2P:介抱
「……うー……少しだるいな」
朝、目が覚めて放った第一声は、自身の体の倦怠感についてだった。
風邪を引いたのかもしれないな……と思いながらも、いつも通り体を起こす。
昨日の帰りは結局雨が止まず、全身ズブ濡れで帰ったので、僕にしては珍しく、ゲームをやらずに暖かくして眠ったのだ。
それでもこんな寒く感じるなんて、ゲームやってたら確実に風邪引いてたな……。
「……ユウコは大丈夫かな」
昨日、僕と一緒に帰ったユウコは、風邪を引いたりはして無いだろうか。
身支度をしながら、幼なじみの心配をしていて、なんだかちょっと不思議な感じがした。
昨日会ったからだと思うけれど……なんだろう……。
「……ま、いいや。行こ行こ」
いつもの通り、仕度を終えると、朝飯を取ってちょっと遅めに出だす。
今日が終わったら休日だ……と思うと何故か分からないやる気がグングンと出てきた。
やる気と共に、寒気も何処かへ吹き飛び、足取りもちょっとだけ早くなる。
勢いづいて、学校に到着、朝のホームルームが始まる前には席に着くことが出来たようだ。
よし……後は授業を終わらせれば、自由な身だ……!
「なんだか、今日はいつになくやる気だな」
席に座って、僕のやる気が伝わってしまったらしい……というか顔に出てたのかな?
メガネが特徴の、野球部副キャプテンのコウイチがニヤニヤと笑みを浮かべて僕の前に立ちはだかった。
「うん、今日終われば明日から休みだしさ」
「明日は土曜だもんな」
そう……土日という、平和な二日間が僕に訪れるんだ。
特にやる事はないハズなのに……いや、オンラインゲームのレベル上げとかがまだあった。
あとあのストーリーもクリアしないとなぁ……等と考えてると、呆れ顔でコウイチが「ま、程々にな」と答えて席に座ってしまった。
……顔に出てたかな。
……うん、人と話してる時は気をつけよう。
割と本当に友達がいなくなる。
そう思った朝の時間だった。
そして、何事もなく時間は経ち、最後の授業の数学もなんとか乗り切って、学校での一日は終わった。
僕は早々に帰ろうと思って、席を立ち上がる。
すると、「おい、セイジ」とコウイチに呼び止められた。
「ん? どうしたの?」
「確か、美祢さんと親しかったよな?」
……この流れは、紹介しろとかいう流れ……なのだけど、コウイチに限ってそんな事はない。
だって、彼女いるし。
リア充だし。
ちょっといいなぁ……とか思ってるしッ!
「う、うん」
「良かった。じゃ、これ」
そう言って、コウイチから渡されたのは数枚のプリントと、ノートだった。
チラッとプリントの方を見ると、昨日見た、数学の小テストと同じプリントだった。
「って、何これ。ユウコと関係あるの?」
「関係って……美祢さん、今日休みなんだぞ? 確か……風邪だっけか」
「あ、ああ……」
……ユウコが風邪……か。
あの雨の中にいたんじゃ当たり前か。
僕が風邪を引かなかったのがある意味不思議だけど。
「じゃ、よろしくな」
「わ、わかった」
コウイチは、僕にプリントとノートを渡すように言ったのだろう。
……ま、明日から休みだし、この位大丈夫かな?
「よし! 今日最後の作業だ!」
そう思い、僕は下校した。
向かうのはユウコの自宅。
学校から、僕の家より何kmか遠い場所にあり、ユウコはいつもその距離を歩いて登校している。
僕だったら絶対に嫌な距離だな……。
ただ歩くだけでさえ、インドアの僕にはキツイんだって。
「それにしても、ユウコが風邪引くなんてなぁ」
僕でさえ、温かくして、早く寝て、風邪を引かなかったのに……。
ユウコは昨日、遅くまで起きていたのかな?
……もし、ユウコのお母さんとか出たら、聞いてみようかな。
僕は、そう考えながら、キョロキョロと辺りを見渡す。
「うー……ん。どこら辺だっけ?」
……携帯使おうかな。
今のご時世、無料で使えるし。
……携帯代が無料じゃないか。
一人で突っ込んでるのもあれだけど、ユウコに電話するのは避けたい。
眠っていたら、邪魔してしまうし。
根気よく捜してみよう。
ちょっとだけ見覚えのある場所だし。
「……美祢……美祢……美祢……あ、ここかここか!」
何度か来たことがあるのに、すっかり忘れてしまっていた。
二階建ての白い建物。
そう、ここが、美祢の自宅なのだ。
……てか、ここに来たの何年ぶりくらいだろうか。
小学生以来かなぁ。
「早速、インターホンを鳴らして……」
……いや、いいのかな。
インターホン鳴らして。
ユウコが起きちゃうんじゃないのかな……。
いやでも、これしか方法がない訳だし……。
よ、よし……起こさないように鳴らそう。
と、自分ではどうしようもない事を思いながらピンポーンという音を鳴らす。
「……あれ? いないのかな?」
誰もいない事を危惧した僕が、一番に考えたのは、預かってるプリントとかどうしよう……だった。
だってあれじゃん……このまま持ってくわけにはいかないし、かと言ってポストに入れとくのも躊躇うし。
そう考えるのもつかの間、ガチャ……と美祢宅の扉が開き、声がする。
「はい……」
「あ、あの……ってユウコ!?」
そこには、明らかに顔が真っ赤になって、具合の悪そうな、幼なじみの姿があった。
パジャマ姿で、額からは汗を流し、息を微かに乱していて、いつもポニーテールに縛っている髪は、全て垂れ下がっている。
相手も、僕が来たのが予想外だったようで、ビックリしたように目を見開いている。
僕は驚きよりも申し訳なさがいっぱいになり、うつむき加減になる。
「ど、どうしたの? セイジが来るなんて」
「う……ごめん。起こしちゃって」
「いいよいいよ。私も丁度起きちゃったとこだから」
ユウコは立っているだけで、フラフラなのが見てわかる。
そんなフラフラになられて、説得力も何もあったもんじゃない。
「えと……はい。今日のプリントとかだと思う」
この状況はちょっと気まずいので、渡すもの渡して、さっさと帰宅しよう。
そう思っての行動だった。
バッと渡し終えると、僕は逃げるようにして、この場を立ち去ろうとしていた。
「じゃ、じゃあね!」
「……う、うん……ケホッ」
チラッと見ると、やっぱり立ってるだけで辛そう。
戻るのも、相当辛そうだ。
でも、僕には関係ない。
……って割り切れないよね。
うう……眠ってたのに起こしちゃって申し訳ない。
「……あ、あのさ」
「ん……今度は、何?」
いつもの元気がないユウコは優しげに、それでいて辛そうに返答する。
それに対して、ちょっとだけ気恥ずかしくなりながらも、ユウコに言う。
「……肩、貸すよ」
そう言って、美祢宅にズカズカ入り込み、ユウコに肩を貸した。
ユウコは最初、戸惑いながらも、「ありがと」と囁いて僕に体重を預けた。
「ちょ……ちょっと重いな」
「う、うるさい!」
デリカシーが無さすぎた僕の言葉に、ユウコはむくれて、空いた片方の手で背中を叩いてきた。
流石に痛い。
ジンジンという痛みと、ユウコの体重を我慢して、歩いてみる。
うん、思ったより歩けるかな。
確かユウコの部屋は二階だったハズだ。
僕はユウコに負担を掛けないように、ゆっくり、ゆっくり階段を上がる。
大丈夫か聞いてみると、「平気……」とか細い声で言っていた。
無事に二階に上がり、ユウコの部屋へと入る事が出来た。
桃色の壁紙に、熊や猫のぬいぐるみがベッドを占領している。
小学以来だけど、部屋に行った記憶は朧気で、なんていうか……、
「女の子らしい部屋だなぁ」
……ユウコは、ピクッと震えて、「ンンッ!」と咳払いする。
あれ、無意識に呟いてたのか、と自覚した時にはちょっと恥ずかしい気持ちになって、部屋に踏み入る。
「ん……ありがと」
「う、うん」
ユウコをベッドまで送り、僕はこのまま帰ろうとした。
なんだか、ちょっと気まずいというか、恥ずかしいというか……。
「じゃ、じゃあまた。早く良くなってね」
だから、急いでこの場を後にしようとして、そんな言葉を投げ掛ける。
そんな僕の言葉を聞いて、ユウコは今日、一番の笑顔で、
「うん……今日はありがと」
お礼を言ってきた。




