三年後
……ヂリリリリッ! という騒音と共に浅倉 清二という男の意識が生まれた。どうにか、その音を止めようと朦朧としながらも腕を前に伸ばす。右に左にと動かした先に、目当ての感触を見つけてバンッと鬱陶しそうにそれを叩く。
「……うぅ……眠い……」
――――昨日、遅くまでオンラインゲームやってたのがいけなかったかなぁ……。
セイジはいつも通りの苦手な朝を夜ふかしのせいにして、ゆっくりと目を開ける。ベッドの上にあるのは自分と寝てる間にどかしてしまったであろう掛け布団。なるほど、どおりで寒いと思ったとセイジは考え、ゆっくりゆっくり起き上がる。代わり映えのしない自室に、何気なく目を通しながら立ち上がると、セイジはカレンダーに目がいった。
「あっ」
今日の日付に赤丸が書いてあり、始業式……と書いてある。セイジはそれを見た途端、まるで何かに取り憑かれたかのように慌ただしく制服を引っ張り出した。
――――今日は遅れるわけにはいかない! 二年の始めから遅刻は悪目立ちする!
パパッと制服に着替えて、セイジは自室を出る。顔を洗い、髪を整えようとするも、強いくせっ毛が反発し失敗。歯を磨いて、食パンを口に突っ込みカバンを持つ。
「ほひ!」
気合いを入れて、セイジは玄関を開ける。今日はユウキの通う私立赤山高等学校の始業式。少しだけの緊張と不安、ほんのちょっとのドキドキがセイジの足取りを早くさせた。
少しだけ肌寒い風が吹き抜け、セイジは身震いをする。
――――春なのに冬の風が吹くのか……。うぅ……さむ……。
セイジの家から学校までの距離は徒歩10分。遠いのか近いのかどちらとも言えないが、少なくとも10分間はこの冬風とお付き合いすることになる。
――――うぅ……ベッドの中でごろごろしていたい。春休み中にしてたけど、今日は特にしたい。
などと、どうでもいいことをセイジは愚痴を頭の中に垂れ流していた。
「おひさしッ! セイジ!」
「おわっ!?」
不意にセイジは背中を誰かに叩かれる。ジーンと痛む背中を擦りつつ、振り返るとセイジを見ながら満面の笑みを浮かべる制服姿の少女がいた。ポニーテールとセイジの脳内愚痴が吹っ飛んでしまった程の、とびきりな笑顔が特徴の制服女子は、美祢 優子だ。セイジの幼なじみであり、同級生であり、異性で一番親しい女子である。活発な性格で、クラスを明るくするムードメーカーだ。
「元気ないね。また徹夜でゲームしてたんでしょ」
「…………そんな事ないよ」
――――バレてる。流石、ユウコだ。僕のやってしまう事を分かっている。
セイジは苦笑しつつ、幼なじみ相手に誤魔化す。しかし、ジッとユウコに見られて気まずくなり、顔を逸らす。
「やっぱり!」
「ち、違うって!」
「なんのゲームかなぁ……春休み前に言ってたオンラインゲームとか?」
「……」
セイジはそこまで言い当てられるとは思っていなかったので沈黙する。それを見たユウコがしてやったりと笑みを零し、「やっぱり!」と言ってセイジの背中を叩く。セイジは叩かれた勢いに任せて何も言わずに早足で歩くと、ユウコもその歩調に合わせてくる。
「その様子だと、春休みもゲームばっかで、ロクに外出てないんでしょ」
「うっ……いいんだよ。楽しいんだし」
「たまには動かないと駄目だよ?」
――――耳が痛い……。
セイジは出来るだけユウコの言葉が耳に入らないように、両手で塞ぐ。それを見たユウコはニヤッと笑みを浮かべて、セイジの脇腹を両手で鷲掴みにした。
「ぬぉぁ!?」
「スキありッ!」
「やめ……やめて……!」
セイジは苦しみながらカバンを落とし、必死にユウコに抵抗する。しかし、力が入らずユウコになす術なく数分の時間が過ぎる。
「も、もういいでしょぉぉ!」
「あはははは! あは、あは! はぁー……! そうだね!」
ユウコは笑いながらセイジを解放し、カバンを拾い上げ、セイジに渡す。
「と、登校初日から死ぬとこだった……」
「大袈裟なんだから! ほら、行こう!」
「まったく……ユウコは……」
セイジはため息をつきながら、ユウコの隣を歩く。ユウコは御機嫌になり、それを見たセイジは「まぁ、いいか」と言葉を漏らして微笑んでいた。




