくりと目を閉じて息を引き取った。


 急いで女の救助に取り掛かろう。女というより女の子だ。年の頃は十六、十七歳くらいだろうか。自分の血だろうか全身血まみれ状態だ。

 っとこんな場合じゃない。


(どうすればいい?)


[血に触ってください]


 言われた通りにする。


(どうだ?)


[間違いありません。【人類に連なる者】です]


 やはりか、驚愕の事実だが これは見た目で予測できたことだ。


[なにかで縛って止血してください]


 なにかって何だよ。

 見渡すと馬が死んでいて、その頭と口に革紐でできたマスクのようなものを被っている。それに結構な長さの革紐が付いていたのでナイフで切って確保した。恐らく馬を制御する紐なのだろう。

 足の切断された傷口の三センチくらい上をきつく縛った。腕も同様だ。


[先程から左手首にナノムを集めています。切って彼女に血を飲ませてください]


 手首 切れってか!

 コイツたまにキツイこと、言うんだよなぁ。

 どうやって飲ませるか考える。貴重なナノムを無駄にこぼすわけにはいかない。

 そうだ! ペットボトルで作ったコップのことを思い出した。これに血を溜めた後に飲ませよう。


 コップというにはデカいコップを用意して、気合を入れてコップの上で腕を構える。ふぅ、電磁ブレードの切れ味の良さが恨めしい。


[静脈を切ってください] 血管を蛍光緑色にハイライト表示し、切開箇所に赤い線が引かれる。


 おいっ もっと早く言え! 今、普通に切るとこだったぞ。


 怖いので少しずつ切っていくことにした。うぅ。

 あれ? 痛くない。


[痛覚は遮断してあります]


 コイツ、なんかワザとやってないか?

 血がコップに溜まっていく。おお、結構必要なんだな ……

 えっまだ? と思ったところで血が止まった。四百ccはありそうに見える。


[輸血も兼ねています]


 えっ そんなことできんの!? すげーな。

 少女の上半身を抱えあげ、抱え上げた手で口を開ける。飲んでくれるだろうか? 口を開け少しずつ流し込む。少しずつであるがコップの血は減っていった。


[そこまで。残りは傷口にかけてください]


 なるほど、そういうもんかと思いながら傷口に均等に掛ける。


[レアメタルの錠剤を二錠服用してください。彼女には八錠]


 そうきたか。バックパックからレアメタルの錠剤の瓶を出し、十錠取り出す。

 二錠を飲み込む。さて、どうやって飲み込ませるか。


[飲み込ませる必要はありません。口の中に入れておけば大丈夫です]


 ふーん、なるほどと思いながら八錠彼女の口の中に入れた。



 レアメタル錠は、ただの希少な金属の集まりだ。ナノムを生成するのに最適な金属を集めて錠剤状にしただけのものだ。ナノムのない人間が飲めば、むしろ毒と言っていい。


 だが、ナノムがいる体では、仮に金属が体に吸収されたとしても、すぐさまナノムに横取りされて自分の複製を作る材料にしてしまう。

 通常はナノムが積極的にレアメタルを分解・吸収し、ごく短時間でナノムに換えることができた。


[切断された傷口の切り口が問題です。ナイフで真っ直ぐに切断してください]


 えぇ!? 確かに骨が結構見えていて、かなりグロい。


[既に痛覚は遮断してあります]


 仕事が速いな。ならばと電磁ブレードナイフを取り出す。


 切断面が綺麗になるようにとなると二、三センチメートルは切らないといけないようだ。


 電磁ブレードナイフで傷口を断面が垂直になるようにサクっと切った。血が少し出てすぐに止まったが、かなりの猟奇的体験だ。夢に出なければいいけど。


[傷口に巻く包帯が必要です]


 たしかにそうだ。俺は持っていない。彼らの荷物を漁る必要があるだろう。

 改めて周りを見渡し、今更ながら気づいたが、ここは道の脇に作られた小さな広場のような場所だった。休憩用のスペースだろうか。


 ああ、そうだ。焚き火をした跡があり、まだ煙が燻っている。

 馬をつなぐU字型の杭があり、馬はその周りで死んでいた。なるほど…。襲われたときの状況が見えてきた。


 彼らは休憩中で、いや 時間を考えるとこの場所に泊まるつもりだったのかもしれない。

 馬をつなぎ、火をおこし、休んでいたところを狼にいきなり襲われた。

 馬車に繋がれた二頭の馬が襲われ、馬は驚き暴れ馬車は横転。

 他の馬は、杭に繋がれていたため、逃げ出すことができず死んだ。

 人間は、少しずつ各個撃破されていき、最後に二人が残った。


 こんなところだろう。

 おそらく包帯に使えそうなものは馬車に載せてあるだろう。


 横転した馬車の上にジャンプして、中を覗くが荷物らしい荷物はなかった。

 どうやら天井に荷物を積んであったようで、横転した先に革でできた大きなケースのようなものが四個転がっていた。


 とりあえずケースを全て彼女の近くに運んだ。

 特に鍵の類も付いておらず、ベルトでとめているだけのようなので早速開けてみる。

 ふむ、衣類かな? これは男物が多いようだ。切って使ってもいいが、これだけの人数の団体だ。包帯ぐらいあるはずだ。

 次だ。これも衣類だった。女物だろう。ドレスのようなものもある。彼女のだろうか。


 次だ。これは当りかもしれない。なにやら、小瓶に入った液体やら乾燥させた薬草かと思われるものが色々入っている。

 あった! これは包帯で間違いないだろう。細く切った布が巻いてあるものが三つあった。手に持ってみると、ただの細長い布だ。伸縮性は全然ないが、清潔そうではある。


(どうやって巻くんだ?)


[その前に止血した紐をはずしてください]


 そりゃそうだ 血はもう止まっている。ナイフで切って外す。

 仮想ウインドウの1/4くらいに足への包帯の巻き方の図解したものが表示された。


 なになに? まずはこうやって {次の図} こうやる。{次の図} こうやって、{次の図} こうやる。よしできた。

 腕も同様だ。


[応急処置は完了です]


 ふぅ、やっと終わった。座り込んで一息つく。

 改めて周りを見渡すと焚き火をしていた跡があった辺りのほうがスペースが空いていて広い。

 あちらに彼女を移動しよう。いつまでも、こんな死体だらけの所には置いておけない。

 毛布を敷いてから彼女を抱え上げて移動した。

 もう夕方だし、今日はここに泊まるしかない。


(彼女はどれくらいで動かせる?)


[可能であれば明日一日は安静が必要です]


 まぁ、そうだろうな。


 となれば、この場所を片付けたほうがいい。死体だらけのところで、二日以上も過ごすなんてゾッとする。今日は徹夜かな。

 まずは、焚き火をしよう。明るいほうがいいし動物避けにもなる。

 焚き火跡の火は、完全には消えていなかったので薪を足して火を大きくする。

 広場の反対側にも焚き火を作ろう。燃えている焚き火から何本かよく火がついている木を持ってきて薪を足して焚き火を作る。

 次はやはり死体だろうな。


 狼モドキを改めてよく見ると、やっぱりデカイ。頭から尻尾の先までは二メートル以上はあるだろう。三十五頭の死体があった。

 俺が倒したのが十五頭だから彼らだけで二十頭は倒したわけだ。払った代償は大きかったな。

 こいつらを腕力に物を言わせて谷側の山にぶん投げようと思ったが、いざ持ってみるとめちゃくちゃ重い。百五十キログラム以上はありそうだ。

 引きずって谷側へ落とす。結構な急斜面なこともあり面白いように転がっていった。

 よし、サクサクいこう。


 その作業中に彼女の左腕と右足を見つけた。ガジガジやられてボロボロになっている。一応とっておくか。おっと、ブーツは一応確保しておこう。


 次は人間だな。これはさすがに谷に落とすわけにはいかないし埋葬するか。とはいっても掘る道具がない。スコップなんてあるだろうか。

 もうすっかり暗くなったが、ナノムのおかげで結構夜目が利く。完全な暗闇では無理だが、これだけの焚き火の明かりがあれば問題ない。


 スコップを探してみるとすぐ見つかった。馬車の後ろに据え付けられていた。馬車の備品なのだろう。


 まずは死体を集めるか。これも引きずるわけにはいかないので一人一人抱えていく。埋葬先は円状の広場の彼女がいる場所の反対側にした。


 死体を並べてみるとあることに気づいた。みんな足と腕にはプロテクターのようなものを付けているが、彼女は付けていなかった。何故だろうか。

 まぁ、プロテクターを付けていたせいで狼どもは首を狙うしかなかったのだろう。

 九人分の墓穴を掘るのは大変そうだな。気合をいれていこう。


 掘り始めて二時間くらい経過した頃、[彼女が目覚めます]とナノムが言った。




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[気になる点] 簡単な料理だけど、美味しそう (^o^)
[良い点] ついに第一村人ならぬ第一星人発見ですね!そしてナノムの万能感さらに強まり良い感じだとおもいます!アランのナノムに対する先に言ってよもナノムが淡々となりすぎずキャラが見えてくる感じでいいと思…
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