029. 魔術ギルドと唐揚げとマヨネーズ
誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
魔術ギルドはすぐ見つかった。冒険者ギルドとは比べ物にならないくらい小さい建物だった。
早速入ってみると冒険者ギルドと同じく受付のようなものがあり、若い女性の職員がいた。他に人は誰もいない。
「いらっしゃいませ! 御依頼ですか?」
「えーと、依頼になるのかどうか、というか魔術ギルドってどんなことをお願いできるのかも知らないんだが」
「はぁ~、そうですよね~。魔術ギルドの認知度ってやっぱりそんなもんですよね。
わかりました。簡単に魔術ギルドについて説明します。
魔術ギルドでは一言でいうと魔術、魔法に関することであれば全部お任せのすごいギルドなんです!
例えば、魔法を覚えたいとか、魔道具作製、魔道具の改良・調整、魔道具の故障の修理、発掘された魔道具の鑑定、魔石の買い取りや販売なんかもやっています。
何か魔力に関するもので困っているならば魔術ギルドに御用命ください!」
「分かりやすいな。それであれば依頼になるのかな? いろいろな魔法を見て勉強したいんだ」
「魔法を覚えたいということですね。何か魔法は使えるんですか?」
「使えるな。火魔法はファイヤーボールとフレイムアロー。風魔法はエアバレットとウインドカッター。水魔法はウォーターが使える」
「すごい! 三属性も!? それなのにまだ魔法を覚えたいんですか? っていうかギルド会員になってください!」
「えーと、ギルド会員になると何か良いことあるのかな?」
「勿論です! ギルド会員になると魔石や魔道具、魔導書の購入が市場価格のなんと! 二割引でできるようになるんです!」
うーん、微妙だ。でも考えようによっては商売することもできるかもしれない。でもそんな面倒なことはしたくないな。
「せっかくだけど、会員になるのは止めておく」
「ちょーっと待った! 他にも色々と特典があるんですよ。例えば魔術ギルドに依頼をする場合も二割引きになるんです! これから依頼をするんであれば会員になっておいたほうが得ですよ」
「確かにそうだな。会員になるのに必要な費用は?」
「銀貨五枚です」
「冒険者ギルドと同じか。そういえば、冒険者ギルドに入っているんだけど問題ないのか?」
「勿論問題ありません。逆にそういう会員のほうが多いですよ。ちなみに冒険者ギルドのランクは? もう長いことやっているんですか?」
「ランクはCランクだな。二日前に冒険者になったばかりだ」
「二日前になったばかりでCランク!? すごい! これは是非とも会員になってもらわなくちゃ! これを逃したら支部長に怒られちゃう」
どうでもいいけど、考えを口に出して言っちゃってる気がするんだけど。
「やっぱりランクとかある?」
「あります。冒険者ギルドと全く同じですね。でも冒険者ギルドみたいに二ヶ月に一度は依頼を受けなきゃランクが下がるなんてことはありません。とっても良心的なギルドなんです。ちなみに強制依頼なんてのもありませんよ」
「ふーん、入っても良さそうだけど何かデメリットはないのか?」
「勿論ありません。会費とかもありませんし。強いていえば魔術ギルドの依頼はとっても少ないので魔術ギルドの依頼だけでは食べていくことはできないことぐらいですね」
「何のために存在しているのか分からないギルドだな」
「しーっ! それは言っちゃいけない禁句ですよ! でも新しい魔法の研究とか魔道具の開発とかもやっていて、世の中にはなくてはならない重要なギルドなんです」
「なるほど、確かにそうかもしれないな。会員になるかどうかは、依頼に幾らぐらい掛かるか分かってからにしたいんだけどいいかな? あまり高いようなら諦めるし」
「了解です! 魔法を覚えたいんですよね? どんな魔法を覚えたいんですか? 予算は幾らぐらいでしょう? というかこれが魔導書の価格表です」
随分とせっかちな女の子だな。魔導書の価格表を提示された。魔導書が欲しいわけじゃないがこれは興味深い。
「ファイヤーボールが八万ギニー!? そんなにするのか!?」
「知らなかったんですか? 昔からずっとこの価格ですよ」
「知らなかった。魔導書ってこんなに高いのか。こんなに高いんだったら誰か複製とか作って売りそうだけどな」
「そんなことをしたらどこの国でも、たちまち死罪ですよ。複製しても、販売しても、購入しても同罪です。魔術ギルドは各国にすごいコネがあるんですから」
「なるほどそういうことか。せっかく見せてもらって悪いけど魔導書が欲しいわけじゃないんだ。魔法を目の前で見せてくれるだけでいい。魔法の説明もしてくれると嬉しいな」
「ええっ!? 魔法を覚えたいんですよね? 見てどうするんですか?」
「まぁ勉強? 魔導書って高いだろ? 買う前に実際に見てから決めたいと思ってね」
今の死罪という話を聞くと、見ただけで魔法を覚えられると判ったらなんか騒ぎになりそうなので適当に誤魔化そう。
「なるほどそういうことですね。分かりました。どの魔法を見たいんですか?」
価格表を見ながら魔法名を挙げていく。
「ちょっと待って! メモをとりますから」
判らない魔法は説明を受けながら魔法名を挙げていった。
「この光魔法のヒールってどういう魔法なんだ?」
「怪我を治す治癒魔法ですね」
「そんな魔法があるのか!? 本当に!?」
「えっ! 治癒魔法、知らなかったんですか!? そっちのほうがビックリです!」
「凄いな! これは是非見てみたい」
結局、知らない魔法全てになってしまった。
「それで幾らぐらいになるんだ?」
「うーん、こんな依頼は無いのでちょっと判らないですね。支部長に確認しておきます。支部長は今、治療院で働いているので居ないんです」
「なんで治療院で働いているんだ?」
「支部長はヒールが使えるので治療院でバイトしているんです。これも支部の売上が悪いせいなんです!」
「… そうなのか、いろいろと大変なんだな。ああ、言っておくけど依頼するかどうかは金額次第だからな。あまり高いようだったら諦める」
「分かりました。こちらもこの魔法を全て見せられるわけではないんです。この街にはギルド会員が少ないので、珍しい魔法は機会があり次第っていう感じになってしまうと思います。勿論、他の街から呼び寄せることもできますけどそれだと高くなってしまうので」
「なるほどな。そんな感じでいいよ。別に急いでいるわけじゃないし」
「では今日の夜にでも支部長に聞いておきます。明日とかって来られますか?」
「来れるよ。何時くらいがいいんだ?」
「午前中であれば支部長がいるんで都合がいいです。ほら、もし会員になるんであれば評価試験とかもできますし」
「やっぱりあるのか。評価試験」
「当然です! それでランクを決めるんですから」
「もし依頼を頼むようだったら私も一緒に見てみたい、エルナも見たいでしょう?」
ここで今まで黙っていたクレリアが初めて口を開いた。
「そうですね、できれば見てみたいです」
「じゃ、そうしよう。別に構わないよな? 手間は一緒だし」
「えーと、でもギルド会員割引を使うんであればちょっと不味いですね。会員じゃない人が混じると割引が使えないんです」
「そうか。じゃあ二人共会員になったほうがいいかもな」
「ええっ!? もしかしてそちらのお二人も魔法が使えるんですか?」
「使えるよ」
「おおっ! 大量会員ゲットのチャンス! 支部長に確認しておきます!」
「じゃあ、明日の九時くらいでいいかな?」
「はい!大丈夫です。お待ちしています」
俺達は魔術ギルドを後にして宿に戻ることにした。
「魔法を見て覚えられるっていうのは、やっぱり秘密にしたほうがいいよな?」
「確かに。魔術ギルドに知られると少し不味いような気がする」
「いえ、絶対に不味いに決まっています。間違いなく大騒ぎになると思いますよ」
「やっぱりそうだよな。危ないところだった。会員になるとしても評価試験では手を抜いたほうがいいな」
「アランの本気の魔法を見せたらSランクは間違いないんだけど惜しいな」
「別にギルドのランクなんてどうでもいいさ。それよりも夕食はどんな料理が食べたい?」
「なんでもいいけど… そうだ! アランの国の料理がいいな」
「俺の国の料理か、何にしようかな」
やはり帝国でいま大流行中の地球料理がいいだろうな。鶏肉の料理で良さそうなのは…
あれこれと考えていたら宿についてしまった。
部屋から調味料を持ってきて、さっそく料理を始めたい旨を伝えた。厨房にそんなに人は入れないので、クレリア達は食堂で茶でも飲んで待っていてもらう。
厨房に案内されていくとオヤジがブラックバードを切っているところだった。
「下拵えなんかしてもらって悪いな。俺はアランだ。よろしくな」
「こんなの大した手間じゃない。俺はバースだ。それで何を作るんだ?」
「今日は俺の国の料理をいろいろと作ってみようかと思ってね。おおっ、綺麗に捌いてくれたんだな。さすがはプロの料理人だな」
肉は既に部位毎に綺麗に切られていた。スジなども取ってある。おおっ、白レバーだ。
まずは道具の確認だ。火の魔道具はタルスさんの屋敷で見たものと全く同じだった。タルスさんの系列店で買ったのかもしれない。
真新しい冷蔵の魔道具もある。お、すりおろし器もあるな。いろいろな大きさの木製のボウルみたいなのもある。フライパン、鍋などタルスさんの屋敷以上の道具が揃っていた。なるほど美味い飯が出てくるわけだ。
冷蔵の魔道具の中には各種野菜も揃っていた。
調味料も確認する。大体、タルスさんの店にあったものが多い。
「おおっ! これは! かつお節か!?」
「それが何か知っているのか? 実はそれ、ウチに泊まった常連の商人の客から安く買ったんだが使い方が判らなくてな。その商人も知らなかったんだよ。質流れの品だったらしい。しょうがないんで、たまに削ってふり掛けて使っているんだ」
ナイフで少し削って食べてみる。うん、形は違うが、ほぼ、かつお節だ。
「まぁ大体それで合っているな。別の使い方に煮込んで旨みを取るって調理法もあるんだ。これ量はあるのか?」
「箱一杯にあるな」
「素晴らしい! 良かったら後で少し分けてくれ。勿論金は払うぞ」
「別に構わねえが…」
「野菜とか卵とか使ってもいいか?」
「好きにしな。どうせお前さんたちに食わせるはずだった物だ」
「そうか、じゃ遠慮なく使わせてもらうよ」
「俺も見てるだけじゃ暇だから、なんかあれば手伝ってやるぞ」
「じゃあ、早速だがこのかつお節を削ってくれないか? 薄ければ薄いほどいい」
「そんなのお安い御用だ」
「そういえば、バースの家族の分も作っていいのか? 食べるだろ?」
「美味かったらな。ウチの女共は変に舌が肥えているんだよ」
「よし、任せておけよ」
このかつお節を見てメニューは決まった。地球料理の日本という地方の料理で統一しよう。
メニューは、もも肉の唐揚げ、胸肉・ささみのフライ、白レバーの刺身、そうか今日は米だったな。時間があれば親子丼も作りたいな。肉ばかりだとエルナが可哀想なのでサラダも作ろう。それとかつおだしのお吸い物だ。
まずは唐揚げの下準備から始めよう。
もも肉を一口大に切ってボウルに入れていく。肉は全部使ってしまおう! 余った時は明日食べればいい。大量だな。
ジンジャーもどきをすりおろし器ですりおろしていく。ガーリックもどきも同様だ。すりおろしたものは肉の入ったボウルに入れていく。ガーリックをたっぷり入れるのが俺流かな。
ここで俺が買った醤油に似た調味料だ。ソーイだったかな? これはこの厨房には無かった。
「それは何だ?」
「ソーイという調味料だよ。タルス雑貨店ってあるだろう? あそこで買ったんだ。味見してみるか?」
小皿にソーイを垂らしてバースに渡す。
「なかなか味わい深いな。俺も買ってみよう」
「結構高かったぜ、この樽で大銀貨一枚だった。ああ、削るのはそれくらいでいいよ」
「随分と高いな。少し考えよう」
もも肉はよく混ぜてタレに暫く漬け込んでおこう。本当は料理酒も入れたかったが無いものはしょうがない。フォークでザックリと突き刺して味が馴染むように穴を開けておく。
かつお節が削れたのでダシを取ることにした。
鍋に水を入れて火にかける。待っている間にパン粉を作ろう。昨日の残り物とのことでいい感じに固くなっている。
「このパンをすりおろし器で削ってくれないか?」
「何に使うんだ? そんなもの」
「まぁ見てろって」
俺はむね肉とささみをフライに合うように切っていく。これも大量だ。これもボウルに入れてガーリックと醤油のタレで漬け込んでおく。タルタルソースで頂くので薄味だ。
火にかけていた鍋が沸いたので、かつお節を入れて煮出していく。沸騰させないようにするのがポイントだな。
次はマヨネーズ作りかな。おっと先に一応、卵が生食可能か確認しておこう。卵を一つ割ってみると帝国のマーケットで売っているのと同じように見える。泡だて器のようなものがあったのでそれで軽く混ぜて、指を突っ込んでナノムに確認してもらう。
[生食は可能です]
よし、問題はなさそうだな。
おっと鍋のほうはもういいかな。漉し器で別の鍋にだし汁を移す。小皿で味見してみると、とてもいい出汁が取れていた。
「旨みが取れたぞ、味見してみろよ」
バースにも味見させてみた。
「これは!? たったこれだけのことでこの味か?」
「後でまた味付けするけどな」
マヨネーズ作りを続けよう。まずは卵、砂糖、塩、酢、粉末状のハーブを大きなボウルに入れてよく混ぜる。タルタルソースにも使うので大量だ。
少しずつ油を加えながら泡立て器でひたすら混ぜていく。ナノムで強化した腕がもう動かないというくらいになった時にやっと完成した。
俺だから作ることができたが、やっぱりマヨネーズを作るにはミキサーの類が必要だな。ミキサーのような魔道具はないのだろうか。明日訊いてみよう。
美味い! やっぱりマヨネーズは手作りに限るな。
これもバースに味見させてみる。
「これは美味い! なんだこのソースは!?」
「だろ? これは国でも大人気のソースなんだよ。肉でも野菜でも何にでも合うからな」
おっと、タルタルソースに使う卵を茹でておこう。
よし、お吸い物を仕上げてしまうか。冷蔵の魔道具に椎茸のようなキノコがあったので、シンプルにキノコだけのお吸い物だ。具がメインではなく主役はあくまでも汁にしたい。
キノコを薄く切って、少量の醤油もどきと塩を加え温め直す。味付けはこれだけで十分だ。煮立ったら完成だ。味見してみるとカツオの出汁とキノコから出た出汁が上手くマッチングしている。これは美味い!
バースにも味見させてみる。
「美味い! 美味いぞ! こんなシンプルな料理なのに、いや、シンプルだからか!」
ゆで卵ができたので、タルタルソースを作っていく。冷蔵の魔道具で見つけた玉ねぎのような野菜をみじん切りにして、細かく潰したゆで卵、マヨネーズ、塩、胡椒とよく混ぜれば完成だ。
「味見させてくれ! …… あぁ、このソースも美味いな」
バースはマヨネーズの魔力に捕まってしまったようだ。うん、これも美味い。
「そういえば、今日は米なんだろう?」
「あとどれくらいで料理は完成なんだ? 米は炊きたてが美味いからな。もう米は洗って水に浸けてある」
「さすがにわかってるな。そうだな、あと一時間くらいかな」
「それに合わせて炊くようにしよう」
サラダを作っておくか。
「サラダを作ろうと思うんだが、お勧めの野菜はある?」
「そうだな、サラダならこれとこれとこれの組み合わせがいいんじゃないか?」
葉物野菜、玉ねぎに似たもの、そしてトマトのような野菜だった。トマトがあったとは… すっかり見逃していた。
葉物野菜、トマトをザックリと切り、玉ねぎモドキは透けてみえるくらいの薄切りだ。大き目のボウルに盛り付けていく。
バースの家族用にも作った。これは冷蔵の魔道具で冷やしておこう。
次は、白レバーの刺し身だな。
レバーを薄く切って器に盛り付けていく。これもバースの家族用を用意した。
そういえば、レバーの生食についてはウイルスや寄生虫が問題になると聞いたことがあるな。
(このレバーはウイルスや寄生虫については問題ないのか?)
[存在は確認できません]
(そうか、今後、生食をする場合には全て確認するようにしてくれ)
[了解]
食べ方はタルスさんの店で見つけた胡麻油にそっくりな油に、塩、ガーリックをすりおろしたものを加えたものにつけて頂く。
早速、味見してみる。美味い!やっぱりレバーはこの食べ方が一番だな。
「おい、生で食べるのか!?」
「新鮮なものなら大丈夫だぞ? まぁ胃腸が弱い人は食べないほうがいいかもしれないな。味見してみろよ」
「美味い! まさかこんな食べ方があったなんて… 」
「まぁ、これだけ美味いのは白いレバーだからだな。白くないレバーはここまで旨くない」
これも冷蔵の魔道具で冷やしておこう。
そろそろ、揚げ物に取りかかろう。唐揚げでも使うので大量の溶き卵を作る。浸けていたボウルに小麦粉をまぶし、溶き卵を絡めてパン粉の衣を付けていく。これはバースにも手伝ってもらった。
唐揚げにも小麦粉、溶き卵を入れてよく混ぜる。本当は片栗粉のほうが好みなんだが、無いものはしようがない。
「これは焼くのか? どんな料理になるのか想像もつかないぜ」
「油で揚げるのさ。そういう料理方法ってないのか?」
「揚げる? どこかの国でそんな料理があるっていうのは聞いたことがあるが、ここらへんでは聞いたことないな」
深めの大きなフライパンにタルス雑貨店で買った油をドボドボと入れていく。この小さな樽で銀貨一枚くらいだ。
「おいおい、大丈夫なのか。そんなに油をいれて」
「この料理方法は大量の油を使ったほうが上手くいくんだよ。少なくてもできないことはないんだけどな」
油が温まったので試しに少しだけフライと唐揚げを揚げて味見してみよう。
どちらもキレイなきつね色に揚がった。唐揚げはそのままで、フライはタルタルソースを付けてバースと味見してみる。
「やっぱり揚げ物は揚げたてが最高だな」
唐揚げはジューシーで肉汁が溢れ出てくる。ガーリック風味がアクセントになっているな。
ささみのフライはカラッと揚がっていて、サクッとした食感も最高だ。自家製タルタルソースによく合っている。
「う、美味い! なんだこの料理は!?」
「だろ? これは国でも人気のメニューなのさ」
この後、バースと手分けして唐揚げとフライを揚げた。やはり凄い量になってしまった。これは親子丼はつくれないな。とてもではないが食べきれない。
お吸い物も揚げている最中に別の火の魔道具で温め直している。
冷蔵の魔道具には柑橘系の実もあったのでそれを切って揚げ物に添える。これで完成だ。
丁度、バースが火にかけていた米も炊きあがったようだ。結構な時間がかかったが食事にしよう。
バースと一緒に食堂のクレリア達のところへ料理を運んでいく。
「待たせたな。料理ができたので食事にしよう。バース、手伝ってもらって悪かったな。助かったよ」
「別にいい。アラン、話があるんで明日、時間作ってくれ」
「… わかった。別にいつでもいいぞ」
「よし、熱いうちが一番美味い料理なんだ。早速頂こう」
「これがアランの国の料理か! なんとも不思議な料理だな」
「今日は俺の国の日本って地方の料理で統一してみたんだ。口に合うといいんだけどな」
まずはお吸い物から頂こう。うん、やっぱり美味い。きのこだけの具にして正解だな。それを見てクレリアとエルナもお吸い物から手を付ける。
「美味い! なんなのだこのスープは! もの凄く洗練された味に感じる」
「気に入ってもらって嬉しいよ。この揚げ物はこのソースをつけて食べてくれ。サラダはこっちのソースだな」
揚げ物に柑橘系の実を絞ってかける。唐揚げとフライを皿にとって食べてみた。
やはり美味いな。やっぱり日本食は最高だ。いつかは寿司も作ってみたいな。海までは遠いのだろうか。
「これも美味い! 今までアランの作った料理の中でこれが一番美味しい。さすがアランだ」
「このサラダも凄く美味しいです! こんなソースは初めてです!」
クレリアは唐揚げがお気に入りのようだ。エルナもマヨネーズの虜にされたな。
しばらく、みんな無言で食事を続ける。そういえばエールも飲みたいな。
宿の女の子がカウンターに居たので手を挙げて注文する。
「ウチの分まで料理を作ってもらってありがとうございます! さっき、つまみ食いしてきたんですけど、もの凄く美味しかったです」
「できれば温かいうちに食べてもらいたいんだけどな。仕事じゃしょうがないか。エールを一つ頼む。リアたちは酒は?」
「私はいらない」
「私もいりません」
みんな食べるのに夢中だ。
「エールの他は酒はもういらないから食事してきたらどうだ? 客が来たら俺が教えてやるよ」
「分かりました! 直ぐに持ってきます!」
大分腹も落ち着いてきたので白レバーをつまみにエールを飲む。バースの米の炊き方は最高だな。ああ、卵かけご飯にすればよかった。今度頼んでみよう。
なんとリアたちはあれだけあった料理を完食してしまった。俺も結構食べたけどクレリアの食べっぷりは凄まじかった。
「美味しかった! アランの国の料理はこんなにも美味いのだな。食べ過ぎたかもしれない」
「本当に美味しかったです。こんな美味しい食事は初めてです」
「気に入ってもらってよかった。作った甲斐があるよ」
宿の女の子も食べ終わったようで、凄く美味しかったと絶賛してくれた。片付けは任せてくれというので遠慮なくお願いした。
満腹になった俺たちは風呂に入って直ぐに寝てしまった。




