019. 護衛2
誤字、脱字、御指摘、感想 等もらえると嬉しいです。
[夜明けです。起きてください]
よし、今日も一日頑張っていくか!
タラス村を出発して二十日が過ぎた。ここまでの旅は何の問題もなく順調だ。勿論、魔獣には何回か襲われた。
グレイハウンドに二回、そしてあの緑色の背の低い人型の魔獣にも一度襲われた。ゴブリンというらしい。奴らは六体で現れ、相変わらずグキャグキャ言いながら襲ってきたが、危険度としてはグレイハウンドよりも低い。まとめて俺のホーミング・フレイムアローの練習台になってもらった。
途中、村にも二回ほど寄って泊めてもらった。ベックが顔見知りということもあり、それなりに歓迎された。村の規模としてはタラス村と同じようなものだ。
ここまで来ると幾つかの街道と交わり、他の旅人とすれ違ったり、追い抜くことも多くなった。相手は商人や冒険者だ。
クレリアとベックによると、冒険者というのは、護衛や、害獣の駆除、必要な物資の採取、傭兵などをおこなう職業とのことだ。冒険とはあまり関係がないのではと指摘すると、確かにそうだが何故か冒険者と云われているということだ。
なんでも冒険者にはランク制度があり、上級ランク者はそれなりの尊敬を集める存在だとのこと。俺も食うのに困ったら冒険者になるのもいいかもしれないな。
ベックたちも起きてきた。
「お早うございます。師匠、アランさん」
ベックとトールはクレリアのことを師匠と呼ぶようになっていた。クレリアも満更でもないようだ。
「おはよう」
ベックとトールの剣の腕は日々上達している。といっても毎日二時間くらいの鍛錬なのでそれなりではあるが、ゴブリンくらいであれば、一人二体ぐらいは同時に相手できるのではないだろうか。流石にグレイハウンドは厳しいだろう。
最近では実戦編としてビッグボア相手にどう戦うかというのをクレリアと一緒に教えている。
しかし、二人共自分の剣を持っていないので街に着いたら剣を買ってあげられたらいいなと考えている。そう思えるくらいベックとトールとは仲良くなった。剣はどれくらいの金で買えるのだろうか。クレリアに訊いても知らなかった。
朝飯を食べて出発だ。ベックによると今日の夕方にはゴタニアの街に着くというので非常に楽しみだ。
出発して五時間ほど経って、そろそろ昼食の時間かなと思っていた頃に探知に一つの反応があった。この反応は人間だ。旅人だろうか、動いてはいない。
二百メートルまで近づき、そろそろ見えるかなと思ったところで、その人間は動き出し馬車からは離れる方向に移動していく。
なんだろうか? 気になって探知対象を小動物以上から人間レベルに上げて設定して探知してみる。探知対象をより大きなものに設定すると探知範囲を広げることができた。
すると、千五百メートルほど先に十二人の人間の反応があった。先程の一人の人間はその十二人の方へ向かっている。
うーむ、これは怪しい。まるで十二人のほうへ報告に向かっているように思えた。これはひょっとしてザックが言っていた盗賊ではないだろうか。
「リア、千五百メートル先に十三人。盗賊かもしれない」
「ええっ!? そんな先のことも分かるの?」
そうか、探知魔法のことはあまり話していなかったな。
「分かるよ。どうしようか?」
「今更、引き返すわけにはいかない。アランと私なら十三人くらい相手できる」
確かにそうだ。魔法を使っても問題ないだろうし、ライフルを使えば間違いなく勝てる。
「まだ盗賊と決まったわけじゃないけどな。そういえば、盗賊って問答無用で殺しても問題ないのか?」
さすがに不味いような気がする。
「いいんじゃないの? 悪党だし」
うーん、クレリアに訊いたのが間違いだった。
「ベック! 馬車を止めてくれ!」
ベックにこの先に盗賊がいるかも知れないことを告げる。ベックとトールは大慌てだ。
「盗賊って問答無用で殺しても問題ないのか?」
「いやいやいやいや、アランさん! 十三人でしょ!? なんで人数が判ったか知りませんが、十三人相手に敵うわけないじゃないですか!」
「いや、多分勝てると思うぞ。というか相手に俺かリア以上の魔法の使い手がいなければ間違いなく勝てる」
「そんなっ! 確かに僕も魔法が使える冒険者を見てきましたがアランさんと師匠以上に魔法が凄い人は見たことがありません。それでも十三人ですよ? 本当に勝てるんですか?」
「勝てるな。それで盗賊って問答無用で殺しても問題ないのか?」
「うーん、本当かなぁ。ちなみに証拠や証人がいれば、盗賊を殺しても罪には問われることはありません。ただ、盗賊を生きたまま守備隊に突き出せば褒賞金を貰えるって聞いたことがあります」
「そうか、金になるのか」
金は必要だ。これは迂闊には殺せなくなったな。一人いくらになるんだろう。
俺が考え込んでいるのを見てベックが慌てる。
「ちょっと、本当に戦うつもりですか?」
「大丈夫だよ、お前たちの師匠を信じろ。褒賞金で村のみんなにお土産でも買おうぜ」
「ベック、やってみようぜ! 師匠たちなら大丈夫だ」
トールがお土産に釣られてこちら側に寝返った。
「うーん…… 分かりました。やってみましょう」
「大丈夫だ。おれはザックに約束した。お前たちだけは間違いなく守る」
やってみることになった。
そのまま馬車を走らせていく。まずは盗賊だということを確認しなければならない。間違えて襲いかかればこちらが盗賊になってしまう。
「あと二百メートル」
距離を知らせていく。俺とクレリアは御者台の直ぐ後ろの荷物に座っている。
注意すべきは弓矢や投げナイフなどの飛び道具、あとは魔法だ。弓矢や投げナイフはライフルで確実に撃ち落とせる。魔法は難しいかもしれないな。
ズームしてみる。隠れているつもりだろうが木の上に二人いる。その他は隠れていて見えない。
「あと百メートル。木の上に二人いる」
「あと五十メートル。俺が攻撃するまで攻撃するな」
「十メートル」
クレリアが腕を上げて構えている。
いきなり道を塞ぐようにバラバラと男たちが街道に現れた。前に七人、後ろに四人だ。木の上の二人は弓を構えているようだ。
「お前たちは何者だ!」
荷物の上に立って誰何した。もう分かっているがお約束だ。
「お頭! あの女を見てください! 極上ですぜ!」
俺の質問に答えずになにやら仲間内の会話をしているのにイラッとする。
「そうだな、生娘なら高く売れるだろう」
この会話でブチ切れそうになる。いや、奴らは金になる。堪えろ。
「お前たちは何者だと訊いている!」
ああ切れそうだ。
「見てわかんねぇのか、馬鹿! 盗賊ってやつだよ!」下っ端が答えた。
その瞬間、俺の周りに十三本の炎の矢が現れ、一斉に盗賊たちに向かって飛翔していく。すかさず木の上の弓を構えた二人にライフルを向ける。そのうちの一人が慌てたように矢を放った。
チュンッとライフルの発射音が聞こえ、放った矢を消し炭に変える。もう一人にライフルを向けるが、既に肩をフレイムアローに貫かれて木から落ちる途中だ。矢を放った男も同様に木から落ち始めた。
他の盗賊たちにライフルを向けるがみんな右肩をフレイムアローに貫かれてのた打ち回っている。終わりだった。
「リア! 奴らを武装解除しろ!」
馬車から飛び降りてクレリアに叫んだ。
クレリアは呆然としていたが、声を掛けられて馬車から飛び降りた。
武装解除は何の問題もなかった。奴らの剣や槍、弓矢を一箇所に集めた後、奴らを蹴飛ばして一箇所に集める。本気で蹴飛ばせば人間でも五メートルくらい飛ぶもんだ。奴らを蹴飛ばして少しだけ怒りが収まってきた。
「上手くいったな」
皆に声を掛ける。
「アランさん! 凄すぎる! 半端ないっす!」
御者台で呆然としていたベックがトールと一緒に大騒ぎだ。
おおっそうだ!
「ベック、トール。そこにある剣、好きなの選んでいいぞ」
盗賊の武器を指差す。
「やった! 剣だ! トール、急げ!」
御者台から飛び降りている。別に急がなくてもいいと思うけど。
「アラン、その武器…。飛んでいる矢を撃ち落とすなんて、すごい武器なのね!」
「まあな、俺の切り札だからな」
「魔法も凄かった。今度教えて」
うーん、クレリアにできるようになるかな。おっと、常識に囚われてはだめだ。為せば成るだな。
「わかった。今度な」
付近に探知の反応はない。ベックとトールは剣を振ったりして、剣を選ぶのに大忙しだ。
盗賊のところに近づいていくと、盗賊たちも痛みが収まってきたようで座って呆然としている奴もいる。炎の矢だから、あまり血は流れないだろう。
「よう! お前ら。気分はどうだ」
「くそっ! お前、こんなことして、ただじゃ済まないぞ!」
お頭らしき髭面の大男が文句を言っている。
「どう済まないっていうんだ?」
純粋に疑問だ。なにか言い分があるのだろうか。
「とっ、とにかくこのまま立ち去れば勘弁してやってもいいぞ! 武器はお前たちにやってもいい!」
なんだ、ただの馬鹿か。
「お前ら金目の物を出せ。その金額によっては考えてやってもいいぞ。当然、金を出した奴だけだ」
勿論、考えるだけだけどな。
手下たちが一斉に自分のポケットを弄っている。
「おっ、俺はアジトに全部置いてきちまって持ってないんだ!」
手下の一人が言いだした。ほう、アジトがあるのか。これは興味深い。
他の手下共が挙ってポケットに入っていた金を差し出している。銅貨や銀貨ばかりだ。
「おいおい、そんな端金じゃ褒賞金のほうが高いじゃないか。その金額じゃ見逃すことはできないな。分かるだろ?」
褒賞金の金額は知らないが適当なことを言ってみる。それでも奴らは納得顔だった。
「まぁ、俺もこう見えて話の分かる男だ。アジトにあるものを見て考えてやるよ。トータルでみて得ならお前ら全員のこと、考えてやってもいい」
勿論、考えるだけだ。
「おい! お前ら! ブッ」
お頭がなにか言い出したので頭を蹴って黙らせる。気絶したようだ。死んでないよな? まぁどっちだっていいか。
「それでアジトはどこにあるんだ?」
手下共が、一斉に指差して騒ぎ始めた。
手を挙げて黙らせる。
「そこのお前、代表して答えろ」
一番近くにいた手下を指差す。
「アジトはあっちの方向に五キロぐらい行った所にあるゴブリンの巣穴跡です!」
うへぇ そんな所かよ。行きたくないなぁ。
「人数は?」
「留守番が二人。商人を一人、捕まえてあります」
「間違いないか?」
他の手下共に訊く。みんな頷いて同意した。
「そうか、その商人もちゃんと査定に加えてやるから安心しろ」
なるべく望みがあるよう思わせておこう。その方が大人しくしているに違いない。
「やった! その商人は大店の店主らしいです。どうやって身代金をとるか考えていたとこでした」
手下の一人が言いだした。また興味深い情報だな。
「そうか、じゃ期待できるな」
こいつらは俺をなんだと思っているんだ? 同じ盗賊にでも見えるというのだろうか。
「リア、俺はちょっとアジトまで行ってくる」
クレリアは心配そうな顔をしている。おいおい、俺の演技に騙されているんじゃないだろうな。
「大丈夫だ。すぐ帰ってくる」
「ベック、トール。こいつらの後ろに立って剣を構えるんだ。ピクリとでも動いたら叩き斬れ。試し斬りする良い機会だぞ。こんな機会は滅多にないからな」
「「はい!」」
ワクワクしているのが伝わってくる。本当に斬りそうだな。
「リア、奴らが少しでも動いたら魔法で焼いてやれ。容赦するな。あとを頼むぞ」
「わかった」
これだけ言っておけば盗賊たちは大人しくしているだろう。急いで行ってこよう。
(長距離走行モードだ)
[了解]
山の中に分け入り、走り始めた。
ゴブリンの巣穴跡はすぐに見つかった。探知魔法に人間の反応が三つ、間違いないだろう。近づいていく。
洞窟のような穴の入口に二人の男が立って何やら話をしている。これは都合がいい。どうやって人質を解放するか考えていたのが馬鹿らしくなった。
普通に歩いて近づいていく。向こうが気づいたようだ。
「よう! お前ら盗賊か?」
近づきながら声を掛ける。声をかけてやっと俺に気づいたようだ。
「何者だ!?」
「だから、お前ら盗賊か?」
「そこで止まれ!」
ああ、もう面倒だな。
フレイムアローを放って二人の右肩を貫いた。痛みにのたうち回っている。さっきのお頭と同じように頭を蹴って気を失わせた。放っておこう。
巣穴に入ってみると、思ったより不潔ではないようだ。なんの匂いもしない。探知の反応に向かって進んでいく。
所々、壁に穴が空いていて日の光が入ってきている。ちゃんと採光を考えて作られているようだ。いくつも部屋のようなものがあるが、ほとんど空で、何か置いてあってもガラクタのようなものがあるだけだ。
商人はすぐに見つかった。一番奥の部屋に手と足を縛られて横になっている。中年の男だ。五十歳くらいだろうか? どことなく教養がありそうな顔をしている。話しかけてみよう。
「信じられないかもしれませんが、私は盗賊ではありません。盗賊共に貴方のことを聞いて助けにきました」
「ああ、助かった! … 盗賊共の顔は一人残らず覚えているので盗賊でないのは分かりますよ。冒険者の方ですか?」
「いえ、冒険者ではありませんが、ある商隊の護衛をしています。そこを盗賊共に襲われましてね。撃退して捕まえたらアジトに貴方がいることを喋りだしたので助けにきました」
縛られているロープをナイフで切りながら伝えた。
「それはわざわざありがとうございます! このお礼は必ずします」
縛られていた手足を擦りながら商人が言う。
「いえ、助けにきたのは本当ですが、盗賊共の所持品に興味がありましてね。どちらかというとそちらが本当の理由です」
「あはは、正直な方だ。それはそうでしょう。私でもそう思いますよ。紹介が遅れました、私は雑貨商のタルスといいます」
「アランといいます。よろしくお願いします」
部屋を見回す。色々な物が乱雑に積まれている。馬車二台分くらいだろうか。ぱっと見て分かるのは服、剣、槍などだ。正直、もっとお宝的なものがあるものだと期待していただけにがっかりだ。
「ここの荷物は貴方の物ですか?」
「ほとんどがそうですね。私が運んでいたものです。ああ、金目のものはそこの箱の中に入っていますよ」
タルスさんが小さめの箱を指差す。
「この箱も貴方のものですか?」
「その箱は違います。しかし私の持っていた金も入っていると思いますが」
なるほど貴金属入れということか。金属で補強された頑丈そうな箱で鍵が付いているようだ。
「あの…、盗賊の持ち物は全て討伐した者のものですよ。法で決められた正当な報酬です」
なんと! それは知らなかった。では、ここにあるものは全て俺のものなのか?
「開けてもいいですか?」
「貴方のものです。しかし、鍵の在り処は私にも分かりません」
電磁ブレードナイフを取り出し、開けるのに邪魔になりそうな金属の部分を全て切っていった。
「凄い! 魔道具ですか!?」
「そうですね」
箱を開けると大小の色々な金がたくさん入っている。といってもほとんどが銅貨や銀貨だ。金貨はまばらだ。あと宝石がたくさん付いたナイフのようなものがある。やっとお宝っぽい物が出てきたよ。
よし、金の価値は分からないが、これだけあればしばらく暮らしていくのに問題はないだろう。
「このナイフは貴方の持ち物ですか?」
「違いますね。なかなか良さそうな品に見えます」
良かった。いくら今は俺の物だといっても元の持ち主だったら後味が悪い。
「この箱以外のここにある荷物は全て貴方にお返しします」
「いいのですか? 売れば結構な金になりますよ」
「構いません。私にはこの箱だけで十分です。売るツテもないですからね」
「それではさっきも言った通り十分なお礼をさせていただきます」
「いえ、お気になさらず。ところで貴方の共の者は?」
「従業員一人と冒険者五人だったんですが全て殺されました。古くから付き合いのあった人たちだったんですが」
「盗賊共にはきっちり罪を償わせましょう。タルスさんの馬車は?」
「荷物だけ盗って打ち捨てられました。馬は既に金に変えたようです」
「困ったな。私達の馬車は荷で一杯なのです。これらの荷を運べそうにありません。」
「それであれば後日回収することにします。この山の中であれば恐らく問題ないでしょう」
「そうですか、分かりました」
じゃあ撤収だ。もうここに用はない。
こんなこともあろうかと採取バッグは持ってきてある。バッグの中に箱の中の金をぶちまけた。結構な重さだ。宝石ナイフもバッグに入れる。
お、大量のロープのようなものが荷の中にあるな。これで盗賊共を縛ろうかな。
「これで盗賊共を縛ろうと思うんですけど使ってもいいですか?」
「勿論ですよ、遠慮なく使ってください。盗賊共は何人くらい生きているんですか?」
「えーと、十五人ですね。たぶん」
さっき蹴った奴らは死んでないだろうな。
「えっ、十五人全部生け捕りにしたのですか!?」
「一人か二人は死んでるかもしれません。ところで褒賞金が出ると聞いたのですが、どれくらい出るか知っていますか?」
「たしか、死体で二千ギニー、***にできるくらい元気が良ければ五千ギニーだったはずです」
知らない単語が出てきた。言語アップデートしても判らない。元気な盗賊をなにかにするらしい。まぁ生かしたほうがいいと分かれば十分だ。
死体で大銀貨二枚、生け捕りで大銀貨五枚か。相場が判らないのでなんとも言えないな。
「それでは私たちの馬車に行きましょうか。仲間が待っています。なにか持っていくものはありますか?」
「それでは」
そう言うと剣と幾つかの品物をバッグに入れて持っていくようだ。
巣穴から出ると盗賊二人はまだ気絶している。結局、蹴ったりして目を覚まさせるのに十分くらい掛かった。
盗賊二人に前を歩かせ、剣を抜いてあとからついていく。タルスさんに襲われた時の状況を聞いた。
三日前、休憩中にいきなり矢を射かけられ、あっという間に制圧されてしまったらしい。なんでも新たな販路の開拓で出かけていて、店があるゴタニアに戻る途中だったとのことだ。
やっと馬車の所まで戻ってくることができた。
「アラン!」
クレリアが駆け寄ってくる。
「何も問題はなかったか?」
見れば問題がないのは判ったが一応だ。
「大丈夫。この人は?」
「商人のタルスさんだ。捕まっていたのを助けてきた」
タルスさんはクレリアを見てびっくりしている。
「雑貨商のタルスと申します。お見知り置きを」
そう言うとクレリアに一礼している。俺の時と随分態度が違うな。
盗賊のほうに向かう。お頭はもう目を覚ましていた。斬られた者はいなかったので、ベックとトールは試し斬りすることはできなかったようだ。
「あー、諸君。残念ながらアジトでは大したものを見つけることはできなかった。なので、諸君にはこれからゴタニアに行ってもらう」
盗賊共に向かって言う。
「嘘だ! あの商人から金をせしめる気だ! 汚えぞ!」 手下の一人が言う。
盗賊風情にそんなことを言われる筋合いはない。
「黙れ! お前ら、俺の魔法の腕はよく知っているな! 少しでも抵抗したら脳天に矢を突き立ててやる! 死体でも褒賞金は出るからな。俺はどちらでも構わない」
「ベック、トール。二人一組でこのロープで盗賊共を一人ずつ後ろ手に縛り上げろ。多少血が止まっても構わないからキツく縛るんだぞ」
「分かりました!」
「あぁ、そうだ。金を巻き上げるのを忘れるなよ」
「リア、二人の警護をしてくれないか?」
「わかった」
「すいません、タルスさん。少しお待ちいただけますか?」
「勿論です。こいつらが小突き回されるのを見るのは、なによりの光景ですよ。ところで盗賊は皆、肩を怪我しているようですが?」
「そうですね、私の魔法です」
「全員、同じ箇所を?」
「ええ、こう見えて私は魔法が結構得意なんですよ」
タルスさんはなんだか納得がいかないようだ。
「ところで、あの騎士様はいったい?」
「ああ、彼女ですか。私は彼女の従士みたいなもんでしてね」
タルスさんが俺を変な目で見てきた。うーん、確かに俺のほうがクレリアを使っているようだよな。ま、いいか。
「あの騎士様は**ですよね?」
また意味不明の単語だ。これはザックが言っていた単語と同じだ。なんだろうか?
「まぁ、ちょっと訳ありでしてね」
訳ありなのは事実だ。
そう言うとタルスさんはそれ以上なにも訊いてこなかった。
三十分くらいで全員を縛ることができた。馬車に繋いで引いていくため、七人と八人の二列になるようにロープで繋ぎ、引いていけるようにした。
「アランさん、巻き上げた金はどうしましょうか?」
ベックとトールが両手一杯の金を持っている。
「ああ、この中に入れてくれ。中を見てみろよ」
採取バッグを開いて見せる。
「凄い! 大金だ!」
中に入れながら騒ぐ。
「あとで山分けしようぜ」
「そんな! アランさんが手に入れたものなのに!」
「いいんだよ。お前たちだって命を張ったんだ。手に入れる権利はある」
「でも…」
「話は後だ。盗賊の持ってた武器は馬車に積んだよな? よし、出発しようぜ」
改めてゴタニアに向かって出発した。