034. チャーハンと魔法の練習
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宿に戻ると食堂にクレリアとエルナがいた。お茶を飲みながら待っていたようだ。
「待たせたみたいだな。何処かで食事にしてから街の外に向かうか」
クレリアが返事する前にバースが割って入る。
「アラン、外で食事するならウチでなんか作って食べたらどうだ? ほら、お前さん達、今朝パン食っただろ? それで米が余ってるんだよ。昨日の晩のやつもあるしな」
「でも、この宿は昼食は無しだろ?」
「おいおい、俺とお前の仲だろ? そんな水くさい事は言わねぇよ。な、米は余っている事だし、これでなんか作ったらどうだ?」
うーん、バースは今朝のカツサンドで味を占めて、余り物と言えば俺がなんか作って新しい料理を学べると思っているようだ。
しかし、今朝用意してあった米を食べずにパンを食べたのは気が引けるな。余ってる米を無駄にするのも勿体無い。
「分かったよ。なんか作ろう。リア達はそれでいいか?」
「「勿論!」」
早速、厨房にいくと確かに大量の米が余っていた。
「ここら辺じゃ、米の料理ってどんなのがあるんだ?」
「米は、最近広まった新しい食材だからな。米の料理を出してる店ってのは聞いたことないな」
「そうなのか、じゃあチャーハンでも作ろうかな。豪華な食材を使ったやつもあるけど、どちらかというと家庭料理って感じかな。家庭で作る場合は余り物の食材と米を炒めて作る事が多い料理なんだ。簡単だからバースも一緒に並んで作ってみようぜ」
冷蔵の魔道具の中を見て食材を決めた。卵、ビッグボアのロース肉を少々、青ネギ、ガーリック、これだけだ。
味は醤油ガーリック風味に決めた。出汁の類が無いが問題ないだろう。
米は昨晩の残りもあり結構固くなっていたので、ザルに入れて軽く水で洗って水をよく切っておく。
青ネギ、肉を細かく切り、卵は溶いておく。ガーリックはすりおろして、胡椒と共に醤油に混ぜておく。
「これで下準備は完了だな」
「こんな少ない具材だけでいいのか?」
「メインは米だからな。これで十分だよ。油を入れて肉から炒めていこう」
大きなフライパンを二つ用意して、俺の隣の火の魔道具でバースも肉を炒め始めた。
「ここで軽く塩と胡椒だな。次に溶き卵を入れてかき混ぜる。こんな感じだな。
卵が半熟になったら米を入れて、水気が飛んでパラパラになるまでこのまま炒める」
バースは一流の料理人だけあって、ぶっつけ本番でも全然問題ないようだ。
「よし、こんな感じかな。ここでソーイを米じゃなくフライパンに当てるように入れるんだ。
こんな感じで。これでちょっと焦がして香ばしい香りを付ける感じだな。
ここで青ネギと香り付けのゴマ油を加えて。 …… これで完成だ。
これは大皿に盛ってしまおう。味見してみようぜ」
久しぶりのチャーハンだが美味い。ガーリック風味の醤油味で塩加減もいい。米がパラパラになっていて、ほんのり香る醤油の焦げた香ばしい香りとゴマ油がアクセントになっている。
バースが作ったほうも味見してみるが、同じ仕上りで全く問題ない。
「美味いな! これが家庭料理の味なのか。良い料理を教えてもらったぜ」
チャーハンは大量に出来たので、バース家族用にも用意することが出来た。
大皿のチャーハンと皿を食堂に運んで昼食だ。
「これも美味しい! 流石、アランだな」
クレリアが自分の皿に大盛りに盛り始めたので、俺とエルナも急いで自分の皿に確保した。あっという間に完食だ。
「アラン、今日は鎧の調整が出来る日でしょ?」
「ああ、忘れてたよ。そういえばそうだな。じゃあ、ザルクの店に寄ってから出発しよう。鎧も試してみたいからな」
ザルクの店に行くと既に俺達の鎧がカウンター前に置いてあり、準備が出来ているようだった。
「ザルク、鎧を取りにきたぜ」
「とっくに準備は出来てるよ、アラン」
クレリアの鎧は銀色に輝いていた鎧から、どう見ても鉄にしか見えない冴えない鎧に変わっていた。
「どうだ、これ。この色にするのに苦労したんだぜ」
「いいんじゃないか? どう見ても鉄にしか見えない。それになんか雰囲気変わったな」
「当たり前だ。バリバリの冒険者仕様にしたんだからな」
「リア、早速着てみてくれないか? 俺も自分のを着てみよう。ザルク、着方を教えてくれ」
教わって鎧を着ていくが、難しい事はなく簡単で直ぐに一人で着ることが出来た。
「こんなに簡単に着れるのか、この前の鎧とは大違いだな」
体を動かしてみるが、予想以上に動きやすい。あまり重さを感じないし、体の自由を制限するような感じも余りしない。
「調整も問題ないみたいだな。なかなか様になってるぜ、アラン」
クレリアはエルナに手伝って貰って鎧を着ている。やっぱり鎧姿のほうがクレリアはしっくりくるな。
エルナもクレリアが手伝って鎧を着た。流石に近衛騎士だけあって鎧姿が様になっている。
「エルナ、どうだ? その鎧は?」
「凄く軽いし、今までの鎧より全然動きやすいです! サイズもピッタリですね」
「それは良かった。ザルク、上手く調整してくれたみたいだな。またなんかあったら来るよ」
「おう、用がなくても時々メンテナンスをしに来いよ。そのほうが長持ちするからな」
「わかったよ、そうする。じゃ、またな」
店を出て街を出るために門に向う。門に着き何かチェックがあるのかと思ったが、出る時はなんのチェックもしないようだ。
門を出て北の方角に二十分くらい歩いてバースの言っていた岩場が見えてきた。草木が全く生えてないので、ここなら火の魔法でも何でも打ち放題だろうな。
「さぁ、アラン。早速、魔法を教えて欲しい」
クレリアの横でエルナも頷いている。
「教えるっていってもなぁ。俺の魔法の覚え方は知っているだろ? 人に教えられるものじゃないんだよな、っていうか教え方が分からない。ちなみにどんな魔法を覚えたいんだ?」
「一番覚えたいのは探知魔法。あの魔法は凄い、あれが使えるようになれば私はもっと強くなれるはず」
「うーん、気持ちは分かるけど無理だな。あれは俺にしか出来ない」
「そんなの、やってみなければ分からないでしょう?」
頭ごなしに無理だと言っても納得しないか。
「じゃあ、探知魔法の原理を説明するからちょっと聞いてくれ」
それから十分ぐらい掛けて、魔力の性質、探知魔法の原理などを説明していった。
クレリアとエルナの顔が段々と驚愕の表情に変わっていく。
「なにそれ… そんな事出来るわけない…」
「そうだろ? 多分俺は特殊な体質なんだろうな。だから探知魔法は俺にしか出来ないのさ」
「確かにそんな事はアランしか出来ないに違いない。では、いつか河原で見た爆裂魔法を覚えてみたい」
「ええ!? リア様、爆裂魔法ってあの伝説の?」
「そうなの、エルナ。一度だけだけどアランが爆裂魔法を使うのを、この目ではっきりと見たわ」
ああ、ファイヤーグレネードの事だな。あれは危険なのでずっと封印していた魔法だ。爆裂魔法、気になるな。
「爆裂魔法っていうのがあるのか? 伝説っていうと凄い魔法なのか?」
「爆裂魔法を見たことがある者はいないわ。今では存在すら確かではない魔法になっているの」
「そうなのか、残念だな。見てみたかった」
「アランは使えるじゃないの!」
「あの魔法は確かに爆発するけど爆裂魔法と同じとは限らないだろ? まぁ、あの魔法は危険だから封印しているんだよ」
「危険って何で?」
「何しろ爆発するだろ? 破片とか飛んできて自分に当たったり、仲間に当たったりしたら危険じゃないか」
「確かにそうね。 … ではもっと遠くの的を狙う時だけに使うようにすればいいんじゃないかしら?」
確かにそうだ。元々、グレネードはそういう武器だ。近くで使おうとするから危ない。魔法の射程距離が伸ばせるという発想がなかったから危ないと思い込んでいたのか。
遠くの目標を強力に攻撃できる手段は確保しておいたほうがいいな。
「そうだな、ちょっとやってみるか」
さて、何を狙おうか。百メートルくらい先に三メートルくらいの大きな岩がある。あれを狙ってみよう。百メートル離れていれば、危険はないだろう。
ファイヤーグレネードは確かファイヤーボールの三倍くらいの魔力が必要だったはずだ。遠くまで飛ばすにはもっと魔力が必要だろう。とりあえずファイヤーボールの五倍の魔力で試してみる。
(装填してくれ)
仮想ウインドウの隅に [READY×5] が表示された。
ズームして岩が接地している所に照準をつける。グレネードをイメージし、さらに百メートル先まで飛んで行く火の玉をイメージする。
ファイヤーグレネード発射!
矢のようなスピードで火の玉が飛んでいき狙い通りの位置に着弾した。ドーンという音と共に爆発が起こる。
土煙が収まってみると、特に岩に変化は無いようだ。ズームしてみると確かに着弾したあたりは大きく窪みが出来ているが、それだけだった。
ふむ、意外と威力は無いんだな。岩が砕けるとまでは思っていなかったが、期待したほどでは無い。まぁ、ファイヤーボールの五倍の魔力じゃこんなものか。
この威力ではグレネードとは言えないな、もう少し魔力を込めてみよう。ファイヤーボールの十倍だ。
(さっきの倍の魔力をたのむ)
仮想ウインドウの隅に [READY×10] が表示される。
さっきと同じ位置に照準する。イメージも同じだ。
ファイヤーグレネード発射!
先ほどと同じように火の玉が飛んでいき着弾する。先程とは比べ物にならない程の大きな爆音が鳴り響き、振動と軽い衝撃波のようなものを感じた。
土煙が収まると、岩は二つに割れ、着弾位置には直径三メートル程のクレーターが出来ていた。
これならグレネードと呼ぶに相応しい威力だろう。これを使う機会は余り無いだろうが武器は多い方がいい。いい魔法を覚える事が出来た。
振り返って、クレリアとエルナを見ると二人とも唖然とした表情で固まっていた。
「…… アラン、爆裂魔法は覚えるのはまた今度でいい。諦めるつもりは無いけど、今の私に出来るとは思えない」
「リア様が、騎士団でもアランには敵わないと言った理由がよく分かりました」
「確かに、今のクレリアには少し難しいかもしれないな。
この魔法は余り使う機会は無いだろうから、もっと実戦的な魔法を先に学んだほうがいいと思う。
そうだ、クレリアがエルナに教えてやったらどうだ? クレリアは魔導書のやり方も俺のやり方も両方知っているだろ? だから俺がエルナに教えるより、クレリアがエルナに教えてやった方がいいと思うんだよな」
「確かにそうかもしれない。エルナ、私がアランから教えてもらった事を教えよう」
クレリアとエルナが何やら話しだしたので、俺は少し離れた所に行って自分の練習をすることにした。
前からやってみたかった事がある。魔石から魔力を引き出して魔法を使う事が出来ないかと少し前から考えていたのだ。
魔道具は魔石から魔力を引き出して使用している。それは午前中の講習で、どのようにやっているかという事は理解することが出来た。
その事を確かめるために魔石を何個か持ってきている。バッグから魔石を取り出して握った。
(魔石から魔力を引き出す事は出来るか?)
[出来ません]
どうすれば魔力を引き出せるのかな? そういえば、今日の講習で、支部長は魔法が発動してから魔力が引き出され始めると言っていた。魔法が発動中でないと引き出せないのかもしれない。試してみよう。
魔石を手に握りながら、ウォーターの魔法を使ってみる。
ウォーター!
水が俺の前の空間からドボドボと流れ始める。
(この状態で魔力の供給を体内から魔石に切り替えられるか?)
[やってみます]
ウォーターの水が、出たり止まったりを繰り返している。三分間ぐらいその状態が続いたあと、急に水の出方が安定した。
[魔力の供給先の変更の方法が分かりました]
(おおっ! 出来たか!)
[しかし魔力の供給は完全に魔石からではなく、魔石が九十五パーセント、体内が五パーセントの状態です。完全に魔石からの供給とする事は出来ませんでした]
(何故だ?)
[解りません。体内供給分の割合を五パーセント以下にしようとすると魔石からの魔力の供給も止まり始めます]
(今の状態で魔力を体内に取り込む事は可能か?)
[本日の使用した魔力の補給が完了しました]
速いな。つまり体内の魔力が百パーセントの状態になったという事だろう。
(それ以上の魔力の取り込みは可能か?)
[出来ません。理由は不明です]
出来ないものはしょうがない。きっと魔素を一定量以上は体内に取り込む事が出来ないのと同じ理由だろう。
しかし当初の目的は達成した。正にやりたかった事が実現出来た。魔石さえ用意しておけば、かなりの魔法を続けて放つことが出来るようになった。
俺が魔力が百パーセントの状態で使用できる魔法はファイヤーボールで五十発くらいだ。大勢の敵に囲まれた場合、これで十分とは言えないだろう。
あとは魔力を取り込む方法をなんとかすべきだろうな。魔力補給する度にウォーターで周りを水浸しにする訳にはいかない。
ウォーターの魔法を止めた。
補給に使用する魔法は火魔法は問題外だし、風魔法もダメだ。一番良さそうなのは光魔法だろうな。
丁度いいので光魔法が出来るかどうか試してみよう。
ウォーターと同じようにイメージして水ではなく光が空間から現れ、地面を照らす現象をイメージする。
ライト!
ライトの魔法は呆気なく成功した。昼間なので分かりにくいが、強力な光が地面を照らしているのは分かる。
よし、成功だ。何回か練習して問題なく魔法を発動できる事を確認した。
例えば手のひらを光らせる事は出来るだろうか。イメージしてやってみると問題なく手のひらを光らせる事が出来た。
よし、これを補給するための魔法にしよう。魔石を握り、手のひらを光らせる。
(魔力を補給してくれ)
[完了]
(この作業を自動化出来ないか?)
突然、何もしていないのに手のひらが光って消えた。
[自動化可能です]
素晴らしい。あまりイメージを必要としないのでナノムにも可能なのだろう。
後はこのグレイハウンドの魔石にどれくらいの魔力が籠められているかを知る必要があるな。それには体内の魔力を減らす必要がある。
フレイムアローでさっきの岩を狙ってみよう。百メートルの距離だし魔力は通常の二倍くらいは必要だろうか。
試しに二倍の魔力でフレイムアローを放ってみる。
フレイムアロー!
炎の矢は問題なく岩に当たった。
(フレイムアローを連続で岩に放つので、魔力が不足したら魔石から魔力を補給してくれ)
[了解]
魔石を手に握ってフレイムアローの連続発射に備える。仮想ウィンドウには [READY×50] が表示されていた。
フレイムアローを五発同時に発現させ、岩に当てていく。それを九回繰り返した時に手のひらが光って消え、仮想ウィンドウには再び [READY×50] が表示されていた。
続けてフレイムアローを放ち続ける。手のひらが二回光った後、仮想ウィンドウから [READY] の表示が消えた。
[魔石から魔力の補給が出来ませんでした]
手に握った魔石を見ると透明なガラス玉のようになっている。魔力が尽きたという事だろう。
(今日、魔石から補給した魔力量の総量はファイヤーボールの何発分だ?)
[百四十七発分です]
グレイハウンドの魔石には予想以上の魔力量が籠められているようだ。大体、俺の三日分くらいの魔力だ。
魔石を十個も持っていれば相当数の敵でも相手に出来るだろう。
予想以上の収穫にホクホクして後ろを振り返ると、クレリアとエルナがまた、愕然とした表情で固まっていた。いつの間にか俺の後ろに立っていたようだ。
「…… アラン、今のは?」
「フレイムアロー?」
「違う! あの連射は何かと訊いている!」
「ああ、魔石から魔力を抜き取れないかと思ってやってみたんだけど、やってみたら不思議と出来たんだよな」
「ええ!? そんな馬鹿な!」
「そんな事、あり得ません!」
「あり得ないって言ってもな。出来ちゃったし」
その後はクレリアとエルナが大騒ぎして宥めるのにえらく苦労した。
「どうやったかと訊かれてもなぁ、俺もよく解ってないんだよ」
ナノムが試行錯誤してやっと分かった利用方法だ。俺が自分でやろうとしてもきっと出来ないだろう。
「とりあえず分かったことを教えることは出来るよ」
魔法を使いながらであれば、魔石から魔力が引き出せること。魔石から魔力を引き出す場合には自分の魔力も少量使いながらではないと引き出せない事などをクレリア達に教えた。
それからクレリアとエルナは魔石を握りながら二時間以上も色々とやってみているが、やはり上手くいかないようだ。
魔力切れで、もう練習にならないので今日は切り上げて街に戻ろう。
街に入る際には守備隊から変な音を聞かなかったかをしつこく訊かれた。恐らくファイヤーグレネードの爆発音だろう。
大きな音がする魔法の練習は控えたほうが良さそうだ。




