018. 護衛1
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[夜明けです。起きてください]
久しぶりの酒で少し飲み過ぎたのでナノムに起こしてくれるよう頼んでいた。ちなみに二日酔いにはなっていない。頼んでおけばナノムがアルコールを分解してくれるので非常に便利だ。
来客用の建物にクレリアと二人で泊まらせてもらった。旅人が一晩の宿を求めることは度々あるので、専用の建物を用意しているそうだ。
昨日は運良く村の人たちと仲良くなることができて本当に良かった。やはり村の人たちが困っていたビッグボアを駆除することができたのが大きいだろう。
最悪、クレリアの追手がこの村に居て、戦闘になるかもと考えてもいたが杞憂に終わったようだ。それどころかザックの対応を考えると追手はまだここには来ていないだろう。これは吉報といっていい。
クレリアはまだ寝ているので、そのまま寝かせておくことにした。疲れているんだろう。
建物を出て広場に向かってみる。既に何人かの村人は起きていて何か作業をしている。
「おはようございます! アランさん!」
ザックの息子のベックだ。
「おはよう、ベック」
ベックとは昨日一緒に飲んで結構仲良くなった。年は十九歳で、細身だがザックと同じでガッチリしている体型だ。茶髪の青い目でなかなかの好青年といった感じだ。
ベックは剣士に憧れがあるみたいで、クレリアに遠慮がちに話しかけていたが、クレリアが俺のほうがもっと強いなどと言ってしまったため、今度は俺のほうに来て遠慮もなく色々と根掘り葉掘り剣術のことについて訊かれた。
剣術のことなんてなにも知らないので誤魔化していたが、何故か旅の間の空いた時間に稽古を付けることになってしまった。まぁ休憩中くらいは別に構わない。基本はクレリアに任せよう。
「早いな、ベック」
「なるべく早く出発したいですからね。荷物はある程度纏めてあったんですが、売り物の服がまだ集まっていないので集めているところです」
「いつ頃出発できそうだ?」
「そうですね、遅くとも昼前には出発したいです。そういえば父さんが顔を出してくれって言ってましたよ」
「分かった、探してみる」
そこにクレリアが何故か走ってきた。
「おはよう、リア」
「アラン! 起こしてくれればいいのに!」
なんか怒ってる? 別に怒らせた覚えはないけどな。
「ちょっと、ザックが探しているみたいだから行ってくるよ」
「私も行く!」
機嫌が悪いのは確かなようだ。
ザックの家は確かあれだって言ってたな。村の中でも一番大きな建物だ。さすが村長だな。近づいていくと丁度ザックが家から出てきた。
「おはよう! ザック。探しているって聞いたけど?」
「おう! あれだ、報酬の服の件だ。ちょっとこっちに来てくれ」
ザックの家の中に通される。入り口の近くの部屋が倉庫みたいになっていてたくさんの衣類が棚にしまわれていた。
「ここにあるのは売り物の服で、いま集めている最中なんだが、アランが着れそうなのは、だいたい集め終わった。この中から好きなものを一式選んでいいぞ」
「ありがたく頂くよ。しかし結構あるんだな。さて、どれを選んだものか」
「私が選んであげる!」
クレリアは楽しそうな声をあげて先程までの不機嫌な感じが嘘みたいだ。
「ま、ゆっくり選んでくれ」
ザックは出ていってしまった。
「じゃあ、リア頼むよ」
こんなデザインの服、着たこと無いし良いんだか悪いんだか全然判らない。
「まかせて!」
クレリアは楽しそうに棚から服を出しては俺にあてて見ている。正直、何が違うのか判らない。サイズが合えばいいんじゃないの?
合うサイズがあまり無かったのもあり、結構アッサリ決まった。クリーム色っぽいシャツと黒のズボンだ。
「街に行ったら、ちゃんと選んであげる」
「ありがとう、リア。助かったよ、また頼む」
クレリアは余り選択肢がなくて不満そうだったが、また頼むというと上機嫌に戻ったようだ。
丁度、ザックが戻ってきた。
「ザック、これを貰うよ」
「そうか、下着も必要だろ。あいにく下着はこの一種類だけだ」
下着はフリーサイズの一種類しかないようだ。でも凄く助かるな。
「着てみていいか?」
「もうお前さんの物だよ、好きにしな」
俺がツナギを脱ぎ始めるとクレリアは慌てて出ていった。
うん、ゴワゴワしているが、思ったより気にならない。サイズもピッタリだ。着終わってザックの家から出ていくとクレリアが走り寄ってきた。なにやらチェックしている。なんとか合格点を貰えたようだ。
「あとは、保存食が欲しいようなことを言っていたがどうする? 一応、四人分の食料は持たせるつもりだが」
「じゃあ、それで十分だよ。途中でも狩りをするつもりだしな。なんか手伝うことあるか?」
「じゃあ、荷物纏めるのを手伝ってくれ」
それから倉庫に戻って大きなシーツのようなもので、服を種類別に包む作業をクレリアと一緒に手伝った。嵩張るのでできるだけ小さくなるようにするのが難しいな。二、三時間でなんとか包むことができた。
「よし、朝飯にしよう!」
ザックが宣言して朝食になった。朝飯は当然のようにビッグボア料理だった。しかし宴会料理とはまた味付けが変わって美味しく頂けた。
二頭立ての馬車に荷物を積み込む。服以外の荷物も大量にあり、何かと訊くと綿だった。この村の名産とは綿の事だったらしい。これもぎゅっと圧縮されて積み込まれた。
幌なしの馬車だったので、雨が降ったらどうするのかと訊くとその時はその時だとのこと。確かに無いものはどうしようもないな。
一緒にいく若手の村人は、トールという若者でベックと同い年の幼馴染とのことだ。こちらもなかなかの好青年だ。ベックと交代で御者を務めるらしい。
荷物を馬車に山盛りに積み出発だ。結構な人数の見送りがいる。
「じゃあな、ベック。ドジ踏むなよ」
ザックがベックに言っている。
「分かっているよ、父さん」
「アラン、ベックたちを頼むぞ」
「任せておけ、間違いなくゴタニアまで届けてみせる」
村を出発したが、街道までは結構な下り坂なので、みんな徒歩でブレーキを掛けながらゆっくり進む。
街道に出て、改めて出発だ。
昨日聞いた話だとゴタニアまでは馬車で二十日ほど掛かるらしい。意外に早い。
ベックとトールは御者台、俺とクレリアは、なんと山のように積んだ荷物の上に座っている。これでいいらしい。
歩きとは比べ物にならない速度で進んでいく。探知しながら進んでいるので特にすることはない。探知範囲は以前と同じ半径七百メートルだ。
「ベック! 今日はどこまで行く予定なんだ?」
「今日は出発した時間が遅かったので野宿になります。野宿にいい場所があるのでそこまでですね」
「了解した。なにかあれば遠慮なく言ってくれ」
馬車は、ガラガラとやかましいので大きい声でないと御者台まで届かない。
ベックはトールと何やら話をしているが、こちらまでは聞こえない。暇なので俺もクレリアと話をして過ごすことにする。基本的には村に寄る前と同じだ。
クレリアがフレイムアローの単発発射のコツを教えてくれというが、俺にコツなんてない。イメージだけだ。そこでイメージがなによりも大事だ、逆にイメージしか要らないと教えてみた。クレリアは考え込んでしまった。暇だ。
おっと、お客さんだぞ。ナノムが魔力を検知した。
「リア、グレイハウンドだ。一頭、五百メートル、方向はあっちだ」
方向は十一時の方向だ。方向が悪い。
「お願い、私にやらせて」
お願いされちゃしょうがない。任せよう。
「だけど、まだこちらに来るか分からないよ」
動きからするとグレイハウンドは、まだこちらに気づいてはいないが、馬車のほうが近づいているので、そのうち気付くかも知れない。
グレイハウンドの動きが馬車との距離が二百メートルを切ったところで明らかに変わった。こちらに近づいてくる。これだけガラガラと音をさせていればそうなるか。
「ベック! 馬車を止めてくれ」
馬車が止まり、クレリアと馬車から降りる。
「なんですか!?」とベック。
「グレイハウンド、一頭だ。リアが仕留める」
一応、伝えておく。
クレリアは剣を抜き、剣を持ったまま両腕を胸の前に構える。
馬車から五十メートルくらい先にグレイハウンドが現れた。警戒する様子もなく、そのまま走ってこちらに向かってくる。俺もライフルを腰だめに構える。
「フレイムアロー!」
クレリアの前に一本の炎の矢が現れグレイハウンドに飛んでいく。クレリアから十メートルくらいの所で、矢はグレイハウンドの胸を貫いた。
おおっ、今のは早かった! 構えてからだいたい十五秒くらいで魔法が発現した。以前、クレリアがフレイムアローを使った時はたしか、三十秒くらい掛かっていたので大幅な時間短縮だ。しかもクレリアは目を開けたまま魔法を使っていた。これは大きな進歩と言っていいだろう。
ベックとトールは凄い凄いと大騒ぎだ。
いつもならクレリアも飛び上がって喜ぶはずなのに今日はなんか澄ました顔をしている。ベックとトールの手前、さも当然みたいな仕草をしたいのだろうが、口元のニマニマが隠しきれていない。まぁ凄腕の騎士っていう触れ込みなので気持ちは分からなくもない。
忘れずに魔石をとっておこう。剣を光らせてグレイハウンドを真っ二つにして魔石を取り出す。これにもベックとトールは大騒ぎだ。
グレイハウンドを谷側の山に転がして落とす。
「さて、出発しようか」
「凄いですね、アランさん! リア様は、いつもこんな感じなんですか?」
今日はクレリアの顔を立ててやろう。
「そうだな、大体こんな感じだよ。出発するぞ」
「「はい!」」
馬車が動き出した後も前の二人は興奮冷めやらずといった感じでなにやら熱く話している。
「どうだった!? アラン」
もう喜びが抑えられないといった感じでクレリアが訊いてくる。
「良かったよ。イメージしている時間も短かったし。なによりも良かったのは目を開けたまま魔法が使えたことかな」
「えっ? 目を開けてた?」
自覚が無いらしい。
「ちゃんと開けてたよ。あとの課題は、もっと時間短縮すること。長くても十秒だな。手を構えなくてもできること。発声しなくても撃てることだな。これができるようになれば、戦闘開始前から準備する時間さえあれば確実に相手を一体は倒せることになる。これは凄い強みになるぞ」
クレリアは、なるほどと言った感じで聞いている。
逆になんで今までできなかったのかが気になる。
「リアは魔法はどうやって教わったんだ?」
「普通は魔法を覚えるには魔導書を読んで覚えないといけないのよ。魔導書の通りの工程を一つ一つ順番に確実に実行していかないと魔法は発動しないの」
「魔導書… なんか凄そうだな」
「例えばファイヤーボールでは十七、フレイムアローでは五十の工程があるの」
「じゃあ、リアはファイヤーボールを撃つまでの十秒の間に十七の工程を頭の中でやっているってことなのか?」
「その通り」なんか偉そうにしている。
それは凄い! もう天才と言ってもいいレベルではないだろうか。そりゃ目も瞑りたくなるな。どんな工程だか知らないけど一秒間に二工程近くやっている計算だ。
「アランみたいにイメージだけで魔法を使うなんて聞いたことがないわ」
ふーむ、確かに魔素を練り上げて魔法を放出できるまでにする工程というかイメージは誰かに教わらないと難しいかもしれないな。俺もゲームの中のNPCの導師に何日間か教わっていた記憶がある。そうか、同じイメージを作るための工程ということか。
「魔法を使えるようにするためには魔導書が必要っていうのは常識?」
「勿論! 魔法を使える人は残らず魔導書を読んで覚えたことは断言できるわ。… アラン以外は」
断言できてないじゃん。
なるほどなぁ、思うに最初にイメージだけで魔法を使えるようになった人が、他の人も使えるようにするために考えたのが魔導書って可能性はあるな。それでいつしか魔法は魔導書を覚えなくては使えないということが常識になったか。十分あり得そうだ。
あれ、でもザックが言っていたがザックの村にも二、三人魔法が使える人が居るって話だったな。彼らも魔導書を読んだのだろうか?
「そういえば、ザックの村にも二、三人魔法が使える人が居るって言っていたけど?」
「ああ、それは多分魔法が使える人から魔導書の内容を教わって不完全ながらも魔法が使えるようになった人たちだと思う。魔導書はとても高価だから普通の庶民で魔法を使える人はとても少ないわ」
なるほど、確かに内容さえ正確に伝えられれば魔導書がなくても魔法は覚えられるな。ただし魔導書でないと正確なイメージが伝えられないということか。
「まぁ、リアもこれで解ったと思うけど、魔法に必要なのはイメージだけだ。より速く、より鮮明に、どれだけの魔力を込めるかをイメージする力、イメージ力ってやつだな」
「イメージ力…」
クレリアはまた考え込んでしまった。
暇なので荷物の上で寝っ転がった。いい天気だ。このままずっと雨が降らなければいいなぁ。
おっと、いけない。危うく寝そうになった。時計をみると一時間くらいは横になってたんだな。警戒はナノムがしているのでたとえ寝たとしても起こしてくれるが、護衛としては失格だな。気をつけよう。
クレリアは目を瞑って座っている。瞑想しているようだ。…寝てないよな?
その時に探知に反応があった。感知できるギリギリの小さな反応で、また馬車の進行方向だ。あと四百メートル。危険なものじゃなさそうだ。
あと百メートルの所でズームして見る。ウサギか、丸くて白い尻尾が見える。街道のすぐ脇にある茂みに隠れているが、この角度からは尻尾が丸見えだ。
ウサギは危険なものから隠れてやり過ごす性質があるようだ。探知魔法がまだなかった時に足元から突然飛び出してきてびっくりしたことが何回かある。あのまま逃げなかったら今晩の夕食用に狩ってみようか。
「リア、ウサギがいる」
クレリアがパチっと目を開ける。やっぱり寝てなかったか。
「どこ? 私がやる!」 言うと思った。
「あそこの茂みの中に隠れている」
「見えないわ」
「ここからじゃ見えないかもな。じゃあ、俺が石を投げるから飛び出してきたところをやってみるか?」
採取バッグの中に常備している石を取り出す。
「やってみる」
腕を上げて構え始めた。
ウサギはまだ逃げないな。このままやり過ごすつもりのようだ。一番近づいた時に仕掛けよう。
…あと三十メートル、…二十メートル、…十メートル、…そこだ! ウサギが隠れている直ぐ近くに石を投げた。ウサギが慌てて飛び出してくる。
「フレイムアロー!」
ちょっとタイミングを外したか? 炎の矢が飛んでいくが惜しいところで外れそうだ。
と思ったが、炎の矢がウサギの直前で軌道を変えウサギの首に突き立った! 凄い!
クレリアの放ったフレイムアローはただのフレイムアローではなくホーミング機能を備えていたようだ。
とてもクレリアのやったこととは信じられない! いや、これは失礼だな。きっとさっき瞑想していた時に考えていたんだろう。
凄いな。その発想はなかった。俺もいつの間にか常識に囚われていたようだ。見習わないといけない。
ベックがいきなり魔法を放ったクレリアに驚いて馬車を止めた。俺とクレリアは馬車を降りてウサギを回収しに行った。丸々と太った大きなウサギだ。ウサギ肉は結構クセがあるから、直ぐに血抜きをしよう。
ベックとトールはまた凄いと大騒ぎだ。クレリアはまた当然のことのように振る舞っているが、口元がニヤニヤするのを堪えてピクピクしている。
とにかく、夕食用の肉ゲットだ。
そのまま夕方近くまで何事もなく馬車は進み、ベックは今日の宿泊場所と思われる場所で馬車を止めた。街道の直ぐ脇にできた広場のような場所だ。
岩肌から水が湧き出していて小さな泉ができている。魔法で水が出せない旅人にはいい宿泊場所だろうな。
「今日はここに泊まりましょう。この先に行ってもいい場所はありません」とベック。
「分かった。俺は薪を拾ってくる。リアは護衛を頼むぞ」
「了解」
周りは山なので薪集めは簡単だ。多めに集めておこう。十分もかからずに終わった。
「ベック、食糧はどんな物があるんだ?」
一応、把握しておこう。
「食料関係は全部この中に入っています」
結構大きな袋を渡された。何やら一杯詰まっている。干し肉、大量のパン、大量のポト、サラダ野菜 サッパだっけ、葉物野菜、塩の袋、乾燥したハーブが入った袋などの調味料的な物もある。
量的には全然問題なさそうだ。しかし、保存の利く物は出来るだけ使わないようにしよう。
「アランさんが料理をしてくれるんですか?」
トールが近づいてきて言った。ベックは荷物を下ろしている。
「そうだな、料理するのは結構好きなんだよ。問題無ければ俺がやるよ」
「じゃ、俺も手伝いますよ。ウサギでも捌きましょうか? 俺けっこう捌くのが上手いって言われるんですよ」
「それは助かるな、頼むよ」
メニューは、ウサギ肉、ポト、葉物野菜の炒めもの、同じくウサギ肉の具沢山サンドでいいか。パンが固くなる前に味わっておきたい。
ウサギ肉は使い切ってしまおう。余ったら、明日の朝食にすればいい。
野菜を洗ってこよう。既にトールがウサギを捌き始めている。得意だと言うだけあって手慣れている。
「肉の切り方はどうしましょうか?」
「大体、ひと口大の大きさで薄めに切ってくれるか? 今日、全部食べちまおうぜ。余ったら明日の朝食だ」
ウサギ肉は基本赤身の肉だ。部位を分ける意味はあまり無い。
「凄い、今日も御馳走だ! こんなに肉が食えるなんて!」
俺も手伝って肉を切っていく。大きなウサギだったので結構な量になったな。まぁクレリアがいるから大丈夫か。
大きな鍋に肉を入れて下味を付ける。味付けは、たっぷりのガーリックとハーブと塩胡椒だ。肉に結構癖があるので香り付けは濃いめだ。
「アランさんウサギの毛皮はどこに置きます?」
「毛皮は捨てちゃっていいんじゃないか?」
「えっそんな勿体ないですよ、こんな立派なウサギの毛皮なら売れますよ。そりゃ大した金額にはならないかもですが」
俺は要らないよ。処理の仕方なんか知らないし。
「じゃあ、トールにやるよ」
「やった。ありがとうございます!」
今日は早めの夕食にしようかと思っていたが、ベックが剣術の稽古をしてほしいと言い出した。勿論、トールも一緒だ。
「リア、二人に基本的なことを教えてやってくれないか? 頼むよ」
二人が歓声を挙げる。どうやら今日の活躍でリアの評価はうなぎ登りのようだ。
リアも満更でもないようで、分かったとカッコつけて言っている。
二人は木刀も用意していたようだ。剣の握り方からリアが教えている。
それから一時間半くらいの間、剣の稽古は続いた。始めた当初より剣の振り方はマシになったような気がする。
少し暗くなってきたので夕食にしようか。いい感じで肉に下味が染みたかもしれない。
この広場に元々作ってあったカマドに薪を焚べて、リアが魔法で火を付けるとまた二人から歓声が上がる。
ベックが持ってきた大きなフライパンでまずはポトの実を炒めていく。ある程度火が通ったら肉を大量投入だ。豪快にいこう。
肉にほんのり火が通り始めたら、葉物野菜を投入する。やっぱり野菜の食感を大事にしたい。さっと炒めて完成だ。
これまたベックが持ってきた木の大皿に大量の料理を載せていく。大皿に大盛りになった。これは予想以上に大量になったな。さあ召し上がれ。
みんな、競うように自分の木皿に料理を載せていく。俺は続けてフライパンで人数分の上下二つに切ったパンを温めていく。
みんな肉炒めを頬張りながら、その様子を見守っている。三人共なので可笑しくなってしまった。
パンにほんのり焦げ目が付いたら、すぐに取り出す。フライパンの脂を吸っていい感じだ。焼いたパンにサッパの葉を載せて、大量の肉炒めを載せ、またサッパの葉を載せてパンで挟んで具沢山サンドの完成だ。それぞれの皿にサンドを載せていく。
おっと、今のうちに鍋でお湯を沸かしておこう。
よし! 俺も食うぞ! まずは肉炒めからだ。うん、美味い。ウサギ肉は赤身肉なのでビッグボア料理が続いた食事をした後では、しつこくなくてとても美味く感じる。
多めにいれたガーリック、ハーブ、胡椒が肉の臭みを完全に消している。やっぱり少し時間を掛けて漬けていたのが良かったのかもしれない。
次は具沢山サンドだ。軽く焼いてフカフカ、表面がパリッとなったパン、パンがフライパンの脂を吸った感じ、サッパの葉のシャキシャキ感、濃いめ味付けの肉炒め、全てが一体になって絶品の仕上がりになっている。これは美味い、そう言い切れる料理だ。
みんなも夢中になって食べている。気に入ってくれたようだ。
さすがのクレリアといえども、これだけの料理の量を完食することは叶わなかったみたいだ。肉炒めは結構な量が残った。明日の朝食にしよう。
ザックに分けてもらったお茶の葉で食後の緑茶を入れた。
「ふぅ、アランさん! めちゃくちゃ美味かった」
「塩も胡椒も、たっぷり使っていましたよね? こんな贅沢な料理は初めてです」とトール。
そうか、やはり塩と胡椒は貴重品なんだな。そういえば村の料理には胡椒は使っていなかったし、塩加減も薄味だったな。
「そうか、気に入ってくれて嬉しいよ」
「いや、気に入ったなんてもんじゃないですよ。街に着いたらお店開いたらどうですか? 俺、通いますよ」
「料理は趣味だからな。職業にする気はないよ」
「でも旅の間は料理してくれますか!?」
「それは全然構わないよ。むしろやらせてくれ」
「やった!」
トールと歓声を挙げている。もう夜だ。明日も早いし寝ることにしようか。
「さて、そろそろ休むか。俺とリアで交代で見張るから、ゆっくり寝てくれ」
「でも…」
「いいんだよ。お前たちは御者、俺達は護衛なんだから仕事をさせてくれ」
「わかりました。よろしくお願いします」
クレリアには探知すれば魔法で勝手に起きると予め言ってあるのでクレリアも遠慮なく寝てくれる。
こうして、護衛一日目は問題なく過ぎていった。




