3P:着信返信
僕が眠気に負けて、ベッドに入ろうとした時、ピロンッ! と携帯の着信音が鳴った。
時刻は……9時か。
眠気を堪えて、携帯を見てみるとメールアプリに一通、届いてる。
送ってきたのは、ユウコだ。
何だろうと思って、内容を見てみる。
『今日はありがとう』
……これだけだった。
お礼ならさっき言ってもらったのに……と思ったけれど、こういうのって、突っ込まない方がいいか。
さて、返信は……なんて書こう……。
うーん、温かくして寝てね……はちょっと、つまんないな。
毛布を掛けて寝て……もなんか違うか。
ええと……。
「……つまんなくてもいいか」
考えるのを諦めて、普通の文章を作成する。
――――毛布をちゃんと掛けて、温かくして寝てね。
……これだけでいいかな。
そう思い送信ボタンを押して、毛布を被る。
明日は何をしようかなぁ……なんて考えて、いつの間にか眠ってしまった。
翌日、休みだというのに、目覚ましを掛けていたのを忘れて、不機嫌になりながら目覚まし時計をぶっ叩いた。
ふわぁ……と大あくびをして、もう一回寝ようかと思いながらも、携帯を弄る。
……すると、ユウコからの通知がきていた。
『分かった。色々ごめんね』
……この返信、僕が寝た直後にきてたものだった。
「別に謝らなくていいのに」
どうしよう、返信した方がいいかな。
返信に遅れるとなんだか、文章を送るのに抵抗があるな。
うー……どうしよう。
ベッドの上でゴロゴロと転がりながら、僕は考えをまとめていた。
とりあえず、今日は休日。
そう、休日なのだ。
「よし、まずご飯食べてから決めよう」
そう思って、僕は学校に行く日と同じように朝ご飯を取ろうとしていた。
食パンをトーストで焼いて、それを頬張り、牛乳で流し込む。
それで僕の朝ご飯は終了。
そして食べている間に決めたのだけど、僕はユウコに返信することにした。
通知を見てスルーするのはどうも苦手だし……うん、しよう。
「ええと……こうでいいかな」
謝らなくていいよ。
それだけ返信して、携帯を置く。
……もっと気が利いた事を書けば良いんだろうけれど、全く思いつく気配がないので、シンプルにした。
「すぐに返信は来ないだろうし、今日は何しようかなぁ……」
親もいない、独り暮らしとなると、殆どの事が出来るので、自由度は高い。
家事が面倒だけど。
……とりあえず、ゲームセンターにでも行こうかな。
オンラインゲームは夜にやった方が人が多いし、他にやる事がないし。
課題は明日やればいいし……。
ということで財布に鍵にと、最低限のものだけ持って、ゲームセンターへと向かった。
桜が舞っていた路地も、今では緑一色になってしまっていて、時が経つのは早いなと実感する。
新二年生だったのに、もう一ヶ月は経ったんだもんなぁ。
ちょっとずつ近づいてきている、中間テストが嫌だ……。
……楽しいハズの休日なのに、なんでこういう事を考えてしまうのだろうか。
つくづく自分が分からないなぁ……と空を見上げながらマイペースに歩いていく。
「ん?」
ピロンッと、携帯が鳴り、メールアプリに通知が来たのを知らせていた。
僕は携帯を持って誰からかを確認する。
すると、ユウコからの着信だった。
そのまま内容を見てみる。
『分かった。ありがとう。それと、セイジのお陰で風邪が早く治ったよ』
……治った?
「……そんな馬鹿な」
風邪は一度引くと、治すのに結構かかるはず。
一日安静にしたからって、咳がちょっと出たり、熱がまだあったりって、完全に治るハズがないし……。
それどころか、治ったと思って油断すると、そこから悪化するのが多いんだ。
「……ま、まぁ……いくらユウコでも、外出なんてしてるわけないか」
治ったと言っている事実は変わらないけど、流石に、風邪を引いていたのに、治った瞬間外出は有り得ない。
というか、あっちゃ駄目な事だ。
流石に寝てるよね……?
なんだか、凄く心配になってきた。
……かなりの寄り道になるけれど、ゲームセンターに行く前にユウコの家に寄ることに決めた。
昨日も行ったのに、今日も行くのは失礼かもしれないけれど、もしも外出しようとか考えてるなら止めさせなきゃ。
幸い、午前中から外出し始めたので、時間に余裕はあるし、僕はユウコの家に向かったのだった。
……僕にしてはかなりの距離を歩いて、少しだけ汗が出てきた。
運動しなきゃ、まずいな……。
「もう少しかな……」
そう呟いて、ふと我に返ったように、悟ってしまった。
……これ、なんの連絡も無しにきちゃって良かったのかな?
昨日、連絡しなかったのはまぁ、百歩譲っていいと思う。
起こしちゃうかもって思ってたし。
でも、今日は連絡してった方が良かったんじゃないかなぁ。
「……うーん」
そんな事を考えている間に、ユウコの自宅周辺にまで来てしまっていた。
なんで考え事をしているとすぐ着いちゃうんだ……。
やっぱり、メールアプリで送った方が……。
いやでも、なんとなく来ましたじゃ不快な思いさせるし……。
かと言って監視とかいうと、怒られそうだし……。
「あれ? セイジ?」
僕が更に考え事を増やしていった時だった。
不意に目の前から声を掛けられる。
物凄く聞き覚えがある女の子の声……。
僕はその女の子をじっと見る。
……特徴的なポニーテール。
あっ、と驚いた表情をしているのは紛れもない、ユウコだ。
「……はぁ!?」
僕は目の前にユウコがいる事に驚きと、怒りが両方合わさって湧いてきた。
ユウコは……! 風邪は治り始めが一番危ないのに……!
「ど、どうしたの? いきなり大きな声出して……」
心配そうに僕の方を見てくるが、そんな事、お構い無しにユウコに対して説教をする。
「どうしたじゃないよ! 風邪引いてるのに、なんで外出してるの!?」
そう僕が言うとユウコは、「えへへ」と笑う。
その笑顔が今はふざけるなって思う。
「ほら、大丈夫だって。いつも通りに歩けるし」
そういう問題じゃないんだって……!
僕は頭の中の考えを叫びそうになり、辛うじて押し止める。
熱くなるな……熱くなるな……。
「……そうは言っても、治りかけが一番危ないんだから。ほら、家まで送るから」
ここでユウコが出歩いて、悪化したら後悔するだろうし……。
だから僕は、ユウコが帰宅するように、催促する。
……だが、ユウコは首を縦には振らなかった。
「ちょっと買い出しに行かないと……おかずとか無くて、それに、お母さんもお父さんもいないし……」
ユウコは、ケホケホッと、小さな咳を隠すようにして言い切った。
うー、そう言うことなら仕方ないかなぁ……。
「だから、ごめんね。私、行かなくちゃだから」
ユウコはそれだけ言うと、この場をゆっくりとした足取りで去ろうとしていた。
……今、ユウコを一人で行かせて大丈夫かな。
悪化して、歩けなくなったりしないかな……。
最悪、倒れるなんて可能性もないかな……。
いや、流石に無いとは思うけれど、心配だな……。
「それじゃ、ばいばい」
ユウコはニコッと笑って、僕の横を通り過ぎる。
……僕はどうする?
このまま、予定通りゲームセンターに行くか……?
それとも……。
少しだけうんうんと唸って、背後でコホコホッという声が聞こえて、やっと決めた。
「ユウコ!」
僕は叫び、ユウコは振り返る。
「何……?」
小さな声でそう聞いてきたので、僕は頬を掻いて、こう言った。
「ええと……僕もついて行くよ」
僕の言葉に「えっ」と声を漏らし、ユウコは目を見開いていた。
「い、いいよ! 私一人で行けるから」
ユウコはまた、咳をコホコホッとしながら、そう言ってくる。
その様子はこちらの事を気にしているかのようだった。
「えーっと……ほら、暇だしさ」
「……そうなの?」
大体合っている。
暇だからこそ、ゲームセンターに行こうと思ったワケだし……。
何より、ユウコが心配だったからこそ、こっちの方まで来たわけだったから。
「そうそう、だからユウコがなんて言おうと、ついて行くよ」
……なんか、物凄い事を言っている気がしなくもないな。
ユウコはそんな僕に対して申し訳なさそうにして、ごめんと謝っていた。




