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044. 旅の準備1



 明日の午前中に街にいる近衛の人達に説明をした後に、旅の準備を始めることになり会合はお開きとなった。


 しばらく自分の部屋でドライヤーの魔法陣を描く内職をしていたが、そろそろ寝るとしよう。


(アラン、すいません。少し御時間よろしいですか?)


(いいとも。そっちの部屋にいくよ)


 シャロンからの通信だった。なんだろうと思いながら二人の部屋を訪ねる。


「すいません、夜分遅くに。そんなに急ぐ内容ではなかったんですが…」とセリーナ。


「午前中にクレリアさん達から聞きました。コリント流剣術の事を」とシャロン。


 あぁ! やっぱりそうか。ついにバレてしまった。


「アランは、どこで剣術を学んだんですか?」とセリーナ。


「あぁ、若い時にちょっと齧ったぐらいだよ」


「凄いですね! 帝国では剣なんて凄くマイナーな趣味ですよね? それを剣術にまで高めたものに昇華させるなんて!」


 ああ、やめてくれ。今のセリーナの言葉だけで、かなりの精神的ダメージだ。


「クレリアさんに、やはりコリント流剣術を学んでいるのか? なんて訊かれて、ついそうだって答えちゃったんです。良ければ私達にも教えてくれませんか? 出来れば今日のうちにアップデートしておきたいんです」


「ああ、そうだな。この世界で暮らしていくには必要な知識だな。分かった、後でナノムにデータを送らせるよ」


 これ以上ダメージを喰らわない内に撤退だ。慌てて部屋をあとにした。


 魔法の練習の合間に剣の練習もしていたので、基本的なコンボは勿論、ゲームをやっていた当時によく使っていたコンボも思い出していた。勿論、コリント流剣術の全ても…。


 あぁ、どうしよう。剣に関する知識を送るのは全然構わないが、コリント流剣術の技の名前は一つ残らず恥ずかしい名前だ。メテオ・ストリーム、ファイナル・ブレード、ジャスティス・ジャッジメント、ビックバン・バースト、サンダー・ボム、エターナル・ストリーム … 。急いで全ての技に新しい名前を付けなければならない。


 …… ああ! 全然だめだ、一つも思いつかない。もういい! このまま送ってしまおう! どうにでもなれだ。


(剣術に関する全てのデータをセリーナとシャロンに送ってくれ)


[完了]


 ああ、やってしまった。今日はもう寝よう。果たして眠れるだろうか。



 朝食の少し前の時間に目が覚めた。いつもに比べれば明らかに寝坊と言っていいだろう。昨日はなかなか寝付けなくて、少し寝不足だが、これはしようがない。


 朝食のために食堂に降りていくと、まだ朝食の時間になっていないのに既に皆がテーブルについていた。


「おはようございます! アラン」


 あれ? おかしい。セリーナとシャロンの態度が普通だ。てっきり変な目で見られると思ったのに。アップデートしなかったのかな?


「おお、アラン殿! おはようございます。さぁ、こちらの席に」


 ロベルトは、またクレリアの隣の席を勧めてきた。


「おはようございます。ロベルト」


 今日の朝食はポテトサンド、たまごサンド、鶏ハムとサラダ野菜のサンドイッチだ。見たところ、マヨネーズをふんだんに使っている。それぞれ大皿に山盛りで運ばれてきた。


「おお! この料理もなんという美味さだ!」


「本当に美味しいです!」


 ロベルトとダルシム隊長、セリーナとシャロンはサンドイッチに大喜びだ。やっぱりマヨネーズの力は偉大だな。


 大皿に盛ってあったサンドイッチはみるみる無くなっていく。


「アラン、昨日話した通り、このあと近衛の皆に説明に行くので付き合って欲しい」


「ああ、勿論だ。その後に出来ればタルスさんの所に寄っていきたい。世話になった挨拶もしたいし、いろいろと旅の準備をするのに相談もしたいしな」


「では、そうしよう」


「我らは今日出発することにします。一刻も早く仲間に伝えたいですし、ダルシム隊長は一刻も早くリア様に合流したいそうなので」


 昨日の話し合いでは、ロベルトは二千名余りの部下の統括をおこない、来るべき時に備えて部下達をまとめ上げる仕事に専念し、ダルシム隊長達の近衛はクレリアに合流し俺達のパーティーのサポートをおこなうことになっていた。


「そうですか、分かりました。ところで皆さんの活動資金は足りているのですか?」


「そ、それは… 十分ではありませんが、なんとかします」


「そうか! これは気づかなかった。皆はどうやって暮らしを立てているのだ?」とクレリア。


「辺境伯様がお別れの時に十分な資金をお渡しくださいました。今まではそれでなんとかやってきました」


「ロベルト、正直に申せ。資金はどれくらい残っている?」


「あと五万ギニーほどです」


 二千人以上の人が暮らしていくだけの資金としても少なすぎる。


「全然足りないですね」


「いえ、なんとかなります! 野に散った仲間達の中で故郷に帰れる者は、一度帰らせる事にしますし…」


「それにしても足りないでしょうね。分かりました。私も手持ちがそんなにあるわけではありませんが、幾らかお渡し出来ると思います」


「おお! アラン、そうしてくれると助かる。勿論、借りた金は返すようにしよう」


「いや、返す必要は無い。俺達は仲間だ。仲間が困っていたら互いに助け合うものだよ」


「アラン殿、かたじけない…」


 食後のお茶も飲み終わったので、クレリアの部屋に集まることにした。その際、セリーナとエルナに艦から持ってきた偽造金貨を持ってきてもらった。


「アラン、よろしいのですか?」とセリーナ。


「問題ないよ。仕事も受けて金は入る予定だ。なんとかなる」


 セリーナ達が持ってきた袋から大金貨をテーブルに取り出していく。全部で大金貨六十枚があった。


「「おお! これは!」」


 どうせなら俺の金も渡しておこう。四日後には六十二万ギニー入る予定だ。旅の準備には十万ギニーも持っていればいいだろう。持っていた五十五万ギニーの内、四十五万ギニーをテーブルに置いた。全部で六百四十五万ギニーだ。これだけあれば暫くはもつだろう。


「アラン、こんなに!?」


「俺達はあまり金は必要ないだろう? 二千人もいるんだから金はいくらあったって足りないはずだ。それに仕事を受けたって言っただろう? 三日後には六十万ギニー以上は手に入る予定さ」


「六十万ギニーも!? 仕事って何をするの?」


「タルスさんに魔道具を作って売るんだよ。三十台も受注できたんだぜ」


「「魔道具!」」


「アラン! その魔道具って私にも作れますか!?」とシャロン。


「あぁ、シャロンなら作れるだろうな」


 シャロンは既に魔道具作製の知識を持っているだろうし、ナノムに手伝ってもらえば魔法陣を描くのも、ただの塗り絵だ。問題なく出来るだろう。


「じゃあ、私もお仕事手伝います!」


「勿論、私も!」


 思わぬところで助手をゲット出来たようだ。三人でかかれば一晩で描けそうだな。


「私も手伝えることがあれば手伝うが…」とクレリア。


「もう助手は十分だよ。では、ロベルト。この金をお持ちください」


「有難うございます、アラン殿。大事に使わせて頂きます」


 六百四十五万ギニーの金があっても、近衛を入れた人数、二千百人で割れば一人三千ギニーくらいだ。暮らしていくには全然足りないだろうな。


「そうだ! 俺達のパーティーで稼いだ金は、みんなのところに送金するようにしたらどうだろう?」


 イーリスからアップデートした知識の中には商業ギルドの知識も含まれていた。商業ギルドには金を預けたり、引き出したりする預金サービスや、遠隔地の商業ギルドに送金するサービスもあった。もっとも送金するには一回あたり五万ギニーという暴利な手数料がかかる。もちろん、送金といっても実際に金貨を送るのではなく、こちらの商業ギルドに金を支払うと、あちらの商業ギルドから金が引き出せるようになるといったものだ。


「それは良い考えだ! アラン! 確かに私達は、余りお金は必要としないだろうし、これから高ランクの冒険者になって、ドンドン稼いでいくようになるのだ。お金は余ることになるだろう。是非、そうしよう!」


 それからロベルトと送金について話し合った。ロベルトはアロイス王国との国境に近いセシリオ王国の街を拠点とするようだ。


 打ち合わせも済んだので、皆で近衛の人達がいる宿に向かった。



 宿ではみんな首を長くして待っていたようだ。昨日の大部屋に全員集まっていた。


「皆の者、姫殿下より御言葉がある。傾聴せよ!」


 ダルシム隊長がそう言うと近衛の人達は、一斉にその場に跪いた。


「皆の者、まずは昨日、言えなかった言葉を言おう。これまで私を探してくれてありがとう。皆に苦労をかけた事は申し訳なく思うが、正直、皆の顔を見れて嬉しかった」


「身に余る御言葉でございます。 姫殿下をお探しすることは我らが使命、礼など不要に御座います」とダルシム隊長。


「皆の忠義、確かに見届けた。知っての通り既にスターヴェーク王国はなく、私はもう王女でもなんでもない。皆はもう十分に責務を果たした。これ以上、私に従う義務はない。故郷で待っている者がいる者もいるだろう。故郷に帰る事を希望する者は、当然のことながら近衛から外れることを許す」


「姫殿下、この場にいる者は既に覚悟を決めた者ばかりです。故郷などとうに捨てました。生涯、姫殿下についてまいります」


「そうか… しかし、セシリオ王国にいる者達は違う考えかもしれない。一人、一人に確認を取ってくれるな?」


「… 畏まりました」


「ロベルトもよいな?」


「承知致しました」


「では、今後の計画の事を話そう。皆の者、我らは新たな国を興す!」


「「「おおっ!」」」


「国を興す拠点は現在準備中で一年後には完成する予定だ。我らは拠点が完成したらそこに移り住み、まずは力を蓄える。


 当然、我らの頭数では国を興すには数が足りない。そこで私達は一時的にこのベルタ王国の貴族になることを目指す。


 貴族になり領民を募れば、仲間の数を増やす事ができる。十分に力をつけたのちに、我らは国として独立し、大陸の覇権を争う事になる」


「「「おおっ!」」」


「当然、簡単な事だとは思っていない。むしろ、完全に無謀で狂気の沙汰だと言っていい。


 しかし私はこの夢に賭けてみることにした。皆もこの夢に賭けてみたいという者のみ、ついてきてほしい。


 私は、生きているうちにスターヴェーク王国を取り戻すつもりだ。


 そうなった時、そなたらは私の最古参の家臣ということになる。最低でも男爵位は固いと思ってもらっていいぞ」


「「「おおっ!」」」


「姫殿下! 私は何処までもお供いたします!」

「私も!」

「やってやりましょう! 姫殿下!」

「うおー! これを待っていたんだ!」


「詳しい事は、ダルシム隊長とロベルトに話した。各自よく考えて今後の事を決めてほしい」


「「「ははっ!」」」


「姫殿下は、このベルタ王国で冒険者として頂点を目指される。我ら近衛はその補佐をしていくことになった。我ら近衛は今日、セシリオ王国に出発し、残りの者を引き連れて、すぐさまこの国に戻る」


「隊長、何人かは姫殿下の警護に付くべきではないでしょうか?」


「いや、セリオ準男爵と共にアラン殿より預かった軍資金を警護する必要がある」


「今後、私に警護など必要はない。警護など必要ないくらいには強くなったつもりでもあるし、警護なしで生きていけないようであれば、私に皆を率いる資格などない」


「「おお!」」


「では、私達は一足先に、魔の大樹海の周辺へと出発する。皆も息災であれ」


「「「ははっ!」」」


 近衛の人達は息を吹き返したようにてきぱきと動き始めた。


 みんな忙しそうなので、俺達は宿を出てタルスさんの屋敷に向かうことにした。


「みんな、気合入っていたな」


「それはそうですよ、最低でも男爵位だ なんて言われたら気合入れるな、なんていうほうが無理です」とエルナ。


「でも、エルナや近衛の人達はみんな貴族なんだろ?」


「貴族と言っても騎士団に入るのは、中級貴族以下の次男、次女より下の生まればかりで貴族位を継げる可能性なんて、まずあり得ませんからね」


「なるほどなぁ、そういうものか。エルナも男爵になりたいのかな?」


「いえ、やはり私は一生、クレリア様のお側にいます」


「遠慮するな、エルナ。エルナなら女伯爵も夢じゃないぞ」とクレリア。


「私はどうせなら、新たに結成されるであろう近衛騎士団の団長を目指します」


「エルナらしいな。欲のないことだ」


 タルスさんの屋敷に着くと丁度ウィリーがいたので声をかけた。


「よう、ウィリー。タルスさんはいるかな?」


「アランさん、お早うございます。居ますよ。少しお待ち下さい」


 タルスさんは直ぐに出てきてくれた。ヨーナスさんもいる。


「これはまたお揃いで。立ち話もなんですから、商談室へどうぞ」


 商談室に案内されて直ぐにお茶が出てきた。いつも直ぐにお茶が出てくるけど、お湯はいつも沸かしているんだろうか?


「初めて見る方もいらっしゃいますな。お仲間ですか?」


「そうです、冒険者の仲間ですね。セリーナとシャロンです」


「シャロンです。よろしくお願いします」

「セリーナです。よろしく」


「実は、急な話で大変申し訳ありませんが、この街を出ることになりまして。御挨拶と相談に来たんです。あぁ、もちろん魔道具の方はお約束通り納品しますし、修理などの保守のほうも魔術ギルドのほうに頼んでおきますので、御心配なさらずに」


 ドライヤーの保守は支部長にお願いするしかないな。この後、行ってお願いしてこよう。


「あぁ、そうなんですね。非常に残念です。理由をお聞きしてもよろしいですか?」


「冒険者として頑張ってみようと思いまして。魔の大樹海のほうに行こうと思っています」


「なるほど。確かに一流の冒険者を目指すならば、あちらでしょうね。それにしても残念です。アランさんには色々とお願いしたいことを考えていたんですが… 」


「願い事ですか? なんでしょうか?」


「いや、アランさんと一緒なら、これまでにない魔道具を一緒に作れそうな気がしてヨーナスと色々考えていたんですよ」


「なるほど、そういうことですね。まぁ、魔の大樹海もそう遠くないことですし、連絡頂けたら考えますし、私も何か思い付いたら御連絡するようにしますよ」


「おお! そうですか! では、落ち着いたら手紙でも頂けると有り難いですな」


「分かりました。そうしましょう」


「それで相談とは何か?」


「今回の話は急に決まったもので、旅の準備が全然出来ていないんです。馬車や馬、旅に必要なもので相談に乗って頂けないかと思いまして」


「そういうことですか、勿論ですとも。アランさん達にはウチの店で色々とお買上げ頂いていますからね。お安い御用です。どのような物が必要ですか?」


「えーと、実は旅の準備をするのは初めてでして。この五人が旅をするのにあったら良さそうなものを一式、選んで頂くことは可能ですか? 馬車や、馬についても全てお任せします」


「勿論です。そういったお客様は意外と多いんですよ。では、明日の朝には店のほうに用意させておきますので、見て頂けますか?」


「有難うございます。助かります」


「アランさん、礼を言うのはこちらの方ですよ。いつも有難うございます」


 スムーズに話がまとまったので、あっという間に要件は済んでしまった。


「それにしても本当に残念です。あのドライヤーという魔道具も増産をお願いしようと思っていたのですよ」


「そうなんですか? でも三十台もあれば、しばらくは問題ないのでは?」


「いえ、タラだけではなく、うちの家内もえらく気に入りましてね。あれならば三十台どころか百台でも売れると大騒ぎですよ」


「そうなんですか。では、この街の魔術ギルドの支部長に相談してみます。技術的には難しくはない物ですから、恐らく私でなくても作れるはずです。このあとに行ってみますから、なんとかなりそうなら明日、店に行った時にでも伝えるようにします」


「おお! そうして頂けると助かります。よろしくお願いします」


 そのあとは、料理の話や、旅の準備などの雑談を少ししてから、タルスさんも忙しいだろうからと引き上げることにした。


「では明日、店に伺います」


「お待ちしています」とヨーナスさん。



「俺はちょっと魔術ギルドに行ってくるよ。みんなは宿に戻っていてくれるかな?」


「魔術ギルド! 私も行ってみたいです」とシャロン。


「私も!」


「いや、魔術ギルドっていっても何も面白いものはないぞ? 受付の女の子と支部長がいるだけだ」


「でも、行ってみたいです!」


「ならば、私達も行こう」


「行っても本当に面白くはないんだけどなぁ」



 魔術ギルドに着いて中に入っても、やはり誰も客はいなかった。


「おはよう、リリー」


「おはようございます! アランさん。支部長ー! アランさんが来ましたよー!」


「もう! リリー、呼びに来なさいと言っているでしょう! おはよう、アラン。あら、今日は大勢ね」


「おはようございます、支部長。実は相談があって来ました」


「そう、じゃあ座って話しましょうか」


 リリーに追加の椅子を持ってきてもらってテーブルで話すことにした。


「実はこの街を三日後に出ることになりました」


「まぁ、そうなの? 確かに前からそういう話だったけど、本当に残念ね」


「お世話になっておきながら、すいません。それで相談というのが、いま作っている魔道具についてなんですが、三十台をタルスさんという雑貨商に納品するんですが納品後の修理などが、もしあったら魔術ギルドにお願いしたいんです」


「タルスさんってこの街の大店(おおだな)の?」


「たぶん、そうですね。この街で手広く商売をしているタルスさんです」


「まぁ! アラン! 貴方そんな大物と知り合いだったの?」


「ええ、まぁ」


「もちろん、修理などの依頼が来たら魔術ギルドで引き受けますよ」


「そうですか、有り難うございます! お礼と言ってはなんですけど、支部長にお納めする予定の魔道具の代金はいりません。その代わりといっては何ですけど、修理などがあった場合は良心的な価格でお願いしたいんですけど、どうでしょうか?」


「アラン、貴方、タルスさんという人が、どういう人か知らないの? あの人に理不尽な事をしたら、この街では暮らしていけないのよ。そんなぼったくるような真似はしません!」


「あぁ、そうなんですね、やっぱり。実は修理だけではなくて支部長には私の代わりに魔道具の製造もお願いしたいんです」


「ええっ!? つまりタルスさんが私と直接取り引きするって事?」


「そうなりますね」


「それが出来れば凄く嬉しいけど… いろいろと商流があるから、タルスさんは納得しないと思うわよ」


「いえ、いま話をしてきたんですけど、タルスさんは乗り気でしたよ?」


「アラン! それ本当!?」


「本当です。タルスさんの屋敷では支部長の作った火の魔道具を使ってました。直接取引はしてなかったんですか? 」


「私なんかが直接取引できる訳ないじゃない! ああ、もし本当に直接取引できたら凄いことよ!」


「では、明日一緒にタルスさんに挨拶に行きましょうか?」


「ちょっと待って! 貴方、そんな簡単にタルスさんに会えるの?」


「… 会えますね。いつも普通にタルスさんの屋敷を訪れてますけど?」


「屋敷に!? 信じられない! ちょっと待って。アラン、貴方が作っている魔道具の事を説明して! 私に修理出来なければ大変な事になるわ」


「簡単な魔道具ですよ。紙と書く物を貸してください」


 リリーに紙とペンと持ってきてもらって簡単な図面をサラサラと書いて支部長に渡した。


「なるほど、確かに簡単な魔道具ですね。これであれば問題ないでしょう」


「タルスさんは、これを百台は欲しいみたいな事を言ってましたよ。あぁ、私が三十台納めるので、あと七十台でしょうか」


「七十台! 卸値が二万ギニーって言ってたわね? すると百四十万ギニー!? あぁ、アラン! 貴方は最高の弟子よ!」


「まだ全然、正式な話ではないですよ! 支部長。あ、でも、これまでにない魔道具も作りたいみたいな話もしていたので、上手くいけば良い感じになるかもしれませんね」


「まぁ、私が一番興味がある話じゃない! 素晴らしいわ! 明日、行くのね? あぁ、どんな服を着ていけばいいのかしら。何か手土産をしたほうがいいかしら?」


「いえ、その服でいいし、手土産も要らないと思いますよ。では、明日の朝にタルスさんの予定を聞いてから問題なければ、こちらに迎えにくるので一緒にタルスさんに会いにいきましょう」


「わかりました。アラン、ありがとう。こんないい話を持ってきてくれて。私が買うと言った魔道具の代金はもちろん支払いますからね」


「そうですか、有り難うございます。ではまた明日来ます」


「よろしくね、アラン」



 俺達は魔術ギルドをあとにした。


「魔術ギルドは面白いことは何もなかっただろう?」


「そうですね。期待外れでした。もっと魔法をいろいろと使っている場所だと思ってました」とシャロン。


「でも、アランが凄い魔道具を作っているというのはわかりました」とセリーナ。


「別に凄い魔道具なんか作ってないよ。作っているのは髪を乾かすドライヤーだぞ?」


「ええ!? そうなんですか? あの絵はなんだか武器のように見えました」


 あぁ、さっき書いた図面か。確かにドライヤーとレーザーガンは似ているな。そういえば、魔道具で武器を作るという発想はなかったな。結構簡単に作れそうな気がするけどな。明日、支部長に聞いてみようかな。


 歩きながらこの後の予定を話し合ったが、旅の準備は明日から本格的におこなうことにして、午後はいつも通り魔法と剣の練習に出掛けることにした。セリーナとシャロンは魔法が見れると知って大喜びだ。




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