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031. 魔術ギルド入会

誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。



 朝風呂に入った後に部屋でダラダラとしていると、ふとバースが話があると言っていたことを思い出した。


 一階に降りていくと、ちょうどバースが食堂のテーブルを拭いているところだった。


「おはよう、バース。なんか話があるって言っていたよな? なんだ?」


「おう! まぁ座れよ。話ってのは料理のことだ。アランは料理は趣味だって言っていたが料理人だったのか?」


「いや、料理人だったことはないな。趣味でずっと料理をやってたんだ」


「それにしては、なかなかの腕前だったな。若いのに大したもんだ」


「まあ、唯一の趣味だからな。いつも勉強してる」


「で、料理の話だ。俺は昨日、アランの料理を食べて仰天した。世の中にはこんなにも美味い料理があったのかとな」


「そうか? 一昨日、夕食で食べた料理も負けないくらい凄く美味かったぞ」


「いや、あんなもんは高い金をとる宿や食事処の料理人なら誰でも作れる。アランの料理は違った。あれは本当に美味かった」


「珍しい料理を食べたから、そう感じているだけだと思うぞ」


「おい、俺も一人前の料理人のつもりだ。自分の舌には自信がある」


「そうか、そうだな。悪い、失言だった」


 俺もバースの料理と昨日の料理の二択だったら昨日の料理を選ぶ。


「そんなことはどうでもいい。俺は、あの料理を自分のものにしたい。頼む、俺に料理を教えてくれ」


「教えてくれって、昨日横で見てたじゃないか」


「いや、細かいところまでは見れていなかった。


 確かに似たようなものは作れるかもしれないが、コツなんかがよくわからねぇ。


 アランも料理をするから分かると思うが、そうしたコツや小さいことが味の決め手になることが多い。


 俺は昨日の料理を完璧にものにしたいんだ」


 なるほど、確かに料理はそういったことが多いな。厨房を見ればわかるが、バースは何でも完璧にしたい性格のようだ。


「勿論、タダで教えろとは言わないぜ。お前さんたちの宿代をタダにしてやる。前金も返金する。一ヶ月でも二ヶ月でも泊まっていってくれ」


「おいおい、それはさすがにまずいだろ! それは宿の主人としてどうかと思うぞ」


 仮に一ヶ月泊まったとして宿代は二万六千二百五十ギニーだ。


「料理のレシピは料理人の命だ。アランの料理のレシピにはそれだけの価値がある」


 そういえばタルスさんも、たかがプリンのレシピに五千ギニーを払っていたな。


「それにな、できれば他のレシピも教えてほしいんだ。他にもまだあるんだろう?」


 レシピは「地球の料理大全集」の他にも帝国のメジャーな料理のレシピもたくさんある。レシピの数はナノムのメモリー内に一万以上はあるだろう。


「そうだな。たくさんあることはあるけど、この国には俺の国にあった調味料があまり無いんだよ。だからこの国で再現できるのは限られてくるな」


「なるほどな。あのソーイとかいう調味料とかだな。でもあることはあるんだな? 是非、それを教えてくれ」


 この話は受けていいのだろうか? 宿代の負担が無くなるのは正直助かる。


「わかった。教えるのは構わない。だけど教えられるのは俺の手が空いている時だけだぞ。大体、夕方とか夜になると思うけど」


「勿論だ。それ以上は望まねぇよ」


「あとな、前払いした料金は返さなくていい。俺はこの宿を気に入っているんだ。何もかもタダじゃ申し訳なさすぎる」


「わかった。宿を気に入ってくれて嬉しいぜ。そういえば、職業は何をやっているんだ?」


「えーと、冒険者だな」


「ほう、ランクは?」


「Cランクだ」


「おおっ! その若さでCランクとは凄いじゃないか! 俺もな、若い時は冒険者をやっていたんだ。冒険者をやって金を貯めてこの宿を開いたってわけさ」


「そうなのか? ランクは何だったんだ?」


「Aランクだ。凄いだろ? こう見えて昔は結構有名だったんだぞ」


「凄いな! 俺は冒険者になったばかりで分からないことが多いんだ。今は特にないけど、分からないことができたら教えてくれよ」


「いいぜ、何でも聞きな。なったばかりって、いつ頃なったんだ?」


「えーと、三日前だ」


「三日前だと!? 本当になったばかりじゃないか! …… 評価試験でいきなりCランクになったヤツを初めて見たよ。かなりデキるんだな」


「まあな。 じゃあ、早速今晩から料理を教えるよ。材料とかコツなんかも簡単に紙に書いてやるよ」


 それくらいしないと、なんか申し訳ない。


「おおっ、そうか! それはありがたい! よろしく頼む。しかし、仕入は昼間に行ってくるがブラックバードの肉は多分手に入らないな」


 ブラックバードは数が少ないし狩るのが難しいからな。肉は鶏肉なら他のでもいいけど、今日もまた唐揚げとフライか?


「仕入って何時くらいに行くんだ?」


「大体、二時くらいだな。早く行っても新鮮な食材が揃ってないからな」


 市場のようなものだろうか、とても興味深い。仕入というと朝のイメージがあるが、物流が発達していないこの惑星では当然のことかもしれない。


 午後二時くらいなら俺も行ける。魔術ギルドの用事は午前中で片付くだろう。


「なぁ、仕入に俺も付いていっていいか?」


「勿論、いいぞ。そうか! じゃあ、今晩のメニューはアランが決めてくれ。客も今のところ、お前さんたちしかいないしな」


「まぁ、食材次第だな。仕入先は遠いのか?」


「いや、歩いて二十分くらいだな」


 その時、クレリアたちが二階から降りてきた。


「じゃあ、アラン、そういうことで二時くらいにな」


 バースは朝食の準備のために厨房に向かった。


「何が二時くらいなの? アラン」


 さっきバースと話していた内容をクレリアたちに伝えた。


「凄い! これからまたアランの料理が毎日食べられる!」


「毎日じゃないと思うぞ。それに俺の料理じゃなくて、俺が教えたバースの料理だからな」


「でもアランが作ったのと同じ味でしょう?」


「まぁ、そうなるように教えるつもりだよ」



 朝食を食べて一休みすると魔術ギルドに向かい、丁度九時くらいに魔術ギルドに着くことができた。

 ギルドの中に入るとやはり、女の子の受付職員以外は誰もいなかった。


「お待ちしていました。 支部長ー! 昨日話した方々がいらっしゃいましたよー!」


 いきなり女の子が大声で支部長を呼んでいる。普通は呼びにいくもんだけどな。


 すぐにドアが開いて支部長と思われる人が入ってきた。隣の部屋にいたようだ。


 三十代前半くらいの女の人でなかなかの美人だ。結構背が高くエルナぐらいはあるだろう。見事なブロンドの髪だ。


「リリー! こういう時は呼びに来なさい! まったく… ああ、すまなかったわね。君たちが依頼者ね、話は聞いているわ」


「まだ依頼すると決めたわけじゃないですけどね」


「勿論、分かっているわ。私は魔術ギルド ゴタニア支部の支部長のカーラといいます」


「アランです」


「私はリア」


「エルナです」


「リリーです!」


 リリーが受付の中から元気な声で名乗った。


「話が長くなりそうだから座りましょう」


 ギルド内に唯一置かれたテーブルセットに座る。何故かリリーも受付から出てきて座った。


「早速だけど今回の依頼の金額は、こんな感じに設定してみたのだけど」


 そう言いながら一枚の紙をこちらに差し出してきた。


 俺がリクエストした魔法の一覧とその横に金額が書いてある。金額は幅広く、安いもので五百ギニー、高いもので二千ギニーと大きな差がある。


 払えない金額ではないが、魔法を見るだけで二千ギニーは痛いな。


「この金額の差はどういった理由なんですか?」


「使える人が多い魔法は金額が安く、使える人が少ない魔法は高く設定しました。


 魔法を使える人の人数の差は、おおよそ魔導書の価格に比例しています。つまり安い魔導書の魔法は使える人も多く、高い魔導書の魔法は使える人が少ないのです。


 勿論、人気の魔法というものもありますので必ずしも一概に言えないところもありますが大体そんな感じです。


 そして、高い魔導書を買うことができる人は、大抵お金持ちなんですよ。安い依頼料では仕事は受けてくれません」


「なるほど、そういうことですか。この一覧の中ですぐに見られるものはどれくらいあるんですか? あぁ、すぐにというのは数日間のうちにという意味です」


「そうですね、これ、これ、これ、これ、これ、これですね」


 カーラさんはそう言いながら価格表にペンで丸をつけていった。


水魔法

  ウォーターボール 五百ギニー


光魔法

  ライト 五百ギニー

  ライトボール 五百ギニー

  ライトアロー 七百五十ギニー

  ライトウォール 七百五十ギニー

  ヒール 千ギニー


「意外と少ないですね」


「そうですね。


 アランさんが既に知っているファイヤーボールやフレイムアローやウインドカッターは魔法の中でも人気がある魔法なんですよ。

 使い勝手がいいですからね。


 ギルド会員も半数以上がこれらの魔法なんです。ですのでギルド会員の少ないこの街ではこれくらいが精一杯です」


「なるほど、そうなんですね」


 考えてみれば、ウォーターボールというのも、ただのファイヤーボールの水バージョンだろう。魔法を見なくても少し練習すればできそうな気がする。


 そう考えると、この丸を付けた魔法の中でできそうもないのはヒールだけだ。


 自分でなんとかなりそうな魔法を見るために五百ギニーも払うのは馬鹿馬鹿しいな。


「考えたんですけど、この魔法については依頼からキャンセルします」


 そう言いながらカーラさんからペンを借りて、カーラさんの付けた丸の横にバツ印を付けていく。


「チッ」


 え!? 今、この人舌打ちした? 顔を上げるとカーラさんと目が合った。


「何か?」


「いえ、何でもありません」


 今、舌打ちしたとは微塵も思えない穏やかな様子だった。


(今、舌打ちしたよな?)


[はい]


 どうやら見かけ通りの人じゃないみたいだな。


 丸が付いた魔法以外の魔法にも、なんとかできそうな魔法にはバツを付けていく。すると一覧に書いた魔法のうち三分の二くらいの魔法にはバツ印がついてしまった。


「いきなりキャンセルして申し訳ありませんが、考えていたより金額が高かったもので予算的に厳しくなってしまったのです」


「いえ、お気になさらずに。ヒールは近日中に見せることはできますが、他の魔法については使えるギルド会員がこの街に来た時に、という感じになってしまうのですがよろしいですか?」


「そのことなんですが、私たちはこの街の住人ではなくて旅の途中なんです。あと一ヶ月ほどは滞在する予定なんですが、それ以降は未定なんですよ。どうしたものかと考えていたところです」


 多分、冒険者ギルドに掲示した例の依頼に反応があるとしても、最低一ヶ月くらいはかかるだろう。


「それであれば、御依頼の魔法の使い手がこの街に来て依頼が可能になった場合に、こちらから御連絡して、その都度依頼頂くということも可能ですよ。まぁ、こちらの手数料として依頼額の一割は頂くことになりますが」


「ああ、そうしていただくと助かります」


「リリーの話ではギルド会員割引を御希望とか?」


「それも考えていたんですが、今回はギルド会員になるのは止めておきます」


 仮にヒールしか見られない場合は、三人分の入会手数料だけで赤字になってしまう。


「そうですか、残念ですね」


 社交辞令ではなく、カーラさんは本当に残念そうだった。


「それと魔道具についてお聞きしたいんですが、いいですか?」


「勿論です。どのようなことですか?」


「どのような魔道具があるか知りたいんですが、何か資料のようなものはありませんか?」


「勿論ありますよ。リリー」


 リリーが受付のほうにいって一枚の紙を持ってきた。


 見せてもらうと魔道具の名前と簡単な説明と価格が記載された一覧表のようなものだった。


 火の魔道具、冷蔵の魔道具、明かりの魔道具など実に様々な魔道具が載っていたが、昨日考えたミキサーの魔道具はないようだ。


「ちなみに魔道具の作製を依頼すると、どれくらいの金額になるのですか?」


「勿論、機能によって大きく変わります。どのような魔道具をお考えですか?」


「えーと、私は料理が趣味でして具材を手で混ぜるのではなく、魔道具で混ぜられないかと考えているんですよね。魔道具であれば速く楽に混ぜられそうですから」


「料理ですか、その発想は無かったですね。液体に近いものを混ぜるということでしょうか?」


「そうです。具体的には卵とか油とかですね」


「それであれば開発費と試作の費用として六万ギニーくらいかかるでしょう」


「そんなにかかるのですか!?」


「そうですね。過去に前例のない魔道具の場合、どうしても試作を何回も繰り返すことになります。これくらいは頂かないと難しいですね」


「そうですか、残念です」


 ハンドミキサーに六万ギニーじゃ、腕を鍛えたほうがマシだ。


「あとは自分で作れば随分と費用は抑えられますよ」


「ええ!? 自分で魔道具を作ることができるのですか?」


「まぁ、冗談だったんですが作ろうと思えば理論的には作れますよ」


「それは魔道具の作り方を教えてもらえるということですか?」


「ギルド会員になれば教えることはできます。勿論、有料ですが」


「いくらぐらいかかるのですか?」


「基礎魔道具作製講習で五万ギニーです。当然のことですが、この講習を受けたからといって、先程言っていた液体を混ぜる魔道具が作製できるとは限りませんよ。しかし理論的には可能です」


 別にミキサーにこだわっているわけではない。魔道具の仕組み自体に興味がある。五万ギニーは高いが是非とも勉強してみたい!


「リア、俺は… 」


「金のことは気にしなくていい、アラン。やってみたいのだろう? 宿も無料になったのだし何の問題もない。アランの好きにするといい」


「そうか、ありがとう。リア」


「では、その講習をお願いしたいんですが」


「アランさんお一人ですね? では、ギルド会員になるための登録費用として五百ギニー、それと評価試験を受けていただきます。よろしいですか?」


「分かりました」


 銀貨五枚を支払うと、リリーがギルドの規約が書かれた紙を持ってきた。冒険者ギルドのように説明があるわけじゃないんだな。


「では、試験会場に向かいましょう」


 俺がギルド会員になり講習を受けると分かってから、カーラさんはずっと笑顔だ。


 カーラさんと俺たち三人は試験会場に向かった。試験会場とは冒険者ギルドの評価試験をおこなった建物のことらしい。間借りして使っているそうだ。


 冒険者ギルドに着くとカーラさんは受付に何か話し、そのまま評価試験をおこなう部屋に向かった。


「では、あの的に向かってアランさんの知っている全ての魔法を当ててみてください」


 試験内容は、冒険者ギルドの魔法適性の試験と同じようなものだった。


 的の前のラインの所に立つ。手を抜いてやらなきゃいけないのが面倒だよな。


 最初はファイヤーボールだ。えーと、目を瞑って十秒くらい待った後、おっと、腕を構えなきゃいけないな。


 ファイヤーボール、発射!


 火の玉は、問題なく的の中心に当たった。


「えっ!?」


 カーラさんが驚いていた。何かミスったか? しまった! 魔法名をいうのをすっかり忘れていた。今まで言ったことないから全然、頭に無かった。


 特に問題はないようなので続けよう。


 フレイムアロー、エアバレット、ウォーターを、適当に時間をかけながら的に当てていく。


 魔法名を言うのはやめておいた。言わなくても問題ないようだし、なんか恥ずかしかったのだ。


 ウォーターを的に当てた時にまた驚かれた。そういえば、クレリアがウォーターを使った時は水がドボドボと出るだけだったな。

 あれが正解だったのかもしれない。


 ちなみにウインドカッターは止めておいた。エルナが使うような正規のものは使えないからだ。適当に誤魔化すしかない。


「以上です」


「リリーの話では、ウィンドカッターも使えるとのことでしたが?」


「実は今、練習中でして。見栄をはって使えるなどと言ってしまいました。申し訳ありません」


「そうですか、私も使えるのでお教えしてもいいですよ?」


「いえ、お気持ちは嬉しいのですが、自分の力でやってみたいのです」


「分かりました。


 では以上で評価試験は終わりです。正直、驚きました。まさかこれほどの使い手だとは思いませんでした。素晴らしい魔法制御でした。


 若いのにたいしたものです。文句なくBランクとして認定できます」


「え!? いきなりBランクですか?」


「魔術ギルドには冒険者ギルドのように、評価試験のランク付けの上限がCランクというのは無いのですよ」


「そうなんですね。ありがとうございます」


「いえ、私もこれほど才能に溢れた人を魔術ギルドにお迎えできて嬉しいです。アランさん、ようこそ魔術ギルドへ」


「よろしくお願いします」


 その後、魔術ギルドに戻って今後の話をした。


「では、まず依頼の件ですね。ヒールの魔法を見せるということですが、どのようにしたら良いか決めあぐねているのですよ。そう都合よく怪我人は現れませんからね」


「では私がナイフで腕を切るのでそれを治してもらうというのはどうですか?」


「アランさん、ヒールの魔法というのは確かに治療はできますが、完全に傷を治すまではできないのですよ。


 確かに、ちょっとした切り傷や引っかき傷といったものであれば、完全に治すことはできます。


 しかし、お金を頂く以上、どこまで治せるのか、治せないのかを見ていただきたいと思っています」


「なるほど、確かにそのほうがありがたいですね。でも、支部長は治療院でバイトしているんですよね?」


「どっ どうしてそれを!?」


 リリーが無言で席を立ち、奥の部屋に行こうとしていた。


「リリー! 待ちなさい! あなたはこの支部の極秘事項を人に話しましたね!」


「支部長は極秘事項って言いますけど街の人はもう知ってますよ! 私は悪くありません!」


「治療は私がボランティアでやっているということにしてあるんです」


 支部長はリリーの頭を両手の拳で挟んでグリグリしている。


「ギャー、痛いです! ごめんなさい! もう言いません、もう言いませんから!」


「次、言いふらしたらタダじゃおきませんからね」


「わかりました!」


 席に戻って話を続けた。


「そこまで知っているのであれば、しょうがありません。ところで、講習の時間は一日四時間の講習を二十日行う予定ですが、アランさんの都合はいかがですか?」


「可能であれば午前中がいいですね」


「午前中であれば、私も都合がいいです」


「え? 支部長が講習をするんですか?」


「そうです。私は魔法よりも魔道具作製の腕を見込まれて支部長になったんですよ。


 それであれば、講習中にちょうどいい怪我人が来たら連絡をくれるように治療院に言っておきますので、その時に見せることにしましょう。


 結構、頻繁に怪我人は出るので問題はないと思います」


「それはいいですね。あ、それだとリアたちが見れないか… 」


「アラン、私たちはヒールの魔法であれば見たことがあるので別に見なくても構わない」


「そうなのか、ではそれでいきましょう。講習はいつからですか?」


「明日からでも構いませんよ」


「では明日からでお願いします。えーと、時間は?」


「八時からにしましょう」


「了解しました。そういえば、お金を払っていませんでしたね。すみません」


 講習料の金貨五枚と依頼料の大銀貨一枚を渡す。


「確かに。こちらもギルド証のことを忘れていました。アランさんは冒険者なんですよね。ギルド証を貸していただけますか?」


 冒険者ギルド証をポケットから出して渡すと支部長は奥の部屋に持っていってしまった。


 三分くらい待っていると戻ってきてギルド証を渡された。冒険者ギルドのギルド証の裏に、新しく魔術ギルドのマークと刻印がしてあった。


 冒険者ギルド証と同じように登録番号と名前、日付、Bランクと刻印されている。


「これはいいですね。二つ持ち歩かなくて済みます。しかしこの短時間でどうやって?」


「そういう魔道具があるのですよ」


「例えばランクが変わった時はどうするのですか?」


「前の刻印を消して書き換えることができます。なかなか優れた魔道具です。魔術ギルドの技術の結晶なんですよ」


「素晴らしいですね! 一度見てみたいものです」


「残念ながら偽造防止の観点から、この魔道具を見せることはできない規則なんです」


「そうですか、残念ですね」


「では明日、お待ちしています」


「よろしくお願いします」


 俺たちは魔術ギルドを出て宿に向かって歩き出した。


「アラン、さっきウォーターを的に当てた時は肝を冷やしたぞ」


「やっぱりウォーターってああいう魔法じゃないのか?」


「全然違います! 普通は水を出すだけですよ」 とエルナ。


「そうなのか、でも、的に当てろって言われたからなぁ。ま、問題ないだろ。


 バースにレシピを書いてやらなきゃいけないから紙と筆記用具が欲しいんだ。講習に使うかもしれないしな。


 タルスさんの店に寄っていってもいいかな?」


「勿論、構わない」


 タルス雑貨店に行くとヨーナスさんがいた。


「これは、アランさん。いらっしゃいませ。今日は何か?」


「筆記用具と紙を買いたいと思いましてね。置いてますか?」


「もちろんです。こちらの棚になります」


 案内された棚には、色々な種類の羽根ペンと色々なサイズの紙が置いてあった。


「何かお勧めはありますか?」


「それでしたら、これがいいと思います。


 ペンの中にインクが入れられるようになっているんですよ。


 普通の羽根ペンよりも太くて慣れが必要ですが、書くたびにインク壺に浸ける必要がないので非常に便利です。


 新製品で私も使っています。勿論、中のインクが無くなれば入れる手間はありますが」


 これはいい! 羽根ペンは俺には細すぎたし、頻繁にインク壺に浸けなければいけないので非常に使いにくかったのだ。


「これにします。それと補充用のインクとこの大きさの紙を百枚ください」


 ペンとインクで五百ギニー、紙は五百ギニーだった。紙は一枚五ギニーか、想像はしていたがやはり高いな。


 ヨーナスさんに礼を言って店を後にすると、丁度昼になったので先日行った「タリーの店」で昼食にした。


 どうやら食事は日替わりのようで前回とは違ったものが出てきて、これも美味かった。相変わらず量もあってクレリアも大満足だ。


 午後からはバースと仕入にいく。どんなところか非常に楽しみだ。




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