046. パスタとピザとリゾット
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厨房に戻るとバースは一人でオムライスの練習をしていた。奥さんの昼食を作っていたようだ。
「おう、アラン。ちょっと待っててくれ。これ仕上げたら、ちょっと早いけど市場にいってみるか」
「あぁ、そうだな」
あっという間にオムライスを仕上げたバースと一緒に市場へと出掛かける。
「さて、どんな料理を教えようかな」
「そうだな、もしあればだがオムライスみたいな一風変わった料理ってないか? あの発想は並の料理人じゃ思いつかねぇよ」
「なるほど、変わった料理か…」
じゃあ、ピザとかパスタとかがいいかもな。この街でも色々な食事処に行ったが、ああいった料理は見かけなかった。今日はイタリアンな感じでいってみよう。リゾットもいいかもしれない。
あぁ、でもピザ生地を今から作るのは厳しいな。この星にイーストはまだ無いし、天然酵母を使っているようだ。生地を作るには何時間か掛かるだろう。
「パン生地って今日も仕込んでるのか?」
「そうだな。相変わらずパンを頼む客はいるし、余ったらパン粉にするからな」
相変わらず揚げ物に対する情熱は健在のようだ。パン生地で試しにピザを作ってみるか。
「じゃあ、少し使わせて貰うかも」
「気にせず使えよ。食材の金も俺が全部出すから何でも気になる物があったら、ドンドン買っていいぜ」
市場に着くとバースと一緒に売り場を見て回る。試作用の食材は俺が買い、バースは店用の食材を買う事にしていた。頭の中はすっかりピザとパスタになっている。
前に川エビを買った店に通り掛かった。今日も立派なエビを売っている。シーフードっぽいピザもいいな。値段も高くないので大量に買ってしまおう。
トマトはバースが大量に買ってるから買わなくていいし、肉も常備してあるし、あとはチーズぐらいかな。
「チーズって色々な種類があるのか?」
「何種類か売ってたな。こっちだ」
チーズを扱っている店には五種類くらいのチーズが売っていたのでピザに合いそうな柔らかくしっとりした物と粉チーズに出来そうな固いチーズを買った。
バースは店用に結構な量の食材を買っているので、使わせて貰えばいいから余り買うものがない。
「おっ、これは燻製した肉かな?」
ある店にベーコンのような肉の塊が吊るされていた。
「ビックボアの燻製肉だろ? 保存食だぞ」
「店で見たことがなかったが料理には使わないのか?」
「固いし、わざわざ保存食を使うことはないだろう?」
「いやいや、十分使えるだろ!」
「兄ちゃん、分かってるじゃないか! これは美味いのに、ここらじゃ全然人気が無いんで持ち込んだ俺もビックリしてたんだよ」
急に店主が会話に入ってきた。持ち込んだってことは旅の商人かな?
「結構遠くから仕入れてきたのか?」
「はるばるスターヴェイクからだよ。いや、今はアロイスか」
「ちょっと味見させてもらっていいか?」
「あいよ!」
吊り下げられた燻製肉を少し削って味見させてくれた。俺が知っているベーコンより、少し塩気が多いし固いが十分使い物になるだろう。
「よし、こっちの小さい方の塊をくれ」
「毎度!」
ベーコンとバジルのような生の香草を買って俺の買い物は終わりだ。バースの買い物を手伝って市場を後にした。
「あんまり食材を買わなかったが、それでいいのか?」
「そうだな。バースが買った食材も少し使わせて貰うから十分だ」
宿に着いて厨房に食材を運び込むと早速調理を始めた。
まずはパスタを作ってみよう。
おっとサラちゃんも見学するのか。
「お父さんが、私は味見係だからってお昼食べてないから、お腹空いちゃいました」とサラちゃん。
「そうか、じゃ早速作るよ。まずはパスタという料理を作ってみようと思う」
「ほう、どういう料理なんだ?」
「小麦粉を捏ねて細長くして茹でたものを使った料理なんだけど聞いたことあるか?」
「あぁ、何処かの国でそんな様なものがあるって噂で聞いたことがあるな」
「おぉ、あるのか! 多分それとは少し違うものだと思うけど作ってみよう。まずは生地作りからだな」
ボールに小麦粉、塩、植物油、卵を入れて捏ね始める。
「食材の分量は後でメモを渡すから覚えなくていいよ」
よく捏ねてよく捏ねてと。こんな感じかな。一回、濡れた布に巻いて生地を休ませよう。この間にミートソースを作ろう。やっぱり、パスタには一番ベーシックなミートソースを覚えて貰いたい。
まずはベースとなるトマトソースを作ろうかな。ピザにも使いたいから少し多めだ。
これは基本的にオムライスに使ったトマトソースと同じものだ。この間にサラちゃんにビックボアのひき肉をミキサーで作ってもらった。
フライパンでガーリックのみじん切りを炒め香りが出たら、さらに玉ねぎ、人参のみじん切りをよく炒めていく。そこにひき肉を加えさらによく炒める。
いい感じになったらさっき作った基本のトマトソースを投入だ。香り付けに乾燥ハーブも入れよう。塩、胡椒でうす味に整えてバースと一緒に味見してみる。肉の旨みがよく出ているが、やっぱり物足りないな。コンソメがないとイマイチだ。ここはバースが常備しているケチャップとソースで味を整えよう。
うん、いい感じだ。バースに味見させてみる。
「どうだ?」
「あぁ、美味いぜ、アラン。これはソースの一種なのか?」
「そうだな。パスタに掛けるソースだ」
そろそろ、パスタの生地もいい感じだろう。打ち粉をして棒で丸く平べったく伸ばしていく。十分薄くなったらさらに打ち粉をして畳んでいく。畳んで棒状になったらナイフで一センチ弱に切って解せば、平打ちのパスタ、タリアテッレの完成だ。早速、茹でてみよう。
沸かしていた鍋に塩を適量いれてパスタを入れ、茹でていく。
そろそろかな。
茹で上がったタリアテッレにミートソースを掛け、市場で買った固いチーズをおろし金で削って粉チーズを掛ければ、ミートソースのタリアテッレの完成だ。
「よし! これで完成だ!」
「おぉ! なんだこの料理は! 誓ったっていい、こんなのこの国の人間は絶対見たことねぇぞ」とバース。
「凄く美味しそう!」とサラちゃん。
「味見してみようぜ」
ミートソースと混ぜて、各自の取り皿に分けて味見してみた。
うん、美味い! 適当に作った割にはちゃんとしたミートソースのタリアテッレだ。ビックボアの肉の旨み、トマトソース、炒めた玉ねぎと人参の甘みのハーモニーが絶妙だ。粉チーズとミートソースの味もよく合っている。
「なにこれ! もちもちしてて美味しい!」とサラちゃん。
「あぁ、美味い! 世の中にはこんな料理もあったんだな」とバース。
「パスタの上に掛けるソースの種類は、それこそ何十種類もあるんだ。後で幾つかのレシピのメモを書いてやるよ」
「おぉ、アラン! 頼むぜ!」
「次はピザという料理を作ろうと思う。バース、パンの生地を分けてもらっていいか?」
「おう、こっちだ」
そういってバースが開けた棚にはパン生地と思われるものが五個ぐらい濡れた布に包まれて置いてあった。
「へぇ、これがパン生地か… パンを膨らませる元の奴は何処にあるんだ?」
「パン種か?」
バースから生地のようなものが入った容器を渡される。
「あぁ、これがパン種か」
パン生地を指でグニグニしてみる。なるほど、ピザ生地との違いはよく判らないな。パン種も指でグニグニしてみる。
さて、どうしようかな。パン生地とピザ生地は作り方が違い、当然のことながら焼き上がりが違う。無理やり作れば形だけは真似出来るだろうけど、バースにはちゃんとしたピザを食べさせてやりたい。
そうだ!
(イーリス)
[はい、艦長]
(このパン生地をなんとかしてピザ生地にしたいんだけど、どうすればいい? あぁ、ピザ生地はナポリ風のやつだ)
俺は薄っぺらいローマ風ピッツァより、縁が膨らんでいてもっちり、カリッとしているナポリ派だ。
[…… 多分、帝国の長い歴史の中でこんな質問をされた軍用AIは私が初めてでしょうね]
(困っているんだ、頼むよ)
[そのパン生地に対して、小麦粉を五十二グラムと水を三十ミリグラムを加えてこね直してください。かなり近い仕上がりになると思います]
(助かった、ありがとう。あぁ、このパン種を使用した時のピザ生地のレシピを作成しておいてくれ)
[… 了解しました]
イーリスの指示の通りに材料を加えて、パン生地をこね直す。よし、これで多分大丈夫だろう。
ピザ生地を二つに分けて、二種類の具を載せたピザを作ろうと思う。
基本のトマトソースは一緒にして、片方はベーコン、もう片方は川エビをメインの具材に使ったピザを作ろうと思う。
バースと一緒に川エビをむき身にしていく。ベーコン、玉ねぎ、ピーマン、マッシュルームのようなキノコがあったのでこれも刻んでしまおう。おっと、市場で買ったチーズも細かく切って置かなきゃな。
ピザソースにはさっき作ったトマトソースを使う。
ピザ生地を棒で丸く薄く伸ばしていく。作るのは勿論、縁の部分が膨らんだナポリ風のピザだ。ピザ生地にトマトソースを塗り、具を載せていく。チーズはタップリだ。上からマヨネーズも掛けてしまおう。あっという間に二種類のピザが完成した。
よし、これをオーブンで焼いていこう。
「これ、オーブンで焼きたいんだけど?」
「何だよ、コレ窯で焼くのか? 言ってくれれば、火を付けておいたんだけどな」
ああ、失敗したな。薪を使って温めるこのオーブンじゃ、焼き始めるのに時間がかかるだろうな。
「なぁ、これ魔法で温めていいか?」
「ん? そんな事出来んのかよ?」
「やってみるよ。サラちゃん、危ないからちょっと離れてて」
えーと、あんまり火力が強いと窯が壊れそうだよな。ちょっとづつ強くしていこう。
目の前の空間から火炎放射機のような火が窯に向かってゴーっと噴き出す。窯全体が温まるように火の形を調節していく。
「これが魔法!? すごいっ!」とサラちゃん。
そのまま、一分間ぐらい火を放射しつづけて、とりあえずやめた。
(ナノム、釜の中の温度は適温か?)
[少し低めですが問題ありません]
「バース、こんなもんでどうだ?」
「… あぁ、いいんじゃねぇか。しかし、すげぇな、アラン」
「まぁな、こう見えて魔術ギルドじゃAランクだからな。なかなか便利だろう?」
「もうAランクになったのかよ…」
バースに頼んで二つのピザをオーブンの奥のほうに入れてもらった。少し温度が低いから時間が掛かるかもしれないな。
十分ぐらいでピザは焼き上がった。オーブンから出してみるとちゃんと縁が膨らんでいて焼き上がりの見た目は完璧だ。おっと、バジルっぽい香草も千切って載せてと。
「これで完成だ。食べてみよう」
ピザを切ってみんなで試食してみる。
まずはベーコンを使ったピザだ。うーん、美味い。焼き加減は完璧だな。ベーコンのカリッとした食感と野菜の食感、熱々のチーズが糸をひくような感じもいい。思い描いていたピザがここにあった。
川エビを使ったピザも上出来だ。プリプリしたエビの食感がたまらないな。マヨネーズとトマトソースとの相性もバッチリだ。
「うわー、これも美味しい! 私これが一番好きかも!」とサラちゃん。
「おぉ! 美味いな。具材を載せて焼いただけなのにこの味が出るとはな。見た目もいい! この料理も客の度肝を抜くこと間違いなしだ」
「このピザって料理も上に載せる具材を変える事によって色々なピザがあるんだ。いろいろと試してくれ」
「おお! 任せろ、やってやるぜ!」
まだ、夕食の用意の時間までには余裕があるな。よし、リゾットも作ってみよう。ピザに載せきれなかったエビも余っているし、エビの頭も大量にある。これでいい出汁が取れそうだ。
「よし、次はリゾットという料理だ。まずはエビの出汁、旨味をとっていこう」
鍋に湯を沸かしてエビの頭、殻を入れて十分ぐらい煮出せば、エビの出汁の完成だ。味見してみるとエビの濃厚な風味の出汁が出来ていた。エビの味噌や殻から出た複雑で深い味わいだ。
まずは、エビの身を軽く炒めておこう。一緒に煮込むとエビが固く小さくなってしまうからだ。さっと炒めたら取り皿にとっておき、ガーリックのみじん切りを炒め、玉ねぎのみじん切り、赤ピーマンのみじん切りと洗っていない米を炒めていく。
米が白くなったらエビの出汁を少しづつ加えていき米を弱火で煮ていく。よし、そろそろかな。炊き具合を確認してからチーズと塩、胡椒を入れ味を整えていく。よし、完成だ。
「完成だ、味見をしてみようぜ」
バースとサラちゃんと俺は取り皿にリゾットを取り、味見していく。
最初にガツンと来るのはエビの濃厚な風味だ。でもチーズが入っている事によってまろやかになっているし、全然嫌味がない。久しぶりのエビの味が妙に美味く感じた。適当に作ったものだが完成度は高い。
「美味しい! これ美味しいよ! こんなの食べたの初めて! ちょっとお母さんに食べさせてくる!」
「ああ、美味いな! 冒険者の頃にいった海沿いの街の料理を思い出す味だ。安物の川エビの頭からこんな上等な旨味が取れるとは驚いたぜ! いままで捨てていたのが馬鹿みてぇだ」
「気に入ってくれたみたいだな」
「気に入ったなんてもんじゃないぜ! 今日教わった料理はどれもすげぇ料理だ! また借りが増えちまったぜ」
「気にすんなよ。俺も世話になってんだから」
「恩に着るぜ、アラン」
「今日はこんなとこか。そろそろ夕食の準備を始める時間だろ?」
「あぁ、そうだな。しかし、こうなると今日教わった料理を何か一品でも出したい。…このリゾットという料理だな。これはアランがいるうちに完璧にしておきたい」
「でも、もうエビがないぞ」
「サラ、市場にいってこの川エビをあるだけ買ってこい」
金を渡しながらサラちゃんに指示している。売り場の生け簀に川エビは一杯いたから恐らく売り切れてはいないだろうけど、あるだけってすげぇな。
その後、いろいろと話した結果、今日のメニューはハンバーグと、エビのチーズリゾット、半熟玉子たっぷりのポテトサラダに決まった。
バースと一緒に料理の仕込みを進めていく。作りながら色々なアレンジもレクチャーしていった。
そのうちに気の早い客からオーダーが入り始めた。リゾットもそれほど難しい料理ではないので、バースは何回か作る内にもう自分のものにしていた。
「アランさん、お客さんですよ」とサラちゃん。
誰だろうと厨房から顔を出すとタルスさんの従業員のウィリーが来ていた。
「よう、ウィリーじゃないか。どうしたんだ?」
「すいません、アランさん。今日、タルスさんが御一家でこちらにお伺いしたいそうなんですけど、席って空いてるでしょうか? えーと、全部で五人です」
食堂の席は、もう半分くらい埋まっている。
「どうだ? バース。タルスさんは世話になっている人だから出来れば都合してやりたいんだけど…」
「おいおい、タルスさんってあの大店のタルスさんだろ? 客を退かしてでも席を空けるよ。でもそうだな。一時間後なら随分と空いてると思うぞ」
「だそうだ。ウィリー、それでいいか?」
「分かりました! 有難うございます!」
クレリア達も帰ってきていたので、夕食は一時間後にしようと伝えた。どうせならタルスさん達と一緒にとったほうがいいだろう。俺もまだ厨房の手伝いもあるしな。
「しかし、あのタルスさんがウチに夕食を食べにくるとはなぁ。これは凄いことだぞ、アラン」
「そうなのか? あぁ、そういえば、タルスさんは食堂もやっているんだよな」
「食堂じゃねぇよ! 完全予約制の高級な食事処だ。ウチなんかとは全然、格が違うぜ」
「そうなのか、凄いなそれは。でも、タルスさんはバースの事、評価してたみたいだぞ。俺がこの宿に来たのもタルスさんの勧めだったからな」
「… そうなのか。じゃあ、今日は腕によりをかけて作らなきゃな」
俺とバースは黙々と料理を作り続けた。
「アランさん、タルスさん達が来ましたよ。リアさん達ももう席についてます」とサラちゃん。
「そうか。バース、後は任せていいか?」
「あぁ、助かったぜ。アラン」
食堂に行くと席はもう大分空いていて、三割くらいの客になっていた。タルスさん達はクレリアの隣のテーブルに座っている。他のメンバーは奥さんと、娘のタラちゃん、息子のカトル、ヨーナスさんだ。
「今晩は、タルスさん」
「今晩は、アランさん。もう我慢が出来ずに来てしまいましたよ」
「丁度良い時に来ましたね。今日は新しいメニューなんですよ」
「今日はアランさんも厨房に立っていらしたとか。本当に楽しみですよ」
俺はクレリア達の席に合流した。直ぐに料理が運ばれてくる。
メインは大き目のチーズ イン ハンバーグだ。ハンバーグには、玉ねぎ、キノコ、赤ワイン、ケチャップ、ソースで作った簡易デミグラスソースが掛かっている。付け合せは、ほんのり甘く仕上げた人参のグラッセと茹でたブロッコリーのような野菜にマヨネーズを添えている。
そして、新メニューのエビのチーズリゾット。これには生のパセリのようなハーブがかかっていて、試作の時よりも粗挽きの黒胡椒を効かせてある。
さらに、いつものポテトサラダとは違い半熟玉子をふんだんに混ぜた卵ポテトサラダともいうべきポテトサラダだった。勿論、マヨネーズたっぷりだ。
「ほう、これはいつものハンバーグではないな」とクレリア。
「さすがだな、リア。ソースを大幅に変えてあるんだ。それに…、ハンバーグを切ってみてくれ」
「おぉ、中にチーズが仕込んである!」
「あぁ、なかなかの出来に仕上がったよ」
「ア、アランさん! この料理は一体!?」とタルスさん。
タルスさんは、どうやらリゾットを食べたみたいだ。
「あぁ、それは故郷のリゾットという料理ですね。エビの風味が苦手でないと良いんですけど…」
「いえいえ、苦手どころかこのように美味しい料理を食べたのは初めてです」
良かった。エビが苦手だとこの濃厚な味は厳しいからな。
「いえ、父さん。この料理を食べてみてください! こちらのほうが絶対に美味しいですよ」とカトル。
カトルはハンバーグが気に入ったようだ。
「私はこのサラダ? が一番好きかも。とても美味しいわ!」
タラちゃんはポテトサラダか。マヨネーズ好きなのかもしれないな。
どちらのテーブルからも美味しい美味しいとの評価で、クレリアを筆頭に早くもお替りの声が上っていた。
俺は試食を繰り返していたので余りお腹は空いていない。ゆっくりとワインを飲みながら頂こう。
「アランさん、評判は聞いていましたが、これ程の料理とは思っていませんでしたよ」
食事は終わり、食後の御茶を飲んでいるところだった。
「そうですか、喜んで頂いて嬉しいです。レシピのせいというのもあるでしょうが、料理人であるバースの腕がいいんですよ」
「そうでしょうね。正に料理に対する情熱が伝わってくる料理の数々でした」
確かにバース以上に料理に対して情熱を持っているヤツに俺は会ったことがない。バースがここまで熱心じゃなければ俺も積極的にレシピを教えようとはしなかっただろう。
タルスさん達は大満足の様子で帰っていった。
クレリア達の話を聞くと、今日の鍛錬も大いに収穫のあった一日であったようだ。明日、セリーナとシャロンの鎧のサイズ調整が終わって引き取ったら、模擬試合をやってみるのだとみんな大いに気合が入っていた。
今日は久しぶりに料理を沢山作ってそれなりに疲れていたが、バースのためのレシピのメモぐらいは仕上げよう。一時間程で十枚ほどのレシピのメモを書き上げる事が出来た。
さすがに、魔法陣の下書きの作業は明日だ。今日はもう風呂に入って寝てしまおう。




