030. 捜索
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五十日前。
艦の再構築を終えて三日が経った。
艦の軌道は安定してきており、もう墜落の危険はない。あとは時間を掛けて軌道を調整すれば完全に安定した軌道に乗ることができるだろう。
艦の修理もメンテナンスボットによって急ピッチで行われていた。既に艦の気密は保たれている。しかし修理箇所が多すぎてメンテナンスボットの数が足りない。各セクションの機能を完全に回復するのには、まだ時間が掛かる。
修理の優先順位は、艦長命令である本艦の戦力維持と航宙軍の戦力維持につながるものが最優先だ。機関セクションを失ってしまったため、主砲、副砲はもう使えない。
しかしまだ光子魚雷が使えるし、副砲ほどではないが強力なレーザー砲が五十二門ある。シールドも長時間でなければ問題ない。全ての姿勢制御用の補助エンジンが復活すれば、バグスのBG-I型巡洋艦ならば五隻は相手にできるはずだ。
艦の修理だけではなく失ってしまった戦力の増強のために積極的に行動する予定で既に計画は作成済みだ。
艦長が乗った脱出ポッドとは一切、通信が取れていない。最初は単なる脱出ポッドの機能障害かと考えていたが、三日も経って艦長とナノムが修理できないことは無いはずだ。恐らく何かあったに違いない。
脱出ポッドには当然の位置を知らせる信号を発するはずだが、射出直後からビーコンの信号は無かった。大気圏を突破しパラシュートが開いたのは確認しているが、その後すぐに雲に隠れて脱出ポッドを見失ってしまった。
なぜビーコンの発信が無かったのか。脱出ポッドの仕様を確認しても特に問題はない。
そこで脱出ポッドの製造元に意識が向いた。オーランド重工株式会社。帝国では性能偽装で問題となっている企業だ。
イーリスは人間ならば嫌な予感と呼ぶ思考に陥っていた。
一基の脱出ポッドを起動してポッドのAIと通信してみると酷いものだった。とても軍用設備に使用するものではなかった。このような不良品が何故今まで発見されずにいたのか。
確かに脱出ポッドの使用頻度は多くはない。バグスとの戦闘では互いの武器が強力なため、中途半端に艦体が破壊されるということがほとんど無いからだ。無傷か爆散するかのどちらかなので脱出ポッドを使う機会はそうそうない。
詳しく調べてみると三年前、オーランド重工が脱出ポッドの市場に新規参入し、新たに開発した脱出ポッドが、イーリスに搭載されている脱出ポッドだった。これでは発見されていないのも納得できた。
AIだけではなく艇体も調べてみる必要がある。
メンテナンスボットの一体を使い、脱出ポッドを解体していく。仕様書とは異なるスペックの素材ばかりだった。よくこれで品質検査を通せたものだ。恐らく検査用のものだけ仕様書通りの素材を使用したのだろう。
そういえば、帝国の検査官との癒着も報道されていた。
幸いにしてパラシュート関連の構造・パーツだけはまともに作られていたため着地自体は問題がないはずだ。
艦長の正確な着地位置が判らないので、最後に確認した位置を元に推定着地地点をシミュレーションしてみる。気象データがないのが悔やまれる。
無風の状態と強風の場合ではかなり着地地点が異なり、捜索範囲は広大なものになった。
現在、偵察ドローンの九割に当たる七十三機を艦長の捜索に当てている。
ドローンから通信で常に呼びかけているが応答はない。
続々とドローンからの情報が入ってきていた。驚くべきことにこの惑星には【人類に連なる者】が繁栄しているようだ。少なくとも外見は人類と全く同じだった。
ドローンの一機が街道沿いに人間と思われる死体を発見した。丁度いい、遺伝子を確認してみよう。
街道はあまり広くはないが、垂直離着陸機であるドローンであれば問題なく着陸できる広さがあった。付近を確認するが他の人類、動物はいない。
ドローンはこの惑星での行動中は常にステルスモードだ。ステルスは電波吸収と光学迷彩を組み合わせた隠密行動用の機能で、視覚に限っていえば、人類がドローンの目の前にいても気付かれないだろう。
死体の側にゆっくりと着陸した。エンジン音は、かなりうるさいので何かに発見された可能性はある。周囲を警戒していたが問題はないようだ。
フレキシブルアームを伸ばして先端のセンサーを死体に触れさせる。死体は間違いなく【人類に連なる者】だった。
そのままアームで死体の近くにあった荷物を漁ってみるが、特に目ぼしい物はなかった。服、食料、硬貨、剣などだ。恐らく旅をしている途中で襲われたのだろう。
荷物からこの惑星のおおよその科学レベルは確認することができたが他に得られる情報はもう無い。
離陸してドローンのAIに制御を渡し捜索を続けさせた。
艦の再構築から十三日後。
まだ、艦長は発見できていなかった。脱出ポッドの大きさから考えてポッドだけでも既に発見できてもいいと言えるくらい捜索は進んでいた。
もっと捜索範囲を広げて捜索することにしよう。
驚いたことにこの星には人類以外にも知的生命体と思われる人型の生命体が数種類、発見された。こんなことは今までに発見された惑星には無かったことだ。知能は人類よりかなり低いようだが非常に興味深い。艦長を発見し余裕ができたら是非研究してみたい。
人類の大都市の調査も少しずつであるが進んでいる。上空から観察できる情報は集められるだけ集めた。
今後はもっと積極的に情報を収集しよう。是非ともこの惑星で使われている言語や習慣、文化を学び、さらなる情報収集をおこないたいところだ。そのことが艦長発見につながるかもしれない。
上空から都市を眺めていると大通りのある建物に人々が入っていき、しばらくすると出てくる。その建物は恐らく食事処か酒場だと思われた。
夜になり暗視センサーで監視を続けていると、店から出てくる人間にふらついている者が出始めた。酒場で間違いないだろう。
これはいい、酒場では誰もが大声で会話し、普段言わないような事をいうものだ。これはどの人類惑星でも同じだった。
閉店時間を確認して明日の夜に店内にビットを打ち込むことにしよう。
ビットとは超小型の情報収集用の監視装置で、五センチメートルの長さで杭のような形状をしている。小型の映像センサーとマイクが付いておりドローンに通信で情報を送ることができる装置だ。
ドローンはこのビットを射出する機能があり、目標に向かって打ち出すことができる。各ドローンは二百発のビットを搭載していた。
翌日の真夜中になりいよいよ作戦開始だ。もうすぐ閉店時間となる。その前にビットを打ち込もう。通りにはまだ人がいるがまばらで店の近くにはいない。ドローンの降下を始めた。
可能な限り迅速にいこう。普段やらないような降下速度で大通りに向かって降下していく。人間が一人、異変に気づいて店から出てきたが、ジェット熱風に煽られ慌てて店の中に戻った。酒場にドアはなく店内の様子は丸見えだ。あの柱の天井との接合部にしよう。
ビットを射出すると狙い通りの所に命中した。ビットが回転し柱の中に潜りこんでいく。ビットの筐体が全て柱の中に隠れ、見えるのは映像センサーの部分だけだった。これならばビットに気付く者はいないだろう。
目的は達成したので上昇していく。直ぐに店の中の様子がドローン経由で送られてきた。真夜中の閉店時間間際だったため、あまり大騒ぎにはならなかったようだ。作戦成功だ。
いきなり通りに甲高いヒューンという音が鳴り響き、突風が吹き始める。突風は店の中にまで入ってきていた。酒場の店主は何事かと通りに飛び出したが、通りは熱風が吹きすさび土埃が舞い上がっていたため、慌てて店の中に戻った。その後、徐々に音は遠ざかり風も収まっていき直ぐに何も聞こえなくなった。先程までの騒ぎが嘘のようだ。
いったいなんだったのだろうと店の主人は頭をひねった。
これと同様の事を主要な都市でおこなっていった。
日々、膨大なデータが集まってくる。サンプルは多いため、言語はすぐに翻訳することができた。都合がいいことにこの大陸では一つの言語しか使われていないようだ。
人々の暮らしぶり、国や町の名前、政治の形態、その他の様々な情報が集まってくる。その膨大なデータを蓄積させていった。
艦の再構築から二十三日経った。仮に艦長が馬や馬車を手に入れていれば、かなり遠くまで行っている可能性がある。捜索範囲は広がり続けている。
ここに至って、艦長は既に艦が存在していないと考えているかもしれないという推論をしてみた。
再構築の際には多くのセクションを投棄したので地表から見ると空一面に落下物が降り注いだことだろう。生命体がいる惑星上に物を投棄するのは重大な軍規違反だ。艦長は、私がそんなことをするはずがないと考え、艦は失われたと勘違いしていても不思議ではない。
この場合、現在が第一級非常事態宣言中だということを失念しているということが前提だ。
軍では不必要なインターフェイスは、セキュリティーの観点から閉じるように教育している。
勿論、これはセキュリティーの守られた艦内や作戦行動中を除いた場合に限る。
特に艦長は通常の士官より艦外に出ることが多いセキュリティー意識の高い宙兵隊の情報士官だった。艦がもう存在しないと考えていれば、習慣で通信インターフェイスを閉じていても不思議ではなく、むしろその方が自然だった。
この推論が成り立つ場合、ドローンが艦長の近くに接近して通信範囲内に入っても、艦長がドローンを認識しない限り通信ができず、そのままドローンが通信範囲外に出てしまうことになる。
これは捜索方針を変える必要があるようだ。
今までは隠密性を第一に捜索をおこなってきたが、艦長にドローンを認識してもらうためにドローンのステルスモードを解除して姿を現す必要が出てきた。
ただし、常に姿を現し、いたずらに人心を惑わすようなことは、この惑星に対する内政干渉に当たるかもしれない。艦長もそれは望まれないに違いない。必要最低限に留めておこう。
また、街道を捜索していると人間が動物に襲われているのを発見することがある。今までは内政干渉に当たると思い不干渉でいたが、今後は手助けをすることにしよう。
ドローンに注目して顔を上げてくれるため、容易に艦長かどうかを確認できるし、助けられた人間はきっと他の人間にそのことを話し、それはやがて噂になるだろう。
その噂が艦長の耳に入るかもしれない。艦長はきっとそれがドローンと考え、通信インターフェイスを開き積極的にドローンを探してくれるに違いない。
主要な都市にも定期的に姿を現すようにしよう。ドローンが現れればきっと騒ぎになり、艦長がその都市にいればドローンを発見してくれるはずだ。
艦の修理は進み、姿勢制御用の補助エンジンは全て回復し、主要な艦の機能もほぼ回復することができた。
戦力増強の計画もいろいろと既に実施している。現在は第一級非常事態中なので多少無茶をしても問題ないだろう。




