5P:親友に感謝を
『もう、私には構わないで』
そう言われて、僕はユウコ宅を後にした。
ゲームセンターに寄る気も起きなくなって、自宅に戻る。
ゲームもやる気になれず、ずっとユウコの言葉を気にしていた。
ユウコは本来、誰にでも優しくて、いつも僕に気をかけてくれた。
なのに、今日、あんな言葉を僕に言った……?
ユウコなら、絶対に言わないはず……。
そう思って、僕は考えを改める。
もしかしたら、僕が知らない内にユウコを傷つけたのかもしれない。
もしかしたら、ユウコは僕の事が嫌いなのかもしれない……。
僕の言葉で微笑んでくれていたのは、実は嘘の微笑みだったのかも……。
そうなると……僕は……。
「ユウコに会っちゃ駄目なのかも……しれない……」
でも、本当にそれで良いのかな……。
取り返しがつかない事にならないかな……。
「昔のような……関係になれないのかな……」
あれ……おかしいな……。
構わないでって言われてるのに、なんでユウコの事、こんなに考えてるんだろう。
なんで、こんなにも、モヤモヤしてるんだろう。
自分の胸をギュッと握る。
……なんか、落ち着かない。
ユウコの事を考えると、もっと落ち着かない。
「なんで……こんな……」
自分で自分が分からない。
いつもなら、こんな事もある、なんて割り切れたのに。
今回はそれが出来ない。
いや、したくない。
「……そっか」
知らない間に、僕はユウコがいない事……考えられなくなってるんだな……。
それが、ユウコを放っておくなんて割り切れない根拠だ。
「どうにかして、今まで通りに……でも……どうしたら……」
初めての事で、何をしていいかなんて分からない。
それなのに、僕は解決策を見つけようとする。
……本当に不思議なんだ。
「……よし、メールアプリだ」
僕は携帯を取り出し、ユウコに対して一通の文を送る。
――――今日はごめん。
これだけ打った。
後はあちらから何か返信くれば対応できるハズ……。
……でも、日曜日になって、そして月曜日の朝になっても返信は来なかった。
「まだ……来てない」
着信を待っていただけなのに、なんでか寝不足気味になってしまった体を引きずり、学校へ行く準備をする。
本当に嫌われてしまったのだろうか……。
そう思うと、ズキッと胸が痛む。
「ううん、考えるのはやめよう」
今は学校に行くのが先だ。
そうすれば、嫌でも会えるはず。
僕は足早に玄関から飛び出し、いつもより20分くらい早い時刻に出だしていた。
どんよりした曇り空がお出迎えして、少しだけ気分が落ち込んでしまう。
「いやいや、しっかりしろ……」
今は落ち込んでる場合じゃないハズだと自身を奮い立たせて、僕は通学したのだった。
……足取りが重い中、代わり映えのしない道を通り、何も起こることがなく学校へと着いてしまった。
登校する人も朝が早い理由だろう、殆ど誰とも遭遇しなかった。
少なくとも、知り合いには出会っていない。
「はぁ……なら休み時間かな……」
僕は教室に着くとそう言葉を漏らして、自分の席につく。
「何が休み時間なんだ?」
「うわっ!?」
独り言でボソッとしていただけなのに、いつの間にか僕の席の前で立っているコウイチが腕を組みながら立っていた。
ちょっとだけビックリしながらも、僕はコウイチに対してはぐらかして答える。
「……ちょっとね」
「ゲーム以外で悩むなんて珍しいな」
コウイチがニヤッとしながら言ってくるので、ちょっとだけムッとする。
「毎日ゲームの事考えてるわけじゃないから」
「じゃあなんだよ?」
「そりゃ、もちろんユウコの……」
言った瞬間にまずいと思って止めたが、その時には既に遅かった。
コウイチがニヤニヤと笑みを零すのをやめない。
……はぐらかしていたのが無意味になってしまった。
「……それで、美祢さんがなんだ?」
「もう言わない! コウイチには関係ないって!」
「なるほど……でもな、美祢さんは倍率が高いと思うぞ?」
突然、コウイチが倍率とかいう、訳の分からない事を言ってきた。
スキルや特技の倍率じゃないだろうし、かと言って他に何かあるっけ……。
「倍率……?」
「そうだな……セイジ、押せばあの人なら大丈夫だ。頑張れよ」
「ちょ、ちょっと待って? 話が見えないんだけれど」
さっきまで上機嫌に話していたコウイチは、自身のメガネに手を当てて、考えるような姿勢をとる。
「セイジは、美祢さんにどんな風に告白をするか悩んでたんだろ?」
「なっ――――」
「つまり、美祢さんが好きなんだろ?」
僕は突然の事に頭の思考回路が止まりかかった。
いきなり、なんて事言うんだコウイチ……!
「違うから! なんでそうなったの!?」
「話さないからこうなるんだよ」
またニヤニヤした表情をしてきて、僕を見る。
……コウイチめ……これはイジメだぞ!
「実は……」
僕はコウイチにこれまでのユウコの事を話した。
風邪を引いても外出していたこと、携帯に送っても返信がこないこと。
そして……手を貸していたらもう構わないでと言われたこと。
「なるほどな……それで、休み時間に美祢さんに会おうと……」
「うん……」
会えばきっと何か分かる……と思う。
軽率な考えかもしれないけれど、原因が分からない以上、会ってどうしてそうなったか調べる必要が……。
「……お前、美祢さんの嫌がるような事したのか?」
「そんな! してな……いと……思う……」
断言しようと思ったのに、出来なくなってしまった。
だって、ユウコがああなった原因すら分からないのに、嫌がるような事をしていないと断言出来る訳が無い。
そもそも、ユウコを理解出来ているとすら言えないのに……。
「……それなら、休み時間より放課後の方が良いだろ……っと言っても美祢さんは部活があるか」
「うん……だから……」
「じゃあ、部活終わってからだな」
コウイチの言葉に「えっ」と言葉を漏らしてしまう。
なんでそこまで待たなきゃいけないんだ?
早く解決するには、早く聞いた方が良いのに。
「な、なんで部活終わりに……?」
「本当にセイジを遠ざけてるなら、休み時間に会うと思うか? 俺だったら、会わないように授業開始まで時間を稼ぐね」
「あ……なるほど……」
確かに……僕には会わないと思う。
無理矢理にでも話を聞こうとしても、タイムアップで授業が始まる。
うぅ……なんでこうなるんだ……。
「だから、部活終わりに一緒に帰ればいい。断られても粘れよ」
「ま、まじで……?」
「まじだ」
なんだか、とんでもない事になってきてる……。
でも、コウイチの言葉は納得出来るし、筋も通ってる。
そうでもしなきゃ、多分、話せない。
「……分かった。やってみる」
「頑張れよ。セイジ」
ニヤッと笑みを浮かべたコウイチは、自分の席に戻り鞄の中の教材を机にしまっていた。
……コウイチ、ありがとう。
僕は、親友に対して心から感謝していた。




