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010-1:廃校の迷宮【侵入編】①

「ハアト、行ったぞ!」


 レティの鋭い声が戦場を切り裂いた。


「はい!」


 ハアトは手にした武器を構え、視線を目の前の飛行生物に向ける。


 モンスター名、ダストバット。

 種族、飛行生物。

 危険度、F。


 小さくも鋭い牙を剝き出しに、高速で飛行するのは人の顔よりも大きな蝙蝠だ。


 バタつくような不安定な飛行で、捉えずらい軌道を描きながら接近する。

 薄暗く、埃っぽい部屋に溶け込むような灰色の姿はさながら擬態に近い。


 ハアトは冷静に、ウェポンマスタリー:剣のスキルによって補正された淀みない剣の動きでもって、それを的確に切り伏せた。


 一振りでは終わらない。


 一つ、二つ、三つと、切っては返すその剣先が確実に群れの数を減らしていく。


 ダストバットは十を超える大群だった。


「ウム! 良いぞ、ハアト!」 


 レティがハアトの援護に加わり、大盾を振るう。

 盾によるダメージはほとんどないが、標的はレティへと変わる。


「ナイスだ、坊主!」


 ダンも続いて合流し、さらに攻撃に加勢する。


 一体では危険度が低いモンスターも、集団になると脅威へと変わる。

 それに立ち向かう冒険者もまた、群れる。


 鉄壁の防御力を誇るレティが最前線に立ち、敵の攻撃を一手に引き受ける。

 防御力皆無に等しい軽装備のダンはその分、攻撃力がズバ抜けている。

 そのダンがメインアタッカーとして、レティが注意を引く敵の数を減らす。

 後方に控えるロリエはサポートに専念し、回復や補助を担当する。


 それがこの三人組での基本的な戦闘スタイルだ。


 ハアトはそこに、ロリエのサポートとして新たに加わった。


 ロリエの側で立ち回り、邪魔をさせない事。

 そしてダメージから守る事。


 それが主な役目になる。


 陣形が整えば、そこからはあっと言う間に殲滅が終わった。

 モンスターの脅威を排除し、パーティは戦利品を回収しながら一息ついた。


「ウム、やるではないか! ハアト、見事だったぞ」


「おう、中々良い腕じゃねぇか」


「い、いえ、ロリエさんにダメージがなくて良かったです」


「ハアトさん、ありがとうございます! 助かりましたよ~」


 千金学園ダンジョン、第一階層は埃にまみれた廃校の様な形状の迷宮が広がっている。


 広さはカオリのダンジョンとは比べ物にならない。

 教室のような一つ一つの部屋の大きさもバラバラで、分かれ道も多い。

 ダンジョン自体が埃っぽいせいで視界も悪い。


 ハアトを除く三人にとってはもう慣れた場所なのだろう。

 モンスターへの警戒は怠らない上で、道に迷うような素振りもなく進んで行く。


 もしもはぐれてしまったら、ハアトには合流できる自信が持てない。


 モンスターの危険度も少し高めで、加えて敵の数も多いと来ている。

 ハアト一人では到底、太刀打ちできそうになかった。


「フフ、ハアトよ、そう緊張するでない」


「あはは、見ての通り、まだまだ慣れなくて……」


「確かに初心者かも知れんが、我々も似たような者だ。気にする必要はない。共に成長して行こうではないか」


「そうですよ~! それに、私はハアトさんのおかげですっごく安心して進めてますよ!」


 上下を最安値のジャージ装備で固めているおかげでハアトは分かりやすいほど初心者だった。

 カインが足りなかったのだから仕方がない。


 本当はハアトの動きが硬いのは、どちらかというと人見知りな性格のせいだったのだが、レティとロリエが必死にフォローしてくれるお陰で言い出しにくかった。

 慣れていないのは戦闘より人付き合いの方である。


「初心者だろうが戦力には変わりない。今のようにモンスターが別の部屋から乱入してくる事があるんだが、横や背後から後衛を狙われるとやっかいなんだよ。今回は坊主のおかげで助かってるんだぜ」


「ウム、ロリエがケガでもしたら一度戻るしかなくなるからな。ロリエは我々の戦の要だ」


「うぅ~、私がもう少し戦闘できたら良いんですけど~……」


「そーゆージョブだから仕方ねぇだろ。少しでも回復できるヤツがいるだけでもありがたいしな」


「そうだぞ。ロリエがいるから私も多少は無茶が出来るというものだ」


 和気あいあいと仲の良い三人は、連携も見事だ。

 それでも三人という数に戦術は縛られてしまう。


 攻撃と防御。

 レティとダンが全線で役割を果たそうとすると、どうしてもロリエの守りは疎かになる。


 本当は四人でパーティを組みたかったのだとダンが教えてくれた。


「このダンジョンに囚われた人間はみんな冒険者になってる。冒険者の適性があるから囚われたのか、それとも囚われたから適性がついちまったのか……まぁそんな事はどっちでも良いんだがよ、だが上を見ての通りだ。ここで戦力になる冒険者は少ねぇのさ」


 ダンの言う上とは、学園寮の事だ。


 ハアトは気付かなかったが、全員が冒険者としての適正を持っているという。

 そのわりにはダン達のように冒険者らしい格好をしている者はおらず、ハアトのジャージ以上に普段着だった気がする。

 冒険者として活動しているようには見えなかった。


「でも、攻略しないと外に出られないんですよね? どうして誰も……」


「出られないどころか外部とは連絡すら取れない。当然、みんなダンジョンに挑んださ。最初はな。だけど……」


 ダンの言葉を遮るように、甲高い声が部屋に木霊した。


「ギィィイ!」


 薄汚い部屋の隅に開いた床の穴から、埃まみれの大きなネズミが湧いて出ていた。


 モンスター名、ダストマウス。

 種族、小型動物。

 危険度、F。


「チッ。昔話の続きは帰ってからにするか。坊主、やるぞ!」


「はい!」


 モンスターの少ないカオリのダンジョンでは無かったことだが、千金学園ダンジョンではモンスター達の多くは階層内を徘徊している。

 特殊なNSEのように別階層まで進出することはないが、おかげで部屋のモンスターを殲滅したところで気を抜けない。


 下手に休んでいては奇襲を食らう。

 それは運が悪ければ、大量のモンスターを一度に相手にする事にもなりかねない危険性を孕んでいる。


 ヤられる前にヤる。

 そんなダンの勇ましい言葉を合言葉に、ハアト達は階層を先へ先へと進んだ。


 三人の連携を崩さないよう、ハアトは慎重に戦った。

 自分の未熟さもわきまえ、出すぎるような真似もしない。

 パーティの中で、自分がやるべき事をやる。


 その甲斐もあってか大きなトラブルもなく、探索は順調に進んだ。


「ここがゴールだぜ」


 その先に辿りついたのは、今まで通ってきた部屋と変わらない埃まみれの教室だった。


「やけに広いですね」


 今までの教室の数倍はある。

 天井も高く、薄暗さも一際だ。


「当然だ。ボス部屋だからな」


「えっ!?」


 レティに口から、さらりとトンデモナイ言葉が飛び出してきた。


「もう倒したので、復活はしませんよ。安心してくださいね」


「フフフ、そういう事だ。残念だったな」


「残念じゃないですよ……」


 どうやらレティにからかわれたらしい。

 甲冑に隠れているが、その下の素顔はさぞかし楽し気な表情をしているのだろう。


「バカ言ってないで行くぞー」


 その部屋の奥へと進むと二つの扉があった。

 赤と白という対蹠的な二つだ。

 埃だらけの部屋の中であって、この扉だけは妙に綺麗だった。


 扉を見たのはダンジョンの中では初めてだ。

 これまで部屋はいくつもに分かれていたが、扉がついているものはなかった。


「赤い扉は次の階層へ続く扉。白い扉は上に戻るための扉だ」


「つまり、一度入ったらその階層をクリアしなければ戻れないって事……ですか?」


「そういう事だ。上に戻れば次はまたこの第一階層からリスタートになる。先へ進むなら、一気に突破する必要があるわけだな」


「な、なるほど……」


 ショートカットのようなものは今のところ見つかっていない。 


「これがこのダンジョンの基本的なところだな。説明おわり。つーわけで、帰るぞー」


 今回、二つの目的を持ってハアト達はダンジョンへ潜った。


 その目的の一つはこれだ。

 本格的な攻略ではなく、ハアトにダンジョンの仕組みを体感させるための練習のようなものである。


 ダンが白い扉を開いくと、その先には光が広がっていた。


「さぁ、戻るぞ! ハアト、お買い物の時間だ!」


「戻りましょう! ハアトさん! お買い物です!」


 何やら女子二人がテンション高めにダンに続く。

 ハアトも慌ててそれに続いた。


 目を閉じていても瞼を透かす強烈な光を感じたのは一瞬の事で、気が付けばダンジョンに入る前と同じ場所に立っていた。


「おかえりなさいませ」


 タンバの無機質な挨拶に迎えられる。

 無事、学園寮に戻ってこられたらしい。


 そして、女子二人の視線がハアトを捉えていた。


「さぁ、始めようか!」


「えぇ、始めましょう!」


 その後ろではダンがダンジョンで集めたアイテムの換金作業を行っている。


 ダンジョンでのもう一つの目的、それは小金稼ぎだ。

 そしてそれは、ハアトの装備の充実のためである。


 なぜ、レティはその手に特攻服を持っているのだろうか。

 なぜ、ロリエはその手に全身タイツを持って目を輝かせているのだろうか。


 一緒に装備の構成を考える予定のハズなのだが、ハアトは既に不安しかなかった。

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