040. 資金調達
まずい、まずいぞ! さっきは給与は十倍だ!なんて気前の良いことを言ってしまったが、俺が持っている金は、パーティーの金だった。考えてみれば俺は無一文だ。
二人が一緒に戦ってくれると言ってくれたのが嬉しくて、ついつい大盤振る舞いしてしまった。しかし今更、やっぱり二倍か三倍ぐらいにしてくれなんて言えない。
(ナノム、宙兵隊の給与の等級表を出してくれ)
仮想ウインドウに等級表が表示される。
えーと、准尉は…。おい! 俺とたいして変わらないぐらい貰っているじゃないか! そうか、下士官といっても俺と二つしか階級が違わないんだよな。 あぁ、俺は今は准将か。 えーと、准将は。うーん、将官っていっても意外と貰ってないんだな。まぁ、中尉の給与の倍ぐらいだから、大金といえば大金だ。
えーと、帝国で普通のちゃんとしたホテルに泊まったら、大体一万クレジットぐらいだ。この街では普通の宿が百ギニーだ。
すると 一ギニーが百クレジットとすると、准尉の給与は 三十二万三千クレジットだから三千二百三十ギニーで、その十倍とすると三万二千三百ギニー。 まずい! 二人分で一ヶ月六万四千六百ギニーだ! どうしよう。
そうだ!
(イーリス!)
[はい、艦長]
(俺の給与はどうなっている!?)
[昨日ちゃんと振り込みました]
ステータスを確認すると、確かに振り込まれている。おお! この星に来てからの給与の他に将官昇進の支度金として百万クレジットも振り込まれている、って違う!
(分かっていると思うが、俺はギニーで支給して欲しいんだけどな)
[分かっていると思いますが、そのような現地通貨で給与を支給する規定はありません。偽造貨幣を作るためのような無駄使い出来る資材はもう艦にはありません]
(軍の活動資金が必要なんだけど?)
[セリーナとシャロンに持たせたもので精一杯です。現地調達してください]
(わかった、もういい!)
イーリスに八つ当たりしてもしょうがない。
パーティーの金を借りて魔道具を作って売るしかないだろうな。
俺には何も売れるようなものは無いしな。
ん? 待てよ、折りたたみ可能なペットボトルが三つあったな。俺はもう水には不自由しないし、必要ないだろう。必要になったらセリーナとシャロンがまだ沢山持っているだろうからなんとかなる。
クレリアにペットボトルを見せた時、えらく驚いていたから多分売れるはずだ。ひょっとしたら摩訶不思議な魔道具として売れるかもしれない。ちょっとタルスさんの所に行ってみよう。
お、そういえばドライヤーも持っていってプレゼンしてみようかな。ひょっとしたら大量受注できるかもしれないしな。
セリーナとシャロンは、クレリア達の剣の鍛錬を見学すると言っていたな。ちょっと出かけてこよう。
(セリーナ、シャロン。 ちょっと買い物に出かけてくる。すぐに戻るから)
((わかりました))
まだ、朝も早いからタルスさんは出かけていないだろう。タルスさんとヨーナスさんは、めったに店にはいないので屋敷に向かう。久しぶりにタルスさんの屋敷に来たな。
屋敷の前ではウィリーが屋敷の前を掃き掃除していた。
「おはよう、ウィリー。タルスさんかヨーナスさんは居るかな?」
「アランさん! お早うございます。お二人ともいらっしゃいますよ」
「そうか、じゃヨーナスさんを呼んできてもらっていいか?」
「わかりました」
「お早うございます、アランさん。今日はどのような御用件で?」とヨーナスさん。
「実は見てもらいたい物がありましてね。お時間がありましたら見て頂きたいのですが」
「勿論、見させていただきましょう。旦那様もよろしいですか? アランさんがお見えになったら声を掛けるように言われていますので」
「勿論です。お願いします」
ウィリーに案内されて商談室に入った。すぐにお茶が出てくる。タルスさんとヨーナスさんはすぐに商談室にきた。
「お久しぶりです。タルスさん」
「お久しぶりですね。アランさん。豊穣の食事の噂は聞いていますよ。その噂を聞いた時に、なんで私はアランさんをこの家から出してしまったのだろうと、物凄く後悔しました。今度家族で食事にいこうと話していたところですよ」
「そうですか、確かにレシピはいくつか教えましたが、宿の主人のバースの腕がいいんですよ」
豊穣のような宿は、宿泊だけではなく食事だけでも出来るようになっている。しかし、食事は宿の宿泊客が優先で、食事処よりもかなり高い価格設定になっているので食事だけの客はめったにこないらしいが、タルスさん家族なら余裕だろうな。
「見て頂きたいというのは、こちらになります。ああ、少し水を用意してもらっていいですか?」
折りたたんでフニャフニャになった、ペットボトルをバッグから取り出し、三つの内の一つをタルスさんに渡した。
「ふむ、こんな透明な袋は初めて見ますな。なんだか不思議な手触りです」
「これは私の仲間が手に入れた水を入れる容器です。なんでも遺跡から発掘したと云われているものらしいです」
そう、この星の魔道具は古代の遺跡から発掘されることがあるらしい。魔道具の最高峰のアーティファクトも遺跡から発掘したらしいという情報は手に入れていた。遺跡から発掘されたといえば箔がつくだろう。騙しているようだが、超便利な品で誰も持っていない物であることは間違いないので許してもらおう。それ以外に出処を説明出来ないしな。
そこに水差しにいれた水をウィリーが運んできた。
「それでは、この中に水を入れてみましょう」
フニャフニャのペットボトルの中に水を少しだけ入れると途端に形状記憶素材の機能が働き、ペットボトル本来の形に戻った。大体、二リットルくらいの容量だ。
「おお! これはいったい!?」
「これが本来の姿ですね」
形を取り戻したペットボトルをタルスさんに渡す。
「なんという軽さだ! この薄さ! 透明度はいったい!?」
ヨーナスさんと交互に持ち、あれこれ言っている。他のペットボトルにも少し水を入れてペットボトルの形にした。
「こんな事をしても大丈夫ですよ」
そう言いながらペットボトルを放り投げて床に落とす。
「「ああっ!」」
勿論、帝国品質のペットボトルがこんなことで壊れる訳もない。
「結構丈夫なんですよ。しかし、熱に弱く、尖ったもので突いたり、刃物で斬りつけると脆いらしいですね」
ペットボトルの中の水を水差しに戻す。ペットボトルをよく振って中に残っていた水滴を外に出す。
「こうやって中の水を抜きます。そして力を加えると」
ペットボトルを握りしめていくと、ある点を超えたところで、フニャフニャのビニールのような形に戻った。
「おおっ! これは凄い! 私もやってみていいですか?」
「勿論です。よく水を切ってくださいね」
(この形状変更はどれくらいの回数が可能だ?)
[十万回の耐用試験には合格しているようです]
(本体と蓋の耐用年数は?)
[製造メーカーは半永久と謳っています]
十分だな。
「おおっ! 元に戻った!」
しばらくタルスさんとヨーナスさんは、水を入れたり、出したりして形を変えたりしていた。
「すいません、お待たせしました。それでアランさん、まさかこれを譲ってくださるというお話ですか?」
「そうですね。まぁ、金額が合えばですが」
「おおっ! 少しお待ち下さい」
ヨーナスさんと手話のようなものでやり取りしている。
「お待たせしました。一つ、二十万ギニーでどうでしょうか?」
ええ!? 唯のペットボトルが、一つ二十万ギニー!? うーん、良いんだろうか?
「足りませんか?」
「いいえ、十分です。二十万ギニーでお願いします」
「おお! 有り難うございます。アランさん」
「いいえ、こちらこそ有り難うございます! ちょっと物入りだったんで助かりますよ。それとこちらも見て頂きたいんですが」
俺が作ったドライヤーをバッグから出して見せる。
「これは濡れた髪を乾かす魔道具です。実は魔術ギルドに入りましてね。魔道具作りを学んだんです」
ドライヤーのスイッチを入れて動作させて見せた後にタルスさんに渡す。
「ほう、これは見たことがありませんね」
「ちなみに魔術ギルドのランクは?」とヨーナスさん。
「えーと、Aランクですね」
ギルド証をポケットから出して見せた。
「入ったばかりでAランクになったんですか!?」
「まぁ、たまたまですよ」
「ちょうど今、タラが風呂に入っているので使わせてみていいですか?」とタルスさん。
「ああ、それはいいですね。使い心地がよく分かると思いますよ」
タルスさんは女性従業員を呼ぶとドライヤーの使い方を教え、タラちゃんに使うように指示していた。
「ちなみに先程の容器はいくらぐらいで販売するんですか?」
末端の売値には興味があるし、ひょっとしたら無理して買って貰ったのかもしれない。
「1つあたり四十万ギニー以上で売れなかったら私は商人を辞めますよ」とタルスさん。
良かった。タルスさんもタップリ儲けられそうだ。
あれこれ、料理の事などで雑談していると商談室にタラちゃんが飛び込んできた。
「お父様! これはどうしたの!?」
「これこれ、タラ。アランさんが来ているんだぞ」
「あら、お早うございます。アランさん。それよりもこの魔道具は!?」
「アランさんが作った物だよ。見せて頂いていた物だ」
「お父様、お願い! この魔道具が欲しいの! この髪を見て! こんな髪になったのは初めてよ!」
確かにタラちゃんの髪はふわふわで、癖っ毛でちょっと跳ねていた所が抑えられている。
「それはこれからの商談次第だから、お前は下がっていなさい」
「アランさん、お願いね!」
何をお願いされたんだろう。まぁ、買ってくれるなら嬉しいけど。
「気に入って貰えたようですね」
「いつもはあんな娘では無いんですが… よほど気に入ったようです。この魔道具を売って下さるというお話でよろしいですか?」
「そうですね、もし買って頂けるならばですが。これ一つだけでなく、もし可能であれば幾つか買って頂きたいと思っています。私はこういった物の価格に疎いもので値段を付けてもらえないですか?」
「アランさん。私以外の商人にそんな事を言っては絶対に駄目ですよ」
また、ヨーナスさんと手話をしている。
「魔石抜きの価格で一つ、三万ギニーでは如何ですか?」
いくら何でも高すぎるだろう。これは材料費で一台、千五百ギニーくらいだ。俺の手間賃をいれてもせいぜい二千ギニーくらいだろう。俺の利益を考えても原価の十倍ぐらいが妥当だろうな。
「それでは高すぎですよ。これは構造が単純でしてね。魔石抜きの価格で一つ二万ギニーにしましょう」
「アランさんは魔道具の相場が判っていませんね。本当に二万ギニーでいいんですか?」
構造が単純だけにすぐに真似されるだろう。儲け話は嬉しいが、タルスさん相手にあまりぼったくりたくはない。
「原価は二千ギニーくらいですよ。十分です」
「アランさん。繰り返すようですが私以外の商人に原価を教えてはいけませんよ。… わかりました。二万ギニーにしましょう。いくつぐらい作れるのでしょう? 私は幾つでも買い取りましょう」
「そうですね。三十台でどうでしょう? 納品は五日後です。最初に言っておきますが、時間のある時にしか作れないので定期的な納品を期待されても困るんですが」
「いや、そのほうが新製品を売り出す際には有り難いですよ。希少性が出て高く売れますからね。久しぶりの儲け話になりそうです」
「そうですか、それは良かったです」
「それでは、これが今日の商談の代金です」とヨーナスさん。
大金貨六枚と金貨二枚をヨーナスさんが差し出してきた。ああ、そうかドライヤーは売ることになるのか。見せるだけのつもりだったが、タラちゃんのあの様子じゃ売るしかないな。俺の分はまた作ればいい。そういえば、大金貨は初めて見たな。
「確かに。では五日後にまた納品に伺います」
「よろしくお願いします。アランさん」
タルスさんの屋敷を出て、早速、ドライヤーを作る部材の仕入れに向かう。ドライヤーの構造は単純だ。外注にだしている筐体とスイッチ以外は、耐火性の塗料、魔導液と魔法陣、魔導出力石ぐらいだ。
筐体とスイッチを外注している工房にいき、三十五台分を発注した。注文分と俺とシャロン達の分と三台分は予備だ。俺の二割のコストダウンにも、工房の親方は快く応じてくれた。
次は魔術ギルドだ。耐火性の塗料と各種魔導液と魔法出力石を仕入れなければならない。魔術ギルドは相変わらず誰もいなかった。
「おはよう、リリー。今日は買い物に来たんだ」
「お早うございます、アランさん。支部長ー!アランさんが来ましたよ!」
ああ、そうか、午前中だから支部長は居るんだよな。別に呼ばなくて良かったのに。
「久しぶりですね、アラン」
「お久しぶりです、支部長。今日は買い物に来ました。耐火性の塗料と魔導液と魔法出力石ですね」
リリーに欲しい物を伝えると在庫が置いてある部屋に取りにいった。
「それだけの魔法出力石が必要という事は、売り物ですね?」
「そうですね、簡単な魔道具を作りましてね。商人に見せたら売れそうだと言ってもらえたので、これから作るところです」
「どのような魔道具なのですか?」
どうしよう。ドライヤーに使っている魔法陣の模様は、買っていない応用編の魔導書のものだ。もういいか、一度見ただけで覚えたことにしてしまおう。
「火魔法と風魔法の複合魔法を使った温風を出す魔道具ですね。濡れた髪を乾かす魔道具ですよ」
「やっぱり。アラン、あなたは一度見ただけで魔法陣の模様を覚えてしまったんですね。講習をしている時からそうではないかと思っていました。あなたは講習中もろくに魔導書を見ていなかったでしょう?」
すっかりバレていたようだ。
「そうですね。記憶力はいいほうなんですよ」
「その魔道具は一つ、いくらなんですか?」
「私の卸値は二万ギニーですね」
「まぁ、アラン。少し安すぎるのではないかしら」
「そうですかね? 材料費だけで千五百ギニーぐらいですから、妥当だと思いますよ」
「普通は魔法陣を描くのに一番苦労して、何枚か失敗しながら書き上げるのに、アランはろくに下書きもしないで正確に書けるから、その価格に出来るのかもしれませんね」
そうだな。俺の魔法陣の書き方は、ナノムが表示した仮想の赤い線の内側を塗っていくだけの唯の塗り絵だからな。失敗しようがない。
「アラン、私にも一つ売ってくださいな。どのような物を作ったのか興味があります」
「勿論いいですよ。有り難うございます。女の人には評判がいいので、支部長も気に入ってくれると思いますよ」
リリーが購入品を運んできたので代金を支払った。支部長は売上が上がって嬉しそうだ。
「では五日後に納品にきますので」
「二階の作業場は使わないのですか?」
「構造が単純なので宿で十分なんですよ。でも有り難うございます」
「そうですか。では、楽しみにしています」
筐体とスイッチを外注している工房に、耐火性の塗料を預けて宿に戻る。
よし、今日だけで大体六十万ギニーの儲けだ。ドライヤーを納品すれば、更に六十二万ギニーが入ってくる。これでセリーナ達の給与は、しばらく払うことが出来るな。
宿に戻るとクレリア達は食堂でお茶を飲んでいるところだった。剣の鍛錬は終わったらしい。シャロン達と何か話している。
「おかえりなさい、アラン。いま、クレリアさん達に剣の事について聞いていたんです」
ああ、しまった! 剣のことをすっかり忘れていた! クレリア達がコリント流剣術の話をしていたら最悪だ! シャロン達に俺の妄想癖がバレてしまう。いや、バレるのは時間の問題か。ここは潔く認めてしまったほうがいいだろう。
「私達も剣が欲しいです。あると何かと便利そうなので」とセリーナ。
「エルナさんの話では、剣を持っているだけで変な連中がちょっかいをかけてくることが無くなるそうですよ」とシャロン。
なるほど、護身用というわけか。確かにシャロン達がライフルを持っていてもそれが何か分からなければ、ちょっかいをかけてくる奴はいるだろう。帝国でライフルを持っていれば誰一人近づいてこないのと同じような理由だろう。
「そうだな。じゃあ、午後から二人の剣を買いにいこうか」
「それはいいな、アラン。私も一度、武器を扱っている店を見てみたかった」
ああ、剣は高いのだろうか? 嫌な予感がしてきた。




