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027. 宿「豊穣」



 俺とクレリアとエルナとウィリーは、荷物を置くために最初に宿に行ってみることにした。


「宿が満室だったらどうしようかな」


 もう一軒ぐらい訊いておけばよかった。


「行くのは高級宿の『豊穣』ですよね? 一杯になることはまず無いですよ」 とウィリー。


「そうなのか? いい宿なんだろ?」


「いい宿ですけど、貴族の団体客でも来ない限り満室になることはありません。多分ガラガラだと思いますよ」


「そういうもんか。まぁ人が一杯いるよりガラガラのほうがいいな」


 『豊穣』は繁華街に近い一角にあった。早速入ってみる。


「いらっしゃいませ!」


 勢い良く声を掛けてきたのはまだ子供といっていい女の子だった。年は十四歳くらいだろうか。なかなか可愛い顔をしている。


「宿を頼みたいんだが、一人部屋で三部屋だ」


「アラン、私はエルナと同じ部屋でいい」


「私もそのほうが安心できます」 とエルナ。


「そうなのか? じゃあ、一人部屋一つと二人部屋が一つだ。空いているか?」


「勿論、空いています。一人部屋が一晩、五百ギニーで、二人部屋が一晩、七百五十ギニーになります」


「長期滞在だと安くなったりするのか?」


「そうですね、二週間分の前払いで二割引き、一月分の前払いで三割引になります。その代わり返金はできません」


 予定は未定だからな。とりあえず二週間分にしておこうか。


「とりあえず、二週間分で頼む」


 一万四千ギニーだな。やはり高級宿というだけあって高い。なにか金を稼ぐ手段を考えないと直ぐに行き詰まりそうだ。


 宿の従業員の女の子はなにやら一生懸命考えている。あまり計算が得意ではないようだ。

 その時、宿の奥から女将のような人がやってきた。なんとなく女の子に似ている。


「全くこの子はお客様を待たせて何をしているの。申し訳ありません、お客様。一万四千ギニーになります」


「いいんですよ。では、これを」


 金を支払う。やはり女の子は女将の娘のようだ。


「食事は朝と夜にお出しします。朝食は六時から十時まで、夕食も六時から十時までになります。お風呂はいつ入って貰っても構いません」


 おお!風呂にいつ入ってもいいっていうのはいいな。特に質問も無かったので部屋に案内してもらう。


「すみませんでした、お客様。お部屋に案内します」


 ウィリーに待っていてもらい、女の子の案内で部屋にいく。案内された部屋は二階で、クレリアたちの隣だった。部屋は十分に広く清潔感があってさすが、高級宿と言わせる部屋だった。荷物を置いて鍵を閉める。鍵は持っていていいようだ。

 クレリアたちも直ぐに降りてきたので、出かける旨を伝えて宿をあとにした。


「昼飯にしようか? ウィリー、どこか美味い飯が食べられる店を知らないか? 勿論、ウィリーも奢ってやるぞ」


「えっ、いいんですか? じゃあ、すぐそこにある『タリーの店』がいいと思いますよ。そんなに高くないし、美味しくて量もたっぷりです」


 量が多いのはクレリア好みだな。クレリアたちも異存はないようだし、ここにしよう。初めての外食なので非常に楽しみだ。


 店に入り店員に案内されて席に座る。


「食事は、肉定食か魚定食、単品での注文はあちらの壁にある通りです」 と店員。


 壁には木札かいくつか掛かっており、料理名と値段が書いてある。


「魚があるのか!じゃ、俺は魚定食で」


「僕は肉定食、大盛りで」

「… 私も肉定食、大盛りで」

「私は魚定食で」


 しばらく待つと料理が運ばれてきた。

 魚定食は、大きな切り身の魚の干物を焼いたものだ。これはサーモンもどきかもしれないな。そしてなによりも目を引いたのは米、ライスだった。


「おおっ! これは!」


「アランさん、**が好きなんですか?」 とウィリー。


 単語は分からなかったが、これは間違いなく米だろう。


「パンより断然好きだな。今までこの国で見かけなかったから無いものだと思ってた」


「米はここ数年で増えてきた食材ですからね。なんでもここの主人の実家が米を作っているそうで、この店ではパンではなく米が出てきます」


 ライスが大盛りの干物の焼き魚定食だ。サラダのようなものも付いている。これは美味そうだ。


 クレリアとウィリーの肉定食はさすが大盛りということもあり、ライスも肉野菜炒めのようなものも大盛りだ。美味そうだが俺にはちょっと多いな。


「… リア様、そんなにお召し上がりになるのですか?」


 エルナはクレリアの大食いを見るのは初めてらしい。


「このくらいの量であれば何の問題もない」


 クレリアは何故か自慢気だ。確かにこのくらいの量であればクレリアには朝飯前だろう。


 定食は久しぶりに魚を食べるし、脂がのっていてとても美味かった。クレリアたちも満足できたようだ。ちなみに定食の値段は、普通盛りも大盛りも同じく大銅貨二枚だった。美味いし、この店は今後も贔屓にしよう。


 食事を終え、タルスさんの店に向かうと意外に近く五分くらいで着いた。


「アランさんですね、ようこそいらっしゃいました。話は聞いております」


 既に俺のことが伝えられていたようで、さっそく調味料関係を見せてもらう。


 タルスさんが自慢する通り各種様々な調味料が揃っている。端から店員に説明してもらって味見していく。これはと思った物は片っ端から買い物カゴに入れていった。


「おおっ! これは!」


 見た目と味は地球産の醤油に似た調味料だ。若干、塩味が薄いような気もするが全然許容範囲だ。


「御存知なのですか? これはソーイといって遥か東方の国で作っているものです」


「俺の国でも同じような物があってね。これはこの樽ごと買うことは可能か?」


「勿論です。しかしそれだけで大銀貨一枚ですよ?」


「いいさ。それだけの価値はある」


 小さな樽で大銀貨一枚は確かに高いがこれで料理の幅は大いに広がる。醤油があるのだから味噌もあるかと思って探したがなかった。

 結局、全部で二千五百十ギニーも使ってしまったが、今日だけでかなりの収穫に大満足だ。


 買った物は宿に届けてくれるらしいので、遠慮なく頼んだ。


「さて、俺の用事は済んでしまったな。リアたちはなんか買いたい物はないのか?」


「私は特にはないな。エルナは何かあるか?」


「私も特にありません」


「じゃあ、ちょっと街をブラブラしてみようぜ。買い食いとかもやりたかったんだよな」


「おおっ、それはいいな! 私もやってみたかった!」


 さすがにブラブラするのにウィリーを付き合わせては悪いのでウィリーは店に帰した。


 それから街をあてもなく店をひやかしながら歩き、美味しそうな屋台があれば買い食いしてみた。焼き鳥のようなものや、パンに挟んで食べるようなものもあったが、味はまぁまぁといった感じで特にこれは美味いというものはなかった。ちなみに屋台料理の価格は銅貨五枚から十枚だ。


 なんか俺とクレリアは期待はずれ感が一杯で、繁華街を一通り回って宿に帰った。


「なんか買い食いはイマイチだったな、リア」


「確かに……。宿の食事に期待しよう」


 それぞれの部屋で一休みしていると夕食の時間になった。クレリアたちと食堂にいくと客は商人らしきグループ一組だけだった。やはり宿はガラガラらしい。


「夕食のメニューは魚料理か肉料理から選べます。ちなみにおかわりは自由ですよ」


 宿の女の子の説明によると、なんとおかわり自由らしい。クレリアがとても嬉しそうだ。昼に魚を食べたので肉料理にしよう。


「じゃ、俺は肉料理で」

「私は魚料理大盛りで」

「私は肉料理で」


 クレリアは大盛りという言葉が気に入ったようだ。大盛りにしなくてもおかわり自由なんだからと思うが、好きにさせておこう。


 せっかくだから酒も飲んでみたい。


「酒はどういうものがあるんだ?」


「エールと赤ワイン、白ワインですね。ちなみにお酒は宿代とは別料金ですよ」


 この世界に来て酒はワインしか飲んだ事がないのでエールとやらを頼んでみよう。


「じゃ、俺はエールで。リアたちは?」


「私は白ワインがいい」

「私も白ワインをお願いします」


 直ぐに料理と酒が運ばれてきた。宿の女の子が給仕をしている。

 エールとは地球のビールのようなものらしい。料理も高級宿らしく昼間のものより洒落ていて美味そうだ。


 おっと酒代はその場で支払うのか。エール、ワインは一杯十ギニーだった。


「おお!冷えていて美味いな、これは」


 エールは地球の気の抜けたビールのような味だが、よく冷えていて美味い。


「やっとウチも冷蔵の魔道具を買えたんですよ」と宿の女の子。


「そうなのか。その魔道具って高いんだろ?」


「そうですね、ここだけの話ですけど、なんと金貨三十枚もしたんですよ」


 三十万ギニーか、高くてとてもではないが個人では買えないな。


「確かに高いな。でもこれだけ酒が美味くなるんだから、きっと直ぐに元は取れるさ」


「そうだといいんですけど…」


 肉料理は、大ぶりの肉のステーキだ。ガーリックもどきのチップが載っていて美味そうだ。多分この肉はビッグボアだな。焼き立てのパンも付いている。


「うーん、美味い! 絶妙の焼き加減だし、味付けも文句なしだな」


「アラン、こっちの魚料理も美味いぞ」


 クレリアの魚料理は大きなマスのような魚の塩焼きが三匹だ。大盛りだから三匹なのだろうか。柑橘系の実が付いているのでさっぱりと頂く料理だろう。


「それも美味そうだな。俺も後で食べてみよう」


「アランの魔法の学習について考えてみたのだけど、魔術ギルドに行ってみたらどうだろうか」 とリア。


「魔術ギルドなんてものがあるのか、それは興味深いな。どんなことをするギルドなんだ?」


「私にもよく分からない。今まで関わることがなかったから… その前にこの街にあるかどうかも判らない。大きな都市ならば間違いなくあるのだが。エルナは何か知っているか?」


「私もよく知りません」


 かなりマイナーなギルドのようだ。この街の人間ならば知っているかもしれない。手を挙げて宿の女の子を呼んでみた。


「この街に魔術ギルドってあるか知っている?」


「魔術ギルドはありますよ。小さな支部みたいですけど。店を右に出て十五分くらい歩いたところの右側にあります」


「そうか、ありがとう。エールのおかわりと魚を一匹だけ焼いてもらうことってできる?」


「勿論、できますよ」


「私は肉料理を大盛りで」


 既にクレリアは魚料理を完食していた。


「ええと… 肉料理大盛りですね。わかりました」


「じゃ、明日の依頼が早く終わったら魔術ギルドにいってみるのもいいかもな」


「では、そうしよう」


 俺たちは料理を満喫して食事を終えた。


 さて、風呂はどんな感じだろうか。早速入ってみよう。

 当然だが風呂は男女別だった。タルスさんの屋敷ほどではないけど、なかなか広い風呂だ。


 おお、ちゃんと石鹸もあるな。いつでも入れるっていうのは嬉しいし、貸し切り状態なので最高だ。

 すっかり堪能してまた、長風呂をしてしまった。


 まだ時間は早いが今日はもう寝てしまおう。




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[一言] なんだか料理が美味しそうでお腹が空きますね!クレリアの底なしの胃袋に期待します。
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