004. 調査
食料を調達する調査に出発した。まずは湖の周りを回ってみよう。
この状況で食料として、まず思いつくのは湖にいる魚などの生物だが、いるかどうかも分からないし、当然捕獲する道具なんて持っていない。ライフルで撃てるぐらいの大物がいればいいが、撃った後の回収が面倒そうだ。後回しだな。
やはり植物か。しかし、なんの知識もないのでは難しい。
ナノムに確認すると植物の葉を組織液が出る感じで指でグニグニと潰せば、指に付着した成分からナノムが調べてくれるらしい。
目についた植物の葉を片っ端からグニグニする。
(この惑星の植物から栄養を摂取することは可能か?)
[可能です。しかしこの植物は食用に向きません]
[食用に向きません]
[食用に向きません]
……
[消化・吸収可能です]
おおっ! 試しに口に入れてみると青臭くて超不味かった。慌てて吐き出し、ナノムに食用に向いている時にのみ教えるように指示する。
…………
[食用に適しています]
よし、ついにきた! 葉っぱを食べてみるが不味い。茎を食べてみるが同じ。引っこ抜いてみると根に直径三センチくらいの小さい芋のようなものが付いている。試しに齧ってみると生の芋のような味がした。
美味くはないが、火を通せば変わるかもしれない。よし、今日はこれを集めてみよう。
芋もどきを集める作業に没頭していると三十メートルほど先でウサギのようなネズミのような生物と目があった。相手は固まったように動かない。これは食べられる動物なのだろうか?
可哀想だが俺の糧となってもらおう。
素早くライフルを構えると一撃で仕留めた。近づいてみると五キログラムぐらいはありそうな、ウサギのようなネズミのような生物だった。ウサギにしては耳が小さいし、ネズミにしては耳が大きい。
ライフルでできた傷口に指を突っ込むと[食用に適しています]と判定が出たので持ち帰ることにした。
ネズミウサギと名付けた。ウサギネズミとネズミウサギだったらネズミウサギのほうが気分的には、なんとなく美味そうだ。まぁ、結局モノが一緒なのでどちらでも一緒だ。
芋モドキは二十個くらい集まったし、ネズミウサギも獲れたので今日は岩場に戻ろう。
意外と楽に食料は手に入ったな。これならば、なんとか生きていけるかもしれない。
湖の湖畔で解体してから岩場に戻って調理することにした。ナノムに解体方法を聞きながらナイフで解体した。
ふむ、意外と食べられるところが少ないな。大きめの後ろ足二本と小さい前足二本だけだった。一キロぐらいか? 骨を除くと七百グラムくらいかもしれない。
毛皮も利用すべきだろうか…。今は必要ないし、どうやって使えばいいのかも分からない。勿体無いが捨ててしまおう。
ふと思い出した。
(脱出ポッド、応答しろ)
通信してみるが反応はない。まぁいい、イーリス亡き今となってはヤツに未練はない。
岩場に戻ってネズミウサギ肉の調理の準備を始めた。まずは木を集めなければいけないな。
野外での調理なんてジュニアスクールの時以来だ。なんだかテンションが上ってきた。
燃えそうな木を集めてレーザーガンで火を着けた。
料理は俺の唯一の趣味だ。乗艦中には中々できないが、たまに多目的ルームを借りて料理を作って小隊の皆に御馳走したりしていた。
料理ができない時には、レシピの研究やグルメサイトの情報収集をしている。
骨付き肉を1本ずつ焼いていくのだが、これは大変な作業だった。調理器具が無いとこんなに苦労するものか…。これはもう料理ではなくて火に肉をかざしているだけだ。
木の枝などを利用しつつ、なんとか足を1本焼き上げることができた。
モモ肉にかぶりつくと、ちゃんと火は通っていてチキンに似た味だった。ちょっと肉の臭みはあるが全然許容範囲だ。
だが正直、味は微妙だった。美味いか不味いかと聞かれれば、どちらでもない。不味くはないが、美味いというほどじゃないという感じだろうか。
まず、当然だが塩気がないので肉の味しかしない。解体、薪集め、調理と手間を掛けただけに過剰な期待をしていたのもあるのだろう。
ちょっとでも塩があれば全然変わってくると思うんだけどなぁ。
塩か… 岩塩とかってそこら辺にあるものだろうか?
もう夕方になりかけている。明るい内に調理してしまおう。せっかくなので残りの肉も残らず頂いた。
肉だけで腹一杯になってしまった。採ってきた芋モドキはどうしようか。ふと閃くと消えかかっている焚き火の上に、芋モドキを載せ、上から土を軽く載せる。
これでいい感じに焼けないだろうか? まぁ、ダメで元々だ。
もうすっかり暗くなったので今日は寝てしまおう。
(警戒モード。夜明けに起こしてくれ)
[了解しました]
[夜明けです。起きてください]
ふぁー、今日はよく寝た気分だ。朝日が眩しい。そうだ!
(ナノム1日は何時間だ?)
[約二十四時間です]
これはいい。故郷の惑星と大体同じだった。
調理実験中の芋モドキを見てみる。焦げてるのもあるし、見た目、生っぽいのもある。試しに1つ皮を剥いて食べてみる。
おお、これはなかなかイケる! 焼いた芋の味だ。今日の朝飯はこれだな。
芋モドキを噛りながら、やっぱり塩と調理器具が欲しいなぁと考える。手に入らないと意識すると無性に欲しくなってくる。
今日も食料調達&調査だ。頑張っていこう。
とりあえず昨日の続きで、湖の周りを回ってみることにした。結構デカイ湖で外周は十五キロメートル以上はあるに違いない。獣道のようなものがあるので歩くにはそれほど苦労しなかった。
目新しい植物があれば指でグニグニしていく。
……
[食用に適しています]
おおっ幸先がいい。ただの草に見えるが香りが良いのでハーブの一種だろう。味も悪くない。四、五本抜いてポケットに突っ込む。
湖を半周ぐらいしたくらいだろうか、行く手に小川が見えてきた。考えてみればこれだけの大きさの湖だ。川があって当然のことかもしれない。
川をじっと見つめる。川があるということは、この先はいつかは海へいくはずだ。脱出ポッドで降下してくる際に外部モニターで海があるのは確認していた。
海に行けば、きっと塩があるに違いない。これは検討する必要がありそうだ。
小川を飛び越えて渡った。ナノムに強化された筋肉があれば川幅五メートル程度であれば助走なしでも楽々飛べる。
グニグニしながら歩いていると何十種類目かで食用に適している植物が見つかった。
葉物の野菜のような外観だ。口に入れてみると普通に食べられ、サラダとして使えそうな植物だ。
これも五束くらい採取して無理やりポケットに突っ込む。
しばらく歩いていくと湖の岸でイノシシのような動物が水を飲んでいるのを見つけた。
距離にして四百メートルくらいだろうか。
よし、可哀想だが今日の夕食になってもらおう。残っている保存食はなるべく節約しなきゃいけないしな。
ライフルを構えロックオンする。四百メートルの距離があってもズームをすればなんの問題もない。
結構な大きさに驚きつつライフルのトリガーを引いた。チュンッという発射音がして、遠くでイノシシもどきが倒れた。
近づいてみるとやはり予想以上にデカい。確実に百キログラム以上はある。
知っているイノシシよりも牙がでかく長い。三十センチメートル近くはあり、牙イノシシと言っていいだろう。こんなのに突っ込まれたら死ぬな。
うーむ、ここら辺にこんな危険生物がいたとは、やはり自然は侮れない。
ナノムに食用判定してもらいお墨付きをもらった。
しかし困ったな。こんなに大量の肉を手に入れても冷蔵する手段がない環境では食べきれるわけもない。しかも今の調理環境では骨付き肉くらいしか焼けないしな。
しようがないので後ろ足一本だけナイフで切り取って持っていくことにした。後ろ足一本だけでも十キログラム以上はありそうだ。
ホクホク顔で歩き始め少し離れたところで、バシャっと水音が聞こえた。慌てて振り向くとイノシシが何かに湖に引き込まれるところだった。あの巨大なイノシシが簡単に引き込まれていく。
俺は慌てて湖から距離をとった。
イノシシといい、今の謎生物といい、今まで無事なのは単に運が良かっただけだ。改めて気を引き締めよう。
警戒しながらも、なんとか岩場まで戻ってくることができた。
朝の時点では帰ったら湖で水浴びでもしようと考えていたのだが、あんな光景を見たあとでは大金を積まれても水浴びする気はない。
さすがに二日以上もシャワーを浴びないと気持ち悪くなってくる。どうしたものか…
とりあえず食事にしよう。
さすがに足を丸々一本を火に翳しても中まで火が通らないだろうから、薄くスライスして木の枝で火に翳す。
すぐに焼けたので拾ったハーブの葉を何枚かちぎって、更に同じく拾ったサラダ用野菜で肉とハーブを巻いて食べた。
これは旨い! 肉汁たっぷりで野性味溢れる味だ。相変わらず塩が足りないが、これはこれで有りだ。ハーブと野菜がアクセントになっているな。
夢中で満腹になるまで何枚も食べた。これはかろうじて料理と言っていいだろう。
肉は余ったが明日の分にとっておこう。恐らく明日までであれば悪くはならないだろう。
満腹になって落ち着いたところで今日見た小川、牙イノシシ、湖の謎生物のことを考える。
朝、出発する時点では、水、食料が確保できるという点で、この湖の周辺もそんなに悪い所とも思っていなかったが、実際には結構危険に満ちていた。
小川を辿っていけば、いずれ海にでる。塩、海産物はとても魅力的だった。
しかし、俺はあまりにこの世界を知らなすぎる。知らない場所に闇雲に飛び出せば、あっさり命を落とすかも知れない。
俺は恐らくはこのまま、この惑星でたった一人で生きて死んでゆく。
ネットもない。話し相手もいない。娯楽もない。人生の楽しみ、喜びといったら「食」ぐらいだろう。
そう考えると、ここは冒険してもいいんじゃないかと思えてきた。
人生の唯一の楽しみ、喜びのために命を懸ける。悪くない!
妙にワクワクしてきた。
よし! 川を下り、海を目指そう! こんなところでくすぶってたまるか、冒険だ! 軍人は引退だ。俺は冒険者になる!
そうと決まれば早速、準備だ。明日の朝に出発するとして肉は弁当にしよう。
肉を直接バックパックに入れるのは嫌だったので、なにか肉を包むものは無いか見渡すとやけに幅の広い細長い植物の葉があったので、グニグニしてみる。
[食用に向きません]
(包装用の材料としては問題ないか?)
[問題ありません]
葉を採れるだけ採って、いろいろ試行錯誤してみる。なんとか包みっぽいものができた。編み込むようにするのがポイントだ。
肉はスライスしておく。食あたりが怖いので明日の朝に焼こう。
あとは川に行く途中で芋モドキを採ろう。水は川で汲めばいい。
おおっ! そういえば川でなら水浴びもできそうだ。
あっという間に準備は終わり、いい感じに暗くなってきたので今日はもう寝ることにした。